エンド|鋳造ポストコア(金合金)と、カーボンファイバーポスト+レジンコアの破折抵抗を比べた抜去歯の実験(Martinez-Insua・Da Silva・Rilo・Santana 1998・The Journal of Prosthetic Dentistry)。小臼歯44本・各群22本・1回の荷重で壊した実験室の研究で、臨床成績を調べた研究ではない
支台築造は「壊れにくいほうが安心」と考えたくなります。Martinez-Insuaらは1998年、抜去した小臼歯44本を根管充填し、カーボンファイバーポスト+コンポジットレジンコア(22本)と、タイプIII金合金の鋳造ポストコア(22本)で築造して、全ての歯に金属クラウンをかぶせ、壊れるまで荷重をかけました。壊れたときの荷重の平均は、カーボンファイバーの群が103.7 kg、鋳造の群が202.7 kgで、鋳造の群が有意に高い結果でした(P=.003)。一方、壊れ方は対照的でした。カーボンファイバーの群で歯そのものが破折したのは22本中1本(5%)。鋳造の群は22本中20本(91%)で歯の側が壊れました(歯頸部の歯根破折13本・亀裂7本)。著者らは、鋳造の群の破折は生体内ではまれにしか起こらない荷重で起きたと書いています。抜去歯に1回の荷重をかけた実験室の研究で、臨床での破折率を調べたものではありません。
①強いポストほど、歯を守れる?
歯冠が大きく失われた根管治療歯。鋳造ポストコアにするか、既製ポストとレジンコアにするか。支台築造のたびに迷う場面です。
「壊れにくい築造のほうが安心」と考えたくなります。けれど、築造が壊れないとき、その力はどこへ行くのでしょうか。Martinez-Insuaらは1998年、抜去した小臼歯を使って、2つの築造を壊れるまで押し比べました。
先に断っておきます。これは抜去歯に1回の荷重をかけて壊した実験室の研究です。患者さんの口の中で、何年後に何本が破折したかを調べた研究ではありません。また、使われたのはカーボンファイバーポストで、現在よく使われるガラスファイバーポストではありません。
・壊れたときの荷重の平均は、カーボンファイバーポスト+レジンコアの群が103.7 kg、鋳造ポストコア(タイプIII金合金)の群が202.7 kg。鋳造の群が有意に高かった(P=.003)
・カーボンファイバーの群で歯そのものが破折したのは22本中1本(5%)。残りの21本は、ポストやコアの側が壊れた
・鋳造ポストコアの群は22本中20本(91%)で歯の側が壊れた(歯頸部の歯根破折13本、歯頸部の亀裂7本)
・著者らは、鋳造の群の歯の破折は「生体内ではまれにしか起こらない荷重」で起きたと書いている
②実験の組み立て:44本を2通りに築造した
使ったのは、矯正治療を受けている若年者から抜去したばかりの、大きさのそろった小臼歯44本です。全ての歯を側方加圧で根管充填し、歯冠を切り落としました。切った高さは、原著の表記で「エナメル象牙境(dentinoenamel junction)の2mm歯冠側」です。
そこに幅と深さが1mmのシャンファーを全周に作り、さらに1mmのカウンターベベル(コアが歯質を外から抱え込むための斜面)を付けました。ポスト孔は、どちらの群も同じ既製ポスト用のドリル(10mm)で形成しています。そのうえで、44本を無作為に2群へ分けました。
・群I:カーボンファイバーポスト(エポキシ樹脂マトリックス。根尖側の径1.2mm・歯冠側の径1.8mm)をレジンセメントで装着。コアは自家重合型コンポジットレジンで高さ3mm
・群II:タイプIII金合金の鋳造ポストコア(一体型)。同じレジンセメントで装着。コアの高さは3mm
ポストの形と長さは、2群で同じです。ポスト孔を既製ポストの形に合わせて作ったためです。
全ての歯に、Ni-Cr合金の鋳造クラウンをグラスアイオノマーセメントで装着しました。歯をレジンのブロックに植え、万能試験機で、歯軸に対して45度の方向から1点に荷重をかけています(クロスヘッド速度1cm/分)。記録したのは、壊れたときの最大荷重と、壊れ方です。2群の比較にはMann-Whitney検定を使っています。
③結果その1:壊れるまでの力は、鋳造ポストコアが高かった
壊れたときの荷重の平均は、群I(カーボンファイバー)が103.7 kg(標準偏差53.1)、群II(鋳造ポストコア)が202.7 kg(標準偏差は表Iで125.5)でした。差は統計的に有意です(Mann-Whitney検定、P=.003)。平均で比べると、鋳造の群はおよそ2倍の力まで耐えたことになります(202.7 ÷ 103.7 = 約1.95。筆者の計算)。
ただし、ばらつきが大きい実験です。著者らも、平均だけでなく中央値と範囲を見る必要があると書いています。
・群I:中央値95.5 kg、最小34〜最大260 kg
・群II:中央値151.5 kg、最小54〜最大488 kg
・中央値で比べると、差は平均ほどには開かない(151.5 ÷ 95.5 = 約1.6。筆者の計算)
④結果その2:壊れ方は、はっきり分かれた
この論文の読みどころは、こちらです。
・歯とポスト・コアの接合部が壊れ、ポストも折れた:13本(59%)
・同じ壊れ方だが、ポストは無傷だった:4本(18%)
・コアが割れた:4本(18%)
・歯そのものの破折:1本(5%)
・歯頸部の歯根破折:13本(59%)
・歯頸部の亀裂:7本(32%)
・鋳造体の脱離:2本(9%)
・破折と亀裂を合わせると20本(91%)
カーボンファイバーの群では、22本中21本で、歯より先にポストやコアの側が壊れました。鋳造ポストコアの群では、22本中20本で、歯の側が壊れました。
著者らは考察と結論で、鋳造の群の歯の破折は「生体内ではまれにしか起こらない荷重」に対して起きたと、但し書きを付けています。
⑤なぜ壊れ方が分かれたのか(著者らの考察)
著者らは、3つの説明を挙げています。どれも壊れ方の観察にもとづく著者らの解釈で、応力を測って確かめたものではありません。
・カーボンファイバーの群では、ポストがコアに入る部位で先に折れたようだ。そのぶん歯の破折が減った。鋳造ポストコアではポストが折れず、力が歯の「肩」(ショルダー)に伝わった
・コアがレジンだと、コア自体が割れることがある。これも歯の破折を減らした
・カーボンファイバーポストは繊維が縦方向に並び、弾性係数が象牙質と同じかそれ以下である。応力が歯の中へ再配分され、シャンファーの肩から離れることで、歯の破折よりも、ポストと歯の接合の破壊が起きやすくなった可能性がある
カウンターベベルについても触れています。歯の断面は楕円なので、カウンターベベルは回転方向の力を歯全体に分散し、破折抵抗を高めます。一方で、築造が強く、大きな荷重がかかると、接合部やコアが壊れるより先に歯の肩が割れる方向に働くかもしれない、と著者らは書いています。
もう1つ。「クラウンをかぶせれば、ポストとコアの設計は成績に関係しなくなる」という先行研究の主張があります。この実験では全ての歯にクラウンを装着しましたが、2つの築造で差が出ました。著者らは、その主張は正しくないかもしれない、と述べています。
⑥明日の臨床へ
・失活歯の修復に使うポストとコアは、強くあるべきだ。それでも、力がかかったときには残った歯質より先にポストが壊れるべきである
・カーボンファイバーポスト+レジンコアの歯は、歯が破折する前に、ポストとコアの接合部が壊れるのが典型だった(結論の表記。補助線の(4)を参照)。その破壊は「十分に高いと言える荷重(acceptably high loads)」で起きた
・鋳造ポストコアの歯は、歯が破折するのが典型だった。ただし、生体内ではまれにしか起こらない荷重に対してである
・鋳造ポストコアにカウンターベベルを付けることには否定的な先行研究があり、今回の結果はそれを支持する。咀嚼時に大きな力がかかる患者では特にそうだ
序論では、当時の一般的な考え方として、歯冠部の歯質がほとんど残っていない歯や、歯冠の小さい単根歯には鋳造ポストコアが、歯冠象牙質がかなり残っている歯には既製ポストが向くと紹介されています。先行文献の紹介で、この実験で確かめたことではありません。
・「壊れるまでの力」だけを見れば鋳造ポストコア、「壊れ方」を見ればカーボンファイバー。どちらの物差しで選ぶかで、答えが変わる実験です
・築造を選ぶとき、「どれだけ耐えるか」に加えて「壊れるなら、どこが壊れるか」を考える。そのきっかけになります
・この実験では、壊れたあとに再修復できたかどうかは調べていません。「ポスト側が壊れれば、歯は残せる」とまでは、この論文からは言えません
各群22本で、ばらつきが大きい実験です(群Iは34〜260 kg、群IIは54〜488 kg)。歯は、矯正治療のために抜いた若年者の健全な小臼歯です。う蝕や修復で歯質が失われた歯、前歯、大臼歯については調べていません。全ての歯にシャンファーとカウンターベベルを付けています。歯質の残り方が違う歯に、数値をそのまま当てはめることはできません。
材料は、カーボンファイバーポスト1製品、タイプIII金合金、レジンセメント1製品です。ガラスファイバーポストや、日本で広く使われてきた金銀パラジウム合金のメタルコアを調べた研究ではありません。著者らは、カーボンファイバーポストとレジンコアの長期の成績は、接合部のセメントの長期の性能に強く左右される、とも書いています。
原著の中で、記載が合わない箇所が4つあります。(1)群IIの標準偏差は、抄録では125.0、結果の本文では125、表Iでは125.5です。この記事の図では表Iの125.5を使いました。(2)統計の項では「ばらつきは群Iのほうがかなり大きかった」と書かれていますが、表Iの標準偏差は群II(125.5)のほうが群I(53.1)より大きく、考察でも群IIのばらつきが大きいと書かれています。(3)考察は、鋳造の群で「歯の破折」が91%に見られたとしていますが、結果の本文では、その内訳は歯根破折59%と亀裂32%です。(4)群Iで壊れた場所の書き方も、節によって違います。結果の本文は「歯とポスト・コアの接合部(tooth/post core interface)」、考察は「ポストと歯の接合(post/tooth union)」、結論は「ポストとコアの接合部(post/core interface)」です。この記事の図と結果の説明は、結果の本文の書き方に合わせました。
資金・利益相反:原著に、資金提供や利益相反の記載は見当たりません。本文にはポスト、セメント、コア用レジンの製品名が登場します。
それでも、同じ形のポスト孔・同じセメント・同じクラウンという条件をそろえて、「耐える力」と「壊れ方」の両方を記録した実験です。築造を「強さ」だけで選んでいないか、振り返る材料になる1本です。
今日のひとこと
この実験が示したのは、抜去した小臼歯では、壊れるまでの力は鋳造ポストコアの群が有意に高く、壊れ方は2つの築造ではっきり分かれたということです(壊れたときの荷重の平均は、カーボンファイバーポスト+レジンコアの群が103.7 kg、鋳造ポストコアの群が202.7 kg。P=.003)。カーボンファイバーの群で歯そのものが破折したのは22本中1本(5%)で、残りはポストやコアの側が壊れました。鋳造の群は22本中20本(91%)で歯の側が壊れました(歯根破折13本・亀裂7本)。著者らは、鋳造の群の破折は生体内ではまれにしか起こらない荷重で起きたとしたうえで、ポストは強くあるべきだが、残った歯質より先に壊れるべきだと述べています。抜去歯に1回の荷重をかけた各群22本の実験で、臨床での破折率を調べた研究ではありません。使われたのはカーボンファイバーポスト1製品で、ガラスファイバーポストは調べていません。筆者の読みでは、築造を選ぶときに「どれだけ耐えるか」に加えて「壊れるなら、どこが壊れるか」を考えるための1本です。


