エンド|「形成しても根尖部の菌は残る」という積み重ねに対し、いつもより大きく広げたらどうなるかを患者40名で確かめた臨床研究(Card 2002・Journal of Endodontics/ノースカロライナ大学)
根管形成と洗浄で細菌は大きく減る。けれども全部は消えない——ByströmとSundqvist以来、これが繰り返し確認されてきた結論でした。ShupingらはNaOClを使ってもISOサイズ#30〜35を超えるまでは効果が上がらないと報告しています。ではもっと大きく広げたらどうなるのか。著者らは根尖性歯周炎のある下顎の生活反応のない歯40本(犬歯2・小臼歯11・大臼歯近心根27)で、ラバーダム下・徹底した術野消毒のうえ①アクセス時 ②1回目の形成後 ③さらに根尖1/3を広げた後の3回、培養で菌を数えました。1回目はProFile 0.04テーパー(単根管#8=0.599mm/大臼歯#7=0.465mm)、2回目はLightSpeedでさらに拡大(大臼歯57.5〜65、単根管80〜100)。いずれも1%次亜塩素酸ナトリウムで洗浄。結果、犬歯・小臼歯は13本すべて(100%)が菌陰性。大臼歯近心根は1回目で81.5%、2回目で88.9%。そして近心2根管の交通が臨床的に検出されなかった16本では93%(15/16)が菌陰性でした。ただしS2とS3の差は有意ではありません(p=0.0617)。
①「広げても菌は残る」——それは、どこまで広げた話だったのか
根管形成と洗浄で細菌は大きく減る。けれど全部は消えない。ByströmとSundqvistが生理食塩水で菌数を100〜1000分の1に減らしながら1回の来院では1本も菌陰性にできなかったと報告して以来、これは繰り返し確認されてきました。
DaltonらもNiTiロータリーと生理食塩水で菌陰性になったのは28%。ShupingらはNaOClを足して改善しましたが、ISOサイズ#30〜35を超えてはじめて効果が上がり、それより小さい形成ではNaOClの利点は無かったと報告しています。
結論を先に言います。いつもよりずっと大きく広げると、犬歯・小臼歯は13本すべて(100%)が菌陰性、大臼歯近心根も81.5%。そして近心2根管の交通が検出されなかった歯だけを見ると93%でした。
②なぜ「大きく広げる」という発想になったのか
根拠はKerekesとTronstadの形態研究にあります。
ここから2つの問題が見えてきます。①これまでの研究の形成サイズは、そもそも根尖に届いていなかったのではないか。②DaltonらやShupingらは近心頬側根管だけを形成・採取していたため、形成していない近心舌側根管とつながっていれば、そこから菌が採れてしまうのではないか。
この研究は、その2つに同時に手を打ちます。もっと大きく広げる。そして大臼歯では近心2根管を両方とも完全に形成する。
③今回の一手:40歯で、形成のたびに培養する
術野の消毒が徹底しています:ラバーダム+歯頸部にデンタルフロス結紮+30%過酸化水素で泡が出なくなるまで清拭+ヨードチンキ。大臼歯では遠心根管の口をCavitで封鎖してから近心に入り、器具も分けています。
採取は3回:①アクセス時(S1)②ProFile 0.04テーパーによる形成後(S2・単根管#8=0.599mm、大臼歯#7=0.465mm)③LightSpeedでさらに根尖1/3を広げた後(S3・大臼歯57.5〜65、単根管80〜100)。
洗浄はいずれも1%次亜塩素酸ナトリウムで、採取前に5%チオ硫酸ナトリウムで中和してから培養しています。
交通の判定は臨床的な方法です。近心頬側に最終ファイルを作業長まで入れた状態で、近心舌側のファイルが規定の長さまで届かなくなれば「交通あり」とみなしました。著者ら自身が「比較的粗い基準」と認めています。
④結果①:単根管は13/13、大臼歯は81.5%から88.9%へ
初回サンプル(S1)では40本中38本(95%)に菌が検出され、平均菌数は6.0×107(範囲は0から数えきれない109超まで)。対照5本はすべて3回とも陰性でした。
・大臼歯近心根:1回目の形成後に81.5%(22/27)、2回目の形成後に88.9%(24/27)。
・統計:S1とS2、S1とS3の差はいずれもp<0.0001。一方、S2とS3の差は有意ではありません(p=0.0617)。
・2回目・3回目で検出された菌は、いずれもその根管の前のサンプルに含まれていた菌でした(=途中で新たに混入したのではない)。
ここは正直に読む必要があります。「さらに広げた分の上乗せ」は、統計的には示されていません。しかもS2とS3の比較は、1回目の形成後になお菌が残っていた5例だけで行われています。
⑤結果②:効いたのは「広げる量」だけではなかった
大臼歯27本のうち、近心2根管の交通が臨床的に検出されなかったのは16本(59.3%)。この16本では93%(15/16)が菌陰性になりました。残る交通が検出された11本では7本(63.6%)にとどまります。
※原著の考察には内訳の記載に食い違いがあります(考察では「交通なし15本中14本」「7本中4本」と書かれています)。本記事は結果セクションの数値に従いました。
それでも方向としてははっきりしています。根管の形が単純であるほど、器具と薬液は届く。
⑥なぜ広げると効くのか、そして広げすぎの心配
理屈は単純です。器具の刃が触れなければ、そこの細菌は物理的に取れない。KerekesとTronstadが示したように、大臼歯近心根管の95%は、根尖1mmを完全に器具で触るのに少なくとも#60の形成を必要とする。Wu とWesselinkも、#45に達してはじめて大臼歯根管がずっときれいになると報告しています。
ただし著者らは続けて、「根尖形成の安全な限界を明らかにした研究は今のところ無い」と明記しています。この器具だから大丈夫、という一般化はできません。
⑦明日の臨床へ
・大臼歯近心根では、根管どうしの交通があるかどうかで結果が変わる。交通が疑われる症例は予測しにくい側だと考える。
・著者らの提案は薬の使い分けです。菌の除去が予測どおりにいかない症例(交通のある根管)にこそ水酸化カルシウムなどの貼薬を使い、必要な時のために薬の効き目を温存する——エンテロコッカスが水酸化カルシウムに抵抗しうること、失敗根管の培養菌の32.4〜47%を占めることを踏まえた考え方です。
・大臼歯では近心2根管とも形成する。片方だけ形成して交通があれば、触っていない側から菌が残ります。
・ただし「この研究は治療成功率を評価する設計ではない」と著者ら自身が明記しています。狙ったのは培養の陰性化までです。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:複数の根管の交通がない単純な根管系は、この形成で培養上の菌を検出できない状態にできる。数字で言えば、犬歯・小臼歯13本は13本とも(100%)菌陰性。大臼歯近心根は1回目の形成で81.5%(22/27)、さらに広げて88.9%(24/27)。そして近心2根管の交通が検出されなかった16本では93%(15/16)が菌陰性でした。一方でさらなる拡大による上乗せ(S2→S3)は統計学的に有意ではありません(p=0.0617)。著者らは、菌が予測どおり取れない症例(交通のある根管)にこそ貼薬を使い、薬剤耐性の発生を抑えるべきだと述べています。「どこまで広げるか」は、歯種と根管の交通で変わる——この論文の持ち帰りはそこです。ただし治癒や成功率ではなく培養の陰性化だけを見た研究で、機器メーカーからの資金提供があります。


