痛み・口腔顔面痛|根管治療歯とTMDの痛む側。同じ患者の左右を比べた観察研究
痛みを訴える側に根管治療歯がある。それだけで原因を歯に決めてよいのでしょうか。片側性の有痛性TMD患者85人の診療録では、反対側より痛む側に根管治療歯が多く、診断別では筋性・混合型で有意な関連が示されました。関節性では有意差がなく、関連がないと証明したわけではありません。根管治療がTMDを起こしたとも、個々の治療が不要だったとも決められない。その線を保って読む論文です。
①根管治療歯がある側、その痛みの原因は?
痛みを訴える側に、根管治療歯がある。その処置歴を見て、「やはり歯が原因だろう」と考えたくなる場面はないだろうか。
今回の研究では、片側性の有痛性TMD(顎関節症)の患者で、反対側より痛む側に根管治療歯が多かった。ただし、同じ側にあることは、原因を特定したことにはならない。根管治療歯と顎の痛みの関係を、診療録から見直した研究だ。
②歯の痛みと筋の痛みは、見分けにくいことがある
歯が痛いという訴えがあれば、まず歯に原因を探す。ところが原著は、先行文献を引きながら、筋からの関連痛が歯の痛みに似ることを説明している。関連痛とは、痛みの発生源とは別の場所に感じる痛みのことだ。
一方で、歯の病変とTMDが重なることも考える必要がある。著者らは、歯髄疾患が明らかな場合でもTMDを評価する意義に触れている。歯か顎かを、最初から二者択一にしない。その出発点に立つと、「治療した歯がどちら側にあるのか」という問いが見えてくる。
③同じ患者の痛む側と反対側を比較
片側性の有痛性TMD患者85人の診療録研究。ブラジルのウベルランジア連邦大学のTMD・疼痛外来で、2022年11月〜2024年3月に受診した患者の記録をさかのぼって調べた。両側性・びまん性の痛みや、画像検査のない患者などは除外している。
口腔顔面痛の専門家がDC/TMD(顎関節症の診断基準)に基づいて診断していた患者が対象だ。比較したのは、同じ患者の痛む側と反対側の根管治療歯数。画像の読影担当者には、診断情報や年齢・性別などの情報を知らせていない。
パノラマ・デンタルX線写真やCBCTから、前歯・小臼歯・大臼歯を含めて左右別に数えた。根管治療を新たに行って痛みの変化を追った研究ではない。ここでいう「反対側」はTMDの痛みを訴えていない側であり、健全歯だけが並ぶ側という意味ではない。
④痛む側に根管治療歯が多かった
反対側
図が示すのは、患者ごとに数えた歯数の中央値。患者の割合でも、治療が不要だった歯の割合でもない。反対側の中央値が0歯でも、全員の反対側に根管治療歯がなかったわけではない。
⑤筋性・混合型で有意差、関節性では有意差なし
診断別に、同じ患者の左右を比べるとどうか。混合型は、筋と関節の両方に由来する痛みをもつ分類だ。原著のTable 3には、次の結果が示されている。
| TMDの診断 | 人数 | 左右の根管治療歯数の比較 |
|---|---|---|
| 筋性 | 40人 | P<.001 |
| 混合型 | 34人 | P<.001 |
| 関節性 | 11人 | P=.265 |
筋性・混合型では、痛む側と根管治療歯数との有意な関連が示された。一方、関節性では有意差なし。関節性で関連がないと証明したわけではない。
また、この表は各診断内の左右比較である。「筋性と関節性の間で、関連の強さに有意差がある」と直接検定した表ではない。
⑥診断の重なりは、説明の候補
なぜ同じ側に集まるのか。著者らは、痛みの見分けにくさ、共通する要因、痛みを起こす状態の併存などを説明の候補に挙げている。筋性・混合型での関連から、筋の痛みが歯の痛みと取り違えられた可能性にも言及する。
ただし、誤診があったと確定した研究ではない。歯の病変が痛みに関わっていた可能性も残る。著者ら自身、適応があって適切に根管治療された歯も含まれうると述べている。歯の病変とTMDは併存しうる。同じ側に集まったという観察だけで、その内訳は分からない。
⑦明日の臨床へ
この研究が確かめたことは、この集団で痛む側と根管治療歯数に関連があり、診断別では筋性・混合型で有意だったこと。ここから先は筆者の臨床的な読みであり、診療手順を変えた効果をこの研究が示したわけではない。
- 処置歴だけで痛みの原因を決めない。根管治療歯があるという事実と、いま何が痛みを起こしているかを分けて考えたい。
- 歯の病変とTMDの両方を評価する。著者らが強調するように、歯内療法の適応がはっきりしないときは、関連痛を含めて見直す余地がある。
- 過去の根管治療が不要だったとは決められない。現在TMDと診断されたことを理由に、過去の処置を一括して誤診と扱わない。
根管治療がTMDを起こしたとは決められない。処置歴を手掛かりにしつつ、歯と顎の所見をあらためて並べる。そこに、この研究を診療へ持ち帰る意味がある。
単施設の診療録による観察研究で、結果をすべてのTMD患者へ広げることはできない。根管治療後に残る病変の専門的な歯内療法評価は行っていない。未診断の歯の病変が、一部のTMDとして報告された痛みに関わり、観察された関連に影響した可能性が残る。う蝕リスク・歯の亀裂・ブラキシズムも評価していない。原因を見分けるには、時間経過を追う研究が必要だと著者らは述べている。
原著の表と本文には表記の不一致もある。研究デザインは「後ろ向きコホート」と「横断研究」が併記され、Table 2の表題・本文はWilcoxon符号付順位検定、表注はMann–Whitney検定とされている。また関節性の割合はTable 3で11人(13%)、Discussionで17%と異なる。本記事では設計を診療録の観察研究と記し、診断別の人数はTable 3に従った。こうした限界も踏まえて、処置歴から原因を決めずに診断を見直す材料として読みたい。
今日のひとこと
片側性の有痛性TMD患者では、痛む側と根管治療歯数に関連があった。診断別では筋性・混合型で有意、関節性では有意差なし。処置歴だけで痛みの原因や過去の治療の適否を決めず、歯の病変とTMDの両方を評価したい。


