エンド|歯質を残すために小さく開けるアクセス窩洞(コントラクテッド・キャビティ)は、根管の「形成」だけでなく「消毒」にも影響するのか。楕円形の根管をもつ下顎前歯の抜去歯で、小さいアクセスと従来型アクセスを、細菌の減り方とマイクロCTの形成範囲の両面から比べた実験研究(Vieira 2020・Journal of Endodontics)
歯の破折を防ぐために、アクセス窩洞を小さくして歯質を残す考え方(ミニマルインベイシブ・エンドドンティクス)が広がっています。では、小さく開けても根管の中の細菌は同じように減らせるのか。著者らは楕円形の根管をもつ下顎前歯の抜去歯をマイクロCTで形の似たペアに分け、小さいアクセス群と従来型アクセス群にしました。根管にEnterococcus faecalisを30日間培養して感染させ、両群ともXP-endo Shaperと2.5%次亜塩素酸ナトリウムの同じ手順で形成しています。結果、形成後に菌が検出された歯は小さいアクセス群25/29本(86%)、従来型群14/28本(50%)で有意差あり(P<.01)。形成後に残った菌の数も従来型群のほうが82%少なく(P<.01)、一方でマイクロCTで見た「削れていない壁」の割合には差がありませんでした。ただし両群とも菌は形成前から98〜99%減っており、抜去歯での実験で、治癒や予後そのものは測っていません。
①小さく開けたアクセス、根管の中まで消毒できている?
「歯質はできるだけ残したい」。破折を防ぐために、アクセス窩洞を小さく開けるやり方を意識している先生も多いと思います。
では、入口を小さくしても、根管の中の細菌は同じように減らせるのか。この研究は、楕円形の根管をもつ下顎前歯の抜去歯で、小さいアクセス(コントラクテッド・キャビティ)と従来型のアクセスを比べ、「形成」と「消毒」を別々に測りました。
結論を先に言います。形成後に菌が検出された歯は、小さいアクセス群86%、従来型群50%(P<.01)。一方でマイクロCTで見た「削れていない壁」の割合には差がありませんでした。形成の見た目は同じでも、消毒の効き方には差が出た——という結果です。ただし抜去歯での実験で、治癒そのものは測っていません。
②なぜ「消毒」を調べる必要があったのか
根尖性歯周炎は、根管に住みついた細菌が起こす炎症です。だから根管治療の成否は感染をどこまで抑えられるかにかかっています。従来のアクセス窩洞は、すべての根管口を見つけ、器具をまっすぐ入れ、レッジや器具破折を防ぐために、十分な大きさで開けるものとされてきました。
そこに登場したのがミニマルインベイシブ・エンドドンティクスの考え方です。アクセスを小さくして歯質を残し、治療後の歯を長持ちさせようというもの。ただ著者らによると、小さいアクセスが破折しにくさや形成に与える影響は研究ごとに結果が割れており、抜去歯研究のシステマティックレビューでも、破折抵抗性を高める根拠は無いとされていました。
③今回の一手:同じファイル・同じ洗浄で、入口の大きさだけ変える
・小さいアクセス:マイクロCTで計画し、切縁寄りに小さな円形で開けて基底結節部の歯質を残す
・従来型アクセス:従来の指針どおりの大きさ・外形で開ける
・感染:根管にEnterococcus faecalisを30日間培養して住みつかせ、根尖孔は封鎖
・形成:両群ともXP-endo Shaperで同じ手順。洗浄は1本あたり2.5%次亜塩素酸ナトリウム 10mL+17%EDTA 5mL
・測ったもの:形成前後にペーパーポイントで採取し、定量PCR(qPCR)で菌数を測定。マイクロCTで形成前後を重ねて削れた範囲を測定
XP-endo Shaperは、体温で蛇のように波打つ形になり、根管の形に合わせて壁に触れるタイプのファイルです。楕円形の根管を無理に丸くしなくてよいファイルで、著者らは考察で、歯質を削りすぎない治療に向く可能性を挙げています。形成はすべて、マイクロCTの画像を見ていない同じ1人の熟練した術者が行っています。オートクレーブで割れた2本と、無菌確認で陽性が出た1本を除き、小さいアクセス群29本・従来型群28本で解析しました。
④結果①:形成後に菌が残った歯は86%対50%
形成前の試料は全例でE. faecalisが陽性、菌数にも群間差はありませんでした。形成後に菌が検出された歯は、小さいアクセス群25/29本(86%)、従来型群14/28本(50%)で、有意差あり(P<.01)。言い換えると、菌が検出されなくなった歯は小さいアクセス群で4本(14%)、従来型群で14本(50%)です。
本文の割合から計算すると、形成後に菌が残る割合のリスク比は約1.7(86%÷50%。筆者の計算)になります。
⑤結果②:どちらも98〜99%減ったが、残った菌の数は従来型が82%少ない
ここは読み違えやすいところです。形成前から形成後への菌の減少は、小さいアクセス群で平均98%、従来型群で99%。どちらの群でも大きく、有意に減っています(P<.01)。小さいアクセスでも、形成と洗浄はしっかり効いていました。
差が出たのは「最後にどれだけ残ったか」です。形成後の菌数を群どうしで比べると、従来型群は小さいアクセス群より有意に82%少なく(P<.01)、平均は約875個と約251個、中央値は約774個と約57個でした(原著Table 1。qPCRで推定した菌数)。82%は原著本文の群間比較の値です(解析はポアソン回帰モデル)。表の平均値どうしを単純に割った値とは一致しないので、平均値から計算し直さないよう注意してください。
⑥結果③:「削れていない壁」の割合には差がなかった
形成前の根管の体積・表面積は両群でそろっており、ペアにした割り付けがうまく働いていました。形成後に削れていない壁の割合は、根管全長(10mm)で38.6%と34.2%、根尖側4mmで45.2%と43.0%。どちらも有意差はありませんでした。
逆に言えば、両群とも根管壁の3〜5割(全長で34〜39%、根尖側4mmで43〜45%)は、XP-endo Shaperでも削られずに残っていたということです。楕円形の根管のくぼみは、器具が届きにくい場所として知られています。
⑦形成が同じなのに、なぜ消毒に差が出たのか
著者らは理由を断定していません。考察で挙げているのは、次のような可能性です。
・洗浄液の流れ:削れた範囲に差が無い以上、従来型のほうが洗浄液がよく入れ替わった可能性もある
・壁に「触れる」回数:従来型ではファイルが根管を広げずに多くの壁に触れ、バイオフィルムをはがしやすかった可能性もある(削っていないのでマイクロCTには映らない)
著者ら自身、これらは推測であり、今後の検証が必要だと書いています。「マイクロCTで形成がそろっていても、消毒までそろっているとは限らない」——ここが、この研究のいちばん面白いポイントです。
⑧明日の臨床へ
・一方で両群とも菌は98〜99%減っていた。「小さいアクセスでは消毒できない」とまでは読めない。
・形成範囲(マイクロCT)がそろっていても、消毒の効き方は同じとは限らない。削れた範囲だけで清掃の良し悪しを判断しない。
・この実験では両群とも根管壁の3〜5割が削れずに残った(根尖側4mmでは43〜45%)。楕円形の根管では、形成のあとの洗浄をどう補うかが課題になる。
・数字は楕円形根管の下顎前歯・XP-endo Shaper・1種類の菌という条件のもの。大臼歯や他のファイル、実際の感染根管にそのまま当てはめない。
著者らは結論で、象牙質を残しすぎることは、感染根管の治療成績に悪影響を与えうると述べています。歯質を残す利点と、消毒が落ちるかもしれない代償。感染がある歯ほど、その天秤を意識してアクセスの大きさを決める——そのための材料として持っておきたい1本です。
⑨ここだけ、冷静に補助線
ここからは筆者の読みです。対象は楕円形根管の下顎前歯だけ、ファイルはXP-endo Shaperだけで、各群30本弱です。小さいアクセスの利点として語られる破折しにくさは、この研究では測っていません。術者は根管の形(マイクロCT)を知らされていませんでしたが、どちらのアクセスかは当然見えています。なお、根管の体積の増え方は小さいアクセス群60.7%・従来型群88.9%(根管全長の平均)でしたが、この差を統計的に比べた記載は見当たりませんでした。それでも、形成の出来と消毒の効き方を同じ歯で別々に測り、「形成が同じでも消毒は違いうる」ことを示した点は、アクセスの大きさを考えるうえで大事な視点です。著者らは利益相反は無いと記載しています。
今日のひとこと
楕円形根管の下顎前歯の抜去歯で、アクセス窩洞を小さくした群は、形成後に菌が検出された歯が86%(従来型は50%)、残った菌の数も従来型のほうが82%少なかった。一方でマイクロCTで見た「削れていない壁」の割合は両群で差がありませんでした。つまり形成の見た目は同じでも、消毒の効き方には差が出うる、という結果です。ただし両群とも菌は98〜99%減っており、これは1種類の菌・1種類のファイル・下顎前歯だけの実験室の研究で、治癒や予後、破折のしにくさは測っていません。小さく開けるなら「消毒が落ちるかもしれない」という代償も天秤に載せておく——その材料になる1本です。


