1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

根管治療後、咬むと痛いのにX線では説明がつかない——根尖が骨の窓(骨窓)から突き出て、はみ出した充填材が粘膜骨膜を刺激していた1例(2000年の症例報告)

1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

口腔顔面痛|根管治療のあと4か月も咬合痛と根尖部の圧痛が続いた45歳女性。デンタルX線の所見は「根尖を越えた充填材」だけだったが、CTで上顎左側第一大臼歯・遠心頬側根の骨窓(fenestration)が確認された。根尖切除で根を皮質骨の内側へ収めたところ、1か月で痛みが消え、1年後も再発しなかった(Boucher 2000・J Endod・パリ大学歯学部/ハーバード大学歯学部)

根管治療は問題なく終わったはずなのに、咬むと痛い・根尖部を押すと痛いが何か月も続く。デンタルX線を撮っても、根尖を少し越えた充填材が見えるだけで、透過像も破折線もない。そんなときに思い出したい原因が骨窓(apical fenestration=根尖部の皮質骨の欠損)です。この症例報告の患者さんは45歳の女性で、補綴の前処置として受けた根管治療のあと4か月痛みが続いていました。CTで遠心頬側根の骨窓が確認され、全層弁を翻転して根尖を切除し、根を皮質骨の内側に収める処置を行ったところ、術後1か月で痛みが消え、1年後も再発していません。著者らが強調するのは、骨窓そのものは痛みの原因ではないという点です。根管治療を受けていない歯は、根尖が骨に覆われていなくても無症状だからです。ただし1例の症例報告であり、因果関係を証明できる研究デザインではありません。

論文
Persistent pain related to root canal filling and apical fenestration: a case report
著者
Yves Boucher, Morton Sobel, Gabriel Sauveur(Boucher・Sauveur=パリ大学歯学部/Sobel=ハーバード大学歯学部 保存科)
掲載
Journal of Endodontics 2000;26(4):242-244. doi:10.1097/00004770-200004000-00013
種類
症例報告(1例)。45歳女性(ASA 1)。補綴の前処置として受けた上顎左側第一大臼歯の根管治療のあと、咀嚼時痛と根尖部の圧痛が4か月続いた(原著の「tooth 14」は、上顎左側臼歯部の痛み・14番と15番に仮歯・遠心頬側根という記述から、米国式番号の上顎左側第一大臼歯と読める)。口腔外診査は異常なし、咬合の問題もなし。頬側の根尖相当部に圧痛と粘膜のわずかな発赤、ガッタパーチャを思わせる着色。口蓋側には硬い隆起(外骨症)。デンタルX線では根尖を越えた充填材のみで、ほかに目立つ病変なし。CT(当時の表記は tomodensitometry)で遠心頬側根の骨窓と口蓋側外骨症を確認。全層弁を翻転 → 根尖切除 → 根を皮質骨の内側に収める → 骨窓に面した線維性組織を除去 → 縫合。術後はパラセタモール1gを1日3回2日間、以後は頓用
PMID
11199728

①根管治療は問題なく終わった。なのに「咬むと痛い」が消えない

補綴の前処置として根管治療をした。根管充填の出来もまずまず。ところが患者さんは「咬むと痛い」「そこを押すと痛い」と言い続ける。仮歯を作り直しても変わらない。デンタルX線を撮っても、根尖をほんの少し越えた充填材が見えるだけで、透過像も破折線も見当たらない。

こういうとき、頭の中の鑑別リストは「診断の誤り」「感染の残存」「材料への炎症反応」「根破折」「非歯原性の痛み」あたりで埋まります。今日の論文は、そこにもう1つの引き出しを足してくれる2000年の症例報告です。

結論を先に言います。著者らが下した診断は「骨窓(apical fenestration=根尖部の皮質骨にもともとある限局した欠損)に関連した痛み」でした。そこから根尖を切除して根を皮質骨の内側に収めたところ、術後1か月で痛みが消え、1年後も再発していません。

なぜ痛むのか。著者らは考察で、根尖からわずかにはみ出した充填材が、歯が動くたびに根尖の上の粘膜(骨窓の部分は骨ではなく骨膜と歯肉=粘膜骨膜に覆われている)を刺激するという機序を述べています。これは考察での説明であり、1例で証明されたことではありません。

②根管治療後の持続痛は、どこまでが「わかる痛み」か

著者らはまず、根管治療後の術後痛の主な原因を挙げます。

・診断の誤りで、そもそも適応でない治療をしてしまった
・感染や充填材に対する炎症反応
・根尖病変の発生・残存
・歯根破折

これらの一部は、介入してもしなくても比較的早く消えていきます。問題は、その後の検査(X線を含む)で明らかな原因が見つからないのに痛みが続くケースです。著者らはその例としてクラックトゥースやファントムトゥースペイン(非定型歯痛)を挙げます。そのうえで、根管治療後の持続痛の原因としてはずっと頻度が低いものとして骨窓を取り上げます。

骨窓は、歯根を覆う皮質骨に生じた限局性の欠損のこと。その部分の根は、骨ではなく骨膜と歯肉だけに覆われています。ふだんは無症状ですが、根管治療をきっかけに痛みを出すことがある——これがこの論文のテーマです。

③症例:4か月続いた咬合痛と、口蓋の「硬いふくらみ」

・患者:45歳女性、全身的に健康(ASA 1)
・主訴:上顎左側の臼歯部に限局した痛み。咀嚼時と根尖部の触診で痛む
・経過:補綴の前処置として受けた根管治療のあとに痛みが出現。かかりつけで仮歯を作り直したが改善せず、最終補綴に進めないまま4か月が経過して受診
・口腔外:異常なし。筋の圧痛もなし
・口腔内:咬合の問題なし。頬側の遠心頬側根に相当する部位に圧痛。その部の粘膜は周囲よりやや発赤し、ガッタパーチャを思わせるわずかな着色が透けていた。歯周組織に明らかな問題はなし
・口蓋側:小さく硬い領域を触知(口蓋の外骨症)

デンタルX線(原著Fig.1)では、根尖を越えて充填材が出ていることのほかに目立つ病変はありませんでした。遠心根のあたりに丸い不透過像も写っていて、これが口蓋の外骨症でした。

ここで臨床的に生々しいのは、患者さんがこの外骨症に強く動揺したことです。説明しても「悪性腫瘍ではないか」という考えから離れられず、それが痛みの原因だと思い込んでしまいました。著者らがCT(原著の表記は tomodensitometry)を撮ったのは、診断の確認と、患者さんを安心させるための両方が目的だったと明記されています。

CT(原著Fig.2・Fig.3)では、上顎左側第一大臼歯・遠心頬側根の骨窓と、口蓋側の外骨症がはっきり描出されました。診断は「骨窓に関連した痛み」。治療方針は根尖切除と、根を皮質骨の内側へ戻すことに決まりました。

※ 原著の「tooth 14」は、上顎左側臼歯部の痛み・14番と15番に仮歯・遠心頬側根という記述から、米国式(Universal)番号の上顎左側第一大臼歯と読めます。FDIの14番(上顎右側第一小臼歯)ではありません。

④結果:外科処置のあと1か月で痛みが消え、1年後も再発なし

症例の経過(45歳女性・上顎左側第一大臼歯)

全層弁を翻転 → 根尖切除 → 根を皮質骨の内側へ収める 外科処置

痛みが続いた4か月 痛みなし

根管治療 (補綴の前処置)

術後1週 広い範囲の違和感 術前とは別の質

術後2週 軽減し抜糸

術後1か月 痛みが消失

術後1年 再発なし

受診前の4か月:咀嚼時痛と根尖部の圧痛。仮歯を作り直しても変わらなかった。 デンタルX線は根尖を越えた充填材のみ。CTで遠心頬側根の骨窓を確認。 1例の症例報告。この患者1人の経過(Boucher 2000)。

症例の経過(原著の記述をもとに作図)。1例の症例報告なので、これはこの患者さん1人の経過

手術の内容はシンプルです。全層弁を翻転して根を露出すると、骨窓が実際に存在し、ガッタパーチャが見えていました。根尖を切除して根を短くし、皮質骨の内側に収まるようにします。骨窓に面した粘膜側にあった小さな線維性組織も除去し、弁を戻して縫合。術後はパラセタモール1gを1日3回2日間、以後は頓用としました。

・術後1週:その部位に広い範囲の違和感。ただし術前の痛みとは質が違うもの
・術後2週:痛みが軽減し、抜糸
・術後1か月:痛みが消失
・術後1年(原著Fig.4):痛みは再発していない。口蓋の外骨症は丸い不透過像として引き続き写っている

4か月ものあいだ最終補綴に進めなかった痛みが、1か月で消えたという経過です。

⑤なぜ痛むのか——「骨窓が犯人」ではない、という著者らの整理

根管治療する前 骨窓があっても無症状

皮質骨

粘膜(骨膜と歯肉)

骨窓(fenestration) 根尖が骨から出ていても、痛みは出ない

根管治療

根管治療のあと 咬むたびに痛い・押すと痛い

根管充填材

皮質骨

はみ出した充填材が粘膜を刺激する 咀嚼で歯が動くたびに刺激が加わる

著者らの見立て 痛みの原因は骨の欠損そのものではない。根管治療を受けていない歯は、 根尖が骨に覆われていなくても無症状だから。 根尖からわずかでも充填材がはみ出すと、歯が動くたびに根尖の上の粘膜を刺激する。 自発痛はまれで、咀嚼時や触診で痛む。(Boucher 2000・考察より)

著者らが述べる仕組みの概念図(原著の考察をもとに作図)。骨窓そのものではなく、はみ出した充填材と歯の動きが痛みを生むという見立て

ここがこの論文でいちばん臨床家の役に立つところです。著者らははっきり書いています。痛みの原因は骨の欠損そのものではないと。理由は単純で、根管治療を受けていない歯は、根尖が骨に覆われていなくても無症状だからです。

ところが根管治療をすると、痛みが出ることがある。そこから著者らはこう考えます。根尖からわずかでも充填材がはみ出していれば、歯が動くたびに、根尖の上をおおう粘膜がさらに刺激される——と。

・自発痛はまれ。痛みは主に咀嚼運動のときと触診のときに感じられる
・患者さんが気になる部位を指でこすって悪化させてしまうことも多い
・つまり症状の出方は「歯髄・根尖病変の痛み」というより、その部位を機械的に押されたときの痛みに近い

なお、この現象を最初に記載したのは Spasser と Wendt(1973年)で、その後 Patterson、Weine と Bustamante も痛みの原因として言及している、と著者らは整理しています。

⑥骨窓はどのくらいある? どこに多い?

では、骨窓はどのくらいあるのでしょうか。著者らが複数の研究から引いている7.5〜20%という頻度は、骨窓と裂開を合わせた「歯根を覆う骨の欠損」全体の数字で、骨窓だけの割合ではない点に注意がいります。対象とする歯の種類によっても変わります。

・歯根を覆う骨の欠損には、限局性の「骨窓(fenestration)」と広範囲の「裂開(dehiscence)」がある
・発生はほぼ頬側に限られる
・全体では下顎のほうが上顎より多く、前歯のほうが臼歯より多い。ただし骨窓だけに絞ると上顎のほうが多い(裂開が下顎前歯に集中しているため)
・両側に生じる。年齢や歯の位置異常は素因になりうる。強い咬合力や、根尖が皮質骨に接しやすい歯の形態も悪化要因になりうる
・骨窓が最も多いのは上顎第一大臼歯の近心頬側根と犬歯

興味深いのは、この症例は「最も多い」とされる近心頬側根ではなく、遠心頬側根だった点です。頻度の高い部位を知っておくのは有用ですが、そこだけを見ればよいわけではないということでもあります。

⑦明日の臨床へ

この症例報告を、そのまま手術の推奨として読むのは行きすぎです。ただ、診査の引き出しとしてなら、今日から使えるものが3つあります。

・触診で「点」を探す。根管治療後の痛みで、咬合痛と根尖相当部の頬側の圧痛が一致するなら、根尖と粘膜の関係を疑う余地がある
・粘膜の色を見る。この症例では、周囲よりやや発赤していて、ガッタパーチャを思わせる着色が透けていた。痛む側の粘膜をよく見るだけで拾える所見
・「わずかなオーバー」を軽く見ない。X線で「少し出ているだけ」でも、そこが骨窓の上なら、粘膜を直接突いている可能性がある

治療は、著者らによれば弁を翻転して診断を確定し、余剰の充填材を除去して、根を骨の中に収まる形に整えること。そうすれば骨は自ら修復しうるし、痛みは消えるとしています。

そしてもう1つ、画像診断の使い方についての一言が現代的です。著者らは、この症例ではCTが診断の確認に役立った一方で、CTは必須ではなく、費用と被曝の点から禁忌になりうる、臨床診査と通常のX線撮影で痛みの由来は判断できるとはっきり書いています。CBCTが身近になった今だからこそ、「撮る前に、触診と視診で何を確かめたか」を問い直させてくれる部分です。

この症例でCTを選んだ理由の半分が患者さんの不安(外骨症を悪性腫瘍と思い込んでいた)だったことも、記録として率直で、読んでいて考えさせられます。

⑧ここだけ、冷静に補助線

これは2000年に発表された、1例の症例報告です。対照も比較もないので、「根尖切除をしたから治った」と因果を証明できる研究デザインではありません。4か月続いた痛みが自然に軽快した可能性や、手術そのものへの期待・安心感(プラセボ効果)が混ざっている可能性は、この1例からは切り離せません。
数字の読み方にも注意がいります。本文で挙げた7.5〜20%は骨窓と裂開を合わせた骨の欠損の頻度で、骨窓だけの割合ではありません。出典も原著が挙げる古い文献(1960年代以降の研究と教科書)で、しかも歯・部位ごとの頻度です。「自分の患者さんの何%」と読み替えられる数字ではありません。「骨窓がある歯の何%が根管治療後に痛くなるか」も、この論文からはわかりません。
ここからは筆者の読みです。この報告の価値は、治療法の推奨ではなく「咬合痛と限局した圧痛が残り、X線で説明がつかない」ときに思い出す鑑別を1つ増やしてくれることにあります。逆に言えば、骨窓が見つかったからといって、それを痛みの原因と決めつけるのも早い——原著自身が「骨窓はふだん無症状である」と書いているのですから。非歯原性歯痛や持続性歯槽部痛(PDAP)との鑑別を飛ばさず、所見が症状と一致するかをていねいに確かめたいところです。

今日のひとこと

根管治療後に咬合痛と根尖部の圧痛だけが残り、X線で説明がつかないとき、鑑別に骨窓(根尖部の皮質骨の欠損)を1つ加えておく価値があります。著者らの見立てでは、痛みの犯人は骨窓そのものではなく、根尖からわずかにはみ出した充填材です。根管治療を受けていない歯は、根尖が骨に覆われていなくても無症状だからです。この症例では根尖切除で根を皮質骨の内側へ収めた結果、1か月で痛みが消え1年後も再発なしでした。CTは診断の確認に役立ちましたが、著者らは「必須ではなく、臨床診査と通常のX線で痛みの由来は判断できる」と明記しています。ただし1例の症例報告である以上、持ち帰るのは「治療法が確立した」ではなく「原因不明の根管治療後痛で、触診の一点と頬側の粘膜所見を確かめる引き出しを1つ増やす」という視点です。

Boucher Y, Sobel M, Sauveur G. Persistent pain related to root canal filling and apical fenestration: a case report. J Endod. 2000;26(4):242-244. doi:10.1097/00004770-200004000-00013. PMID: 11199728
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。