エンド|根管治療した歯を8通りの方法で修復し、破折に要する力を比べた抜去歯の実験(Trope・Maltz・Tronstad 1985・Endodontics & Dental Traumatology)。上顎中切歯64本・各群7〜8本・1回の荷重で壊した実験室の研究で、臨床成績を調べた研究ではない
「根管治療した歯はポストで補強する」と習った方は多いはずです。Tropeらは1985年、抜去した上顎中切歯64本を根管充填し、8通りの方法で修復して、破折するまで荷重をかけました。ポスト孔を作らなかった3群は平均318.1〜333.8 lbs。ポスト孔を掘って空のままにした群は182.1 lbs。スチールポストをリン酸亜鉛セメントで合着した群は264 lbsで、空のポスト孔よりは有意に高いものの、ポスト孔を作らなかった歯(群2・3)より有意に低いままでした。ポスト孔と窩洞を酸エッチングしてコンポジットレジンで埋めた群は295.6 lbsで、ポスト孔を作らなかった3群と統計的な差はありませんでした(数値は3群より低い)。抜去歯に1回の荷重をかけた実験室の研究で、臨床での破折率を調べたものではありません。
①ポストを入れれば、歯は強くなる?
「根管治療をした歯は弱い。だからポストを入れて補強する」。そう習った方は多いはずです。ポストには、修復物を保持する役割と、歯を破折から守る役割がある、と考えられてきました。
保持の役割に疑問はありません。けれど「補強」のほうは、本当でしょうか。Tropeらは1985年、抜去した上顎中切歯を使って、この問いを実験で確かめました。
先に断っておきます。これは抜去歯に1回の荷重をかけて壊した実験室の研究です。患者さんの口の中で、何年後に何本が破折したかを調べた研究ではありません。
・ポスト孔を作らなかった3群は318.1〜333.8 lbs(3群の間に有意差なし)
・ポスト孔を掘って空のままにした群は182.1 lbs。著者らは、ポスト孔の形成は歯を有意に弱くしたと結論
・スチールポストをリン酸亜鉛セメントで合着した群は264 lbs。空のポスト孔よりは有意に高いが、ポスト孔を作らなかった歯(群2・3)より有意に低い
・ポスト孔と窩洞を酸エッチングしてコンポジットレジンで埋めた群は295.6 lbs。ポスト孔を作らなかった3群と統計的な差はなかった(数値は3群より低い)
・著者らは、ポストは「修復物の保持に必要なときだけ使うべき」と述べている
②実験の組み立て:64本を8通りに修復した
使ったのは、抜去したばかりの上顎中切歯64本です。う蝕、歯頸部の摩耗、鉗子による損傷、破折のない歯を選び、長さと歯頸部の径は互いに1mm以内にそろえました。
舌側に深さ2mm・幅2mmのアクセス窩洞を開け、根管を70号まで形成し、ガッタパーチャとGrossmanのセメントで根管充填。72時間後に、次の8通りで修復しています。レジンは、群1に製品名(Concise・3M)が書かれたコンポジットレジンです。
・群1:窩洞をレジンで充填(エッチングなし)。根管内はガッタパーチャのまま
・群2:窩洞を酸エッチングしてレジンで充填。根管内はガッタパーチャのまま
・群3:ガッタパーチャをセメント・エナメル境の10mm下まで取り除き、窩洞と根管壁を酸エッチング。レジンを綿球で根管と窩洞に押し込んだ(ドリルでのポスト孔形成はしていない)
・群4:窩洞だけレジンで充填。ポスト孔は空のまま
・群5:ポスト孔と窩洞をレジンで充填(エッチングなし)
・群6:スチールポスト(直径1.25mm)をリン酸亜鉛セメントで合着。窩洞はレジンで充填
・群7:ポスト孔と窩洞を酸エッチングし、レジンを綿球で押し込んで充填(ポストなし)
・群8:ポスト孔と窩洞を酸エッチングし、スチールポスト(直径1.25mm)をレジンで合着。窩洞もレジンで充填
歯は、セメント・エナメル境の高さまで硬化セメントに埋め、試験機にセットしました。基底結節のすぐ上に、歯軸に対して50度の方向から、ゆっくり増える圧縮荷重を破折するまでかけています。統計は一元配置分散分析と、Scheffé型の多重比較(有意水準5%)です。
表に載っている本数は各群7〜8本です。実験中に、群2・3・6・8で1本ずつ失われたと書かれています。
③結果:ポスト孔を掘って空のままの群は、有意に弱かった
ポスト孔を作らなかった3群は、群1が318.1 ± 69.6、群2が326.5 ± 42.8、群3が333.8 ± 50.6 lbs。窩洞をエッチングしても、根管の上部のガッタパーチャをレジンに置き換えても、有意な差は出ませんでした。
ポスト孔を掘った群は、様子が違います。空のままの群4は182.1 ± 61.9、エッチングなしでレジンを詰めた群5は201.1 ± 56.5 lbs。著者らは「ポスト孔の形成は、歯の破折への抵抗を有意に弱めた」と書いています。窩洞の修復が同じ群1(318.1)と並べると、群4(182.1)はおよそ57%です(本文の平均値から筆者が計算。群1と群4を組にしたのも筆者)。
単位のlbsはポンドです。1 lb=約0.454 kg重で換算すると、318.1 lbsは約144 kg重、182.1 lbsは約83 kg重に当たります(筆者の換算)。
・群6(スチールポスト+リン酸亜鉛セメント):264 ± 64.1 lbs
・群8(酸エッチング+スチールポスト+レジン):269 ± 30.9 lbs
・どちらも、空のポスト孔(群4)とエッチングなしのレジン(群5)より有意に高い
・しかし、ポスト孔を作らずに修復した歯(群2・3)より有意に低い
・群7(酸エッチング+レジン充填):295.6 ± 59.3 lbs
・ポスト孔を作らなかった群1〜3と統計的な差がなかった
・同じレジン充填でも、エッチングなしの群5(201.1)とは有意な差があった
・数値そのものは、ポスト孔を作らなかった3群(318.1〜333.8)より低い。著者らも考察で、ポスト孔を作った歯のどの修復法も、作らなかった歯の強さに並ぶほどには補強できなかった、と書いている
・群7と、ポストを入れた群6・8とを直接比べた検定の結果は、本文に書かれていない
破折の形は、どの修復法でも似ていました。ポスト孔を作らなかった歯について、著者らは、破折はアクセス窩洞より下で起きており、窩洞の修復法には左右されなかったようだ、と述べています。
④なぜエッチングで差が出たのか(著者らの考察)
著者らが特に関心を寄せていたのは、酸エッチングの効果です。象牙質を酸エッチングすると、スメア層と表層の管周象牙質が取り除かれ、象牙細管が開いて広がります。そこへレジンが入り込めば、歯を内側から「つなぎとめる」ことができ、破折への抵抗が上がるのではないか。これが著者らの考えでした。
ポスト孔を作らなかった歯では、この効果ははっきりしませんでした。群3は全8群のなかで平均が最も高かったものの、群1・2との差は有意ではなく、著者らは「やや期待外れ」と書いています。
一方、ポスト孔を作った歯では、差がはっきり出ました。エッチングしてレジンで埋めた群7は295.6 ± 59.3、エッチングなしの群5は201.1 ± 56.5 lbsで、有意な差です。
・群7と群5の差が、群3と群2の差よりはっきりしたのは、根管の空間の幅と、それに伴う根の象牙質の厚みの違いによるものだろう
・だとすれば、エッチングしてレジンで埋める方法は、根管が広く根管壁の薄い歯で最も効果的かもしれない
(筆者注)この実験では、根の象牙質の厚みは測っていません。根が完成していない歯で試したわけでもありません。
⑤明日の臨床へ
・臨床では、ポスト孔の形成は可能な限り避けるべきかもしれない
・ポストで根管治療歯を補強するという考えは、妥当ではないかもしれない。ポストは修復物の保持に必要なときだけ使うべきである
・根管壁をエッチングしてレジンで埋める方法は、根が完成しておらず、根管が広くて根管壁の薄い若い歯の修復で、最も効果的かもしれない
・著者らのクリニックでは、小児の外傷を受けた切歯の修復にこの方法を採用し、良い結果を得ているという(著者らの経験の記述で、データは示されていない)
・「補強のためにポストを入れる」という説明は、この実験の結果とは合いません。ポストを考えるのは、修復物を保持する歯質が足りないときです
・「根管内の象牙質を削る量は、少ないほうがよい」という方向は、ポスト孔の長さや太さを決めるときの判断材料になります。ただし、この実験のポスト孔は1種類(直径1.25mm・セメント・エナメル境の10mm下まで)で、太さや長さを変えた比較はしていません
各群は7〜8本と少なく、ばらつきも大きい実験です(群1は318.1 ± 69.6 lbsで、個々の歯は240〜410 lbs)。著者ら自身も、歯の選び方に注意を払ってもばらつきが大きかったと書いています。
歯は、歯冠がほぼ残った前歯(アクセス窩洞は深さ2mm・幅2mm)で、クラウンは装着されていません。歯冠が大きく失われ、ポストなしでは修復物を保持できない歯や、臼歯については調べていません。ポストは直径1.25mmのスチールポスト1種類、レジンは1985年当時の1製品で、ボンディング材を使ったとは書かれていません。現在の接着システムやポスト材料に、数値をそのまま当てはめることはできません。
原著の中で、記載が合わない箇所が4つあります。(1)結論の2番目は「ポストは根管治療歯を有意には補強しなかった」ですが、結果の本文では、ポストを入れた2群は空のポスト孔の群より有意に高かったと書かれています。考察を読むと、著者らは「ポスト孔を作らなかった歯の強さまで戻せたか」を基準にしているようです(筆者の読み)。(2)結果の本文では、群7はポスト孔を作らなかった群1〜3と統計的な差がないとされていますが、考察では、ポスト孔を作った歯のどの修復法も、作らなかった歯の強さに並ぶほどには補強できなかった、と書かれています。(3)表1の群3と表2の群8は、表に載っている個々の値から計算した平均(319.6と254.7)が、表と本文に書かれた平均(333.8と269)と合いません。群3の295を395、群8の185を285と置くと平均と標準偏差が合うので、個々の値の誤植かもしれません(筆者の計算)。この記事では、表と本文に書かれた平均と標準偏差をそのまま使いました。(4)群6の窩洞を酸エッチングしたかどうかも、方法と結果の本文で書き方が違います。
資金・利益相反:原著に、資金提供や利益相反の記載は見当たりません。
それでも、「ポストは歯を補強する」という前提を、8つの条件を並べて確かめた実験です。ポスト孔を掘る前に「このポストは保持のために本当に要るか」と一度立ち止まる。そのきっかけになる1本です。
今日のひとこと
この実験が示したのは、抜去した上顎中切歯では、ポスト孔を掘って空のまま、またはエッチングなしのレジンで埋めた群(群4・5)は有意に弱く、スチールポストを合着しても、掘らなかった歯の強さには届かなかったということです(破折に要した力の平均は、ポスト孔のない群1が318.1 lbs、空のポスト孔の群4が182.1 lbs、ポストをリン酸亜鉛セメントで合着した群6が264 lbs)。酸エッチングしてコンポジットレジンで埋めた群7は295.6 lbsで、掘らなかった3群と統計的な差はありませんでした。ただし数値は低く、著者らも考察で、どの修復法も掘らなかった歯の強さに並ぶほどには補強できなかった、と書いています。著者らは、ポストは修復物の保持に必要なときだけ使うべきだと述べています。抜去歯に1回の荷重をかけた各群7〜8本の実験で、臨床での破折率を調べた研究ではありません。筆者の読みでは、「ポストを入れる前に、掘る量を減らせないか」を考えるための1本です(この実験は、ポスト孔の太さや長さを変えた比較はしていません)。


