エンド|多くの先生は既存の修復物を貫いてアクセスを開ける。では修復物を外さないまま、歯髄・根尖病変の「原因」は見つけられるのか。専門医に紹介された連続245歯で、外す前と外した後を比べた臨床研究(Abbott 2004・Australian Dental Journal)
病気を治す第一歩は原因を特定すること——原因は治療の一部として取り除かなければならないからです。歯髄・根尖病変の最大の原因は歯の中の細菌で、その侵入路はう蝕・クラック・破折・開いた修復物の辺縁。しかし修復物があると、それらは「隠れて」しまいます。著者は、多くの教科書が既存の修復物を外すことを勧めず、無傷の歯の図で理想的なアクセス窩洞の形を説いていることを指摘します。そこで専門医に紹介された連続220名・245歯で、修復物を外す前と外した後に同じ方法で検査して比べました。結果、う蝕は19.2%(X線所見)→86.1%、クラックは23.3%→60%、辺縁の崩壊は39.2%→99.6%。93%の歯が2つ以上の問題を抱えており、術前に何の徴候も無いと判定された107歯(43.7%)のうち、外して本当に何も無かったのは1歯だけでした。術前に検出できる確率は56.1%。著者の結論は「エンド治療の前にすべての修復物を外すべきだ」です。
①その歯の「原因」は、もう見えていますか
病気を治すとき、まず原因を特定する。原因は治療の一部として取り除かなければならないからです。
歯髄・根尖病変の最大の原因は歯の中の細菌で、その主な侵入路はう蝕・クラック・破折・開いた修復物の辺縁。ところが修復物が入っていると、それらは「隠れて」しまいます。修復物が大きいほど、隠れる範囲も広くなる。
結論を先に言います。専門医に紹介された245歯で、う蝕の術前検出は19.2%、外したら86.1%。術前に「問題なし」と判定された107歯(43.7%)のうち、外して本当に何も無かったのは1歯だけでした。
②教科書はなぜ「外せ」と書いてこなかったのか
多くの先生は、既存の修復物を貫いてアクセス窩洞を開けます。すると根管治療が終わって修復に入るまで、その歯を本当に残せるのかを検討できません。
ある教科書は「修復物を外すのが望ましいが、それは実行可能でも望ましくもないことが多い」と書いていますが、著者によればその根拠は示されていません。別の教科書は「やむを得ない理由」と「便宜上の理由」を挙げつつ、日常的に外すことは勧めていません。
そこで著者は、3つの問いを立てます。①通常の視診とデンタルX線で、歯とその修復物の状態を正確に評価できるか。②歯髄・根尖病変の原因を取り除くために、治療開始前にすべての修復物を外す必要があるか。③修復物の種類と使用年数は、病変の存在・進行と関係するか。
③今回の一手:外す前と外した後に、同じ検査をする
検査は、視診、修復物辺縁と小窩裂溝のプロービング、歯周プロービング、打診、触診、そしてファイバー光による多方向からの透照(歯科用ライトと室内灯を消して実施)。デンタルX線はシャウカステンに周辺光を遮る2倍拡大ビューアーを当てて読影しました。通常より念入りな検査である点は押さえておきたいところです。
診断を説明し同意を得たうえで、治療の第一段階として全ての修復物をラバーダム下で除去(多くは「カフテクニック」)し、同じ方法でもう一度検査します。
判定基準も明確です。う蝕=軟化または歯質の欠損。辺縁の崩壊=窩洞の辺縁から象牙質へ及ぶ着色。クラック=エナメル質と象牙質の両方に及ぶが、プロービングで 両側の破片が分離しないもの(分離すれば破折)。エナメル質だけの亀裂線(craze line)は、歯髄疾患の原因になりにくいとして記録していません。検査と処置はすべて著者1名が行いました。
④結果①:外した途端、見えるものが変わった
・クラック:57歯(23.3%)→ 147歯(60%)
・辺縁の崩壊:96歯(39.2%)→ 244歯(99.6%)
・93%の歯が、これらの問題を2つ以上抱えていました。
・術前に辺縁の崩壊・う蝕・クラック・破折の徴候が無いと判定されたのは107歯(43.7%)。しかし外してみると、244歯(99.6%)に少なくとも1つの問題があり、何も無かったのはたった1歯でした。
・オッズ比の計算(95%信頼区間)によれば、修復物を外す前にう蝕・クラック・辺縁からの漏洩を見つけられる確率は56.1%。
著者の言い方は率直です。歯科医師が行う標準的な視診は、歯髄・根尖病変のある修復歯について、辺縁の崩壊・う蝕・クラック・破折の存在を知る指標として信頼できない。
⑤結果②:とくにコンポジットレジンが見えない
・クラウン(37歯=クラウン27歯とポスト付きクラウン10歯):術前16.2%(6歯) → 除去後81.1%(30歯)
・アマルガム(131歯):術前23.6%(31歯) → 除去後87.0%(114歯)
クラックも同じ傾向でした。アマルガムでは術前51歯(38.9%)→除去後91歯(69.5%)。コンポジットでは術前6歯(7.8%)→除去後42歯(54.6%)。クラウン(37歯)では術前ゼロだったものが、除去後には14歯(37.8%)で見つかっています。
そして著者は、コンポジットレジンは歯髄疾患の早期発症と急速な進行に関連することが多かったと報告しています。実際、診断の内訳を見るとコンポジットの32.5%が「根管充填済み+感染」(アマルガムは9.9%)で、44.1%が「失活・感染」(アマルガムは31.3%)でした(なお原著の考察では同じ項目が40.2%と記されており、表との間に食い違いがあります。ここでは表の値を用いました)。
⑥なぜ「見えない」ことが治療の失敗につながるのか
問題はそれがすぐには表に出ないことです。根管内の細菌数を減らしたり、炎症を起こした歯髄を取り除いたりすれば、短期的には症状が消える。細菌が歯に入ってから慢性根尖性歯周炎の急性転化で症状が出るまでには、典型的には1〜5年かかります。
著者は根管治療のやり直しに関する2つの大規模研究を挙げています。Allenらが調べたのは初回の歯内療法が失敗してさらなる治療を要した根充歯1,300歯です。これらの歯が受診したのは、治療から1年未満が21.9%・1〜2年が37.3%・2〜5年が13.7%——累計で72.9%が5年以内でした。これは「根管治療した歯の72.9%が再治療になった」という意味ではなく、再治療に至った症例が「いつ」表に出てきたかの分布です。著者がこれを引いたのは、失敗が短期では表に出にくいことを示すためです。
⑦明日の臨床へ
・外して初めて分かることがある。この研究では245歯のうち18歯(7.4%)が、外した結果エンド不要(可逆性歯髄炎7歯)または抜歯適応(11歯)と判明しました。可逆性歯髄炎の7歯は鎮静裏層と仮封で管理され、3か月後の検査で7歯すべて歯髄炎が消退しています。
・コンポジットレジンが入った歯では、術前の見立てをとくに疑う(う蝕の術前検出9.1%)。
・ファイバー光による透照を、多方向から、部屋を暗くして行う。原著の図は、通常光では見えないクラックが透照で明瞭になる様子を示しています。
・ただしこの研究は「外した群と外さなかった群の治療成績」を比べたものではありません。示されたのは「外さないと見えない」ことまでです。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者の結論:歯髄・根尖病変を起こしうる共通の因子を取り除き、歯の予後と今後の治療の必要性を評価するために、すべての修復物を歯内療法の前に除去すべきである。数字で言えば、う蝕は術前19.2%(X線所見。臨床所見では18.0%)→除去後86.1%、クラックは23.3%→60%、辺縁の崩壊は39.2%→99.6%。93%の歯が2つ以上の問題を抱えており、術前に検出できる確率は56.1%でした。とくにコンポジットレジンではう蝕の術前検出が9.1%(除去後87.0%)。そして術前に「問題なし」とされた107歯(43.7%)のうち、外して本当に何も無かったのは1歯だけ。245歯のうち18歯(7.4%)は、外して初めてエンドが不要(可逆性歯髄炎7歯)または抜歯適応(11歯)と判明しました。「原因が見えていないまま治療を始めていないか」——この論文の持ち帰りはそこです。ただし術者1名・専門医に紹介された症例という偏りがあり、治療の成否を比べた研究ではありません。


