エンド|根管治療したウシの切歯45本を、フェルール2mm+ファイバーポスト、フェルール2mm・ポストなし、フェルールなし+ファイバーポストの3群(各15本)に分け、レジンコアと接着性のガラスセラミック冠で修復して加速疲労試験にかけた実験室の研究(Magne・Lazari・Carvalho・Johnson・Del Bel Cury 2017・Operative Dentistry)。ヒトの口の中で確かめた研究ではない
歯冠が大きく失われた根管治療歯の前歯。フェルールは確保できた。さて、ファイバーポストは入れるべきでしょうか。Magneらは2017年、この問いを実験室で確かめました。根管治療したウシの切歯45本を3つの群に分け、レジンコアとガラスセラミック冠を接着して、壊れるまで荷重を上げていく試験です。2mmのフェルールがある歯では、ポストを入れても入れなくても、耐えた荷重と回数に有意差はありませんでした(荷重の比較 p=0.984)。一方で壊れ方は違い、ポストを入れた2群は、どちらも15本すべてが抜歯の必要な壊れ方、ポストなしの群は47%がそうではない壊れ方でした。フェルールのない歯は、ポストを入れても有意に低い荷重で壊れています。ウシの歯を使った実験室の結果で、臨床の成績を直接示すものではありません。
①フェルールがある前歯に、ファイバーポストは要る?
歯冠が大きく失われた根管治療歯の前歯。全周に2mmのフェルールは確保できた。ここでファイバーポストを入れるか、レジンコアだけで築造するか。「前歯は横からの力がかかるから、ポストで補強しておきたい」と考える場面だと思います。
Magneらは2017年、この問いを実験室で確かめました。根管治療したウシの切歯45本に、レジンコアとガラスセラミック冠を接着して、壊れるまで荷重を上げていく試験です。
・フェルールがある歯では、ポストの有無で、耐えた荷重と回数に有意差はなかった(壊れたときの平均荷重は、ポストあり620.00N、ポストなし633.33N。p=0.984)
・フェルールのない歯は、ポストを入れても有意に低い荷重で壊れた(最終的な破壊の平均480.00N。p<0.001)
・壊れ方は違った。ポストを入れた2群は、どちらも15本すべてが抜歯の必要な壊れ方。ポストなしの群は、47%がそうではない壊れ方だった
・フェルールのない群では、15本中12本で、完全に壊れる前に舌側の辺縁にすき間が開いた
・ウシの歯を各群15本使った実験室の研究で、ヒトの口の中で確かめた結果ではない
②なぜこの実験が必要だったか
著者らは序論で、根管治療歯の強さにとっていちばん大事な力学的要素はフェルールだ、という点には広い合意があると整理しています。フェルールの高さは1mmから2mmまで、いくつかの提案があります。
一方、ポストは昔から、接着するコアを保持するために使われてきました。グラスファイバーポストは、接着できること、歯に近いしなやかさ、審美性などの利点が挙げられています。ただ、どんなときに使うべきかは、はっきりしていません。臼歯では、ポストを入れても破折への抵抗が有意に上がらないことが、すでに報告されています。ポストを使うと、修復できる壊れ方が減るという報告もあります。
前歯でも、フェルールの大切さやポストの効果を調べた実験はありました。けれども、それらは1回の荷重で壊す試験で、金属の冠を使ったものでした。接着で着けるセラミック冠で前歯を修復する場合については、根拠が足りていませんでした。ここまでは、著者らが引いた先行研究にもとづく整理です。
③実験の組み立て:ウシの切歯45本を3つの群に分けた
使ったのは、大きさと歯髄腔のそろったウシの切歯45本です。歯冠を切り落として根管治療を行い、3つの群(各15本)に分けました。
・フェルール+ポスト(原著のFP):高さ2mm・厚さ1mmの全周フェルール。グラスファイバーポストとレジンコア
・フェルールのみ(原著のFNp):同じフェルール。ポストは入れず、レジンコアだけ
・フェルールなし+ポスト(原著のNfP):フェルールなし。グラスファイバーポストとレジンコア
・ポストは直径1.5mmのグラスファイバーポスト。根管内に8mm入れ、セルフアドヒーシブレジンセメントで装着
・コアは、3ステップのエッチ&リンス接着システムとコンポジットレジンで築盛
・全群で、根管の入口を深さ4mmの箱形に整えている(原著の「インターナルフェルール」)
・冠はCAD/CAMで削り出した二ケイ酸リチウムのガラスセラミック冠。形と厚みをそろえ、レジンセメントで接着
・歯根は11.5mmをアクリルレジンに埋めて固定
試験は「加速疲労試験」です。口蓋側から30度の角度で、切縁に繰り返しの力をかけます(1秒に5回・水中)。100Nで5,000回ならしたあと、200N、300N…と100Nずつ1000Nまで上げていき、各段階は最大15,000回。壊れるか、合計14万回に達するまで続けました。
試験中はすべて動画で記録しています。壊れたあとは、光を透かす検査と顕微鏡で観察し、壊れ方を3つに分けました。
・抜歯が必要な壊れ方(catastrophic):歯根の破折
・修復できる可能性がある壊れ方(possibly reparable):破片をともなう破壊で、下の歯質の傷みが小さいもの
・修復できる壊れ方(reparable):修復物だけの破壊
④結果(1):フェルールがあれば、ポストの有無で有意差なし
14万回まで耐えた試料は1本もありませんでした。全部が途中で壊れたので、壊れたときの荷重と回数を群ごとに比べることができます。
・壊れたときの平均荷重(原著の本文):フェルール+ポスト 620.00N、フェルールのみ 633.33N。この2群の比較は p=0.984
・フェルールなし+ポストは、最終的な破壊で480.00N、最初のすき間で380.00N。フェルールのある群より有意に低い(p<0.001)
・耐えた回数の平均(原著の抄録):フェルール+ポスト 73,332回、フェルールのみ 73,244回、フェルールなし+ポスト 50,121回
・回数の比較(分散分析とTukey検定):フェルールのある2群どうしは p=1.000。フェルールのある群とない群は、どちらも p<0.01
・生存の比較(log-rank検定・原著の本文):フェルールのある群はない群より有意に高い(p<0.001)。フェルールのある2群どうしは p=0.488
フェルールがある歯では、ポストを入れても入れなくても、耐えた荷重と回数に有意差はありませんでした。平均の差は荷重で13.33N、回数で88回です(筆者の計算)。フェルールのない歯は、ポストを入れても、フェルールのある歯の水準には届きませんでした。
なお、「有意差がない」は「まったく同じ」と確かめられたという意味ではありません。各群15本の実験で、差は検出されなかった、ということです。
⑤結果(2):ポストを入れた2群は、すべて抜歯の必要な壊れ方
・フェルール+ポスト:抜歯が必要な壊れ方 100%
・フェルールのみ:抜歯が必要な壊れ方 53%、修復できる可能性がある壊れ方 40%、修復できる壊れ方 7%(抜歯が必要ではない壊れ方は合わせて47%)
・フェルールなし+ポスト:抜歯が必要な壊れ方 100%
耐えた荷重に有意差がなくても、壊れ方は同じではありませんでした。ポストを入れた歯は、フェルールがあってもなくても、15本すべてが歯根の破折で終わっています。ポストなしの群では、半分近く(47%)が、抜歯の必要な壊れ方ではありませんでした。
もう1つ、著者らが重く見たのが「最初のすき間」です。完全に壊れる前に、舌側の辺縁で、コアと冠のかたまりと歯根との間が大きく開く現象が見つかりました。高い音と、破片や気泡が出るのを動画で確かめています。
・フェルールなし+ポスト:15本中12本
・フェルール+ポスト:15本中2本
・フェルールのみ:15本中1本
著者らは、このすき間は臨床では見つけにくいだろうと考えています。そこで、フェルールなしの群については「最初のすき間」と「最終的な破壊」の両方で解析しました。どちらで比べても、フェルールのある群の方が有意に長く生存しています。
⑥なぜこうなったのか(著者らの考察)
・歯冠側の象牙質(フェルール)が、コアそのものの抵抗力を高めている
・レジンコアの衝撃を吸収する性質と、3ステップのエッチ&リンス接着の組み合わせが、天然の歯に近い構造とふるまいを作っている
・ポストは、力学的にはあまり働いていない歯髄の位置に入る
・フェルールがあると、歯と修復物のたわみ方が変わる。フェルールのある群で最初のすき間が少なかったのは、そのためだろう
・最初のすき間は、冠の下の漏洩(コロナルリーケージ)や、根管の再汚染につながりうる。臨床では気づきにくいぶん、重い問題になる
・しなやかなポストはコアの動きを許しすぎる、という先行の総説の指摘とも合う
著者らの結論は4つです。(1)ファイバーポストを入れても、オールセラミック冠が耐える荷重と生存は高まらなかった。(2)ポストがあると、最終的な破壊の前に辺縁のすき間が開くことが多かった。(3)修復できない壊れ方が最も少なかったのは、ポストを使わないレジンコアだった。(4)フェルールがないことを、ファイバーポストは補えなかった。
⑦明日の臨床へ
・少なくとも2mmのフェルールがある前歯は、コンポジットレジンのコアと接着性の修復で、保存的に修復できるだろう。その方が、修復できる壊れ方になる見込みも上がる
・ポストを省くと、処置がかなり簡単になる。ポストにかかる時間・材料・リスクは、力学的な強さの上乗せにつながっていなかった
・術者は、残っている歯質を使って、できるかぎりフェルールを作るべきだ
・フェルールが取れない歯の最善の治療については、まだデータが足りない。歯冠長延長術や抜歯を選ぶ前に、矯正的挺出で歯冠側の歯質を得ることを考えたい
・これらは「適切な材料を選んだ場合」の話で、著者ら自身がこの研究を予備的な研究と呼んでいる
・この実験が後押ししているのは、「ポストを選ぶ前に、フェルールを確保する」という順番です。ポストの種類や長さを考えるのは、その次になります
・「ポストなし」が成り立っていたのは、全周2mm・厚さ1mmのフェルールがあり、根管の入口に深さ4mmのコアを入れ、接着の手順をきちんと踏み、接着性のガラスセラミック冠で仕上げた条件です。フェルールが一部しかない歯や、金属の冠、接着の条件が悪い歯にそのまま広げることはできません
・比べたのは1種類のグラスファイバーポストです。金属ポストや鋳造コアは調べていません
・ウシの歯の実験室の結果です。ヒトの臨床で、ポストなしの築造が長くもつかどうかは、臨床研究で確かめる必要があります
(1)ウシの抜去歯を使った実験室の研究です。ヒトの歯でも、臨床試験でもありません。著者らは、ウシの象牙質はヒトに近いとする先行研究を引いて、この選択を説明しています。
(2)各群15本です。本数は予備実験で決めており、検出力の計算はしていません。「有意差なし」は、差がないことの証明ではありません。
(3)かけた力は口の中より大きいものです。著者らが引いた切歯の最大咬合力は243N(女性)〜287N(男性)で、試験は1000Nまで上げる設計でした。著者ら自身が、この荷重と口の中での意味を直接結びつけるのは難しい、と書いています。
(4)比較は3群で、「フェルールなし・ポストなし」の群はありません。フェルールのない歯でポストを省いたらどうなるかは、この実験からは分かりません。
(5)材料の組み合わせは1通りです。別の接着システム・ポスト・冠で同じ結果になるかは調べていません。
(6)原著の中に、数字の食い違いがあります。フェルールのある2群どうしのlog-rank検定のp値は、抄録では0.884、本文では0.488です。フェルールのある群とない群の比較は、抄録が p=0.001、本文が p<0.001。この記事は本文の値を使いました。どちらの値でも、有意差の有無は変わりません。
(7)最初のすき間の割合を、原著は「81%(12/15)、14%(2/15)、7%(1/15)」と書いています。12/15は80%、2/15は約13%なので(筆者の計算)、この記事では本数で示しました。また原著の考察には「フェルールのある群では最初のすき間がなかった」と読める記述もあり、結果の本数(2本と1本)とは合いません。
(8)耐えた回数の平均(73,332回など)は抄録にだけ載っている数字で、本文は図で示しています。
資金はブラジルのCAPES財団の支援を一部受けています。著者らは利害関係がないと申告しています。謝辞には、使われた材料のメーカーを含む複数の企業名が挙がっていますが、何の提供を受けたかは書かれていません。
それでも、「フェルールがあればポストによる有意な上乗せは見られず、壊れ方はポストありの方が悪かった」というこの実験の結果は、歯質を残すことを第一に考える築造の考え方と向きが合っています。臨床での裏づけは、ポストの有無を比べた臨床研究とあわせて読むのがよさそうです。
今日のひとこと
この実験が示したのは、2mmのフェルールがあるウシの切歯を、レジンコアと接着性のガラスセラミック冠で修復した条件では、ファイバーポストを入れても、耐えた荷重と回数に有意差はなかったということです(壊れたときの平均荷重は620.00Nと633.33N、p=0.984)。壊れ方は、ポストを入れた2群がどちらも15本すべて抜歯の必要な壊れ方で、ポストなしの群は47%がそうではない壊れ方でした。フェルールのない歯は、ポストを入れても有意に低い荷重で壊れています。著者らの言葉では、ポストはフェルールがないことを補えませんでした。ただし、これはウシの歯を各群15本使った実験室の研究で、著者ら自身が予備的な研究と書いています。「ポストは不要」と臨床で確かめられたわけではありません。まず歯質を残すことを考える、その根拠の1つとして読む1本です。


