エンド|大学病院の新患の全顎X線写真から、根管治療と永久修復が済んだ1,010歯を集め、根管充填の質・修復物の質と、根尖周囲の炎症の有無との関連を調べた、一時点のX線写真の調査(Ray・Trope 1995・International Endodontic Journal)。因果を確かめた研究ではない
根管治療の予後は根管充填の質と関係する、と考えられてきました。RayとTropeは1995年、根管治療と永久修復が済んだ1,010歯のX線写真を調べました。根尖周囲に炎症の所見がない歯は、根管充填も修復物も良いと91.4%、どちらも不良だと18.1%。根管充填が良くても修復物が不良なら44.1%、根管充填が不良でも修復物が良ければ67.6%でした。ロジスティック回帰のオッズ比は、良い根管充填が4.32、良い修復物が11.12で、修復物の質との関連のほうが有意に強いという結果です(表1の割合から筆者が計算した比では約1.6と約2.6)。ただしある一時点のX線写真を調べた研究で、治療前の状態も治療からの年数も分かりません。示されたのは関連で、修復物の質が原因だと確かめたものではありません。
①根尖に炎症がない歯に多いのは、良い根管充填?良い修復物?
根管治療の予後は、根管充填の技術的な質と関係する。長くそう考えられてきました。根管充填が良ければ根管は封鎖される、という前提です。一方で、抜去歯などの実験では、根管充填した歯の歯冠側を開けたままにすると、漏洩が一貫して起きることが報告されていました。
RayとTropeは1995年、テンプル大学歯学部で無作為に選んだ新患の全顎X線写真から、根管治療と永久修復が済んでいる歯を順に1,010歯集め、根管充填の質・修復物の質・根尖周囲の炎症の有無を、X線写真の上で判定しました。
・根尖周囲に炎症の所見がない歯は、全体で61.07%
・根管充填も修復物も良い歯は91.4%、どちらも不良の歯は18.1%
・根管充填が良くても修復物が不良だと44.1%。根管充填が不良でも修復物が良いと67.6%
・ロジスティック回帰のオッズ比は、良い根管充填が4.32(95%CI 3.11–6.00)、良い修復物が11.12(95%CI 8.00–15.47)。修復物の質との関連のほうが有意に強かった(p<0.001)
・ただし、ある一時点のX線写真を調べた研究で、治療前の状態も、治療から何年たったかも分からない。関連を示したもので、修復物の質が原因だと確かめたものではない
「良い・不良」はどれもX線写真での判定です。良い根管充填は、全根管が充填され、空隙がなく、主ポイントの先がX線的根尖から0〜2mmにあるもの。良い修復物は、X線写真で封鎖されているように見える永久修復物。不良の修復物は、オーバーハング、開いたマージン、二次う蝕の所見があるものです。「炎症がない」は、根尖3分の1の歯根膜腔の輪郭・幅・構造が正常なこと(充填材が溢出している場合は、わずかな拡大まで)です。ポストコアの入った歯は対象から外されています。
対象は、X線撮影の前の少なくとも1年間、歯科治療を受けていないと答えた患者に限られています。調べる歯を選んだのは、判定をした2人とは別の歯科医師です。
②組み合わせでみる:両方良いと91.4%、両方不良は18.1%
・根管充填 良・修復物 良:91.4%(302.0歯/330.5歯)
・根管充填 不良・修復物 良:67.6%(204.5歯/302.5歯)
・根管充填 良・修復物 不良:44.1%(72.5歯/164.5歯)
・根管充填 不良・修復物 不良:18.1%(34.0歯/188.0歯)
4つの群を並べると、根管充填が良くて修復物が不良の歯(44.1%)より、根管充填が不良で修復物が良い歯(67.6%)のほうが、炎症のない割合が高くなっています。表2で目を引くのはこの点です(筆者の読み)。著者らが抄録で挙げているのは、両方が良い歯の91.4%と、両方が不良の歯の18.1%の差です。
歯数に0.5の端数があります。2人の評価者が別々に判定しているので、その結果を合わせたためかもしれませんが、原著に説明はありません(端数の理由は筆者の推測です)。
③それぞれでみる:修復物の質との関連のほうが強かった
・根管充填 良:75.7%(374.5歯/495.0歯)、不良:48.6%(238.5歯/490.5歯)
・修復物 良:80.0%(506.5歯/633.0歯)、不良:30.2%(106.5歯/352.5歯)
・ロジスティック回帰:炎症がないことのオッズ比は、良い根管充填 4.32(95%CI 3.11–6.00)、良い修復物 11.12(95%CI 8.00–15.47)
・2つの関連の強さを比べた検定は χ²=22.83、p<0.001。修復物の質との関連のほうが有意に強い
・根管充填と修復物の交互作用は有意でなかった(p=0.296)。2つの要因は互いに独立に関連していた
・補助の解析(マンテル・ヘンツェル法)でも、オッズ比は 4.30(95%CI 3.09–5.99)と 11.07(95%CI 7.96–15.38)でほぼ同じ
オッズ比は、起こりやすい出来事では「何倍なりやすいか」より大きな数字になります。ここでは炎症のない歯が全体の約6割と多いので、表1の割合から比(リスク比)を計算しておきます。修復物が良い歯と不良の歯では 80.0% ÷ 30.2% = 約2.6、根管充填が良い歯と不良の歯では 75.7% ÷ 48.6% = 約1.6 です(本文の割合から筆者が計算。ほかの要因の調整なし)。
④著者らの読み:根管充填だけでは、漏洩の障壁として足りないのかもしれない
・これまでの予後研究は、永久修復物の質を成功の基準に入れてこなかった
・今回の結果は、歯冠修復が成功にとって決定的に重要かもしれないことを示し、充填された根管は漏洩への十分な障壁ではない、という臨床的な根拠になりうる
・質の高い根管治療のほうが予後が良いことは、今回もはっきり示された。最高の質の根管治療は、これからも大事な目標である
・そのうえで、根管治療の結果を守る手段として、歯冠修復を完了させることにもっと重きを置くべきである
なぜ修復物が関係するのか。著者らは仮説を1つ挙げています。細菌が根尖まで届かなくても、歯冠側に細菌がいれば、より小さな内毒素などの細菌の産物が根管充填を通って根尖に届き、炎症を起こすのではないか、というものです。根拠は著者らのグループの実験(in vitro、1993年の学会抄録)で、この研究で確かめたものではありません。
対策として著者らは、根管充填のあとに根管口部を封鎖する方法や、歯冠修復物を根尖側へ延ばして根管系を封鎖する方法に触れています。ただし、再治療が難しくなるか、できなくなる欠点があり、その欠点を上回るほど予後が良くなるかは研究が要る、としています。
⑤明日の臨床へ
・今の根管充填の方法は、根管を完全に封鎖するという目的を満たしていない。より良い充填材料が要る(1995年時点の著者らの主張)
・根管充填後のX線写真で、根管充填だけでなく、修復物のマージンや二次う蝕も一緒に見る習慣を確かめる材料になります
・最終修復までの予定を根管治療の計画に入れておく、という段取りを見直すきっかけになります。ただし、この研究の対象は永久修復が済んだ歯だけで、仮封や修復までの期間は調べていません
・この研究は「修復物が良ければ根管充填は雑でよい」とは言っていません。炎症のない割合がいちばん高かったのは、両方が良い歯(91.4%)です
分かるのは「修復物が不良の歯に、根尖周囲の炎症が多かった」という関連までです。修復物の不良が先か、炎症が先かは分かりません。修復が丁寧な術者は、X線写真に写らない根管内の清掃や消毒も丁寧、といった事情は除けていません。ロジスティック回帰に入っているのは、根管充填の質と修復物の質の2つだけです。
質の判定は2次元のX線写真だけです。修復物の封鎖は、X線写真で見えるオーバーハング・開いたマージン・二次う蝕で判定しており、実際の漏洩を調べたものではありません。根管内の清掃や消毒の質は、X線写真からは分かりません。
2人の評価者が別々に判定していますが、判定の一致度は示されていません。ポストコアの歯は対象外で、対象は米国の大学病院1か所の新患です。
原著の数字について。表2の4群の歯数を足すと985.5歯で(表1も、根管充填別・修復物別にそれぞれ足すと985.5歯)、本文の1,010歯と合いません。全体の61.07%は、表から計算すると62.2%(613歯/985.5歯)で、1,010歯で割っても60.7%です。抄録は「修復物が不良の歯は、根管充填が不良の歯より炎症のある例が有意に多い、30.2%対48.6%」と書いていますが、表1ではこの2つは炎症が「ない」歯の割合です。
資金・利益相反:原著に記載は見当たりません。
それでも、著者らによればそれまでの予後研究が基準に入れてこなかった「修復物の質」を正面から扱い、歯冠側からの漏洩という実験室の話を臨床のX線写真で確かめにいった1本です。この1本だけで結論を出すのではなく、根管治療と修復の両方をそろえる理由として読むのがよさそうです。
今日のひとこと
この研究が示したのは、根尖周囲に炎症がない歯の割合は、根管充填も修復物も良いと91.4%、どちらも不良だと18.1%で、修復物の質との関連のほうが根管充填の質との関連より有意に強かったということです。著者らは、質の高い根管治療は引き続き大事な目標としたうえで、歯冠修復の完了にもっと重きを置くよう述べています。ただし、ある一時点のX線写真を調べた研究で、治療前の状態も治療からの年数も分かりません。関連を示したもので、因果を確かめたものではありません。筆者の読みでは、「根管充填か修復か」の勝ち負けではなく、両方をそろえる理由を考える材料になる1本です。


