口腔顔面痛|慢性の神経障害性疼痛の薬物治療について、ランダム化試験と系統的レビューを専門家会議で検討し、推奨を第1選択から第4選択までの段階にまとめたカナダ疼痛学会の改訂版コンセンサス声明(Moulin ほか 2014・Pain Research and Management)
問診票の服薬欄に「プレガバリン」「デュロキセチン」「アミトリプチリン」。うつや、てんかんの薬に見えて、神経の痛みのために出ていることがあります。この声明は、カナダ疼痛学会の専門家が、慢性の神経障害性疼痛(体の感覚を伝える神経系の病変や病気で起きる痛み)の薬物治療を第1選択から第4選択までの4段に整理した合意です。第1選択はガバペンチノイド・三環系抗うつ薬(TCA)・SNRI、第2選択はトラマドールと徐放性オピオイド、第3選択はカンナビノイド、第4選択はメサドン、SSRI、効果の根拠が弱めの抗けいれん薬、タペンタドール、ボツリヌス毒素など。推奨の入口は「プラセボか適切な対照に対して有意な効果を示した、方法のしっかりしたランダム化試験が少なくとも1本あること」でした。一方で、三叉神経痛と舌咽神経痛の試験は、この合意の検討から外されています。歯科が処方を判断するための記事ではなく、医科と話すときの共通言語として読んでいきます。
①服薬リストのその薬、何の痛みの薬?
初診の問診票。服薬欄に「プレガバリン」「デュロキセチン」「アミトリプチリン」と書いてあります。
抗けいれん薬や抗うつ薬の名前です。でも患者さんに聞くと「足のしびれと痛みで」「帯状疱疹のあとが痛くて」と返ってくることがあります。
こうした薬が、どんな順番で、どんな根拠で選ばれるのか。その一例として、カナダ疼痛学会がまとめた改訂版コンセンサス声明(2014年)を読みます。専門家が集まって合意した推奨で、個別の研究論文ではありません。
・慢性の神経障害性疼痛の薬物治療を、第1選択から第4選択までの4段にまとめた
・第1選択はガバペンチノイド(ガバペンチン・プレガバリン)、三環系抗うつ薬(TCA)、SNRI。単独でも、組み合わせても使う
・第2選択はトラマドールと徐放性オピオイド(中等度〜重度の痛みに)、第3選択はカンナビノイド
・第4選択はメサドン、SSRI、効果の根拠が弱めの抗けいれん薬(ラモトリギン・ラコサミドなど)、タペンタドール、ボツリヌス毒素など
・推奨の入口は、プラセボか適切な対照に対して有意な効果を示した、方法のしっかりしたランダム化試験(class I か class II)が少なくとも1本あること
・三叉神経痛と舌咽神経痛の試験は検討から外されている。この4段は、三叉神経痛の治療の順番ではない
この記事は、歯科で処方を判断するためのものではありません。医科と話すときの共通言語として、合意の中身を読んでいきます。
②なぜ、改めて合意が必要だったのか
原著は、神経障害性疼痛を「体性感覚系の病変や病気によって起きる痛み」と定義し直したうえで話を始めます。末梢の神経でも、中枢の神経でも、その両方でも起こり得ます。
頻度について、以前の推計は先進国の人口の2〜3%でした。質問票を使った新しい調査では4〜8%と、より高く見積もられています。カナダでは約200万人にあたる、と著者らは書いています。高齢化や肥満の増加で、帯状疱疹後神経痛や糖尿病の痛みを伴う神経障害が増えることも見込まれています。
カナダ疼痛学会は2007年に最初の指針を出していました。その後、系統的レビューやメタ解析が大量に出たこと、そして地域の診療が根拠に沿った推奨どおりになっていないという報告があったことから、改訂に踏み切っています。
対象読者として挙げられているのは、医師、ナースプラクティショナー、そのほか神経障害性疼痛の管理に関わる医療職です。
③合意した「推奨の階段」
合意の中心は、原著の図1にある段階的なアルゴリズムです。
・第1選択:ガバペンチノイド、TCA、SNRI。単独でも組み合わせでも使う。TCAが効かない・使えないときは、ガバペンチノイドかSNRI(デュロキセチンなど)を考える。どちらかで部分的にしか効かなければ、もう一方を足すのは理にかなう
・第2選択:第1選択が効かない・不十分なときに、トラマドールか通常のオピオイド。徐放性オピオイドが第2選択なのは、副作用が多く、乱用・依存のリスクがあって慎重な処方と見守りが要るため
・第3選択:カンナビノイド。効果の根拠が増えたことで今回この段に上がった。ただし見守りが必要で、精神病の既往がある人には禁忌、多くは高価
・第4選択:メサドン、タペンタドール、SSRI(鎮痛効果は弱いとされる)、根拠が弱めの抗けいれん薬(ラコサミド・ラモトリギン・トピラマート)など。図の脚注にはボツリヌス毒素と外用リドカインも挙がる
・部分的だが不十分な効果なら、薬を順に足すことを考える。ただし足す併用療法を支えるランダム化試験の根拠は限られる
効果が乏しいとされたものも書かれています。SSRIのうちフルオキセチンは、痛みを伴う神経障害で効果が示されませんでした。低濃度のカプサイシン外用は、プラセボのクリームに比べて効果が最小限、と小規模な古い研究をもとに書かれています。一方、高濃度(8%)のカプサイシンは、帯状疱疹後神経痛4本とHIV神経障害2本の試験のすべてで、1回の塗布から最長12週まで対照より有意に良い結果でした(NNTは帯状疱疹後神経痛で8〜10、HIV神経障害で約6.2)。
2007年版からの主な変更もあります。デュロキセチンは第2選択から第1選択へ格上げされました(抗がん剤による痛みを伴う神経障害での効果が示されたため)。外用リドカインは、効果の根拠が食い違うため第4選択へ下がりました。ただし帯状疱疹後神経痛に限っては第2選択のままです。
抄録の結論は、治療は効果・副作用・薬の入手しやすさ(費用を含む)をもとに、患者さんごとに個別化するとしています。
中枢性の神経障害性疼痛は、質の高い研究が少なく結果も食い違うため、段階的な方法を示しにくいとされています。そのうえで、脊髄損傷の痛みではガバペンチノイドとカンナビノイドを、脳卒中後の痛みではTCAとラモトリギンを第1選択として考えるのは理にかなう、と書かれています。
もう1つ、薬の段より大事かもしれない記載があります。
・多くの場合、主な目標は痛みをなくすことではなく「耐えられる」程度にすること。現実的な目標を立てると、患者さんの満足度が大きく変わり得る
・治療者は患者さんの痛みを認めて、信頼を得る
・不安やうつなどの併存症、睡眠・生活機能・生活の質も治療の目標に含める
・理学療法、運動、心理的な治療などの薬以外の治療は、成績を高めるのに欠かせない
④根拠:何があれば、どの段に入るのか
コンセンサス声明は「偉い先生の意見」と思われがちです。この声明は、段を決める基準を先に書いています。
・推奨の入口:プラセボか適切な対照に対して有意な効果を示した、方法のしっかりしたランダム化試験(class I か class II)が少なくとも1本あること
・第1選択:質の高い効果の根拠(class I の試験1本以上か、結果のそろった class II の試験2本以上=推奨グレードB以上)があり、2種類以上の神経障害性疼痛で良い結果が出ていて、処方と見守りが容易で、十分に耐えられること
・第2・第3選択:質の高い根拠はあるが、より専門的な経過観察と見守りが要ること
・第4選択:良い結果のランダム化試験が少なくとも1本あるが、さらに研究が必要なこと
・除外した試験:対照のない研究、患者が10人に満たない研究、がんによる神経障害性疼痛(ただし乳房切除後などのはっきり定義された手術後の痛みと、抗がん剤による痛みは対象に残した)、三叉神経痛・舌咽神経痛(それぞれ固有の内科的・外科的治療があるため)
著者ら自身が限界も書いています。耐えやすさと使いやすさの格付けは、著者らの合意だけに基づく、という点です。効果は試験で、使いやすさは専門家の判断で決めた、という組み立てです。
試験どうしの効果の大きさを比べる目安として、原著はNNT(プラセボなどに比べて、痛みが50%以上楽になる人を1人増やすのに何人の治療が要るか)を他の論文から引いています。
・TCA:糖尿病の痛みを伴う神経障害 2.1、帯状疱疹後神経痛 2.8
・ガバペンチン:痛みを伴う多発神経障害 6.4、帯状疱疹後神経痛 4.3
・プレガバリン:糖尿病の痛みを伴う神経障害 4.5、帯状疱疹後神経痛 4.2
・デュロキセチン:糖尿病の痛みを伴う神経障害 5.0
・第2選択以降の値も原著にある(例:オピオイド 2.6、SSRI 6.8、ラコサミド 10〜12は別の文献から)
ここは筆者の読みです。NNTだけで段が決まるわけではありません。たとえばオピオイド(2.6)はNNTが小さくても第2選択、カンナビノイド(中枢性の痛みで3.4)は第3選択です。原著は、NNTには試験デザインのばらつきや、多くの試験が短期間であるという限界があると断っています。段の順番は、効果だけでなく副作用と使いやすさを合わせて決められています。
⑤口腔顔面の痛みについて、原著は何と書いているか
歯科にとっていちばん気になるところです。原著の記載を、あるものだけ拾います。
・三叉神経痛と舌咽神経痛の試験は、この合意の検討から除外。それぞれ固有の内科的・外科的治療があるため
・カルバマゼピンは、特発性三叉神経痛の第1の選択薬のまま、ただしそれ以外の神経障害性疼痛には推奨しない、と書かれている(他の文献 Zakrzewska 2010 を引用)。表1の備考欄にも、特発性三叉神経痛の第1の選択薬との記載がある。舌咽神経痛にも役立つかもしれないが、根拠は経験談の段階とされる
・ラモトリギンは三叉神経痛の試験で良い結果の報告があるが、例数が少ない傾向で、脱落も多かった
・副作用欄:TCA・デュロキセチン・ナビロンに口の渇き
・備考欄:口腔粘膜スプレーのカンナビノイドは、使った部位(口腔粘膜)を観察する
病名で除外された口腔顔面の痛みは三叉神経痛と舌咽神経痛だけで、外傷後や手術後の神経障害性疼痛は検討に含まれています。ただし、非定型歯痛、抜歯や根管治療のあとに続く神経の痛み、灼熱口腔症候群といった口腔顔面の病態は、原著には出てきません。この4段がそうした痛みにそのまま当てはまるかどうかは、この声明からは言えません。
ここは筆者の読みです。三叉神経痛の試験は検討から外されているので、カルバマゼピンの記述は、この合意が試験を検討して決めた推奨ではなく、他の文献を引いた位置づけと読むのが自然です。
⑥明日の臨床へ:処方ではなく、同じ言葉で話す
・服薬リストで、カナダの合意ではどの段にあたる薬かを見る。第1選択の薬だけなのか、オピオイドまで上がっているのかは、治療がどこまで進んでいるかの手がかりになる
・口の渇きを予想する。TCAやデュロキセチンを飲んでいる患者さんでは、う蝕や義歯の不調を、口の渇きと結びつけて考えるきっかけになる
・紹介状に「神経障害性疼痛を疑う」と書く意味。この合意のような段階的な考え方で治療が組み立てられる領域だと知っていれば、歯の所見で説明できない痛みを、次の処置ではなく医科・口腔顔面痛の専門家へつなぐときの言葉になる
・三叉神経痛は別の枠と知っておく。この4段の話と、三叉神経痛の治療の話を混ぜない
・「多くの場合、ゼロではなく耐えられる程度に」という目標の立て方は、歯科で長引く痛みの患者さんと話すときにも使える
・カナダの合意なので、国によって承認されている薬や保険の扱いは違う点も踏まえて読む
著者ら自身が、薬どうしを直接比べた試験、併用療法、長期の成績、小児・高齢者・中枢性の神経障害性疼痛の治療について、さらに研究が必要だと書いています。
また、著者の多くが製薬企業から研究費・講演料・相談料を受けたと開示しています(会議の費用は学会の分科会)。カナダの2014年時点の合意で、国によって承認薬や保険の扱いは違います(ここは筆者の補足です)。
それでも、神経障害性疼痛の薬をどんな順番と根拠で選ぶかを、1枚の階段で見せてくれる声明です。服薬リストを読むときの地図として、手元に置いておきたい1本です。
今日のひとこと
この声明が合意したのは、慢性の神経障害性疼痛の薬は、ガバペンチノイド・三環系抗うつ薬・SNRIを第1選択とし、効かなければトラマドール・オピオイド、カンナビノイド、第4選択の薬へと段階を上がるという順番です。目標は多くの場合、痛みをゼロにすることではなく「耐えられる」程度にすることで、運動療法や心理的な治療も欠かせないとしています。薬どうしを直接比べた試験、長期の成績、小児・高齢者・中枢性の痛みは、今後の課題として残されました。歯科が持ち帰れるのは、服薬リストの薬が、この合意ではどの段の薬かを知り、医科と同じ言葉で話せること。なお三叉神経痛の試験はこの合意の検討から外されていて、原著は他の文献を引いて、特発性三叉神経痛の第1の選択薬をカルバマゼピンと書いています。


