1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

ナイトガードのあとで前歯が噛まなくなったら?——装着後に生じた前歯部開咬4症例の対応を述べた臨床解説。装置をやめる・形を変える・少しずつ調整するなど、最小限の介入が軸(2019年)

1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

咬合・スプリント|ナイトガード・スプリント(1例は矯正のリテーナー)の使用のあとに意図せず生じた前歯部開咬の4症例について、対応と経過を述べた臨床解説。比較試験ではなく症例の提示(Bereznicki ほか 2019・Br Dent J)

ナイトガードを渡した患者さんに、「前歯が噛み合わなくなった」と言われたら。この解説は、装置の使用のあとに意図せず生じた前歯部開咬の4症例(3例はナイトガードやスプリント、1例は矯正後のリテーナー)を示し、それぞれの対応と経過を述べています。著者らが探した範囲では、このタイプの開咬への対応を述べた論文もガイドラインも見つからず、対応は大部分が経験則です。症例では、装置の使用をやめる、前歯部を除いた軟らかい装置に変える、咬合を数回に分けて調整する、親知らずを抜くといった比較的小さな介入で対応していました。著者らの結論は、最小限の介入で対応できる場合がある、というもの。ただし結果は不確かで、症例提示のためエビデンスのレベルは高くありません。

論文
Unintended changes to the occlusion following the provision of night guards. Part two: management
著者
Tom Bereznicki, Elizabeth Barry, Nairn H. F. Wilson(英国・キングス・カレッジ・ロンドンほか)
掲載
British Dental Journal 2019;226(9):649-656
種類
臨床解説(症例提示つき)。ナイトガード・スプリント(3例)または矯正後のリテーナー(1例)のあとに生じた前歯部開咬の4症例と、対応の選択肢の整理。比較試験ではなく、症例の経過の報告。症例の追跡は5か月〜18か月ほど(症例による)
PMID
31076690

①ナイトガードのあとで、前歯が噛まない?

ナイトガードやスプリントを使っていた患者さんが、「前歯が噛み合わなくなった気がします」と言う。診ると、前歯に垂直的な重なりがなく、奥歯だけが当たっている。装置を渡した側としては、ドキッとする場面です。

前歯部開咬は、奥歯が噛み合っているのに前歯が垂直的に重ならない状態です。原著は、子ども(英国)で2〜4%、成人で4%に見られる、比較的まれな所見としています。原因には、指しゃぶりなどの癖、舌や口唇の位置、歯の摩耗、気道の問題、骨格の問題、顎関節の変形などがあり、不適切な装置の処方や使用もそのひとつに挙げられています。

著者らは文献を探しましたが、装置のあとに生じたこのタイプの前歯部開咬への対応を述べた論文は、ガイドラインはもちろん、見つからなかったと書いています。そこで、自分たちが経験した4症例を示し、対応を考えたのがこの「Part two(対応編)」です。装置のあとに咬合が変わること自体の整理は前報(Part one)にあり、この記事では扱いません。

結論を先に書きます。
・ナイトガード・スプリント(1例は矯正後のリテーナー)の使用のあとに意図せず生じた前歯部開咬の4症例を示し、それぞれの対応と経過を述べた臨床解説
・症例では、装置の使用をやめる、装置の形を変える、咬合を少しずつ調整する、親知らずを抜く、といった比較的小さな介入で対応していた
・著者らの結論は、最小限の介入で対応できる場合がある。ただし確立した方法はなく、対応は経験則で、結果は不確かというもの
・比較試験ではなく症例の提示。エビデンスのレベルは高くなく、「こうすれば治る」とは言えない

②著者らが挙げた7つの選択肢

著者らは、前歯部開咬への対応の選択肢を7つ挙げています。患者さんごとに、単独でも、組み合わせても使える、という整理です。

原著が挙げた、7つの対応の選択肢 1 使い続ける 遅かれ早かれ、咬合がさらに乱れる可能性が高い(著者) 2 装置をやめるだけ 歯の動きは予測できない。自然に戻る可能性は低いと著者らは見る 3 矯正 複雑でミニインプラントが要ることも。安定性の難しさも指摘 4 足す(修復) コンポジットやセラミックで接触を作る。一生の修復維持を伴う 5 削る 咬合調整や抜歯。不可逆で、新たな変化を生みうる。説明と同意が要る 6 装置を作り替える 新しい装置の効果と効率は、予測しにくい 7 顎矯正手術 リスクが大きく、ほとんど常に矯正と併用 著者らの軸は「最小限の介入」。単独でも、組み合わせても使える 複雑な矯正や侵襲的な顎矯正手術は、ほかに手がないときの選択肢 原著の「対応の選択肢」の記述を筆者が図にまとめたもの。症例提示であり、効果の優劣を比べた研究ではない
原著の「対応の選択肢」の記述を筆者が図にまとめたもの。症例提示であり、選択肢の優劣を比べた研究ではない

どの選択肢にも、著者らは注意を添えています。たとえば、装置を使い続けると咬合がさらに乱れる可能性が高く、矯正は複雑で、ミニインプラントが要ることもあり、安定性の難しさも指摘されています。装置をやめるだけでは、ひとたび定着した開咬が自然に戻る可能性は低いと見ています(歯の動きは予測できない、とも書いています)。削る方法は不可逆で、新たな意図しない変化を生みうるため、系統的な診断的咬合調整と、十分な説明と同意が要るとされています。

著者らの考えは、複雑な矯正や侵襲的な顎矯正手術ではなく、最小限の介入で対応する方向です。顎矯正手術は、ほかに手がなく、とくに骨格性の原因があるときに考える選択肢と位置づけています。

③4つの症例:何が起きて、何をして、どうなったか

4症例の、起きたこと・対応・経過 症例1 54歳男性 上顎ソフトガード(自分で改造) 起きたこと:臼歯が挺出し、前歯が開咬 対応:使用をやめ、暫間冠の咬合を調整    4〜6週ごとに経過観察 経過:18か月後、開咬はほぼ解消 症例2 36歳男性 上顎の硬いアクリルのガード 起きたこと:前歯・犬歯の圧下が原因 対応:前歯部を除いた軟らかい上顎ガード    頻回の短い間隔の診察 経過:15か月後、前歯と臼歯が接触 症例3 42歳女性 下顎のタナー型装置 起きたこと:最後方の臼歯だけが接触 対応:診断用の上顎装置で症状を確認    数回に分けて咬合調整(計4回) 経過:1年後、症状の再発なし 症例4 26歳女性 下顎のハードリテーナー(矯正後) 起きたこと:親知らずが萌出し開咬 対応:使用中止、上顎の親知らずを抜歯    (英国に滞在できる期間が限られたため) 経過:5か月後、咬合が大きく改善 原著の4症例を筆者が図にまとめたもの。症例ごとに条件が違い、結果は一般化できない 症例4は矯正後のリテーナー、症例1〜3はナイトガード・スプリント(症例3は下顎のタナー型)
原著の4症例を筆者が図にまとめたもの。症例ごとに条件が違い、結果は一般化できない
症例1:54歳男性(自分で改造した上顎ソフトガード)
・摩耗予防に処方された上顎のソフトガードを、本人が改造。第二小臼歯までの長さになり、夜間のみの使用でも、当たらない臼歯が挺出した(接触していた下顎の歯の圧下も多少あった可能性がある、と原著)
・主訴は左上臼歯部の痛みで、第一・第二大臼歯に根管治療と全部被覆冠が必要。顎関節症の症状はなく、咀嚼のしにくさと見た目を気にしていた。矯正も抜歯も望まず、元の咬合に戻したいという希望
・対応:ガードの使用をやめた。長期の暫間冠で歯を安定させ、冠の咬合を調整して両側の同時接触を作ったが、開咬は減らなかった。症状がないため、4〜6週ごとの経過観察に同意
・経過:18か月後、前歯と小臼歯の大部分が対合歯と接触し、開咬はほぼ解消、前方ガイドも一部戻った。暫間冠はメタルボンドに置き換え、再度のガードは不要と判断
症例2:36歳男性(上顎の硬いアクリルのガード)
・重度の前歯の摩耗でクラウンを入れたが、上顎全顎のソフトガードでは眠りにくく中止し、数か月後に陶材の多発破折。再製クラウンのあと、上顎の硬いアクリルの前歯離開型ガードを夜間のみ使用していた
・18か月後、奥歯の不快感と、前歯が当たらないことを訴えた。日中の装着は強く否定。診査と模型から、上下の犬歯・切歯の圧下が原因で、小臼歯・大臼歯の挺出はほとんどないと判断
・希望:前歯の接触と誘導の回復。矯正も追加の修復も拒否で、治療中も夜間のガードは必要。ただし日中の装着は不可
・検討:ゲルブ型の下顎の硬い装置は、臼歯が思わぬ形で圧下し、結果が予測できないおそれがあった
・対応:ゲルブ型の変法で、軟らかい材質の上顎ナイトガード。前歯部は装置から外して萌出を許した。軟らかい素材が力を和らげ、対合歯の圧下を避けられるかもしれないと考えたが、根拠はなかった。頻回の短い間隔の診察に同意
・経過:15か月後、咬頭嵌合位で前歯と臼歯が接触し、グループファンクションでの前方ガイドが再確立。その後、歯ぎしりから歯を守るため、フルカバーのミシガン型スプリントを渡した
症例3:42歳女性(下顎のタナー型装置)
・若いころから歯ぎしりと前歯の摩耗。3年前から首の痛みと頭痛があり、下顎左側の親知らずを抜歯し、下顎のタナー型装置を夜間のみ使用。症状は初め消えたが、爪を噛み切れなくなり、頭痛が戻って装置をやめた
・診査では最後方の臼歯だけが接触。装置は前歯誘導と臼歯離開を欠き、むしろ臼歯が誘導して前歯が離開する設計で、推奨される設計の逆と原著は述べる。装置は第一大臼歯までしか覆わず、その後ろの歯(右側は第二・第三大臼歯、左側は第二大臼歯)は覆われないまま挺出していた
・矯正も顎矯正手術も望まず、足す修復では解決できないと判断(前歯が長くなりすぎて見た目を損なうため)。残ったのは削る方法で、まず診断用の上顎の硬い前歯離開型装置(夜間のみ)を使うと症状が軽くなり、咬合調整に進んだ
・同意の前に、不可逆な調整の不利益も説明された:上顎左側第一大臼歯のクラウンを作り替える可能性、知覚過敏が耐えがたければ下顎右側の親知らずの根管治療、場合により抜歯が要る可能性
・対応:模型で調整を試したうえで、実際は1回で終えず数回に分けて調整(計4回)。調整の合間にダール型の動きが起こる可能性を見込んだ
・経過:1年後、症状の再発なし。小臼歯・大臼歯・犬歯が均等に接触し、切歯はわずかに当たらない程度で、犬歯・小臼歯のガイドと臼歯離開が戻った。右側の親知らずは残した
症例4:26歳女性(矯正後の下顎のハードリテーナー)
・矯正治療のあと、下顎のみのハードリテーナーを渡された。第二大臼歯までを覆い、萌出してきた親知らずは覆わない設計
・11か月のあいだほぼ常時装着するうちに親知らずが咬合に入り、咬合を親知らずだけが支える状態に。全体的な不快感と、見た目の悪化を気にしていた
・リテーナーをやめて様子を見たが、10週のあいだに親知らずがさらに萌出し、垂直的な高さと開咬が増した。「奥歯でつっかえて口が開いたまま」の感じと、咀嚼の問題を訴えた
・矯正も外科も望まず、模型で親知らずを外してみる診断では、開咬は残ると予測された。それでも、顔の見た目が良くなる可能性などから親知らずの抜歯に同意。英国に滞在できる期間が限られたため、上顎の親知らずのみを抜歯した。歯がアンキローシスを起こしたかのように、抜くのは非常に難しかった
・経過:5か月後、咬合は劇的に改善。理由は推測にとどまると著者らは書き、同様の症例を抜歯で治療する根拠にはならないとしている。今後さらに改善する可能性があり、対合のない下顎の親知らずが挺出すれば、その抜歯が要るかもしれないとも見ている

④著者らが考察で述べたこと

4症例を踏まえて、著者らは次のような点を挙げています。

著者らの考察(原著に書かれていること)
・対応の方法は大部分が経験則。咬合の十分な知識と、確立した咬合治療の経験が役に立つ
・介入する理由は、痛みや不快感、咀嚼のしにくさ、進みうる見た目の変化。詳細な診査(模型を含む)のあと、経過観察を含む選択肢を体系的に検討し、患者さんに限界・リスク・結果の不確かさを説明して同意を得る
・原則は、問題を一つずつ治療すること。同時に進めると、合併症が出たときに原因の特定と管理が複雑になる(ただし歯髄・根管の痛みや続くTMDの痛みは、同時に対応が要る場面がある)
・症例3の振り返り:調整を1回の長時間で行うと、歯質を余計に削る可能性や、術後の知覚過敏のリスクが高まりうる。数回に分けることで、調整の合間に自然な動きが入りうる
・治療は数か月、ときに数年かかりうる。原著は、咬合が完全に再確立して安定するまで2年かかった矯正の症例を図21で示している
・予防が大切。装置が意図しない咬合の変化を起こさないよう処方し、患者さんには、定期チェックの必要性、自己改造のリスク、咬合のカバーを失った傷んだ装置のリスクを理解してもらう

⑤明日の臨床へ

著者らの結論と、考察の締め(原著に書かれていること)
・ナイトガード、スプリント、矯正のリテーナーによる意図しない咬合の変化、とくに前歯部開咬は、最小限の介入で対応できる場合がある
・確立された方法も、関連するエビデンスに基づくガイドラインもなく、対応は大部分が経験則で、結果は不確か
・複雑な矯正や侵襲的な顎矯正手術は、ほかに手がないとき、とくに骨格性の原因があるときの選択肢
・治療は長引くことがあり、変化を見るために頻回の診察が要る
・示した治療は、あくまで最小限の介入で対応する例として見てほしい、と著者らは強調している
ここからは筆者の読み(原著が述べたことではありません)
・装置を渡したあとの定期チェックを、予定に組み込む。「前歯が噛まない」「爪が切れない」といった訴えは、咬合が変わったサインかもしれない
・装置がどこまで歯を覆っているかを見る。症例1は第二小臼歯まで、症例3は一部の大臼歯を覆わず、症例4は萌出中の親知らずを覆っていなかった。覆われない歯が動く可能性を、装置を作る段階から意識したい
・削る・抜くの前に、段階を踏む。装置をやめる、診断用の装置を試す、不可逆な調整は数回に分ける。症例からは、そうした段階の踏み方が読み取れる。患者さんと相談しながら進めたい
・症例の見え方は一人ひとり違う。この記事の症例の対応を、そのまま他の患者さんに当てはめるものではない
ここだけ、冷静に補助線これは症例を示した臨床解説で、比較試験ではありません。4症例の経過を述べたもので、同じ対応が他の患者さんでも同じ結果になるとは言えず、エビデンスのレベルは高くありません。著者ら自身、対応は経験則で結果は不確かと述べています。
追跡は症例ごとに違い、症例4は5か月です。歯の動きは予測しにくいと著者らも書いており、症例1のように装置をやめたあとの変化が、治療の効果なのか歯の自然な動きなのかは、この報告からは分けられません。
原著は考察の終盤で、症例に顎関節症、顆頭の吸収、すぐ処置が要る歯や歯周の問題はなかったと書きますが、症例1では根管治療と冠が必要で、症例3では首の痛みと頭痛がありました。何をそれらに含めて読むかは、本文だけでは判断しにくい点です(筆者の読み)。また、図8・9の説明の患者のイニシャル(MH)が本文のBHと合わず、図21の症例が誰なのかは明記されていません。症例4の図19の説明は下顎の親知らずを外した模型としていますが、実際に抜いた上顎との関係は、本文からは読み取れません。
それでも、装置のあとの前歯部開咬という、書かれることの少ないテーマに、具体的な4つの道筋を示した貴重な報告です。「戻せる手から、少しずつ」という発想は、日々の装置の管理を見直すきっかけになります。

今日のひとこと

この解説が示したのは、ナイトガードやスプリント、矯正のリテーナーのあとに意図せず生じた前歯部開咬に、4症例では、装置をやめる、形を変える、咬合を少しずつ調整する、親知らずを抜く、といった比較的小さな介入で対応したという経験です。ただし著者らは、確立した方法はなく、対応は経験則で結果は不確かだと述べています。歯科が持ち帰れるのは、装置を渡したあとの定期チェックを組み込み、装置が覆っていない歯の動きも意識したいという姿勢です(ここは筆者の読みです)。症例提示であり、同じ対応が他の患者さんでも同じ結果になるとは言えません。

Bereznicki T, Barry E, Wilson NHF. Unintended changes to the occlusion following the provision of night guards. Part two: management. Br Dent J. 2019;226(9):649-656. doi:10.1038/s41415-019-0261-3. PMID: 31076690
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。