1問1答 論文 エンド

扁平な根管は「2本のつもり」で削る?——マイクロCTで見ると、根管全長の平均で壁の6〜8割が削れずに残った

1問1答 論文 エンド

エンド|頬舌に長い扁平な根管を、丸いNiTiファイルでどこまで削れているのか。形成法4通りを、歯を壊さずにマイクロCTで比べた抜去歯の研究(Paqué 2010・Journal of Endodontics)

下顎大臼歯の遠心根のように頬舌に長い扁平な根管。丸いファイルを入れて形成したとき、根管の壁はどこまで削れているのでしょうか。著者らは扁平な遠心根管をもつ下顎大臼歯48本12本ずつ4群に分け、Hファイルの周回ファイリングProTaperで1本の根管としてProTaperで頬側・舌側を2本の根管としてProTaperで周回ファイリングの4通りで形成し、前後のマイクロCT(34μm)を重ねて「削れずに残った壁」の割合を測りました。結果、どの方法でも全ての歯に削れていない壁が残り、根管全長の平均は59.6%(2本として形成)〜79.9%(1本として形成)1本として削った群は、2本として削った群・ProTaper周回群より有意に多く削り残しました(p<0.01)。一方、根尖側4mmでは平均65.2〜74.7%が削れずに残り、4群に有意差はありませんでした。著者らは扁平な根管は2つの根管とみなして形成するのが有利、そして根尖4mmは機械的な形成が限られるので化学的な消毒が必要と結んでいます。

論文
Preparation of Oval-shaped Root Canals in Mandibular Molars Using Nickel-Titanium Rotary Instruments: A Micro-computed Tomography Study
著者
Frank Paqué、Marc Balmer、Thomas Attin(チューリッヒ大学歯学部 歯内療法学講座・スイス)、Ove A. Peters(パシフィック大学 アーサー・A・デュゴニ歯学部 歯内療法学講座・米国)
掲載
Journal of Endodontics 2010;36(4):703-707
種類
抜去歯を使った実験室研究(マイクロCT)。下顎大臼歯200本から、遠心根の根尖孔が1つのものを選び、100本を低解像度(68μm)で事前撮影。根尖から6mmの断面で長径(頬舌)が短径(近遠心)の2倍を超えるもの、かつ湾曲20度を下回るものに絞って48本。扁平の程度で層別したうえで無作為に12本ずつ4群(長径/短径の平均は各群3.88〜3.93で差なし)。H/CF=ゲイツグリッデン#4・#3・#2で歯冠側を拡げ、Hファイル#10から#40まで周回ファイリング/PT/1=ProTaper Universal(F4まで)を1本の根管として側方へ寄せずに挿入/PT/2=ProTaper(F4まで)で頬側・舌側を2本の根管として形成/PT/CF=ProTaper(F4まで)を周回ファイリングの動きで各ファイル3回。術者は経験3年超の1名で、形成前のCT像は見せていない。形成前後を34μmで撮影して重ね合わせ、根管全長と根尖側4mmで「削れずに残った壁(未形成面)」の割合を算出。統計は分散分析とBonferroni/Dunnの多重比較
PMID
20307747

扁平な根管、丸いファイルでどこまで削れている?

下顎大臼歯の遠心根。根管口をのぞくと、頬舌に長い扁平な根管であることは珍しくありません。そこへ断面の丸いNiTiファイルを入れて、作業長まで形成する。X線写真ではきれいなテーパーに見えても、頬側と舌側の端はどうなっているのか。

結論を先に言います。下顎大臼歯48本をマイクロCTで調べると、どの形成法でも全ての歯に削れていない壁が残りました。根管全長の平均で59.6%〜79.9%。そのなかで頬側と舌側を「2本の根管」として形成した群が、平均で最も削り残しが少なかったのです。

なぜ扁平な根管が問題になるのか

原著が引用するWuらの報告では、根尖側1/3で長い楕円形(長径が短径の2〜4倍)の根管は歯全体でおよそ25%、下顎大臼歯の遠心根では25〜30%に見られます。根尖の近くまで扁平なまま、ということです。

形成の目的の1つは、感染した内側の象牙質を取り除くこと。ところが扁平な根管では、丸いファイルが通った道の両脇にくぼみ(リセス)が残り、デブリと削れていない壁がそのまま残りやすい——これは以前から指摘されていました。

ただ、それまでの研究の多くは歯根を輪切りにして断面を比べる2次元の方法でした。この研究は歯を壊さずにマイクロCTで形成前後を重ね合わせ、3次元で「削れた壁の割合」を測った点が新しいところです。

今回の一手:同じ扁平根管を、4通りの考え方で削る

対象=扁平な遠心根管をもつ下顎大臼歯48本。200本から、根尖孔が1つで、根尖から6mmの断面で長径(頬舌)が短径(近遠心)の2倍を超え湾曲が20度を下回るものに絞りました。扁平の程度で層別してから無作為に12本ずつ4群に分けています(長径/短径の平均は各群3.88〜3.93で差なし)。
H/CF:ゲイツグリッデンで歯冠側を拡げ、Hファイル#10〜#40で周回ファイリング
PT/1ProTaper(F4まで)を1本の根管として、特定の方向へ寄せずに挿入
PT/2ProTaper(F4まで)で頬側と舌側をそれぞれ別の根管として形成
PT/CFProTaper(F4まで)を周回ファイリングの動きで、各ファイル3回

術者は経験3年超の1名。形成前のCT像は見せず、削り残しを狙って手を加えることができないようにしてあります。形成前後を34μmの解像度で撮影して重ね合わせ、根管全長根尖側4mmについて、削れずに残った壁(未形成面)の割合を計算しました。

結果①:「1本として」削ると8割が残り、「2本として」削ると6割

0 33.3% 66.7% 100% 根管全長で削れずに残った壁の割合(平均%) 79.9% 69.1% 59.6% 1本として(PT/1) PT/1+Hファイル追加 2本として(PT/2) 原著本文の平均値(PT/1 79.9±10.3%、追加後69.1±9.2%、PT/2 59.6±14.9%)。値が低いほど多くの壁が削れている。PT/1はPT/2・PT/CFより未形成面が有意に多かった(p<0.01)。Hファイル周回ファイリング群(H/CF)とProTaper周回ファイリング群(PT/CF)の全長の平均値は本文に記載がなく(図の箱ひげ図のみ)、図に載せていない。いずれも抜去歯のマイクロCT計測
根管全長で削れずに残った壁の割合(原著本文に平均値が記載された3条件のみ)。PT/CFもPT/1より有意に少なかった(p<0.01)が、H/CFとPT/CFの全長の平均は本文に記載がなく(図は中央値の箱ひげ図のみ)載せていない。中央の棒はPT/1の歯に追加で周回ファイリングをした値で、無作為に割り付けた群ではない

根管全長で削れずに残った壁は、PT/1(1本として)で79.9%(±10.3)PT/2(2本として)で59.6%(±14.9)。4群の差は有意で(p<0.01)、PT/1はPT/2・PT/CFより削り残しが多いという結果でした。

興味深いのは追加の実験です。PT/1の歯に、あとからHファイル#30〜#40で周回ファイリングを足すと、削り残しは69.1%(±9.2)まで減りました(p<0.01)。それでも平均では最初から2本として削ったPT/2(59.6%)を上回ったままでした。著者らは「PT/2より多くの壁が残った」と書いていますが、この2つを直接比べた検定の値は示されていません。

なお、形成後の根管容積はどの群でも増え(p<0.001)、群間に有意差はありませんでした。容積の増え方に差が無いのに削り残しに差が出たのは、どの壁に当てたかの違いと読めます(これは記事としての読み方で、原著が直接示したものではありません)。ファイルの破折はどの群でもありませんでした。

結果②:根尖側4mmは、どの方法でも差がなかった

0 33.3% 66.7% 100% 根尖側4mmで削れずに残った壁の割合(平均%) 74.7% 65.2% 65.2% Hファイル周回(H/CF) 2本として(PT/2) ProTaper周回(PT/CF) 原著本文の平均値(H/CF 74.7±17.2%、PT/2 65.2±18.7%、PT/CF 65.2±24.0%)。4群の間に有意差なし。PT/1の根尖4mmの平均値は本文に記載がなく(図の箱ひげ図のみ)、図に載せていない。いずれも抜去歯のマイクロCT計測
根尖側4mmで削れずに残った壁の割合(原著本文の平均値。PT/1を含む4群間に有意差なし)。PT/1の根尖4mmの平均は本文に記載がなく(図は中央値の箱ひげ図のみ)載せていない

根尖側4mmだけを見ると、削れずに残った壁の平均はPT/2とPT/CFで65.2%、H/CFで74.7%(PT/1は本文に数値なし)。4群の間に有意な差はありませんでした。著者らは「根尖部では壁の最大4分の3が削れずに残った」と書いています。

上顎大臼歯を同じ方法で調べた過去の研究と比べても、下顎大臼歯の扁平な根管では削り残しが多く、とくに根尖部で形成が難しいことがうかがえます。

なぜ削り残すのか——ファイルは丸く、根管は扁平

理屈は単純です。断面が丸いファイルは、扁平な根管の中央を通れば、頬側と舌側の端には届きません。1本として受動的に入れれば、ファイルは抵抗の少ない道を進むだけです。

頬側と舌側を別々の根管として狙うと、ファイルを意識して両端の壁に当てることになります。PT/2の平均が最も削り残しが少なかったのは、この「当てる場所の意識」の差と読めます。
一方、削り残しの量は根管の扁平さ(長径/短径)とは相関しませんでした(r=0.024)。扁平が強いほど悪い、という単純な話ではなく、どう削るかの影響が大きいということです。

もう1つ大事な数字があります。この計測は、34μm以上削れて初めて「削れた」と数える仕組みです。著者らは、扁平な根管では壁の半分以上が34μmも削れていなかったと述べ、細菌は象牙細管へ200μm以上入り込みうるという報告と対比しています。

明日の臨床へ

扁平な根管は「2本のつもり」で形成する。頬側と舌側を別々の根管とみなし、それぞれの壁へファイルを当てていく——著者らが有利と結論づけた方法です。この研究のPT/2は、ほかのProTaper群と同じファイル(F4まで)を使っています。
「1本として削ったあと周回ファイリングで補う」より、最初から2本として削るほうが、平均の削り残しは少なかった(69.1% vs 59.6%。ただし別々の歯での値で、この2つを直接比べた検定は示されていません)。
それでも根管全長の平均で壁の約6割は削れずに残る。形成だけできれいになる、とは考えないほうがよさそうです。
根尖側4mmはどの方法でも有意差がなかった。著者らは結論で、根尖4mmの機械的な形成は限られるため化学的な消毒(洗浄)が追加で必要と述べています。この研究の最終洗浄は2.5%次亜塩素酸ナトリウム・17%EDTA・2.5%次亜塩素酸ナトリウム各5mLでした。

下顎大臼歯の遠心根で根管口が頬舌に長いと感じたら、頬側・舌側の両端を意識してファイルを当てる。そして残った壁は洗浄に任せる前提で、洗浄を丁寧に。この2つが、この論文から持ち帰れる具体的な手の動きです。

ここだけ、冷静に補助線

まず、これは抜去歯を使ったマイクロCTの実験室研究です。測ったのは「削れた壁の割合」で、細菌が減ったか・デブリが取れたかといった清掃効果は調べていません(著者ら自身が抗菌効果は測っていないと明記)。臨床の治癒を見た研究でもないので、「2本として削れば予後がよい」とまでは言えません。各群12本と少なく、著者らもばらつき(標準偏差)が大きいことを認めています。術者は1名で、34μm未満の削除は「削れていない」と数える計測方法のため、ごく薄く触れた壁は含まれません。また本文に数値があるのは一部の群の平均だけで、PT/2とPT/CF、PT/2とH/CFの個別の比較結果は示されていません。著者らは考察で「2本として形成すると、回転切削器具のほうが手用器具より効率的だった」と述べていますが、その検定値も本文にはありません。製品名(ProTaper)が出てきますが、資金源・利益相反の記載は見当たりませんでした。それでも、同じ量を削っても「どの壁に当てるか」で削り残しが変わることを3次元で示した点は、扁平な根管を前にしたときの手の動きを見直す材料になります。

今日のひとこと

著者らの結論:扁平な根管は、どの形成法でも壁の多くが削れずに残る。ただし頬側と舌側を2つの根管とみなして形成すると、削れる壁が増える。数字で言えば、根管全長で削れずに残った壁の平均は1本として形成した群で79.9%、2本として形成した群で59.6%(p<0.01)。1本として削ったあとHファイルで周回ファイリングを足しても69.1%で、平均では2本として削った群を上回ったままでした(この2つを直接比べた検定は示されていません)。そして根尖側4mmでは平均65.2〜74.7%が削れずに残り、4群に有意差はありませんでした。扁平な根管は「2本のつもりで壁に当てる」こと、それでも残る壁は洗浄で補うこと——この論文の持ち帰りはこの2つです。ただし抜去歯のマイクロCT研究で、細菌が減ったかどうかや臨床の治癒は調べていません。

Paqué F, Balmer M, Attin T, Peters OA. Preparation of oval-shaped root canals in mandibular molars using nickel-titanium rotary instruments: a micro-computed tomography study. J Endod. 2010;36(4):703-707. doi:10.1016/j.joen.2009.12.020. PMID: 20307747
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。