口腔顔面痛|加熱重合・自己重合・ミリング・3Dプリントのスプリント材料9種類を、二体摩耗試験とビッカース硬さで比べた in vitro の試験(Gibreel ほか 2022・Dent Mater J)
スプリントの材料は、加熱重合・自己重合・ミリング・3Dプリントと増えました。では、材料によってすり減りや硬さはどれだけ違うのでしょうか。この試験は、市販の9材料を、水の存在下・20N・15,000回の二体摩耗試験(相手材はステアタイトの球)とビッカース硬さで比べた実験室の試験です。摩耗が小さかったのは、加熱重合レジン・ミリングのPMMA(Cast)・自己重合レジンで、この3つの間に有意差はありませんでした。摩耗が大きかったのは、ミリングのポリカーボネートと、柔らかい3Dプリント材のうち2つです。硬さは、水中に30日保管するとKeySplint Soft以外の8材料で有意に低下しました。臨床の耐久性や症状への効果を調べた研究ではない点に注意してください。
①スプリントの材料、すり減りやすさは違う?
スプリントは顎関節症の治療でよく使われ、ブラキシズムから歯を守る目的でも処方されます。作り方も、加熱重合・自己重合・ミリング・3Dプリントと増えました。ただ、「作り方が違うと、すり減りや硬さはどれだけ違うのか」「柔らかい3Dプリント材はどうなのか」は、現場では見えにくい点です。
著者らは背景で、ブラキシズムの患者さんの最大咬合力が450〜650N(平均380N)と報告されていること、耐摩耗性や表面硬さが不足する材料では摩耗面ができ、咬合接触の安定が損なわれたり装置の寿命が縮んだりしうることを述べています。そこで、市販の9材料を同じ条件で比べました。
・スプリント材料9種類を二体摩耗試験とビッカース硬さで比較した(in vitro)
・摩耗が小さかったのは、加熱重合レジン(Paladon 65)、ミリングのPMMA(Cast)、自己重合レジン(Palapress)。この3つの間に有意差はなかった
・摩耗が大きかったのは、ミリングのポリカーボネート(Temp Premium Flexible Transpa)と、柔らかい3Dプリント材のうちV-Print splint comfort、IMPRIMO LC Splint flex。この3つの間にも有意差はなかった
・硬さは、PMMA系が乾燥で18.3〜20.4、柔らかい3Dプリント3材料は5.1〜5.5。水中に30日保管すると、KeySplint Soft以外の8材料で有意に低下した
・著者らの結論は、差は作り方よりも材料の組成によるところが大きい、というもの
②今回の一手:9材料を同じ条件で比べる
試験を行ったのは、フィンランド・トゥルク大学の生体材料科学の研究室です。
・従来法:Paladon 65(加熱重合レジン)、Palapress(自己重合レジン)
・ミリング:Cast、Aqua(いずれもPMMA)、Temp Premium Flexible Transpa(ポリカーボネート)
・3Dプリント(硬いタイプ):IMPRIMO LC Splint
・3Dプリント(柔らかいタイプ):IMPRIMO LC Splint flex、KeySplint Soft、V-Print splint comfort
・3Dプリント材は、層の厚さ100μm、造形台に対して90°の向きで出力。成分は製造元のデータシートにもとづく記載で、原著も「情報が限られ、成分から結果を説明しにくい」と述べている
・摩耗:各材料4個の試料(厚さ2mm×長さ10mm×幅15mm)。試料は37℃の水中に24時間保管したのち、チューイングシミュレーターで水の存在下、1.5Hz、荷重2kg(20N)、15,000回。相手材はステアタイトの球(直径6mm)。摩耗の深さは3D光学顕微鏡で測定
・硬さ:各材料16個の試料(4×10×10mm)。ビッカース硬さを、乾燥と水中30日保管(37℃)の両方で測定(荷重1.96N、15秒)
・統計:一元配置分散分析+Dunnett T3。乾燥と水中の比較は対応のないt検定。有意水準は0.05
ここは大事なところです。相手材は人の歯ではなくステアタイトの球で、回数も15,000回の短い試験です。夜間の使用が長く続いた状態をそのまま再現したものではありません(ここは筆者の読みです)。
③結果1:摩耗の深さ
・摩耗が小さい側:Paladon 65 27.5±2.4、Cast 30.5±2.8、Palapress 36.7±6.3。この3つの間に有意差はなかった(p>0.05)。Aqua(40±3.5)とKeySplint Soft(40.2±4.4)も摩耗が小さい側。AquaはPalapressと、KeySplint SoftはPalapress・Cast・Aquaと有意差がなかった。一方、AquaはPaladon 65・Castと、KeySplint SoftはPaladon 65と有意差があった
・中間:IMPRIMO LC Splint(硬い3Dプリント)58.4±6.1。柔らかい3Dプリントの2材料より有意に小さかった(p<0.05)
・摩耗が大きい側:Temp Premium Flexible Transpa 99.9±4、V-Print splint comfort 97.8±5.4、IMPRIMO LC Splint flex 93±5.8。この3つの間に有意差はなかった
・柔らかい3Dプリント材のうちKeySplint Softだけは、Palapress(p=0.991)、Cast(p=0.099)、Aqua(p=1.000)と有意差がなく、硬いIMPRIMO LC Splintより有意に小さかった(p=0.037)
記号を見ると、有意差がないのは「共通の記号を持つ材料どうし」だけです。たとえば、Aqua(b)はPaladon 65(a)やCast(ac)とは別の記号で、有意差がありました。値の大小だけで「この材料がいちばん」と並べるのではなく、有意差のない材料どうしは同じグループとして読むのが安全です。
SEM(走査型電子顕微鏡)の観察では、Paladon 65、Palapress、Aqua、Cast、IMPRIMO LC Splintの摩耗面は一様でした。一方、IMPRIMO LC Splint flex、V-Print splint comfort、KeySplint Softの摩耗面には、塑性変形(押されて変形した跡)が見られました。
④結果2:硬さと、水中保管の影響
・乾燥:Cast 20.4±0.6(ほかのPMMA系・IMPRIMO LC Splintより有意に高い)。Aqua 19.1±0.6、Paladon 65 18.5±0.5、Palapress 18.3±1.2、IMPRIMO LC Splint 17.9±0.8は有意差なし。Temp Premium Flexible Transpa 14.3±0.3。柔らかい3Dプリント3材料は5.1〜5.5(KeySplint Soft 5.3±0.2、IMPRIMO LC Splint flex 5.1±0.7、V-Print splint comfort 5.5±0.9)
・水中30日:Aqua 17.9±0.4、Cast 16.8±0.3、Paladon 65 16.4±0.2、Palapress 15.6±0.2、Temp Premium 13.7±0.2、IMPRIMO LC Splint 12.0±0.9、KeySplint Soft 5.3±0.2、IMPRIMO LC Splint flex 3.7±1.1、V-Print splint comfort 3.5±0.6
・乾燥と水中の差は、KeySplint Soft以外の8材料で有意(KeySplint Softはp=0.737)
・3Dプリント材の低下が目立った。IMPRIMO LC Splintは17.9から12.0、IMPRIMO LC Splint flexは5.1から3.7、V-Print splint comfortは5.5から3.5。原著は、3Dプリント材の低下を27.5〜36.4%と記載している(この3材料を表の値から筆者が計算すると、約33%・約27%・約36%)
摩耗の深さと乾燥時の硬さには、中等度の相関がありました(原著の表記は r²=−0.596、p<0.001。r²は負にならないので、相関係数rの意味と思われます)。硬いほど摩耗が小さい傾向はありますが、硬さだけで摩耗は決まらない、という程度の強さです(筆者の読み)。
⑤なぜ差が出たのか:著者らの見方
著者らは考察で、次の点を挙げています。結果の理由づけは、著者らの推測や既存研究にもとづく説明です。
・差は作り方だけでなく、材料の化学組成にもよる。PMMA系(従来法とミリング)は摩耗が小さかった
・ミリング用のブロックは、高密度で気泡の少ない均質な構造になる
・3Dプリントは、層の方向と力の方向の関係や、層どうしの接着の強さが性質に影響する。使われるアクリル系のモノマーは、二重結合の変換率が従来のアクリルより低い
・柔らかい3Dプリント材は、低い弾性率で伸びや弾性回復に優れる。一方、光造形で作った樹脂は水を吸いやすく、層の間の微小な空隙が機械的性質を下げる可能性があると、先行研究を引いて述べている
・ポリカーボネートは衝撃に強く柔軟だが、PMMA系より摩耗しやすく、表面硬さも低い(先行研究と一致)
⑥明日の臨床へ
・スプリントの摩耗と表面硬さは、作り方よりも材料の組成に左右される
・PMMA系の材料は、作り方にかかわらず、表面硬さと耐摩耗性が最も安定していた
・柔らかい3Dプリント材とミリングのポリカーボネートは、PMMA系より表面硬さが低かった
・KeySplint Softを除く、柔らかい3Dプリント材とミリングのポリカーボネートは摩耗が最も大きく、著者らはブラキシズムの患者さんや長期の治療での使用が限られる可能性があると書いている
・考察では、柔らかいスプリントは患者さんの耐容性の面で優れうる一方、硬いPMMA系は、耐摩耗性・硬さの面でブラキシズムや長期の治療に向くだろう、と述べている
・「作り方」ではなく「材料名と性質」で選ぶ。同じ3Dプリントでも材料ごとに違った。柔らかいタイプの2材料は硬いIMPRIMO LC Splintより摩耗が有意に大きく、KeySplint Softは逆に有意に小さかった
・目的によって見る点が変わる。ブラキシズムの保護が主目的か、柔らかさや装着感が主目的かで、摩耗・硬さの数字の意味が変わる
・水中保管で硬さが下がる材料があるので、ふだんの口腔内の環境に近い条件での数字も見たい
・この試験は、材料どうしの相対的な比較。「何か月もつ」という数字を出したものではない
著者ら自身が挙げる限界は、長期の水中保管後の摩耗試験をしていないこと、そして3Dプリントの出力方向と層の厚さの影響を調べていないことです。成分は製造元の情報が大まかで、結果を成分から説明しきれない点も、原著が述べています。
原著内の細かな表記のずれも見つかりました。抄録の「有意差なし」に「p<0.05」とあること、相関係数が「r²=−0.596」となっていること、そして柔らかい3Dプリントの3材料の水中硬さについて、本文は有意差なし(p>0.05)と書く一方、表の記号ではKeySplint Soft(f)とV-Print splint comfort(g)が別記号になっていることです。この記事では、数値は原著の表と図を優先しました。
資金提供・利益相反:原著の本文(全7ページ)に、資金提供や利益相反の記載は見当たりませんでした。製品名は原著の表記どおりに出していますが、特定の製品をすすめる意図はありません。
それでも、「作り方」より「材料の組成」が摩耗と硬さに効くことを、9材料を同条件で並べて示した1本です。材料選びの会話に、数字の裏づけを持ち込めます。
今日のひとこと
この試験が示したのは、実験室の条件で、スプリント材料の摩耗と硬さは「作り方」よりも「材料の組成」に左右されたということです。摩耗はPMMA系(加熱重合・自己重合・ミリング)で小さく、ミリングのポリカーボネートと、柔らかい3Dプリント材3つのうち2つ(KeySplint Softは例外)で大きくなりました。硬さも、水中保管で多くの材料が有意に下がっています。歯科が持ち帰れるのは、スプリントを「作り方」ではなく「材料の性質」で見ていくという視点です(ここは筆者の読みです)。相手材はステアタイトの球、15,000回の試験で、臨床での耐久性は、この試験からは言えません。


