エンド|クラウンの種類(4種類)とファイバーポストの有無で、破折抵抗と壊れ方がどう変わるかを比べた抜去歯の実験(Salameh・Sorrentino・Ounsi・Goracci・Ferrari ほか 2007・Journal of Endodontics)。MOD窩洞の上顎小臼歯80本・8つの小群・垂直の荷重を1回かけて壊した実験室の研究で、臨床成績を調べた研究ではない
根管治療した上顎小臼歯をレジンで築造してクラウンをかぶせるとき、ファイバーポストを入れるかどうか。Salamehらは2007年、抜去した上顎小臼歯80本にMOD窩洞を作り、クラウン4種類(PFM・Empress II・Adoro・Procera)とファイバーポストの有無を組み合わせた8つの小群(各10本)で、壊れるまで垂直の荷重をかけました。壊れたときの荷重の平均は、ポストありが1,302.5 N、ポストなしが1,133.3 N。全体ではポストありが有意に高い結果でした(二元配置分散分析、p=0.007)。ただしクラウンの種類ごとに比べると、有意差が出たのはEmpress IIだけです。壊れ方は、再修復できる型がポストありで有意に多くなりました(カイ二乗検定、p=0.002)。抜去歯に垂直の荷重を1回かけた実験室の研究で、臨床での破折率や歯の予後を調べたものではありません。
①クラウンをかぶせる小臼歯にも、ファイバーポストは要る?
根管治療した上顎小臼歯。MODの窩洞で、頬側と口蓋側の壁は残っている。レジンでコアを築造して、クラウンをかぶせる予定です。このとき、ファイバーポストを入れるかどうか。「どうせ全部覆うのだから、ポストは無くても同じでは」と迷う場面です。
Salamehらは2007年、抜去した上顎小臼歯80本を使い、クラウンの種類(4種類)とファイバーポストの有無を組み合わせて、壊れるまで荷重をかけました。
先に断っておきます。これは抜去歯に垂直の荷重を1回かけて壊した実験室の研究です。患者さんの口の中で、何年後に何本が破折したかを調べた研究ではありません。
・壊れたときの荷重の平均は、ポストあり(40本)が1,302.5 N、ポストなし(40本)が1,133.3 N。全体ではポストありが有意に高かった(二元配置分散分析、p=0.007)
・ただしクラウンの種類ごとに比べると、有意差が出たのはEmpress IIだけ(926.9 N → 1,308.1 N、p<0.05)。PFM・Adoro・Proceraでは有意差なし
・壊れ方は、再修復できる型がポストありで有意に多かった(カイ二乗検定、p=0.002)
②なぜこの実験が必要だったか
根管治療した歯は、破折を防ぐためにクラウンで覆うのが従来の方法です。それでも著者らは序論で、全部被覆冠で守られた歯でも破折は臨床で起こりうること、上顎小臼歯では破折の発生が多いと報告されていることを挙げています。
陶材焼付金属冠(PFM)に加えて、オールセラミックや繊維強化コンポジットのクラウンが使われるようになりました。では、クラウンの種類が変わると破折抵抗は変わるのか。その下にファイバーポストがあると、何か変わるのか。これがこの実験の問いです。
③実験の組み立て:クラウン4種類 × ポストあり/なし
使ったのは、う蝕も修復もない単根の上顎小臼歯80本です。全歯に同じ手順で根管治療を行い、アクリルレジンのブロックに植えました。歯根のまわりにはシリコーン印象材の層を作り、歯根膜を再現しています。
80本を無作為に4群(各20本)に分け、全歯にMOD窩洞を形成しました。各群をさらに半分に分け、10本にはファイバーポスト(FRC Postec Plus)を深さ7mmで接着し、残りの10本にはポストを入れていません。コアは全歯、同じコンポジットレジン(Multicore Flow)で築造しています。
・PFM:陶材焼付金属冠(対照)
・Empress II:二ケイ酸リチウムのオールセラミッククラウン
・Adoro:繊維強化コンポジットのクラウン
・Procera:ジルコニアのクラウン(厚さ0.6mmのコーピングに陶材を築盛)
支台歯形成はシャンファーで、クラウンはすべて同じレジンセメント(Multilink)で装着しました。フェルールの高さは、原著に書かれていません。
荷重は、直径2mmの丸い先端の棒で、中央窩に歯軸と平行(垂直)にかけています。クロスヘッド速度は1mm/分で、壊れるまで増やしました。壊れたあとは墨汁で破折線を染め、壊れ方を2つに分けています。破折がセメントエナメル境から1mmより浅ければ「再修復できる」、1mm以上深い部分に及べば「再修復できない」です。
破折荷重の比較は、クラウンの種類とポストの有無を要因とした二元配置分散分析とTukeyの多重比較。クラウンごとのポストあり・なしの比較はt検定。ポストの有無と壊れ方の関係はカイ二乗検定です(有意水準はいずれも5%)。
④結果(1):破折荷重は全体でポストありが有意に高い。クラウン別ではEmpress IIだけ
二元配置分散分析では、ポストの有無(p=0.007)とクラウンの種類(p<0.001)の両方が、破折荷重に有意に影響していました。2つの要因の交互作用は有意ではありません(p=0.16)。
・全体:ポストなし 1,133.3 ± 344.9 N(40本)、ポストあり 1,302.5 ± 300.9 N(40本)。有意差あり
・PFM:ポストなし 1,391.9 ± 344.4 N、ポストあり 1,572.1 ± 324.3 N。有意差なし
・Empress II:ポストなし 926.9 ± 361.1 N、ポストあり 1,308.1 ± 256.2 N。有意差あり(p<0.05)
・Adoro:ポストなし 1,010.2 ± 204.4 N、ポストあり 1,007.1 ± 199.9 N。有意差なし
・Procera:ポストなし 1,204.2 ± 284.2 N、ポストあり 1,322.8 ± 59 N。有意差なし
「有意差なし」は「同じ」という意味ではありません。各小群は10本で、標準偏差も大きい実験です。著者ら自身が、ばらつきが大きいため大きな差しか有意にならなかった、と考察に書いています。
・PFM 1,482 N、Procera 1,263.5 N、Empress II 1,117.5 N、Adoro 1,008.6 N
・PFMは、Empress IIとAdoroより有意に高い
・Proceraは、Adoroより有意に高い
・PFMとProcera、ProceraとEmpress II、Empress IIとAdoroの間に有意差はない
⑤結果(2):壊れ方は、ポストありで「再修復できる型」が有意に多かった
ポストの有無と壊れ方(再修復できる/できない)の関係は有意でした(カイ二乗検定、p=0.002)。ポストがあると、再修復できる壊れ方が有意に多かった、という結果です。
原著は、壊れ方の本数を数字では示していません。図1の棒グラフ(10%刻み)から読み取ると、次のようになります。
・PFM:ポストなし 2本、ポストあり 8本
・Empress II:ポストなし 3本、ポストあり 7本
・Adoro:ポストなし 7本、ポストあり 9本
・ジルコニア(Procera):ポストなし 8本、ポストあり 9本
・合計:ポストなし 40本中20本(50%)、ポストあり 40本中33本(82.5%)。合計は筆者の計算
この読み取り値で計算すると、再修復できない壊れ方の割合は、ポストなしが50%、ポストありが17.5%。リスク比は0.35です(図1の読み取り値から筆者が計算。原著には載っていません)。同じ本数でカイ二乗検定を計算するとp値は約0.002になり、原著の値と合います(筆者の計算)。
クラウン別に見ると、差が大きいのはPFMとEmpress IIです。Adoroとジルコニアはポストなしでも再修復できる壊れ方が多数でした。著者らは図1の説明と考察で、PFMとEmpress IIでは壊れ方が「有意に」好ましくなったと書いています。ただし、クラウン別の壊れ方の検定は、方法にも結果にも示されていません。
⑥なぜこうなったのか(著者らの考察)
・ファイバーポストは弾性係数が根管内の象牙質に近く、ポストから象牙質へ伝わる応力が小さい
・ポストありの群では、破折の多くが歯根の歯頸部(コアと象牙質の界面を含む)にとどまった。この壊れ方は再修復しやすい
・Adoroはレジンの性質で応力を逃がしやすい
・ジルコニアは結晶の相が変わることで応力を吸収する。このため、ポストがなくても再修復できる壊れ方が多かったのではないか
著者らは、ポストが垂直の圧縮力に対して残った歯質を支え、補強に寄与したと考えてよい、と書いています。同時に、この実験が調べたのは垂直の圧縮だけで、斜めの荷重では違う結果を報告した研究があること(Hayashiら、Schmitterら)も挙げ、その条件での検討が必要だとしています。
⑦明日の臨床へ
・ファイバーポストは、失活した上顎小臼歯の補強に寄与しうる
・壊れ方については、ファイバーポストを入れると、再修復できない型から再修復できる型へ変わった
・抄録は「全部被覆冠の下でも、破折抵抗を高めるにはファイバーポストが必要」と結んでいる
・一方、考察の最後では「この実験室での結果を確かめるには、前向きの臨床研究が必要」と書いている
著者らは考察で、成人のふつうの咀嚼力は7〜15kg、最大咬合力は90kgまでとする報告を引き、どの群の破折荷重もこれを上回ったと述べています(90kgはおよそ883 N。筆者の換算)。抄録にも「ポストがなくても、どのクラウンも口の中で受けうる力を上回る垂直の力に耐えた」とあります。咬合力の数値は別の研究の報告で、この実験で測ったものではありません。比べているのは各群の平均で、Empress IIのポストなしの群は平均926.9 N、標準偏差361.1 Nです。1回の荷重で壊した値と比べた、目安の話です。
・破折荷重の差は全体では有意でしたが、クラウン別に見ると有意差が出たのは1種類だけです。「ポストを入れれば強くなる」と一言でまとめるには、慎重でいたい結果です
・むしろ目を引くのは壊れ方の差です。壊れるとしても再修復できる形で壊れるかどうかは、歯を残せるかどうかに関わります。ただし、これも抜去歯に垂直の荷重を1回かけたときの話です
・条件は、MOD窩洞で頬側と口蓋側の壁が残った上顎小臼歯です。壁がもっと少ない歯、大臼歯、前歯のことは、この論文からは言えません
・ポスト孔の形成で歯質を削ることの不利益(穿孔のリスクや歯質の喪失)は、この実験では評価されていません
各小群は10本で、標準偏差が大きい実験です。クラウン別の比較で有意差が出たのは4種類のうち1種類でした。残りの3種類は「差がない」と示されたのではなく、「この本数では有意差が検出されなかった」です。
原著の中で、気をつけて読みたい箇所が5つあります。(1)抄録は、二元配置分散分析でポストの有無(p=0.007)とクラウンの種類(p<0.001)が「破折した歯の再修復の可否」に有意に影響したと書いています。結果の本文と方法では、この分散分析の対象は破折荷重です。この記事は結果の本文に従いました。(2)壊れ方の本数は数字で示されておらず、この記事の本数は図1の棒からの読み取りです。(3)図1の説明と考察は、PFMとEmpress IIで壊れ方が「有意に」好ましいと書いていますが、クラウン別の検定は示されていません。(4)表2で、Proceraのポストありの群の標準偏差は59 Nと、ほかの群(199.9〜361.1 N)に比べてかなり小さい値です。理由は書かれていません。(5)題名は「オールセラミッククラウン」ですが、比べた4種類には陶材焼付金属冠と繊維強化コンポジットのクラウンが含まれます。
抄録の結び(ポストが「必要」)は、実験室の研究の結論としては強い表現です。考察の最後の一文(前向きの臨床研究が必要)とあわせて読むのがよさそうです。
資金・利益相反:King Saud大学(リヤド)歯学部研究センターの助成(F1117、F1130)を受けたと記載されています。利益相反についての記載は見当たりません。使われたポスト・コア材・セメントと、クラウン4種類のうち2種類(Empress II、Adoro)はIvoclar Vivadent社の製品、ジルコニア(Procera)はNobel Biocare社の製品です。企業からの資金提供の記載はありません。
それでも、同じ歯種、同じ窩洞、同じコア材とセメントという条件をそろえて、クラウン4種類とポストの有無を一度に比べた実験です。「強さ」だけでなく「壊れ方」を見るという視点をくれる1本です。
今日のひとこと
この実験が示したのは、MOD窩洞の失活上顎小臼歯をレジンコアとクラウンで修復したとき、ファイバーポストを入れた歯の方が、全体としては有意に高い荷重まで壊れず、壊れても再修復できる型が有意に多かったということです(壊れたときの荷重の平均は、ポストあり1,302.5 N、ポストなし1,133.3 N。p=0.007。壊れ方はp=0.002)。ただし、クラウンの種類ごとに比べると、荷重に有意差が出たのはEmpress IIだけで、PFM・Adoro・Proceraでは有意差が検出されていません。抜去歯に垂直の荷重を1回かけた実験で、くり返しの力や斜めの荷重は与えていません。各小群は10本です。臨床での破折率や歯の予後を調べた研究ではありません。著者らも、前向きの臨床研究での確認が必要だと書いています。筆者の読みでは、「折れにくさ」より「壊れ方」に目を向けるきっかけになる1本です。


