1問1答 論文 エンド

歯髄は反応する。それでも歯頸部に吸収?——侵襲性歯頸部吸収の見分け方と治療の選択肢

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エンド|歯頸部の吸収を見分け、治療を選ぶ。Asgary・Dianatによる2024年のナラティブレビュー

歯頸部に透過像があっても、歯髄の感覚検査は反応する。侵襲性歯頸部吸収(ICRR)では、そんな組み合わせが起こりうる。歯頸部の病変、歯髄の状態、根尖周囲の所見を分けて診ることが出発点だ。この総説は、根面う蝕・内部吸収との鑑別から治療選択までを整理する。進行して歯髄に及べば歯髄炎や根尖性歯周炎を伴う場合もある。歯髄温存療法も病変の除去・修復と組み合わせうる。少数例を根拠に著者らが重視するこの方法を、根拠の強さも確かめながら読む。

論文
Invasive Cervical Root Resorption: A Comprehensive Review on Pathogenesis, Diagnosis, and Treatment
著者
Saeed Asgary, Omid Dianat
掲載
Iran Endod J 2024;19(1):2-12. doi:10.22037/iej.v19i1.44246
種類
ナラティブレビュー(原著の表記はReview Article)。既存文献と症例図による病態・診断・治療の整理。新規の比較試験ではなく、検索・選定方法や研究の質評価は記載されていない。VPTの根拠にはAsgaryらの先行症例シリーズ(6人、平均追跡19.6か月)を引用している。
PMID
38223835

①歯髄は反応する。それでも歯頸部に吸収?

歯頸部に気になる透過像がある。けれど痛みはなく、歯髄の感覚検査には反応する。「根管の問題ではなさそう」で、そこで考えるのを止めてよいだろうか。

侵襲性歯頸部吸収(ICRR)は、歯頸部の外側から歯の硬組織が失われていく病変だ。歯髄が反応しても、吸収は否定できない。この総説は、歯髄の状態と吸収の広がりを分けて捉える手掛かりを整理している。

今回の問い: 歯頸部の吸収を見分け、治療を選ぶ。その出発点は、歯頸部・歯髄・根尖を分けて診ることだ。

②根尖の病気と決める前に、歯頸部を見る

原著が鑑別に挙げるのは、根面う蝕と内部吸収だ。ICRRはう蝕のように見えることがあり、エックス線像では内部吸収と取り違えることもある。しかも典型像がいつもそろうわけではない。無症状で、定期診査や撮影時に偶然見つかることもある。

一方で、進行して歯髄に及べば歯髄炎や根尖性歯周炎の症状を伴うことがある。つまり、「根尖病変に似た影」だけを探す話ではない。歯頸部に別の病変があり、それに歯髄や根尖の問題が重なる場合を見分ける話だ。

外傷、矯正治療、歯の漂白などは、原著が挙げる関与の候補である。ただし原因は確定していない。既往歴は手掛かりになるが、「矯正が原因だった」と決める根拠にはならない。

③診断と治療を整理したナラティブレビュー

AsgaryとDianatによる2024年の総説は、病態、診断、治療を既存文献と症例図で整理したものだ。患者を治療群に割り付けた比較試験ではなく、文献検索・選定の方法や質評価を示したシステマティックレビューでもない。

したがって、「この治療で何%よくなるか」を新たに確かめた論文としては読まない。病変の除去・修復と歯髄の処置の組み合わせを整理し、著者らが重視する歯髄温存療法については、根拠の強さも確かめながら読む。治療法の優劣を直接比較した研究ではない。

④見た目・触れた感じ・歯髄の反応を重ねる

臨床で拾う所見は、歯頸部の小さな欠損、ピンク色の変化、プロービング時の出血だ。ピンク色は、薄くなったエナメル質を通して血管に富む肉芽組織が見えるため、と原著は説明する。ただし臼歯部では見つけにくいこともある。

  • う蝕との違いは、触れたときの硬さが手掛かり。原著は、う蝕の軟らかさに対してICRRの硬さを挙げている。視診に加えて、やさしいプロービングで確認する。
  • 歯髄が反応しても、吸収は否定できない。原著では、根管への穿孔と歯髄壊死が起こるまでは、感覚検査で反応を示すと記述されている。
  • 進行して歯髄に及べば、歯髄炎や根尖性歯周炎の症状を伴うことがある。痛みの診断に加えて、歯頸部の欠損の正体も評価する。
つまり: 歯髄の反応と、歯の外側にある吸収病変は、別々に確認したい項目である。

⑤画像では、広がりと根管との距離を見る

ICRRの透過像は、境界が明瞭なものから不整なものまで幅がある。原著は、病変と根管との間に細いエックス線不透過性の線が見られることを説明している。内部吸収との鑑別には、撮影角度を変えて病変の位置関係を見る。CBCTも鑑別を助ける。

従来のHeithersay分類は深さ・広がりを分類する。原著が紹介する三次元分類では、歯冠から根尖への広がり・周方向への広がり・根管への近さを評価する。単に「歯頸部に影がある」から、どこまで広がり、歯髄とどれだけ近いかへ、問いを具体的にする。

CBCTは重なりを避け、複数の断面で吸収の広がりや硬組織の沈着を確認する手段として位置づけられている。ただし、CBCTは撮影の必要性と被曝を考えて使う。原著も撮影の正当化とALARAの原則を求めている。

⑥吸収があっても、歯髄が保たれる理由

原著の説明では、根管の周囲には、吸収へ抵抗する層(PRRS)がある。この層は、病変が進んでも根管内への穿孔を防ぐ役割を持つ。これが、外側で吸収が進んでも歯髄の反応が残りうる理由だ。ただし進行例では、この層があっても根管に穿孔することがある。

もう一つ、吸収と修復は同じ歯の別の場所で並行して起こりうる。原著には、骨様組織が吸収腔に入り込む修復期の記述もある。「吸収」と名が付けば、どこでも同じように進み続けるわけではない。

治療の土台として原著が紹介するのは、吸収組織を除去し、欠損を修復する方法だ。歯頸部から到達できれば外側から修復する。非外科的に届かなければ歯周外科で視野を確保する。歯髄の関与や、内側から病変へ到達する必要がある場合には、根管治療も選択肢になる。

ここで取り上げるのは、著者らが重視する歯髄温存療法(VPT)だ。VPTも病変の除去・修復と組み合わせうる。原著の図5には、外側からの修復とVPTを併用した例がある。病変へ到達するために必要な範囲で歯髄を除去し、残る歯髄をMTAやCEMセメントなどで覆い、吸収腔を封鎖する方法を紹介している。

根拠として原著が引くのは、Asgaryらの2019年の症例シリーズ:6人、平均追跡19.6か月。総説の記載では、治療歯の機能が保たれ、痛みや新たな吸収活動は認められなかった。これは今回の総説の新規成績ではなく、著者自身も参加した先行報告の紹介である。

さらに著者らは、到達しにくい吸収病変の一部が残っても、適切な封鎖で良好に経過する可能性を紹介している。

なお、原著の図10は、根管治療と外科処置を受けた歯で、残存病変があっても2年後の経過が良好だった例である。

ただし、少数例の報告を、確立した標準治療とは扱わない。病変を残す方針や、VPTが他の治療より優れることを、この総説が比較検証したわけではない。

⑦明日の臨床へ

この研究が確かめたこと、と言える新たな比較試験の結果はない。総説が示すのは、診査所見と病変の広がり、歯髄の状態を合わせて治療を考える枠組みだ。ここから先は筆者の臨床的な読みとして、その内容を診査の順に並べる。

  • 歯頸部・歯髄・根尖を分けて診る。歯頸部の視診・プロービング、歯髄の感覚検査、画像所見を突き合わせる。歯髄炎や根尖性歯周炎があっても、それだけで病変の説明を終えない。
  • 治療は、広がり・進行・歯髄の状態で選ぶ。病変への到達のしやすさや外科処置の必要性と、根管治療・VPTなどの歯髄の処置を組み合わせて検討する。原著は、通常の位置で処置しにくい病変への意図的再植や、保存困難例での抜歯も挙げている。
  • 経過観察は、進行が停止し修復期にあると評価した病変で検討し、継続して監視する。原著の図4では、歯髄への関与がなく根尖周囲組織も正常で、修復期にある停止病変と評価された症例を追跡している。「痛くないから観察」とは条件が違う。
  • 根拠の違いも含めて患者に説明する。VPTも病変の除去・修復と組み合わせうることを伝え、著者らがこの方法を重視する姿勢と、少数例を中心とする根拠の強さを分けて説明する。処置後は再発や歯の機能を追う。
ここだけ、冷静に補助線
本論文はナラティブレビューで、検索・選定方法や研究の質評価は示されていない。著者ら自身も、ICRRの診断・治療を対象とするランダム化比較試験の不足を挙げている。VPTの根拠として紹介された症例シリーズは6人で、治療間の優劣を決める材料にはならない。また、治療成績の段落で「症例報告・症例シリーズを集めたレビュー」に付された引用番号は、参考文献欄では別の内容の論文を指している。治療の一律な成功率よりも、診断の手掛かりと、どの条件で治療を選ぶかを読む総説として役立てたい。

今日のひとこと

歯髄が反応しても、歯頸部の吸収は否定できない。歯頸部・歯髄・根尖を分けて診て、吸収の広がりと歯髄の状態から治療を選ぶ。VPTは病変の除去・修復と組み合わせうる歯髄の処置として著者らが重視しているが、少数例の報告を確立した標準治療とは扱わない。

Asgary S, Dianat O. Invasive Cervical Root Resorption: A Comprehensive Review on Pathogenesis, Diagnosis, and Treatment. Iran Endod J. 2024;19(1):2-12. PMID: 38223835. doi:10.22037/iej.v19i1.44246.
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。