1問1答 論文 エンド

根管充填、細菌は通さなくても水は通る?——側方加圧で充填した抜去歯の根60本を1.2気圧の水で押すと、著者らの基準(0.4 μL/日)以上に水が流れたのは21本(35%)、50日間に緑膿菌が根尖側へ抜けたのは29本中2本(7%)だった(抜去歯のin vitro研究)

1問1答 論文 エンド

エンド|側方加圧で充填した上顎犬歯の根を、水の流れ(1.2気圧で押して根尖側に出る量)と、緑膿菌が根尖側へ抜けるか(50日間)の2つの物差しで比べた古典(Wu ほか 1993・Int Endod J)

根管充填の「漏れ」は、どの物差しで測るかで答えが変わります。アムステルダム(ACTA)のWuらは、色素の染み込みとは別の方法として、充填した根の歯冠側から1.2気圧(120 kPa)で水を押し、根尖側につないだ細いガラス管の中の気泡がどれだけ動くかで「充填材に沿って流れる水の量」を測る装置を作りました。上顎犬歯の抜去歯62本の根尖側10 mmを使い、60本を冷間側方加圧(AH-26シーラー)で充填して30本ずつ2群に分けます。グループ1はまず歯冠側に緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を入れて50日間観察し(汚染のあった1本を除く29本)、その後に全60本の水の流れを測りました。結果、50日間で細菌が根尖側へ抜けたのは29本中2本(7%)。一方、水の流れでは、著者らが「細菌が通れない大きさの隙間」と計算した基準(0.4 μL/日未満)に収まったのは60本中39本で、21本(35%)は基準を超えました。細菌が抜けた2本は、水の流れでも「わずかな漏れ」と「大きな漏れ」の区分に入っています。先に細菌試験をしたかどうかで、水の流れの分布に有意差はありませんでした(P>0.25)。ただし抜去歯を使った実験室のモデルで、口の中にはない1.2気圧の圧をかけた条件です。

論文
Fluid transport and bacterial penetration along root canal fillings
著者
M.-K. Wu、A. J. De Gee、P. R. Wesselink、W. R. Moorer(Academic Centre for Dentistry Amsterdam〔ACTA〕・カリオロジー/歯内療法学講座、De Geeは歯科材料学講座)
掲載
International Endodontic Journal 1993;26(4):203-208
種類
抜去歯を使った実験室研究(in vitro)。ヒト上顎犬歯の抜去歯62本(4%ホルムアルデヒド液で保存)の根尖側10 mmを使用。1人の術者が根尖孔の大きさをそろえ、根尖側1/3を#45、残りを#70までステップバック形成し、冷間側方加圧(AH-26シーラー)で60本を充填。未充填の根2本を陽性対照、ガラス棒2本を陰性対照とした。グループ1(30本)は滅菌したBHI培地中で扱い、歯冠側の容器に緑膿菌を入れて50日間、根尖側の容器の濁りを観察(10日ごとに新しい培地と菌を補充。事前の2週間の汚染確認で濁った1本は細菌試験から除外=29本)。グループ2(30本)は37℃・湿度100%で48時間保管したのみ。その後、全根で歯冠側から1.2気圧(120 kPa)で水を押し、根尖側のガラス管内の気泡の移動量を3回測って平均。0.4 μL/日未満=BT(bacteria tight)、0.4〜20 μL/日=SL(わずかな漏れ)、20 μL/日超=GL(大きな漏れ)に区分し、カイ二乗検定で2群を比較。GLの根は3 mmごとに輪切りにして実体顕微鏡(×52)で亀裂の有無を確認
PMID
8225638

その根管充填、「漏れていない」のは何に対して?

根管充填の封鎖性を比べた論文は山ほどあります。ところが、冷間側方加圧の色素試験では染み込みが数mmにとどまったという報告が多い一方で、歯冠側を封鎖していない根管治療歯を細菌で調べ、42日以内に半数が汚染されたという報告もあります。筆者の見立てでは、こうした差は術式の差だけでなく何を流して漏れを測ったかからも生まれます。

この1993年の研究は、充填した根に「細菌」と「水の流れ」の2つの物差しを当てた実験です(両方を当てたのはグループ1。グループ2は水の流れだけ)。結論を先に言うと、グループ1で50日間に緑膿菌が根尖側へ抜けたのは29本中2本(7%)。一方、2群あわせた60本を1.2気圧の水で押すと、著者らが「細菌が通れない大きさ」とした基準を超えて水が流れた根は60本中21本(35%)ありました。

色素でも細菌でもない、第3の物差し

当時、根管充填の漏れは色素や放射性同位元素の染み込み、細菌の通過、電流の流れやすさなどで測られていました。著者らは、色素の染み込みは毛細管現象と拡散で起きるので、隙間に閉じ込められた空気に邪魔される、と指摘します。細菌の動きも同じく空気の影響を受けます。

そこで使ったのが、象牙細管や歯冠修復の漏れを測るために報告されていた「圧をかけて水を流し、ガラス管の中の気泡の動きで流量を読む」方法です。著者らはこれを根管充填用に作り直し、しかも気泡を根尖側(出口側)に置きました。入口側に置くと、圧のかかったつなぎ目からの漏れが測定を乱すため、と説明しています。

60本を、細菌と水で調べる

歯:ヒト上顎犬歯の抜去歯62本根尖側10 mm(4%ホルムアルデヒド液で保存)。外側はバーで円柱状に整え、チューブに密着させました。
形成と充填:1人の術者が、根尖孔の大きさをそろえたうえで根尖側1/3を#45、残りを#70までステップバック形成。2%次亜塩素酸ナトリウム5 mLで洗浄し、冷間側方加圧+AH-26シーラーで60本を充填しました。根の表面はマニキュア2層で覆っています。
対照:充填しない根2本(陽性対照)と、長さ10 mmのガラス棒2本(陰性対照)。
グループ1(30本):滅菌したBHI培地の中で扱い、歯冠側と根尖側に培地の容器をつなぎました。2週間の汚染確認で1本の培地が濁ったため、この1本は細菌試験から外し、残る29本の歯冠側に緑膿菌Pseudomonas aeruginosa・小さくて運動性のある菌)を入れて50日間、根尖側の培地の濁りを観察。10日ごとに新しい培地と菌を補充しています。
グループ2(30本):同じように充填し、37℃・湿度100%で48時間置いただけ。
水の流れ:その後、全60本の歯冠側から1.2気圧(120 kPa)で蒸留水を押し、根尖側につないだガラス管(20 μL・長さ170 mm)の中の気泡の移動量を3回測って平均しました。

ポイントは区分の決め方です。著者らは「隙間の長さを10 mm、直径を細菌がやっと通れる2 μm」と仮定し、流体の式(ポアズイユの式)からその隙間を流れる水は1日0.4 μLと計算しました。これより少なければBT(bacteria tight=細菌が通れない)、0.4〜20 μL/日(隙間の直径でおよそ5 μmまで)をSL(わずかな漏れ)、20 μL/日を超えればGL(大きな漏れ)です。つまりBTは計算にもとづく定義で、その根に細菌を当てて確かめた区分ではありません。

装置の確かさも確認しています。充填しない根に1.0 μLと1.5 μLの水を10回ずつ入れると、根尖側では1.0±0.098 μL1.525±0.053 μLと読めました。

結果:細菌は29本中2本、水は60本中21本

まず細菌です。充填しない根(陽性対照)2本と、充填した根1本の根尖側の培地が1週間以内に濁り、もう1本は20日目に濁りました。4つの容器すべてから緑膿菌が確認されています。陰性対照と、残る充填した根27本の培地は50日間濁らず、培養でも菌は出ませんでした。充填した29本のうち、細菌が抜けたのは2本です。

次に水の流れ。陰性対照のガラス棒では水は流れず、充填しない根では気泡が速すぎて測れませんでした。充填した60本の区分は次のとおりです。

0 8本 16本 24本 本数(各群30本中) 18本 21本 9本 5本 3本 4本 BT(0.4 μL/日未満) SL(0.4〜20 μL/日) GL(20 μL/日超) グループ1(先に細菌試験 50日) グループ2(水の流れだけ) 原著の表1。側方加圧で充填した上顎犬歯の根(根尖側10 mm)を1.2気圧(120 kPa)の水で押し、根尖側に出てくる水の量で3区分に分けた。濃い棒=グループ1(30本。うち1本は汚染のため細菌試験から外し、細菌液に保管してから測定)、淡い棒=グループ2(30本)。BT(bacteria tight)は、長さ10mmの隙間を仮定した計算で直径2 μm未満=細菌が通れない大きさ、という著者らの定義で、各根に細菌を当てて確かめた区分ではない。2群の分布に有意差なし(カイ二乗検定 P>0.25)
充填した根60本の水の流れの区分(原著の表1)。濃い棒=グループ1(先に細菌試験)、淡い棒=グループ2(水の流れだけ)。2群の分布に有意差なし(カイ二乗検定 P>0.25)
グループ1(30本):BT 18本、SL 9本、GL 3本。
グループ2(30本):BT 21本、SL 5本、GL 4本。
合計(60本):BT 39本、SL 14本、GL 7本
細菌が抜けた2本:水の流れではSLとGLの区分に入りました
GLの7本:輪切りにして実体顕微鏡で見ても、象牙質に亀裂はありませんでした。
0 15% 30% 45% 漏れと判定された割合(%) 35% 7% 水の流れ0.4 μL/日以上(60本中21本) 細菌の通過50日間(29本中2本) 割合は原著の考察の値(35%=21/60、7%=2/29)。水の流れは2群60本すべて、細菌の通過はグループ1のうち細菌を当てた29本が対象で、分母も判定方法も違う。細菌が通過した2本は、水の流れでもSLとGLの区分に入った
物差しによる「漏れ」の割合の違い(原著の考察の値)。水の流れは60本、細菌の通過は29本が対象で、分母も判定方法も違う点に注意

先に50日間の細菌試験(とその前の根と培地の高圧滅菌)を経たグループ1と、経ていないグループ2で、水の流れの分布に有意差はありませんでした。著者らはここから、細菌試験は後の水の流れの測定に統計学的な影響を与えなかった、と述べています。

なぜ、水と細菌で数字がずれるのか

著者らの考察は3つです。

ひとつめは空気です。充填の隙間に閉じ込められた空気は、圧をかけた水なら押し出せるけれど、細菌の通過は止めてしまうかもしれない。だから水のほうが「漏れ」を多く拾うのは予想どおりだった、としています。

ふたつめは基準の厳しさです。BTに入らなかった根にも、細菌が通れない2 μm以下の隙間しかなく、ただ長さが10 mmより短かったり、そうした隙間が複数あったりするだけのものが含まれ得る。長さ10 mmにわたって2 μmの隙間が続くことは考えにくいので、0.4 μL/日という線は厳しすぎるかもしれない、と著者ら自身が書いています。

みっつめは細菌より小さいものです。根管充填は細菌を通さないことが大事とされていますが、著者らは細菌の毒素の漏れも軽視できないとし、測定時間をのばせば、この水の流れのモデルで毒素が通り得る小さな隙間も検出できるかもしれない、と述べています(この実験で毒素を測ったわけではありません)。

あわせて、同じ術者・同じ術式でも根ごとの流量のばらつきが大きかった点について、装置の誤差ではなく、形成した根管の容積、スミヤー層の厚さ、象牙細管の開き具合、シーラーとガッタパーチャの量や分布、加圧の具合、術者のミスといった、コントロールしきれない要因によるものだろう、と考察しています。

明日の臨床へ

著者らの結論:水は充填した根管を通り抜けるが、その多くは細菌を通さない。
補足(筆者の読み):
・この論文が示したのは、漏洩試験の「漏れた割合」は物差しで大きく変わるということです。著者らは考察で、1980〜1990年に報告された冷間側方加圧の色素試験をまとめると、測定の87%で色素の染み込みが5.5 mm未満だったこと、細菌を使った別の研究(Torabinejadら 1990)では42日以内に50%が汚染されたことにも触れています。今回の緑膿菌は7%。著者らは、この差は細菌の種類の違いか、無菌操作を保つ難しさから来るのかもしれない、としています。
・なので、封鎖性の論文を読むときは「何%漏れたか」より先に「何で、どんな条件で測ったか」を見る。これがいちばん持ち帰りやすい教訓です。
・同じ術者が同じ術式で充填しても、60本中21本は著者らの基準を超えて水が流れ、ばらつきも大きかった。著者らは、術式や材料をより精度よく比べるには、こうした条件をそろえる努力が要る、と述べています。
・一方で、1.2気圧は口の中の条件ではありません。著者らも「圧をかけることに臨床的な意味はないかもしれない」と書き、利点は漏れの検出を速められる点だとしています。この35%を「実際の患者さんの根管の35%で液が漏れている」と読み替えることはできません。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、ホルムアルデヒド保存の上顎犬歯の抜去歯の根尖側10 mmを使った実験室のモデルで、歯冠側の封鎖や口の中の組織液・咬合の力はありません。第二に、BT・SL・GLの境目は計算と仮定にもとづく線で、20 μL/日は著者ら自身が「任意の値」と書いています。第三に、細菌は緑膿菌の1種類・50日間で、細菌の通過を調べたのはグループ1の29本だけです。第四に、グループ1とグループ2は細菌の有無だけでなく、培地での保管・滅菌・期間も違うので、「差がなかった」はその条件の組み合わせで差が出なかったという意味です。第五に、要旨では「30本を先に細菌にさらした」と書かれていますが、本文では汚染のため1本を外して29本になっており、考察の7%も2/29で計算されています。それでも、グループ1の根に細菌と水の両方を当て、物差しによって漏れの数字がどれだけ変わるかを見せた設計は、漏洩研究を読むときの目を養う1本として、今も読む価値があります。

今日のひとこと

著者らの結論:水は充填した根管を通り抜けるが、その多くは細菌を通さない。この実験では、細菌を当てた29本のうち50日間に緑膿菌が抜けたのは2本、一方で2群60本を1.2気圧の水で押すと21本が著者らの基準を超えた。筆者の読みでは、この論文の値打ちは「漏れの割合は、物差しを変えると大きく変わる」ことを、細菌と水の両方を当てた実験で示した点にあります。ただし抜去歯・口の中にはない圧をかけた実験室の話で、治療の成績を比べたものではありません

Wu MK, De Gee AJ, Wesselink PR, Moorer WR. Fluid transport and bacterial penetration along root canal fillings. Int Endod J. 1993;26(4):203-208. PMID: 8225638
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。