エンド|一般歯科医9人の患者記録から根管治療歯1,273歯を拾い、ポストの有無・歯冠被覆の有無と成功率(脱離・破折・穿孔がないこと)の関係を歯の位置別に調べた後ろ向きの調査(Sorensen・Martinoff 1984・Journal of Prosthetic Dentistry)
根管治療した歯にはポストを立てて補強する。そう習ってきました。SorensenとMartinoffは1984年、一般歯科医9人の患者記録から、口の中で1〜25年たった根管治療歯1,273歯を調べました。ポストの有無では、6つの歯群のどれでも成功率に有意差はありませんでした。一方、歯冠被覆のある歯は、上下の小臼歯と大臼歯で成功率が有意に高く(上顎大臼歯 97.8% 対 50.0% など、4群とも p<.001)、前歯では有意差がありませんでした。後ろ向きの記録調査で、誰にポストやクラウンを入れるかは担当医が決めており、残っている歯質の量などは調整されていません。「成功」は脱離・破折・穿孔の記録がないことで、根尖病変の治癒ではありません。
①根管治療した歯、ポストで補強できる?
根管治療をした歯にはポストを立てて補強し、クラウンをかぶせる。長くそう教えられてきました。ただ、その根拠の多くは抜去歯や模型を使った実験(in vitro)で、臨床で確かめた研究は少ないままでした。
SorensenとMartinoffは1984年、一般歯科医9人の患者記録(6,000件を超える)から、根管治療を受けた1,273歯を拾い出しました。口の中で1〜25年たっている歯です。ポストの有無、歯冠被覆(クラウンやアンレー)の有無で、成功率が変わるかを、歯の位置ごとに調べています。
・ポスト:6つの歯群(上下の前歯・小臼歯・大臼歯)のどれでも、ポストの有無で成功率に有意差はなかった
・歯冠被覆:上下の小臼歯と大臼歯の4群で、被覆のある歯の成功率が有意に高かった(いずれも p<.001)。上顎小臼歯 93.9% 対 56.0%、上顎大臼歯 97.8% 対 50.0%、下顎小臼歯 93.8% 対 62.5%、下顎大臼歯 96.8% 対 57.7%
・前歯:上顎も下顎も、歯冠被覆の有無で有意差はなかった(上顎 87.5% 対 85.4%、下顎 97.5% 対 94.4%)
・これは後ろ向きの記録調査で、誰にポストやクラウンを入れるかは担当医が決めている。残っている歯質の量などは調整していない
ここでいう「成功」は、最後の診察で脱離・歯や歯根の破折・歯根の垂直破折・医原性の穿孔の記録がないことです。根尖病変が治ったかどうかではありません。歯周病やう蝕が原因で失敗した歯は、対象から外されています。
②ポストの有無:6群すべてで有意差なし
ポスト「あり」は、鋳造ポストコア、既製ポスト、ねじ込み式のポストをまとめた群です。「なし」は、ピンを併用したアマルガムやコンポジットレジン、ピンなしのアマルガムやコンポジットレジン、仮封の歯です。
・上顎前歯:89.4%(178歯/199歯) 対 84.7%(171歯/202歯)
・上顎小臼歯:93.2%(69歯/74歯) 対 87.0%(114歯/131歯)
・上顎大臼歯:92.0%(23歯/25歯) 対 93.1%(161歯/173歯)
・下顎前歯:95.8%(23歯/24歯) 対 96.2%(50歯/52歯)
・下顎小臼歯:89.3%(50歯/56歯) 対 90.9%(80歯/88歯)
・下顎大臼歯:97.6%(41歯/42歯) 対 91.7%(189歯/206歯)
著者らは、6群のうち3群で、ポストのない歯のほうが成功率が高かったことにも触れています(表Iでは上顎大臼歯・下顎前歯・下顎小臼歯)。ただし、どれも有意な差ではありません。
著者ら自身、この結果を「受け入れられている治療とは正反対」と書いています。ポストを入れても、破折や脱離への抵抗は有意には増えていなかった、という読みです。
③歯冠被覆の有無:小臼歯と大臼歯で大きな差
歯冠被覆「あり」は、アンレー、部分被覆冠または全部被覆冠、陶材焼付冠が入っている歯です。「なし」は、アマルガム充填やコンポジットレジン充填から、ピンを使った歯冠部の築造までを含みます。
・上顎小臼歯:被覆あり 93.9%(169歯/180歯)、被覆なし 56.0%(14歯/25歯)
・上顎大臼歯:被覆あり 97.8%(174歯/178歯)、被覆なし 50.0%(10歯/20歯)
・下顎小臼歯:被覆あり 93.8%(120歯/128歯)、被覆なし 62.5%(10歯/16歯)
・下顎大臼歯:被覆あり 96.8%(215歯/222歯)、被覆なし 57.7%(15歯/26歯)
・上顎前歯:被覆あり 87.5%(273歯/312歯)、被覆なし 85.4%(76歯/89歯)
・下顎前歯:被覆あり 97.5%(39歯/40歯)、被覆なし 94.4%(34歯/36歯)
臼歯で被覆のない歯は16〜26歯と少なく、その37.5〜50.0%に失敗の記録がありました。前歯では、被覆の有無で成功率はほとんど変わっていません。著者らは、歯冠がほぼ残っている前歯なら、アクセス窩洞を充填するだけの方法も、歯冠被覆と同じように選択肢になると述べています。
④著者らの読み:ポストは「補強」のためではない
・ポストを入れる動機を「補強」に置くべきではない。歯冠被覆の形成に足りない歯質を補うとき、ポストは築造材を保持する助けになる
・保持に関わる要因より、歯根破折への抵抗に関わる要因に目を向けるべきである。歯の強さと破折への抵抗には、残っている歯質の量が大事だと、in vitro(実験室)の研究が示している
・ポスト孔の形成や修復の操作で、歯質を削りすぎることは避ける
・臼歯では、アマルガムやコンポジットレジンを髄室から根管口部へ詰める築造(コロナル・ラディキュラー・コア)も、ポストコアと同じように適していると見える
・すべての根管治療歯に一律にポストを入れるのは現実的でない。残っている歯質、歯周組織の支持、歯根と歯髄腔の形、咬合を考えて決める
例として著者らが挙げるのは、歯冠の歯質が減った下顎前歯です。ポスト孔を掘って歯質を失ったり、歯根を穿孔したりする危険を冒すより、髄室にコンポジットレジンを詰める方法がある、としています。
著者らは、修復の方法によらず失敗しやすい歯があるようだ、とも述べています。上顎前歯は、歯列での位置のために小臼歯や大臼歯より外傷を受けやすい歯です。上顎前歯と下顎前歯の失敗率の違いについては、力の方向の違い(下顎前歯は歯軸に近い垂直の力、上顎前歯は斜めの力)が関わっているかもしれない、としています。根管へのアクセスで歯質を多く失うと、上顎前歯は修復をしても弱くなりうる、とも書いています。いずれも著者らの説明で、この研究で確かめたものではありません。
⑤明日の臨床へ
・上下の小臼歯と大臼歯は、歯冠被覆で予後が有意に良くなる
・歯冠がほぼ残っている前歯は、アクセス窩洞の充填だけでも選択肢になる。大きな修復物が複数ある場合や審美の理由で歯冠被覆を選ぶのは、歯科医の判断である
・ポストは補強のためではなく、足りない歯質を補う築造の保持のために使う
・根管治療後の臼歯を充填だけで長く置く場合は、歯冠被覆へ進む時期を、患者さんと先に決めておく材料になります
・ポストを入れるかどうかは、「補強したいから」ではなく「築造を保持する歯質が足りないから」で決める、という整理ができます
・1984年の調査なので、充填はアマルガムと当時のコンポジットレジンです。接着修復が進んだ今の臼歯に、被覆なしの成功率(50.0〜62.5%)をそのまま当てはめることはできません
ポストの比較と歯冠被覆の比較は別々に集計されています。「ポストなし」の歯にクラウンが入っていたか、「被覆なし」の歯にポストが入っていたかは、表からは分かりません。
臼歯で歯冠被覆のない歯は16〜26歯と少なく、成功率の数字は数歯で大きく動きます。口の中にあった期間は1〜25年と幅があり、群ごとの経過年数は示されていません。1年に満たない歯は対象外です(失敗は根管治療の日から記録)。
「成功」は脱離・破折・穿孔の記録がないことで、根尖病変の治癒は見ていません。歯周病やう蝕による失敗は除かれています。
ポストは鋳造・既製・ねじ込み式をまとめて1群にしており、種類や長さの違いはこの論文では分かれていません。
原著の数字について1つ。表Iの歯数を足すと1,272歯で、本文の1,273歯と1歯合いません。
資金・利益相反:原著に記載は見当たりません。
それでも、「ポストは歯を強くする」という通念を、1,000歯を超える臨床の記録で確かめにいった早い時期の研究です。ポストの役割を「補強」から「築造の保持」へ言い換え、臼歯の歯冠被覆の有無を数字で比べた1本として、今も読む価値があります。
今日のひとこと
この調査が示したのは、ポストの有無では成功率に有意差がなく、小臼歯と大臼歯では歯冠被覆のある歯の成功率が有意に高かったということです(前歯では被覆の有無で有意差なし)。著者らは、ポストを入れる動機を「補強」に置くべきではなく、足りない歯質を補う築造の保持のために使うものだと述べています。ただし後ろ向きの記録調査で、ランダムに割り付けた比較ではありません。臼歯の被覆なしは16〜26歯と少なく、材料も1984年当時のものです。筆者の読みでは、数字の大きさよりも「ポストは補強ではない」「臼歯は歯冠被覆を考える」という2つの考え方を、考え直す材料になる1本です。


