エンド|根管治療の「成功率」を支えてきたX線判定そのものの揺れを、6人の評価者で確かめた古典(Goldman・Pearson・Darzenta 1972・Oral Surg Oral Med Oral Pathol)
リコールのデンタルを見て「治っている」と判断する——根管治療の成功率を報告した研究の多くも、同じようにX線写真の読影で成否を決めてきました。タフツ大学のGoldmanらは、その土台がどれほど確かなのかを問いました。ある歯内療法の診療所の記録から、症状も瘻孔もなく、根管充填直後と6か月以上後の写真がそろった253症例を無作為に選び、専門医2人・放射線科の准教授1人・大学院生3人の計6人に、相談なしで別々に判定させています。結果、成功・失敗・判定不能の3区分で6人全員の判定がそろったのは253症例中119症例(47%)。比較をせず、術直後の1枚に透過像があるかだけを問うても、失活歯159症例で全員一致は67症例(42.1%)でした。「失敗」と判定した数は、評価者によって6件から48件まで開いています。
①「治っている」は誰が決めた?
根管治療から半年。リコールのデンタルを撮って、根尖の透過像が小さくなっていれば「治ってきていますね」と説明する。変わらなければ、もう少し様子を見る。毎日のように繰り返す判断です。では、同じ写真を隣の先生が見たら、同じ答えになるでしょうか。
この1972年の研究は、そこを正面から確かめました。結論を先に言うと、同じ253症例の写真を6人が別々に読んだところ、成功・失敗・判定不能の3区分で全員の判定がそろったのは47%。2枚を比べる必要のない「術直後の1枚に透過像があるか」だけを問うても、全員一致は42.1%でした。
②成功率の研究が立っていた土台
当時、根管治療の成功と失敗を調べた研究はすでに数多くありました。Strindbergは根管充填の過不足、BenderとSeltzerは細菌培養の陽性・陰性という切り口で成功率を比べ、シルバーポイントとガッタパーチャを比べた研究もありました。著者らは、どの研究も丁寧に行われていると認めたうえで、結果の大半はX線写真の解釈に基づいており、研究全体がその「かなり疑わしい土台」の上に建っていると指摘します。
透過像はあるのか。根尖はどこか。病変はどのくらいの大きさか——根管治療をしていれば誰もが日々迷う点です。加えて、骨の破壊が皮質骨に及ばないとX線写真には通常現れない、というBenderとSeltzerの報告もありました。そこで著者らは、X線診断そのものの信頼性を調べることにしました。
③6人に、相談なしで読ませた
準備:写真はマウントして番号を付け、治療開始時の歯髄の状態(生活歯か失活歯か)を記録。
評価者:歯内療法の専門医2人(経験25年と20年)、放射線科の准教授1人、歯内療法の大学院2年生3人の計6人。それぞれ互いに相談せず、別々に判定しました。
判定基準:・生活歯と、術前に透過像がない失活歯——経過観察でも透過像なしなら成功、透過像が出たら失敗
・術前に透過像がある失活歯——透過像が治癒した、または明らかに小さくなったら成功、大きくなったら失敗
・透過像があるか決められない、大きくなったか小さくなったか同じか決められない、写真が不良——判定不能
判定は2種類です。ひとつは2枚の写真を読んで比べる「成功・失敗・判定不能」。もうひとつは、失活歯159症例の術直後の写真だけを見て「透過像があるか・ないか」を答えるもの。こちらは比較のいらない、1枚への1回の判断です。
④結果:一致は半分に届かなかった
術直後の1枚に透過像があるか(失活歯159症例):全員一致は67症例(42.1%)、5人以上の一致で114症例(71%)。比べる作業がないのに、全員一致は成功・失敗の判定よりわずかに低くなりました。「透過像なし」と答えた数は、評価者によって28本から76本まで開いています。
両方を合わせる(253症例):全員一致は77症例(30.4%)、5人以上で134症例(53%)。
人数を減らすと:3人ずつの組では、評価者1〜3が成功・失敗・判定不能で165症例(65%)、透過像の有無で98症例(61%)。評価者4〜6は143症例(56%)と104症例(65%)。いちばん厳しく判定した2人(評価者4と6)に絞っても、73%(187症例)と78%(125症例)でした。
著者らは、フィルムの濃度やX線の照射角度、現像の違いが原因ではないかという反論も想定しています。しかし全員が同じフィルムを見ているので、そうした条件の差は打ち消し合うはずだ、と述べています。
⑤「失敗」の数は6件から48件まで
評価者ごとの集計(表I)では、成功と判定したのが162〜203症例、失敗が6〜48症例、判定不能が23〜52症例でした。同じ253症例なのに、失敗の数に8倍(48÷6)の開きがあります。
著者らは、ここに興味深い点を見つけています。失敗を6件しか見つけなかった評価者は、多くの患者を自分で治療していた人でした。9件と12件の評価者も、多くの患者を治療していました。一方、28件・41件・48件の3人は、患者を1人も治療していません。そして48件と最も多く失敗を拾ったのは放射線科の准教授で、著者らは「訓練の違いから、歯内療法の専門医が考慮しない要素まで見ていた」と書いています。
ただし、原著には評価者の番号と職種の対応が示されていません(放射線科の准教授が48件の評価者であること以外)。治療した3人と治療していない3人の専門や経験年数の構成がわからないため、「術者だから甘く見た」とは言い切れない点は押さえておきたいところです。
⑥奥歯ほど、そして前歯でも
歯の部位ごとの集計(表III)では、上顎大臼歯がもっとも一致しにくく、生活歯で一致3症例・不一致14症例、失活歯で一致5症例・不一致10症例でした。
意外なのは前歯です。著者らは、上下の前歯は本来いちばん鮮明な写真が撮りやすい歯だと述べていますが、失活歯の上顎前歯でも一致28症例に対して不一致34症例と、そろわなかった症例のほうが多くなりました。下顎前歯(失活歯)も一致6・不一致9症例です。
著者らの言葉を借りれば、私たちはX線写真を「読んで」いるのではなく「解釈して」いる。文字なら誰が見ても同じ単語を読みますが、X線写真は見る人の疲れ具合や、見る時間帯、受けた指示までが解釈に入り込む、と述べています。
⑦明日の臨床へ
補足(筆者の読み):
・成功率の論文を読むときの確認点が増えます。判定したのは誰で、何人か。治療した本人か、治療に関わっていない人か。判定の前に基準をすり合わせたか。意見が割れたときにどう決めたか。
・自分のリコールでの「治った」も、1人の解釈です。この論文が検証したわけではありませんが、術直後の写真と並べて比べる、迷う症例は他の先生にも見てもらう、写真だけでなく症状や瘻孔の有無といった所見と合わせて判断する、といった工夫が素直な受け止め方でしょう。
・術者が見ると失敗が少なく数えられたという観察は、自分の症例を自分で評価するときに思い出したい点です(ただし上で触れたとおり、この研究だけでは原因を切り分けられません)。
・この結果を踏まえると、X線写真で成否を判定する研究では、評価者の事前の較正や、偶然の一致を差し引いた一致度の報告が求められるようになった、と読むのが自然です(筆者の補足)。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:X線写真は根管治療の成否を決める手段としてかなり心もとない。私たちはX線写真を「読む」のではなく「解釈」している。6人が別々に判定すると、一致したのは半数に満たなかった。今後の成否研究は、この揺れを考慮に入れなければならない。筆者の読みでは、この論文が突きつけるのは数字の低さより、「成功率○%」という数字の裏には、必ず誰かの判定があるという当たり前の事実です。論文の成功率を読むときも、自分のリコールで「治った」と言うときも、誰が・何人で・どんな基準で見たのかを一度確かめたくなります。


