エンド×口腔顔面痛|根管治療・再治療・外科的歯内療法のあと、6か月以上続く歯の痛み(原因を問わない)の頻度を、26研究から統合した系統的レビューとメタ解析(Nixdorf ほか 2010・J Endod)
根管治療の成功は、長くX線写真の透過像で判定されてきました。でも患者さんにとって大事なのは「まだ痛いかどうか」です。この論文は、根管治療のあと6か月以上続く歯の痛みを、原因を問わずに数えた研究を集めて統合しました。770本の文献から選んだ26研究・追跡できた2,996歯で、持続する痛みの頻度は5.3%(95%信頼区間 3.5〜7.2%)。ただし研究間のばらつきは大きく(I²=80%)、報告の質が高い研究では8.3%、前向き研究では7.6%と、7%を超えていました。著者らは、この数字は実際の頻度の下限に近いとみています。
①根管治療のあと、痛みが残る歯はどれくらい?
根管治療が終わって半年。X線写真では根尖の透過像も小さくなってきた。なのに患者さんは「まだ噛むと痛い」「ずっと重い感じがする」と言う。エンドをしていれば、一度は出会う場面です。
では、こうした治療のあとも続く痛みは、どれくらいの頻度で起きているのか。「たまにある」とは感じていても、数字で答えられる人は多くないはずです。著者らの知る限り、この論文が出た2010年まで、持続する痛みの頻度を主な成果として文献をまとめた研究はありませんでした。
この論文は、根管治療のあと6か月以上続く歯の痛みを報告した研究を世界中から集め、1つの数字に統合した系統的レビューとメタ解析です(米国・ミネソタ大学ほか)。
・26研究・追跡できた2,996歯を統合すると、6か月以上続く歯の痛み(原因を問わない)は5.3%(95%信頼区間 3.5〜7.2%)
・研究間のばらつきは大きかった(I²=80%)。報告の質が高い研究では8.3%、低い研究では1.4%。前向き研究は7.6%、後ろ向き研究は0.9%
・初回治療と再治療、追跡6〜12か月と12か月超の間には、大きな差がなかった
・著者らは、5%前後という数字は実際の頻度の下限に近いとみている
②成功は「X線」で測られてきた
根管治療の成績は、長いあいだX線写真の根尖部の透過像で判定されてきました。この基準だと、1年以上たった時点の良好な成績は68〜91%と報告されています。
ところが著者らは、ここに問題があると指摘します。根尖の透過像は患者さん自身には感じ取れない「代わりの指標(サロゲートアウトカム)」です。患者さんが本当に気にしているのは、痛いかどうか、噛めるかどうか。代わりの指標だけで判断すると、ときに必要のない処置につながることもある、と著者らは書いています。
著者らが挙げる本来の成果は、歯が残ること、痛みが無いこと、噛めること、患者さんの満足、生活の質。なかでも痛みは、歯を失う理由や受診を続ける理由の大きな部分を占めます。それなのに、治療のあと半年以上続く痛みがどれくらいあるのかは、はっきりしていませんでした。
治療後6か月以上の痛みには、見落とした根管、不十分な根管充填、歯冠側の封鎖の破綻、歯の破折、隣の歯の痛み、歯以外の部位からの関連痛、神経の損傷による痛みなど、さまざまな原因が考えられます。そこでこの研究は、原因を区別せず「痛みがあるかどうか」だけを数える(all-cause pain)という立場を取りました。どんな原因であれ、患者さんにとっては同じ「痛み」だからです。
③今回の一手:770本から26研究を選び、痛みだけを数えて統合
検索は2009年6月5日まで。MEDLINE(PubMed)、Cochrane Library、TRIP、Google Scholarに加えて、主要な論文・総説・教科書の引用文献を手作業でもたどりました。言語は問わず、英語以外の論文は、その言語を話せる人に読み上げてもらって判定しています。
・評価:治療から6か月以上たった時点の歯の痛み。自発痛でも、咬合・触診・打診で出る痛みでもよい。患者さんと術者のどちらが報告しても「痛みあり」
・研究の種類:コホート研究と臨床試験(ランダム化比較試験は、群を合わせて1つのコホートとして扱った)。症例報告・横断研究・症例対照研究は除外
・選別:訓練した2人が独立に判定(一致度 κ=0.79)。意見が割れたら別の2人が裁定
・統合:ランダム効果モデル。研究の報告の質は、観察研究の報告指針STROBEの22項目で点数化し、中央値で上下に分けた
集まった770本のうち、条件を満たしたのは26本。登録された歯は5,777本、そのうち6か月以上追跡できた2,996本が解析の対象です。26本のうち14本は手作業の検索で見つかったもので、英語以外(フランス語・中国語)の論文も2本含まれています。
④結果:統合すると5.3%、ただし研究の質で大きく変わる
追跡できた2,996歯のうち、痛みがあったのは168歯(単純計算で5.6%)。研究ごとの重みを考えて統合した頻度は5.3%(95%信頼区間 3.5〜7.2%)でした。1研究ずつ除いて計算し直しても4.5〜5.8%の範囲に収まり、特定の研究に引っぱられた数字ではありません。
ただし、研究間のばらつき(異質性)はI²=80%と大きく、26本のうち5本は「痛みの残った歯はゼロ」と報告していました。そこで著者らは、研究の性格ごとに分けて計算し直しています。
いちばん大きく影響したのは研究の報告の質でした。STROBEの点数が上位半分の研究では8.3%、下位半分では1.4%。研究デザインでも、前向き研究は7.6%、後ろ向き研究は0.9%と大きく分かれました(前向きかどうかと報告の質は強く相関していました)。
つまり、きちんと計画して追いかけた研究ほど、痛みの残る歯は多く見つかる。26本のうち、痛みを主要評価項目にして設計された研究は1本だけで、その研究では21%でした。
一方、初回治療(6.0%)と再治療(6.6%)、追跡6〜12か月(6.5%)と12か月超(5.1%)、追跡率50%未満(6.2%)と50%以上(5.0%)の間には、大きな差がありませんでした。著者らは追跡期間の結果について、最初の1年に残っている痛みは、その後何年も続きうることを示していると読んでいます。
外科的歯内療法は1.2%と低く出ましたが、「より侵襲の大きい処置ほど痛みが残る」という予想とは逆でした。著者らは、後ろ向きの研究デザイン、少人数の研究、出版バイアスで説明できるかもしれないとし、ばらつきが大きいなかでの分割解析なので結論は慎重にと書いています。
⑤なぜ「質の高い研究ほど多い」のか
質の高い研究ほど成績が悪く見える、というのは意外に感じるかもしれません。その理由を、著者らはいくつか挙げています。
1つめは研究デザイン。前向きに計画された研究のほうが、知りたい結果を正確に見積もれると考えられています。あらかじめ決めた時点で痛みを確かめる前向き研究に比べ、過去の記録をさかのぼる後ろ向き研究では痛みが拾われにくい、ということでしょう(この一文は筆者の補足です)。
2つめは何を主な目的にした研究か。副作用のような副次的な所見より、主な評価項目のほうが正確に見積もれるとされます。26研究のうち、痛みを主要評価項目にした研究は1本だけでした。ついでに記録された痛みは少なく見積もられやすく、その1本が21%と高かったのもその表れと読めます(この2文は筆者の読みです)。
3つめは追跡から外れた人。26研究の追跡からの脱落は平均48%でした。治療後に問題を抱えた患者さんほど、同じ歯科医院に戻ってこない傾向があることが知られています(ただしこの解析では、追跡率50%未満の研究で6.2%〔95%信頼区間 2.4〜9.9%〕、50%以上の研究で5.0%〔2.7〜7.4%〕と、大きな差は出ていません)。さらに、追跡中に抜歯された歯の痛みを報告していない研究もあり、痛みが理由で抜かれた歯が数えられていない可能性があります。
そして、質の高い研究ほど頻度が高く出たことから、著者らは5%前後という数字は実際の頻度の下限を示している可能性が高いと結論しています。論文では、米国で年間1,640万件以上の根管治療が行われている(1999年の米国歯科医師会の調査)ことから、毎年およそ87.5万人が持続する痛みを経験しているという試算も示しています(著者らによる推計です)。
なお、この研究は痛みの原因を区別していません。同じ研究グループは別の論文で、こうした持続痛のうち歯以外に原因がある痛みがどれくらいかを調べています(別記事で解説)。
⑥明日の臨床へ
この研究は、痛みが残る頻度を数字で示したもので、どうすれば防げるかを確かめたものではありません。そのうえで、筆者の読みとして持ち帰れそうなことを挙げます。
・成功を「X線」だけで判定しない。経過観察では、根尖の透過像に加えて、自発痛・咬合痛・打診痛・触診での痛みを毎回確かめて記録する
・最初の1年に残る痛みを軽く見ない。6〜12か月と12か月超で頻度に大きな差がなく、著者らはその痛みが何年も続きうると読んでいる
・痛みが続くとき、原因を歯だけに絞らない。この研究の「痛み」には、見落とした根管や破折のような歯の問題も、歯以外の原因による痛みも含まれうる。再治療を重ねる前に、どちらなのかを見立てる
⑦ここだけ、冷静に補助線
数えた単位は「歯」で、1人の患者さんの複数の歯が含まれることがあります(ただし患者数と歯数の差は1.2%と小さい)。対象の研究は大学や専門施設で行われたものが中心で、一般の歯科医院にそのまま当てはまるかは分かりません。追跡からの脱落も平均48%と多く、抜歯された歯の扱いも研究によって違います。
また、この研究は痛みの原因や、どんな人に痛みが残りやすいか(危険因子)は調べていません。著者らも、危険因子の解明を今後の課題に挙げています(ここは本記事の補足です。術前の痛みなど、個別の危険因子についての結論はこの論文からは出せません)。
それでも、「根管治療のあと痛みが残るのは稀」という感覚に、26研究を統合した数字で答えた1本です。X線だけでなく痛みを成果として数える。その視点を持つための土台になる論文です。
今日のひとこと
この研究が示したのは、根管治療のあと半年以上痛みが残る歯は、統合すると5.3%=およそ20本に1本ということです。しかも、報告の質が高い研究や前向きの研究ほど頻度は高く、7%を超えました。著者らは、これでも実際の頻度の下限に近いとみています。歯科が持ち帰れるのは、「痛みが残ることがある」を治療前に伝え、治療後はX線だけでなく痛みそのものを経過で確かめること。そして痛みが続くときは、歯以外の原因も視野に入れることです。


