1問1答 論文 エンド

根尖の亀裂、形成法より作業長が効く?——抜去歯で根尖孔まで形成すると20本中12本、1mm手前は5本

1問1答 論文 エンド

エンド|作業長を根尖孔ちょうどに置くか、1mm手前で止めるか。ステップバックとクラウンダウンの違いとあわせて、根尖表面の亀裂への影響を比べた抜去歯の実験(Adorno 2009・Journal of Endodontics)

作業長を根尖孔ちょうどに置くか、1mm手前で止めるか。著者らはまっすぐな根の下顎小臼歯40本を、歯根膜を模したシリコンとともにレジンに埋め、根尖を露出させたまま、ステップバック(ステンレス手用)とクラウンダウン(ProFile)×根尖孔まで(RCL)と1mm手前(RCL−1mm)の4群(各10本)で形成しました。ステップバック群は#15から#60へ、クラウンダウン群は#60から#15へ下げて作業長に達したあと#15から#60へ上げています。ファイル1本ごとに根尖を墨で染め、100倍で撮影して亀裂を探した結果、亀裂が出たのは40本中17本。作業長で分けると、根尖孔まで形成した20本では12本、1mm手前では5本です(表2から集計)。統計では、作業長が亀裂の数に有意に影響し(p=0.031)形成法の影響は有意ではありませんでした(亀裂の数 p=0.08)。根尖の象牙質の欠けは根尖孔まで形成した20本中10本に見られ、1mm手前ではゼロ。さらに#15の直後に亀裂が出た歯も4本ありました。臨床の予後を見た研究ではなく、抜去歯での実験室の所見です。

論文
The Effect of Root Preparation Technique and Instrumentation Length on the Development of Apical Root Cracks
著者
Carlos G. Adorno、Takatomo Yoshioka、Hideaki Suda(東京医科歯科大学 歯髄生物学分野)
掲載
Journal of Endodontics 2009;35(3):389-392
種類
抜去歯を使った実験室研究(ex vivo)。対象=まっすぐな根の下顎小臼歯40本(破折線・根尖孔が開いている歯・形態異常は除外)。歯根をアルミ箔で包んで常温重合レジンに埋め、箔の隙間をシリコン印象材で置き換えて擬似歯根膜とし、根尖2〜3mmを露出。歯冠はCEJの2mm上で切断。RCL=#10 Kファイルの先端が主根尖孔に見えた長さ。無作為に10本ずつ4群:A=ステップバック(ステンレス製手用・バランスドフォース)RCL、B=同RCL−1mm、C=クラウンダウン(ProFile .04・300rpm)RCL、D=同RCL−1mm。ファイルはステップバック群が#15→#60(#15・20・25・30・35・40・45・60)、クラウンダウン群は#60→#15で作業長に達してから同じ#15→#60。各ファイル後に根尖を墨で染色し、100倍デジタル顕微鏡で3方向から撮影、前のファイルの画像と比較して亀裂と象牙質の欠けを記録。統計はロジスティック回帰と一元配置分散分析(有意水準5%)
PMID
19249601

作業長、根尖孔ちょうどまで?それとも1mm手前?

根管形成の作業長をどこに置くか。根尖孔ちょうどまで形成するのか、少し手前で止めるのか。先生ごとに流儀が分かれる、古くて新しい問いです。

この論文は、その問いを「根尖に亀裂が入るかどうか」という角度から見ました。あわせて、ステップバックとクラウンダウンという形成法の違いも比べています。

結論を先に言います。抜去歯40本の実験で、根尖孔まで形成した20本のうち12本、1mm手前で止めた20本のうち5本に根尖表面の亀裂が見られました。統計で有意な影響が出たのは作業長のほうで、形成法の違いでは有意差はありませんでした

なぜ根尖の亀裂が気になるのか

根管形成そのものが歯根を弱くすることは、以前から報告されています。根管の内側から生じる応力は根尖部と根管壁で大きく、ProFileでの形成中の力はファイル先端付近に集中するという報告もあります。

著者らの問題意識はここです。根尖部に集まる応力が、亀裂の発生と進展につながるのではないか。そして形成で弱った歯根は、その後の根管充填で垂直性歯根破折を起こしうる。
ところが、作業長と根尖の亀裂の関係を調べた研究は、それまで報告がなかった——これがこの研究の出発点です。

もう1つの前提として、著者らは解剖の話も引いています。主根尖孔が解剖学的根尖からずれている歯は76%、そのずれの平均は0.99mmという報告です。「根尖孔まで」と「根尖まで」は同じではありません。

今回の一手:根尖を出したまま、ファイル1本ごとに撮る

対象=まっすぐな根の下顎小臼歯40本(破折線・根尖孔が開いている歯・形態異常のある歯は除外)。歯根をアルミ箔で包んで常温重合レジンに埋め、箔を外した隙間をシリコン印象材で満たして歯根膜の代わりにしました。根尖2〜3mmはレジンから露出させ、形成中に撮影できるようにしてあります。歯冠はCEJの2mm上で切断。
作業長の基準(RCL)=#10 Kファイルを入れ、先端が主根尖孔に見えた長さ
無作為に10本ずつ4群
A群:ステップバック(ステンレス製手用ファイル・バランスドフォース)、RCLまで
B群:同じ方法でRCL−1mm
C群:クラウンダウン(ProFile .04テーパー・300rpm)、RCLまで
D群:同じ方法でRCL−1mm
ステップバック群は#15・#20・#25・#30・#35・#40・#45・#60の順。クラウンダウン群は#60から順に号数を下げて#15で作業長に達したあと、同じく#15から#60へ上げていきました。洗浄は1%次亜塩素酸ナトリウム。

判定の方法が丁寧です。作業長に達したファイルごとに、根尖を墨で染めて亀裂を浮かび上がらせ、100倍のデジタル顕微鏡で3方向から撮影。1本前のファイルの画像と見比べて、新しく現れた亀裂を記録しました。亀裂の定義は「探針では触知できない、根表面の目に見える不連続」です。根尖の象牙質の一部が前の画像から無くなったものは「象牙質の欠け(dentinal detachment)」として別に数えています。

結果①:根尖孔まで形成した群に、亀裂が多かった

0 3本 6本 9本 根尖表面に亀裂が生じた歯(各群10本中) 7本 4本 5本 1本 SB・根尖孔まで SB・1mm手前 CD・根尖孔まで CD・1mm手前 原著Table 2の群別合計(計17本)。SB=ステップバック(ステンレス製手用)、CD=クラウンダウン(ProFile .04)。根尖孔まで=RCL、1mm手前=RCL−1mm
群ごとの、根尖表面に亀裂が生じた歯の本数(原著Table 2の群別合計。各群10本中)

40本中17本に亀裂が生じました。内訳はA群7本・B群4本・C群5本・D群1本です。

統計では、作業長が、亀裂の数(p=0.031)と、最初に亀裂を生んだファイルのサイズ(p=0.036)に有意に影響していました。一方、形成法(ステップバックかクラウンダウンか)の影響は有意ではありませんでした(それぞれp=0.08、p=0.054)。

結果②:1mm手前では、根尖の欠けがゼロ

0 25% 50% 75% 該当した歯の割合(各20本中・%) 60% 50% 25% 0% 根尖孔まで(RCL) 1mm手前(RCL−1mm) 根尖表面の亀裂 根尖の象牙質の欠け 濃い棒=亀裂(Table 2から集計:12/20・5/20)、淡い棒=象牙質の欠け(本文p.391とTable 1から:10/20・0/20)。割合どうしを直接検定した数値ではない
作業長別に見た、亀裂と象牙質の欠けが生じた歯の割合(亀裂はTable 2から集計、欠けは本文p.391とTable 1から。各20本中)

作業長で2つに分けると、差はさらにはっきりします。

亀裂:根尖孔まで20本中12本 / 1mm手前20本中5本(Table 2の群別合計から集計)
象牙質の欠け:根尖孔まで20本中10本(著者らの言葉で「RCLまで形成した試料の半数」) / 1mm手前0本
・欠けの8割は#45のファイルを使った後に生じた
・作業長は欠けにも有意に影響(p=0.002)。形成法は有意ではなかった(p=0.245)

著者らの解釈は、RCL−1mmで止めたファイル先端の周りには、亀裂に抵抗できるだけの象牙質が残っていたというものです。とはいえ、1mm手前でも5本には亀裂が出ています。ゼロになったのは「欠け」のほうです。

結果③:「安全」と思われる#15でも亀裂は出た

もう1つ目を引くのが、亀裂が出始めたタイミングです。

#15を使った直後に最初の亀裂が出た歯が4本(A群3本・C群1本)。どちらも根尖孔まで形成した群です
・亀裂が出た17本のうち11本は#30を使う前14本は#45を使う前に亀裂が出ていた
・ステンレス手用の2群(A・B)では、すべての亀裂が#45より前に出ていた
・C群では3本が#60で初めて亀裂を生じた

著者らは、ふつう「安全」と考えられているサイズで亀裂が生じうることは、これまで文献に報告がなかったと述べています。A群で亀裂の平均数が最も多かった点については、ステンレスファイルをバランスドフォース法で使うと、根の外側の応力がファイル先端の近くに集中すること(先行研究)を挙げています。

明日の臨床へ

根尖孔ぎりぎりまで形成すると、根尖表面の亀裂と象牙質の欠けが増えた——これが実験室での所見です。作業長を根尖孔に置くか手前に置くかを考えるとき、「根尖の歯質を残す」という観点が1つ加わります。
形成法を変えるより、どこまで入れるか。この条件では、ステップバックとクラウンダウンの違いは有意ではありませんでした。
根尖の拡大号数とのトレードオフ。著者らは、根尖の形成号数は最初に根尖で抵抗を感じたファイルより少なくとも6〜8号大きくすべきという提案(Weigerら)を引き、最初に抵抗を感じたのが#10なら#45〜#55まで広げることになり、亀裂を生じる感受性は高まると書いています。「清掃を増やせば根尖の消毒は良くなるが、亀裂の機会も増える」というのが著者らのまとめです。
・さらに、この研究は形成だけを見ています。著者らは、根管充填や支台築造(とくにポスト)そのものが亀裂を生んだり、形成でできた亀裂を広げたりしうることにも触れています。

明日すぐに作業長の流儀を変える、という話ではありません。ただ、根尖孔まで形成し、そこから大きく広げるときには、根尖の歯質に何が起きうるかを頭の片隅に置いておく。それだけでも手の動きは変わります。

ここだけ、冷静に補助線

これは抜去歯を樹脂に埋めた実験室研究で、臨床での歯根破折や治療の予後を見たものではありません。「根尖孔まで形成すると歯根が割れる」とは、この論文からは言えません。対象はまっすぐな根の下顎小臼歯、各群10本と少なく、湾曲根管や他の歯種は含まれていません。根尖2〜3mmは露出していて、その部分には歯根膜の代わりのシリコンがありません。見ているのは根の表面に見える亀裂だけで、断面を切って内部を調べてはいません。判定者の人数や盲検化の記載もありません。形成法については、亀裂の出た歯がステップバック20本中11本・クラウンダウン20本中6本でした。形成法の影響は、亀裂の数でp=0.08、最初に亀裂を生んだファイルサイズでp=0.054。どちらも有意ではありませんが、後者は境界に近い値です。20本ずつの比較なので、「形成法は関係ない」と言い切れるほどの数ではありません。また、Table 1の見出しは「亀裂のある歯の平均数」ですが、値(A群1、C群0.6など)はTable 2の本数と合わず、1本あたりの亀裂の平均数と読むのが自然です。それでも、作業長のわずか1mmが根尖の欠けの有無を分けたという所見は、根尖の扱いを考え直すきっかけとして十分に面白い結果です。資金源・利益相反の記載はありません。

今日のひとこと

著者らの結論:作業長をRCL(根尖孔)に置くと、RCL−1mmより根尖の亀裂が生じやすい。数字で言えば、亀裂は根尖孔まで形成した20本中12本、1mm手前で20本中5本(表2から集計した本数)。統計では、作業長が亀裂の数(p=0.031)・最初に亀裂を生んだファイルサイズ(p=0.036)・象牙質の欠け(p=0.002)に有意に影響し、欠けは根尖孔まで形成した群の半数に見られ、1mm手前ではゼロでした。一方、ステップバックかクラウンダウンかの違いは有意ではありませんでした。著者らは「清掃を増やせば根尖の消毒は良くなるが、亀裂の機会も増える」とまとめています。ただしまっすぐな下顎小臼歯・各群10本の抜去歯の実験で、根の表面の亀裂だけを見たもの。臨床での歯根破折や予後を示した研究ではありません。

Adorno CG, Yoshioka T, Suda H. The effect of root preparation technique and instrumentation length on the development of apical root cracks. J Endod. 2009;35(3):389-392. doi:10.1016/j.joen.2008.12.008. PMID: 19249601
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。