エンド|次亜塩素酸ナトリウムの毒性・臭い・器具の変色という欠点を、クロルヘキシジンで置き換えられるかを検証した研究。テキサス大学ヒューストン校のJeansonneとWhiteが、歯髄疾患のある抜去歯62本を3群に分け、洗浄前・洗浄後・24時間後の3時点で培養した(Jeansonne・White 1994・J Endod)
根管洗浄剤として次亜塩素酸ナトリウムが第一選択であることに、異論はほとんどありません。ただし刺激性が強く、器具を変色させ、臭いもある。もっと安全で同じくらい効く洗浄剤があれば望ましい——これが出発点です。候補はクロルヘキシジングルコン酸塩でした。歯周治療・う蝕予防・口腔の感染症で広く使われ、広い抗菌スペクトル・サブスタンティビティ(持続する残留効果)・毒性が比較的少ないことという、洗浄剤に向いた性質を備えています。ただしそれまでの比較研究は0.2%という低い濃度を使っており、結果はまちまちでした。一方、2.0%という高い濃度は歯周ポケットの洗浄に使われて歯肉組織への明らかな毒性が出ていない。形成された髄腔と根尖周囲の組織は、少なくとも歯肉と同程度にはクロルヘキシジンに耐えるはずだ——そう考えた著者らは、2.0%で試すことにしました。歯髄への露出を伴うう蝕か根尖部の透過像をもつ抜去直後の歯62本を、抜歯後24時間以内に使用。単根歯の根管、下顎大臼歯の遠心根管、上顎大臼歯の口蓋根管を対象に、入手順に3群へランダムに割り付けます(2.0%クロルヘキシジン20本・5.25%次亜塩素酸ナトリウム19本・滅菌生理食塩水23本)。歯面をヨードフォアで消毒してから髄室を開け、歯髄を取り出した器具ごと培地に入れたものを「洗浄前」の検体とし、ステップバック法で形成(ファイルのサイズごとに1 mL、最終ファイル到達後に3 mLで洗浄)。乾燥させてから培地を満たし、音波ハンドピースで5秒間振動させて回収したものを「洗浄後」の検体とし、さらに培地を満たして嫌気的に24時間置いた後にペーパーポイントで採ったものを「サブスタンティビティ」の検体としました。結果、洗浄前は62本すべてが陽性。洗浄後の陽性は、生理食塩水23/23(100%)に対し、次亜塩素酸8/19(42.1%)、クロルヘキシジン6/20(30.0%)で、どちらも生理食塩水より有意に少なく(p<0.05)、両者の差は有意ではありません。陽性検体に残っていた菌数も、生理食塩水18.5に対しクロルヘキシジン1.0・次亜塩素酸2.1(p<0.05で生理食塩水と差、両者の差は有意でない)。にもかかわらず著者らの結論は「次亜塩素酸ナトリウムが第一選択と考えられなければならない」でした。理由は組織溶解作用です。
①「同じくらい効く」なら、置き換えていいのか
次亜塩素酸ナトリウムは根管洗浄剤の第一選択です。ただし欠点もはっきりしています。刺激性が強く、器具を変色させ、臭いもある。もっと安全で同じくらい効くものがあれば、それに越したことはありません。
1994年、テキサス大学のJeansonneとWhiteは、2.0%クロルヘキシジングルコン酸塩でそれを試しました。結果を先に言います。抗菌作用はほぼ同等でした。洗浄後に培養陽性だったのは、生理食塩水23/23(100%)に対して、次亜塩素酸8/19(42.1%)、クロルヘキシジン6/20(30.0%)。両者の差は統計学的に有意ではありません。それでも著者らの結論は「次亜塩素酸ナトリウムが第一選択と考えられなければならない」でした。この記事は、その「それでも」の理由についての話です。
②なぜ0.2%ではなく2.0%だったのか
クロルヘキシジングルコン酸塩は、口腔の抗菌薬としてすでに確立していました。歯周治療、う蝕予防、口腔の感染症全般。洗浄剤に向いた性質も揃っています——広い抗菌スペクトル、サブスタンティビティ(持続する残留効果)、そして毒性が比較的少ないこと。
つまりこの研究は、濃度を10倍に上げたらどうなるかという問いでもあります。
③今回の一手:洗浄前・洗浄後・24時間後の3時点で培養する
汚染対策が丁寧です。ラバーダムを付けて保持具に固定し、歯面をヨードフォアで清拭、70%エタノールでヨードフォアを除去してから滅菌生理食塩水を注水して開拡します。
検体は3つ。①洗浄前=滅菌バーブドブローチかファイルで取り出した歯髄を、器具ごと培地へ落とす。②洗浄後=ステップバック法で形成し(ファイルのサイズごとに1 mL、最終ファイル到達後に3 mLで洗浄、音波ハンドピースを20 psiで用いて洗浄液を撹拌)、乾燥させてから培地を満たし、音波ハンドピースで5秒間振動させて回収する。③サブスタンティビティ=再び培地を満たし、滅菌アルミ箔で覆って嫌気的に24時間置いた後、ペーパーポイントで採取する。
培養はヘミンとメナジオンを加えた嫌気性菌向けの培地で、37℃・72時間。チオグリコレートは陽性・陰性で記録し、血液寒天ではコロニー形成単位(CFU)を数えました。
④結果:陽性率も菌数も、両者に差はなかった
洗浄前は62本すべてが陽性でした。全例に細菌がいた状態からのスタートです。
洗浄後の陽性は生理食塩水23/23(100%)、次亜塩素酸8/19(42.1%)、クロルヘキシジン6/20(30.0%)。どちらの洗浄剤も生理食塩水より有意に陽性が少なく(p<0.05)、クロルヘキシジンのほうが数としては少ないものの、次亜塩素酸との差は有意ではありません(p>0.05)。
菌が生き残ったときの数も同じでした。陽性検体の平均CFUは生理食塩水18.5(標準偏差15.5)・次亜塩素酸2.1(2.1)・クロルヘキシジン1.0(1.0)。生理食塩水は他の2つより有意に多く(p<0.05)、クロルヘキシジンのほうが少ない傾向はあるものの、次亜塩素酸との差は有意ではありません。
24時間後のサブスタンティビティはどうか。陽性だった検体のうち、24時間後も陽性だったのは次亜塩素酸8→4本(50%減)、クロルヘキシジン6→1本(83%減)、生理食塩水23→18本(22%減)。生理食塩水で「無菌」になったのは23本中5本にとどまり、これに対してクロルヘキシジン(6本中5本)・次亜塩素酸(8本中4本)は有意に多い結果でした。両者の間に統計学的な差はありません。そして洗浄後に陰性だった検体が、24時間後に陽性へ転じたものは1本もありませんでした。
ただしこのサブスタンティビティの解析について、著者らは率直に不十分だったと認めています。設計はDelanyらの報告(0.2%クロルヘキシジンで90%が洗浄後も陽性)を前提にしていて、多くの陽性が24時間後に陰性へ転じることで持続効果が見えるはずだと想定していました。ところが洗浄後の陽性そのものが少なすぎて、解析が成り立たなかったのです。とはいえ、クロルヘキシジン群でサブスタンティビティの陽性が1本しかなかったことと、この薬剤の持続効果がすでに報告されていることから、今回の系でも持続効果は働いていたと考えられると述べています。
⑤それでも第一選択が変わらない理由——組織溶解
ここがこの論文の核心です。著者らは、まず仮定法で書きます。
そのうえで、こう続けます。しかし次亜塩素酸ナトリウムは、クロルヘキシジンが持つと知られていない、もう1つの非常に重要な性質を備えている。歯髄組織を溶かす作用です。多くの研究者がこれを報告しており、その意義に異論を唱える人もいるものの、大半の臨床家は根管形成における次亜塩素酸の組織溶解を最も重要だと考えている。
そして結論の一文はこうです。「クロルヘキシジンの持ちうる利点、すなわち毒性が比較的少ないことは、組織溶解性を欠くことを埋め合わせるには不十分である。クロルヘキシジンが歯髄組織の除去にも有効だと示されるまで——もしそれが可能だとして——次亜塩素酸ナトリウムが第一選択と考えられなければならない」。
抗菌の数字では勝っていた(有意ではないにせよ)薬剤を、測っていない別の性質を理由に退ける。この判断は、測定したことだけで結論を出さないという意味で誠実だと思います。同時に、この研究は組織溶解を測っていないという限界の裏返しでもあります。
⑥明日の臨床へ:居場所は2つ、注意点も2つ
著者らは退けるだけでなく、使いどころを具体的に挙げています。
⑦ここだけ、冷静に補助線
抜去歯62本のin vitroで、治療成績は評価していません。各群19〜23本と小さく、「差が有意でない」ことは「差がない」ことの証明ではありません(30.0%対42.1%という数字の開きを検出するには、この規模では足りない可能性があります)。また対象は単根歯と大臼歯の太い根管で、細く彎曲した根管での結果ではありません。
最大の限界は著者ら自身が書いているとおり、組織溶解を測っていないことです。第一選択を決めた理由が、この研究では検証されていない性質にあるわけです(他研究の報告に依拠しています)。サブスタンティビティの解析も、著者らが「十分に扱えなかった」と認めています。
そして利益相反。使用したクロルヘキシジングルコン酸塩は、Procter & Gamble社のWilliam Briner博士から提供されたもので、謝辞にその旨が記されています。結果はむしろ提供元の材料に不利な結論(第一選択は次亜塩素酸のまま)に着地していますが、材料の提供を受けた研究であることは押さえておく価値があります。
この論文の値打ちは、「同等に効く」で話を終えなかったところにあると思います。ひとつの指標で並んだからといって置き換えてよいとは限らない——洗浄剤に何を求めているのかを言語化したことが、この短い論文の仕事でした。
今日のひとこと
著者らの結論:2.0%クロルヘキシジングルコン酸塩は、根管の抗菌的な洗浄剤として次亜塩素酸ナトリウムと同程度に有効である。洗浄後に培養陽性だったのはクロルヘキシジン6/20(30.0%)・次亜塩素酸8/19(42.1%)で、どちらも生理食塩水の23/23(100%)より有意に少なく(p<0.05)、両者の差は有意ではありません。残っていた菌数もクロルヘキシジン1.0・次亜塩素酸2.1・生理食塩水18.5と同じ構図でした。それでも著者らは「次亜塩素酸ナトリウムが第一選択と考えられなければならない」と結論します。理由は1つ、次亜塩素酸には歯髄組織を溶かす作用があり、クロルヘキシジンにその作用は知られていないこと。「クロルヘキシジンの持ちうる利点、すなわち毒性が比較的少ないことは、組織溶解性を欠くことを埋め合わせるには不十分である」——抗菌力だけが洗浄剤の条件ならクロルヘキシジンが第一選択になる、という仮定法を置いたうえでの結論です。筆者の読みでは、この論文の値打ちは「同等に効く」を示したうえで、それでも置き換えない理由を明示した点にあります。使いどころも具体的で、次亜塩素酸にアレルギーのある患者と、根尖孔が大きく開いていて次亜塩素酸が根尖から漏れうる歯を挙げています。ただし抜去歯62本のin vitroで、治療成績は評価していません。使用したクロルヘキシジンはProcter & Gamble社から提供されたものです。


