エンド|根尖病変に似た悪性病変の報告例を集めたシステマティックレビュー(Schuch 2021)
根尖の透過像に痛みが重なると、歯髄由来の病変を考えたくなる。Schuchらは、歯内病変と診断された悪性病変を49論文・60例集め、臨床・画像・病理の特徴を整理した。転移性病変、唾液腺系の悪性腫瘍、肉腫、リンパ腫など、診断は幅広い。悪性でも、いかにも悪性らしい症状や画像とは限らない。ただし症例報告・症例集積が中心で、根尖病変全体の何%が悪性かは分からない。
①根尖の影。本当に歯が原因?
根尖に透過像があり、痛みもある。歯髄由来の病変をまず考える場面だ。けれど、歯内病変らしく見えた悪性病変は、どんな姿で診療室に現れていたのか。
Schuchらの2021年の論文は、歯内病変と診断された悪性病変60例を集めたレビューだ。転移性病変からリンパ腫まで、診断は幅広かった。著者らのメッセージは、悪性病変でも、いかにも悪性らしい臨床像や画像を示すとは限らない、ということだ。
②症状も画像も、歯内病変に似る
著者らは、歯髄壊死に由来する根尖病変が、顎骨でよく遭遇する透過像だと説明している。そこに痛みや腫脹が重なれば、歯内病変と考えたくなる。
しかし、根尖部には歯髄の状態と関係しない病変も現れる。原著が示す問題は、悪性病変にも、歯内病変に似た症状や画像があることだ。「根尖にある」という位置だけでは、病変の由来は決まらない。
③49論文・60例のシステマティックレビュー
2020年3月にPubMed/MEDLINE・Web of Science・Scopusを検索し、参考文献もたどった。対象は、臨床的に根尖病変と診断された悪性病変。診断を確認できる画像と組織の情報を条件とし、49論文から60例を集め、特徴を記述的に整理した。
症例報告・症例集積が中心。後ろ向き研究は3論文。Table 3には病歴や治療後の状態の記載が不十分な報告もあり、Table 4では後ろ向き研究の交絡因子への対応が不明と評価されている。条件をそろえた診断精度の比較試験ではない。
Vieiraらの2020年の生検研究は、組み入れられた後ろ向き研究の一つだ。今回読むのは、その研究も含めて悪性病変の報告例を集めた別の論文である。生検研究の集計と、この60例の集計は混ぜない。
④集まった悪性病変は、一種類ではない
最も多く報告されていたのは転移性病変で、次が唾液腺系の悪性腫瘍だった。ここでいう「癌腫」は、ほかの群から独立した原著の集計名である。すべての癌をこの群だけにまとめた、という意味ではない。
根尖部の影に似ていても、背景の疾患はさまざまだった。著者らも、悪性病変の種類によって治療も予後も大きく異なると述べている。
⑤症状がある例も、ない例もあった
症状なし
症状のある例が多かった。ただし、これは何らかの症状の有無であり、「痛みがあった割合」ではない。転移性病変についての考察では、著者らは集めた報告の多くに、圧痛を伴う骨性腫脹、痛み、知覚異常があったと述べている。
一方で、症状のない悪性病変も含まれていた。症状の有無だけでは、悪性病変を見分けられない。痛みがあるから歯内病変、痛くないから悪性ではない、という振り分けには使えない。
⑥悪性らしい画像とは限らない
それぞれの所見の記載がある症例では、画像は透過像、単房性、境界不明瞭が多く、皮質骨の破壊や歯の動揺、歯根吸収も報告された。ただし、境界明瞭な悪性病変も含まれていた。原著の表どうしで画像所見の集計に食い違いがあるため、ここでは画像所見の割合を断定しない。
なぜ紛らわしいのか。原著は癌腫の考察で、痛みや腫脹、骨の変化などが、二次感染を伴う顎骨嚢胞にも共通すると説明している。異なる病気でも、似た所見で現れうるのだ。
⑦明日の臨床へ
この研究が確かめたことは、歯内病変と診断されていた悪性病変に、多様な病理診断と、重なり合う臨床・画像所見があったこと。ここから先は筆者の臨床的な読みであり、診断精度や転帰の改善を確かめた手順ではない。
- 根尖の位置だけで、歯髄由来と決めない。歯髄の状態と、画像・症状の説明がつながるかを見直したい。
- 知覚異常や歯の動揺、骨の変化も拾う。原著で報告された所見を、歯内病変という見立てを再検討するきっかけにする。悪性を確定するチェックリストではない。
- 説明が合わなければ、鑑別を広げる。原著が指摘する病理診断の重要性を踏まえ、必要に応じて専門診療への相談や組織診断を検討する、という読み方だ。
著者らは、悪性らしい見た目を示さないために病理組織検査が依頼されず、診断の見落としにつながる可能性を挙げている。「いつもの根尖病変」に見えることを、考えるのを止める理由にしない。
症例報告・症例集積を中心とするレビューで、項目ごとに情報のある症例数が違う。公表された悪性病変を集めた集計なので、根尖病変全体の何%が悪性かは分からない。著者らも報告漏れ・診断の見落としの可能性を挙げている。各所見の診断精度や、紹介・生検の判断基準を確立した研究ではない。
原著の不整合も残る。病理診断はTable 1の見出しが59例、各行の合計と本文は60例。画像では、透過像がTable 1で45例、Table 2の合計で44例、境界不明瞭がTable 1で25例、Table 2の合計で24例となる。リンパ腫についても、本文は全11例を透過像・単房性・境界不明瞭とするが、Table 2はそれぞれ9例・9例・8例である。数値を補正せず、図は一致を確認できた症例数を用いた。この論文は頻度を覚えるためより、鑑別の候補を広げるために役立つ。
今日のひとこと
根尖病変らしく見えても、悪性病変の可能性は残る。報告例の症状や画像は鑑別を広げる手掛かりになるが、悪性の頻度や診断基準を示した研究ではない。


