1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

慢性の痛みの心理療法、認知行動療法がいちばん?——高齢の退役軍人126人の試験。感情に向き合うEAETは治療直後に30%以上の痛み軽減が63%、CBTは17%(2024年)

1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

慢性痛の心理療法|60〜95歳・筋骨格系の慢性痛のある米国の退役軍人を、感情への気づきと表出の療法(EAET)と認知行動療法(CBT)の群に分け、治療直後と6か月後の痛みの強さを比べたランダム化比較試験(Yarns ほか 2024・JAMA Netw Open)。歯科・口腔顔面痛の患者を対象にした試験ではない

慢性の痛みの心理療法といえば、認知行動療法(CBT)が標準です。この試験は、米国の退役軍人病院で、3か月以上続く筋骨格系の痛みのある60〜95歳の126人(92%が男性)を、感情への気づきと表出の療法(EAET)の群とCBTの群に分けました。どちらも個別1回+グループ8回(各90分)です。主要評価項目の痛みの強さ(BPI・0〜10点)の変化の差は、治療直後 −1.59(P < .001)、6か月後 −1.01(P = .01)で、EAETが有意に大きく減りました。30%以上の痛み軽減を達成した人は、治療直後に63% 対 17%(リスク比 約3.7・本文の割合から計算。オッズ比は21.54で信頼区間が非常に広い)。ただし、対象は高齢・ほぼ男性の退役軍人の筋骨格系の痛みで、歯科・口腔顔面痛の患者さんで確かめた結果ではありません。

論文
Emotional Awareness and Expression Therapy vs Cognitive Behavioral Therapy for Chronic Pain in Older Veterans: A Randomized Clinical Trial
著者
Brandon C. Yarns, Nicholas J. Jackson, Alexander Alas, Rebecca J. Melrose, Mark A. Lumley, David L. Sultzer(米国退役軍人省グレーターロサンゼルス医療システム、UCLA、ウェイン州立大学ほか)
掲載
JAMA Network Open 2024;7(6):e2415842. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.15842
種類
ランダム化比較試験(2群・解析は割り付けた全員)。60〜95歳で3か月以上の筋骨格系の痛みがある退役軍人126人(EAET 66人、CBT 60人。92%が男性)。治療直後の評価完了111人(88%)、6か月後104人(82%)。対面・個別1回+グループ8回。歯科・口腔顔面痛の患者を対象とした試験ではない(痛みの部位に顎関節症が21人含まれるが、その解析は報告なし)
資金・利益相反
米国退役軍人省(VA)臨床科学研究開発部門のキャリア開発賞 IK2CX001884(Yarns博士)。資金提供者は計画・実施・解析・論文化に関与せず。開示:Yarns博士・Melrose博士・Sultzer博士は試験期間中にVAの助成を受けた。Lumley博士は米国国立看護研究所の助成(本試験とは別)、Cognifisenseからの個人謝礼、試験で使った療法の医療者向け研修とその謝礼を開示。Sultzer博士は製薬企業数社からの個人謝礼(本試験とは別)も開示。試験登録 NCT03918642
PMID
38869899

①慢性の痛みの心理療法、認知行動療法がいちばん?

慢性の痛みに対する心理的な治療といえば、認知行動療法(CBT)が標準的な選択肢です。ただ、著者らは背景で、CBTの効果は控えめで、痛みに加えて抑うつ・不安・PTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱えやすい退役軍人では、さらに効きにくくなるかもしれないと述べています。そこで比べられたのが、感情への気づきと表出の療法(EAET)です。

先に断っておきます。この試験は歯科の患者さんを対象にした試験ではなく、歯科・口腔顔面痛の患者さんで確かめた結果でもありません。対象は、米国の退役軍人病院に通う60〜95歳(平均71.9歳)・92%が男性の、3か月以上続く筋骨格系の痛み(96%が背部痛)の人たちです。口腔顔面痛や顎関節症で確かめた結果ではなく、慢性の痛みの心理療法についての知識として紹介します。

結論を先に書きます。
・退役軍人126人を、EAET(66人)とCBT(60人)にランダムに割り付けた。どちらも個別1回+グループ8回(各90分)
・主要評価項目の痛みの強さ(BPI・0〜10点)は、治療直後の変化の差が−1.59(95%CI −2.35〜−0.83、P < .001)、6か月後が−1.01(−1.78〜−0.24、P = .01)で、EAETのほうが大きく減った
・30%以上の痛み軽減を達成した人は、治療直後に63% 対 17%(EAET 対 CBT)=リスク比 約3.7(本文の割合から計算)
・著者らの結論は、EAETは医学的・精神科的に複雑な高齢の患者さんの「好ましい介入」かもしれないというもの

②今回の一手:「感情に向き合う療法」と「CBT」を同じ形式で比べる

試験は、米国退役軍人省のグレーターロサンゼルス医療システムで、2019年5月から2023年9月にかけて行われました(COVID-19のため2020年3月〜2021年2月は中断)。

試験の方法
・対象:退役軍人で、60〜95歳、3か月以上の筋骨格系の痛み(背部・脚・骨盤、頸部痛・むち打ち、顎関節症、線維筋痛症、緊張型頭痛、またはその組み合わせ)。がん・片頭痛・群発頭痛・画像で確認された股・膝の変形性関節症などによる痛み、コントロールされていない精神病や重い気分障害、重い物質使用障害、認知機能の低下(MMSE 24点以下)は除外
・EAETの群(66人)とCBTの群(60人)。1対1のコンピュータ割り付け。参加者は割り付けを最初の治療日に知るが、試験の仮説は知らされない
・治療:個別1回+小グループ8回(各90分・グループは平均6.3人)。EAETとCBTのグループは同時並行で運営。全て対面
・評価:開始時、治療直後(10週)、6か月後。自己記入式。主要評価項目は BPI の痛みの強さ(直近1週間の最悪・最小・平均・現在の痛みの4項目平均、0〜10点)
・解析:割り付けた126人全員を対象にした(intention-to-treat)

2つの療法の中身は、こうです。

EAETの群が受けたこと
・考え方:幼少期の逆境体験・トラウマ・被害体験などから生じた感情を適応的に処理できないと、痛みの処理に関わる脳の経路が変わり、痛みを起こす・悪化させることがある、というモデルの説明
・目標:痛みの背景にあるストレスやトラウマ関連の感情(悲しみ・恐れ・怒り・罪悪感など)を避けず、体で感じ、言葉にして表し、手放すこと
・個別の回で、感情を体で感じ、言葉にし、想像で海に流すといった練習を体験
・グループでは、痛みと感情についての心理教育、感情の処理、体験を打ち明けて認めてもらう場。宿題は、ストレスと症状のつながりの確認、表現的な筆記、感情の伝え方の練習
CBTの群が受けたこと
・考え方:慢性の痛みが、否定的な思考・感情・行動の悪循環を生み、それが痛みや生活機能をさらに悪くする、というモデルの説明
・目標:思考と行動の不適応なパターンを、新しい痛みへの対処スキルで置き換えること
・グループでは、漸進的筋弛緩、誘導イメージなどの対処スキルの心理教育と実践、宿題で日常へ応用(ワークシートで記録)
・退役軍人省のCBTマニュアルに、最小限の調整を加えて使用

どちらも「痛みに効く治療」として紹介され、書面のマニュアルがあり、話し合い・体験練習・宿題の量はそろえてありました。治療者は療法ごとに固定され、EAETは心理士1人・精神科医2人・精神科レジデント1人、CBTは心理士1人と老年精神科のポスドクレジデント3人が担当しました。

③参加した人:高齢・ほぼ男性・長く痛みを抱えた退役軍人

参加者の流れ(原著の図1と本文)
・声をかけた1,225人のうち175人が同意。126人をランダムに割り付け(49人は連絡が取れない31人・取りやめ12人・別の試験へ移った6人)
・治療直後の評価を終えたのは111人(88%)(EAET 57人/66人、CBT 54人/60人)
・6か月後の評価を終えたのは104人(82%)(EAET 54人、CBT 50人)
・解析は割り付けた126人全員(欠けた値はモデルで扱う)。本文は、評価が欠けた人と終えた人で開始時の特徴に有意な差はなかったと報告(補足表 eTable 2)
・グループ回の平均出席は、全員で8回のうち5.5回(個別の回は全員が出席)

開始時の特徴は、平均年齢71.9歳、92%が男性、55%が黒人またはアフリカ系アメリカ人(ヒスパニック系を除く)、31%が白人(同)。痛みの平均期間は23.3年、69%に精神科の診断があり、PTSDは37%、オピオイドの処方は11%でした。開始時のBPIの平均は、EAETの群 5.97、CBTの群 6.23。

歯科の読者に関わる点を1つ。痛みの部位(複数回答)に顎関節症が21人(17%)含まれていました(EAET 11人・CBT 10人)。ただし、顎関節症の人だけで解析した結果は、原著に載っていません。

④結果:痛みの強さも、30%以上減った人の割合もEAETが上

0 20% 40% 60% 80% 達成した人の割合(%・治療直後) 17.1% 7.4% 63.5% 35.7% CBT EAET 30%以上の痛み軽減 50%以上の痛み軽減 抜粋の規則:表2のモデル推定値、治療直後のみ。70%以上の軽減(12.8% 対 1.9%、P = .06)と6か月後の値は本文に記載。抄録は 63% 対 17%、35% 対 7%。リスク比は本文の割合から計算(約3.7、約5.0)。オッズ比は21.54、11.77で、信頼区間が非常に広い
30%以上・50%以上の痛み軽減を達成した人の割合(治療直後・原著の表2のモデル推定値)。抄録の記載は 63% 対 17%、35% 対 7%。リスク比は本文の割合から計算した
痛みが減った人の割合(EAET 対 CBT)
・30%以上の軽減(臨床的に意味のある目安):治療直後 63% 対 17%=リスク比 約3.7(63÷17、本文の割合から計算)。オッズ比は21.54(95%CI 4.66–99.56、P < .001)
・50%以上の軽減:治療直後 35% 対 7%=リスク比 約5.0(35÷7、本文の割合から計算。表の小数値 35.7 対 7.4 では約4.8)。オッズ比は11.77(2.38–58.25、P = .002)
・6か月後の30%以上の軽減:EAET 約40% 対 CBT 14%=リスク比 約2.8(表2の 40.3 対 14.2 から計算。本文には 41% とある)。オッズ比は7.24(1.74–30.06、P = .006)
・70%以上の軽減は、治療直後に 12.8% 対 1.9%(オッズ比 13.93、0.86–225.44、P = .06)で、有意な差とは言えなかった
0 1点 2点 3点 痛みの強さ BPI(0〜10点)の減少幅 0.60点 0.25点 2.18点 1.26点 CBT EAET 治療直後(10週) 6か月後 開始時からの変化量(表2:EAET −2.18/−1.26、CBT −0.60/−0.25)の符号を逆にして棒にした。CBTの6か月後は開始時からの変化が有意でない。2群の差は治療直後 −1.59、6か月後 −1.01。開始時の平均は EAET5.97、CBT 6.23
痛みの強さ(BPI)の、開始時からの減少幅(原著の表2。実際の値は −2.18 などの変化量で、図は符号を逆にして棒にした)
主要評価項目:BPIの痛みの強さ(0〜10点)の変化
・EAETの群:治療直後 −2.18(95%CI −3.00〜−1.37)、6か月後 −1.26(−1.83〜−0.68)
・CBTの群:治療直後 −0.60(−1.13〜−0.06)、6か月後 −0.25(−0.72〜0.23)。6か月後はCBTの群内の変化は有意でなかった
・2群の差(EAETの変化 − CBTの変化):治療直後 −1.59(−2.35〜−0.83、P < .001)、6か月後 −1.01(−1.78〜−0.24、P = .01)。差の符号がマイナスなのは、EAETのほうが痛みの点数がより大きく下がったことを表す
・著者らが検出力の計算に想定した差は −0.70 点

副次的・探索的な評価項目では、治療直後に不安(差 −2.49、P = .006)、抑うつ(−3.06、P = .03)、生活満足度(1.23、P = .005)、PTSD症状(−4.39、P = .03。途中から測定を始めたため99人分)、全般的な改善の印象(PGIC、1.46、P < .001)、全体の満足度でEAETが有意に良好でした。6か月後まで残った差は、抑うつ(−2.39、P = .02)とPGIC(1.24、P < .001)です。一方、痛みによる生活への支障・疲労・睡眠の乱れ、治療や治療者への満足度は、2群で有意な差がありませんでした。これらの項目について、本文に多重比較の調整の記載は見当たりません。

⑤なぜEAETで痛みが減ったのか:著者らの見方

著者らは考察で、慢性の痛みには2つの考え方があり、EAETは両方を取り入れていると述べています。どちらも著者らの解釈で、この試験が仕組みを確かめたわけではありません。

著者らが挙げた2つのモデル
・痛みの意味づけを変える:痛みが心理的な技法で大きく軽くなる、場合によっては消えるという見方を持ち、痛みについての信念を変える
・つらい感情を特定の方法で処理する:トラウマに関連する、避けてきた感情を処理する

開始時の抑うつ・不安・PTSD症状が中央値より高い人では、EAETでの痛みの減り方がCBTより大きかった(交互作用の推定値は抑うつ −1.55、不安 −1.53、PTSD症状 −1.69。副次的・事後的な解析で、PTSD症状は一部の参加者のみ)。

注意点として、EAETのほうが良かった理由が「感情への働きかけ」にあるのか、治療の見せ方・治療者の違い・グループの雰囲気にあるのかは、この試験では分けられません。

⑥明日の臨床へ

著者らの結論(原著に書かれていること)
・多様な人種・民族の高齢者の慢性の筋骨格系の痛みで、時間を区切ったグループ形式のEAETは、CBTより、痛みの強さ・不安・抑うつ・生活満足度・PTSD症状・全体の満足度・PGICの治療直後の改善が大きかった
・痛みの強さ・抑うつ・PGICの改善は、6か月後も多くの参加者で続いた
・EAETは医学的・精神科的に複雑な高齢の患者さんの「好ましい介入」かもしれない。慢性の痛みの診療に、EAETの考え方を取り入れる余地がある
ここからは筆者の読み(原著が述べたことではありません)
・歯科医院がEAETを行う話ではありません。慢性の痛みには、薬や処置のほかに、心理的な治療という選択肢があることを知っておく、という位置づけです
・慢性の痛みの患者さんを医科・心理職と連携して診る場面で、CBTだけではない選択肢があるという共通の知識になります
ここだけ、冷静に補助線著者ら自身が挙げた限界は5つです。高齢の退役軍人が対象で若い世代・退役軍人でない人に当てはまるとは限らない、ほぼ男性でPTSDの人が多い(その影響を検証する人数はない)、治療者の背景が2群で完全には同じではない、全て対面でオンラインでも同じかは不明、認知機能が低い人は除外されている。
筆者が補う点:オッズ比の読み方。30%以上の軽減は EAET の群で6割を超えるありふれたできごとで、このような場合オッズ比はリスク比(割合の比)より大きな数字になります。この記事では割合とリスク比を主役にしました。割合は混合効果モデルの推定値で信頼区間も広く(30%以上の軽減は EAET 63.5%[50.6〜76.4]、CBT 17.1%[6.8〜27.5])、実際の人数は本文にありません。この数字は「おおよその大きさ」として読んでください。
評価は自己記入式で、参加者は割り付けを知っていました(試験の仮説は知らされていない)。単一の医療システムでの試験で、追跡は6か月です。割合の信頼区間は広く、オッズ比21.54の信頼区間(4.66–99.56)は非常に広いため、数字そのものより「方向」を読むのが安全です。moderation(抑うつ・不安・PTSDの強さによる違い)は副次的な解析で、抄録の数値には不自然な点があります。抄録は抑うつの交互作用を「−1.55[95%CI −0.37〜2.73]、P < .001」と書いていますが、本文と図3は「−1.55[−2.73〜−0.37]、P = .01」で、この記事は本文の値を採りました。
資金・利益相反:試験は米国退役軍人省(VA)の臨床科学研究開発部門(CSR&D)のキャリア開発賞(Yarns博士)で行われ、資金提供者は試験の計画・実施・解析・論文化に関与していません。Yarns博士・Melrose博士・Sultzer博士は、試験期間中にVAの助成を受けたと開示しています。Lumley博士は、米国国立看護研究所の助成(本試験とは別)、Cognifisenseからの個人謝礼、および試験で使った療法の医療者向け研修とその謝礼を開示しています。Sultzer博士は、製薬企業数社からの個人謝礼(本試験とは別)も開示しています。試験はClinicalTrials.govに登録済み(NCT03918642)。
歯科・口腔顔面痛の患者さんで確かめた結果ではない点は、特に注意してください。
それでも、感情への気づきと表出の療法が、CBTと同じ形式で比べられ、痛みの軽減の大きさと割合で上回ったという、高齢者の慢性の痛みでは目を引く結果です。歯科の臨床にそのまま持ち込むものではなく、慢性の痛みを多面的に見る知識として持っておきたい1本です。

今日のひとこと

この試験が示したのは、高齢の退役軍人の慢性の筋骨格系の痛みで、感情への気づきと表出の療法(EAET)が、同じ形式のCBTより、痛みの強さと、30%以上痛みが減った人の割合で上回ったということです(63% 対 17%、リスク比 約3.7・本文の割合から計算。割合の信頼区間は広い)。歯科の臨床にそのまま持ち込む話ではなく、慢性の痛みには心理的な治療という選択肢があり、医科・心理職と連携する場面での共通の知識になるというのが筆者の読みです。歯科・口腔顔面痛の患者さんで確かめた結果ではなく、単一の医療システム・6か月の追跡・自己記入式の評価という限界があります。

Yarns BC, Jackson NJ, Alas A, Melrose RJ, Lumley MA, Sultzer DL. Emotional Awareness and Expression Therapy vs Cognitive Behavioral Therapy for Chronic Pain in Older Veterans: A Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2024;7(6):e2415842. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.15842. PMID: 38869899
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。