1問1答 論文 エンド

根管充填と歯冠修復、根尖の健康に関わるのはどちら?——1001歯のX線写真では、根尖周囲に透過像がない歯は、根管充填が良好だと78%、不良だと56%。根管充填が不良な歯では、歯冠修復が良好でも56%、不良でも57%だった(Tronstad 2000・一時点の調査)

1問1答 論文 エンド

エンド|根管治療歯1001歯のX線写真を、根管充填の質と歯冠修復の質で分類し、根尖周囲の透過像の有無を比べた横断研究(Tronstadら 2000・Endodontics & Dental Traumatology)。一時点の写真の調査で、治療後の経過を追った研究ではない

根管治療した歯の根尖の健康に強く関わるのは、根管充填の質か、歯冠修復の質か。Tronstadらは2000年、オスロ大学歯学部の患者の全顎X線写真から、永久修復のある根管治療歯1001歯を調べました。根尖周囲に透過像がない歯の割合は、全体で67.4%。根管充填が良好な歯は78%、不良な歯は56%でした。根管充填が良好な歯では、歯冠修復も良好だと81%、不良だと71%。根管充填が不良な歯では、歯冠修復が良好でも56%、不良でも57%で、ほぼ同じでした。一時点のX線写真を分類した横断研究で、治療前の状態や治療からの年数は分かりません。

論文
Influence of coronal restorations on the periapical health of endodontically treated teeth
著者
Leif Tronstad, K. Asbjørnsen, L. Døving, I. Pedersen, H. M. Eriksen(オスロ大学歯学部 歯内療法学講座・ノルウェー)
掲載
Endodontics & Dental Traumatology 2000;16(5):218-221. doi:10.1034/j.1600-9657.2000.016005218.x
種類
X線写真による横断研究。無作為に選んだ患者カルテの全顎X線写真から、永久修復のある根管治療歯を最初の1001歯まで評価。2人の観察者が別々に、根管充填の質(良好・不良)、歯冠修復の質(良好・不良)、根尖周囲の透過像の有無を判定した。カイ二乗検定(有意水準はP<0.01)。治療後の経過を追った研究ではない
資金・利益相反
原著に資金提供・利益相反の記載は見当たらない
PMID
11202885

①根管充填と歯冠修復、根尖の健康に関わるのはどちら?

根管治療した歯の根尖に病変が出るかどうか。そこに強く関わるのは、根管充填の質でしょうか。それとも、上にかぶせる歯冠修復の質でしょうか。

1995年にRay & Tropeが「歯冠修復の質のほうが有意に重要だった」と報告しました。オスロ大学のTronstadらは、これを「おそらくやや意外な結果」と書いています。細菌を通さない封鎖を作るのは根管充填だ、という歯内療法の基本的な理解を、ある程度揺るがす結果だからです。そこで著者らは、Ray & Tropeの方法をできるだけなぞって、同じ問いをもう一度調べました(Ray & Trope 1995の解説はこちら)。

先に断っておきます。これはある一時点のX線写真を見て分類した調査(横断研究)です。治療した歯を追いかけた研究ではありません。原著が「成功」と呼んでいるのは、「X線写真で根尖周囲に透過像がない」という意味です。

結論を先に書きます(根尖周囲に透過像がない歯の割合。原著の表2・表3)。
・全体では67.4%(1001歯のうち675歯)
・根管充填が良好な歯は78%、不良な歯は56%
・根管充填が良好で、歯冠修復も良好だと81%。歯冠修復が不良だと71%
・根管充填が不良だと、歯冠修復が良好でも56%、不良でも57%で、ほぼ同じ
・著者らは「根管充填の質が最も重要な因子だった」と結論している

②調査の組み立て:1001歯のX線写真を4つに分けた

オスロ大学歯学部で、無作為に選んだ患者のカルテから全顎のX線写真を調べました。永久修復がされている根管治療歯を、最初の1001歯まで評価しています。ポストのある歯も、ない歯も含みます。

2人の観察者が、2倍に拡大できるX線ビューアーで別々に写真を見て、次の基準で分類しました。複根歯は、根管充填がいちばん不完全な根で判定しています。

根管充填の質(X線写真での判定)
・良好:すべての根管が充填されている。空隙がない。充填の先端が、X線写真上の根尖の手前2mmから、根尖を1mm越えるまでの範囲にある
・不良:充填の先端が根尖から2mmを超えて離れている。空隙がある、または充填されていない根管がある。太さが不適切、または加圧が不十分
歯冠修復の質(X線写真での判定)
・良好:X線写真で問題がないように見える永久修復
・不良:X線写真でオーバーハング、二次う蝕、または辺縁の開きが見える永久修復
根尖周囲の判定
・成功:歯根膜腔の幅が正常で、周囲の骨も正常に見える
・失敗:根尖周囲に透過像がある

群の間の差はカイ二乗検定で調べ、P値が0.01を下回ったときに有意としています。

③結果:根管充填が不良だと、歯冠修復の質で差が出なかった

0 25 50 75 100 透過像がない歯の割合(%) 81% 充填 良・修復 良 294/364歯 71% 充填 良・修復 不良 101/142歯 56% 充填 不良・修復 良 168/299歯 57% 充填 不良・修復 不良 111/196歯 原著の表3の全4群(並びは原著の表のとおり)。群名の下は「透過像がない歯の数/その群の歯数」。 縦軸=一時点のX線写真で根尖周囲に透過像がない歯の割合(原著はこれを「成功」と呼ぶ)。 治療前の状態と、治療からの年数は分からない
根管充填と歯冠修復の質の組み合わせ別にみた、根尖周囲に透過像がない歯の割合(原著の表3の全4群。一時点のX線写真の調査で、治療後の経過を追った成績ではない)

根管充填が良好な歯では、歯冠修復の質で差が出ました。歯冠修復も良好な364歯では81%(294歯)、歯冠修復が不良な142歯では71%(101歯)。著者らは本文で、この差は統計的に有意だったと書いています。

根管充填が不良な歯では、様子が違います。歯冠修復が良好な299歯で56%(168歯)、不良な196歯で57%(111歯)。歯冠修復が良くても悪くても、割合はほぼ同じでした。

著者らは、根管充填が良好な歯と不良な歯の差は、歯冠修復の質にかかわらず有意だった(P<0.0001)と書いています。

0 25 50 75 100 透過像がない歯の割合(%) 78% 根管充填 良 395/506歯 56% 根管充填 不良 279/495歯 70% 歯冠修復 良 462/663歯 63% 歯冠修復 不良 212/338歯 原著の表2の全4行。左の2本=根管充填の質で分けた比較(歯冠修復の質は問わない)。 右の2本=歯冠修復の質で分けた比較(根管充填の質は問わない)。同じ1001歯を2通りに分けたもの。 群名の下は「透過像がない歯の数/その群の歯数」
根管充填の質だけ、歯冠修復の質だけで分けたときの割合(原著の表2の全4行。同じ1001歯を2通りに分けたもの)

1つの因子だけで分けると、こうなります。根管充填が良好な506歯は78%、不良な495歯は56%で、差は22ポイント。歯冠修復が良好な663歯は70%、不良な338歯は63%で、差は7ポイントです(ポイント差は筆者の計算)。原著は、どちらの差も有意だったとしています。

ポストの有無で分けると(原著の表1・表4・表5)
・ポストのある歯は71%(528歯)、ない歯は64%(473歯)。この差は有意ではなかった(P=0.025。この研究の有意水準は0.01)
・著者らは、ポストがあることは、どの組み合わせでも結果に悪い影響を与えなかったと書いている
・最も低かったのは、ポストがなく、根管充填も歯冠修復も不良な歯の48%(98歯のうち47歯)

④著者らはこの結果をどう読んだか

著者らの読みは、2段階です。

著者らの考察
・根管充填が良好な歯では、歯冠修復が不良だと割合が81%から71%に下がった。封鎖のよい歯冠修復が大切だというRay & Tropeの指摘は、この研究でも確かめられた
・しかし根管充填が不良だと、歯冠修復の質は結果に関係しなかった(56%と57%)
・この点は、歯冠修復の質のほうが根管充填の質より有意に重要だとしたRay & Tropeの結論と、はっきり食い違う

なぜ2つの研究で結果が分かれたのか。著者らは「理由はすぐには分からない」と書いています。対象はどちらも歯学部の患者で、できるだけ似た集団を選んだとのこと。臨床の手技に違いがあったかもしれないが、評価基準はごく単純(良好か不良か)なので、それが結果に響いたかどうかは分からない、としています。

そのうえで、著者らは考察をこう締めくくります。根管充填の質が、根管治療の結果にとって最も重要な因子だった。根管充填が良好なら、良い歯冠修復は成績を上乗せする。根管充填が不良なら、歯冠修復の質は結果に関係しなかった。

⑤明日の臨床へ

著者らの主張(原著に書かれていること)
・根管充填の質が、根管治療の結果にとって最も重要な因子だった
・根管充填が良好であれば、良い歯冠修復が成績をさらに引き上げた
・根管充填が不良であれば、歯冠修復の質は結果に関係しなかった
・ポストの存在は、根管治療の結果に悪い影響を与えなかった
ここからは筆者の読み(原著が述べたことではありません)
・「歯冠修復さえ良ければ大丈夫」とも「根管充填さえ良ければ大丈夫」とも、このデータは言っていません。割合がいちばん高かったのは、両方が良好な歯でした
・補綴の前に、X線写真で根管充填の到達度と緊密さを一度確かめる。この研究の判定基準(根尖の手前2mmから1mm越えまで・空隙なし)は、そのときの目安として使えます
・ただし、これは一時点の写真を並べた調査です。「根管充填をやり直せば病変が治る」「歯冠修復を替えても意味がない」といった因果までは、この研究からは言えません
ここだけ、冷静に補助線この研究は、ある一時点のX線写真を分類した横断研究です。治療前に根尖病変があったかどうか、治療から何年たっているかは分かりません。透過像が治りかけのものなのか、新しくできたものなのかも区別できません。示されたのは「関連」で、原因と結果までは言えません。
根管充填と歯冠修復の質は、X線写真だけで判定しています。修復物の辺縁の適合や漏洩を、二次元の写真でどこまで見分けられるかには限りがあります。修復物の種類、歯種、ラバーダムの使用、治療した術者などの情報は、原著に書かれていません。
観察者の一致率も高くありません。事前の練習(47根)で2人の判定が一致したのは61.7%でした。食い違いは話し合いで解決し、合意できなければ3人目の観察者が最終判定をしています。調査のあとに、最初に調べた根のうち44根を再検査したときの一致は79.5%でした。
原著の中で、数字が合わない箇所があります。(1)抄録では、ポストのある歯は527歯で70.7%、ない歯は472歯で63.6%。本文と表1では528歯で71%、473歯で64%です。表4と表5の歯数を足すと527歯と472歯になり、全体の1001歯に2歯足りません(足りないのは、根管充填も歯冠修復も良好な群。表3は364歯、表4と表5の合計は362歯)。(2)表2の脚注は、歯冠修復が良好な歯(70%)と不良な歯(63%)の差をP<0.0001としています。表の歯数から筆者がカイ二乗検定(補正なし)で計算すると、P値はおよそ0.03で、この研究の有意水準0.01には届きませんでした。根管充填が良好な歯のなかでの81%と71%の差も、本文は有意としていますがP値は示されておらず、筆者の計算ではおよそ0.02でした。原著は検定の細かい条件を書いていないので、筆者の計算と条件が違う可能性があります。根管充填の質による差(78%と56%)は、筆者の計算でもP<0.0001でした。
資金・利益相反:原著に、資金提供や利益相反の記載は見当たりません。
それでも、先行研究の方法をなぞって1001歯で確かめ直し、違う結果を示した意味は大きい1本です。同じ問いに、2つの研究が別の答えを出した。その両方を知っておくと、「根管充填と歯冠修復のどちらも手を抜けない」という当たり前のことを、数字で説明できるようになります。

今日のひとこと

この調査が示したのは、根管治療歯1001歯のX線写真では、根尖周囲に透過像がない歯の割合は、根管充填が良好な歯で78%、不良な歯で56%だったということです。根管充填が良好な歯では、歯冠修復も良好だと81%、不良だと71%。根管充填が不良な歯では、歯冠修復が良好でも56%、不良でも57%で、ほぼ同じでした。著者らは、根管充填の質が最も重要な因子で、根管充填が良好なときは、良い歯冠修復が成績を上乗せすると述べています。一時点のX線写真を分類した横断研究なので、分かるのは関連までで、原因と結果は言えません。筆者の読みでは、「根管充填と歯冠修復のどちらが大事か」ではなく、「両方そろった歯の割合がいちばん高かった」と受け取るための1本です。

Tronstad L, Asbjørnsen K, Døving L, Pedersen I, Eriksen HM. Influence of coronal restorations on the periapical health of endodontically treated teeth. Endod Dent Traumatol. 2000;16(5):218-221. doi:10.1034/j.1600-9657.2000.016005218.x. PMID: 11202885
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。