エンド|根尖病変のある単根の失活歯30本で、根管形成と洗浄のあとに水酸化カルシウムを10分置く群と7日置く群に分け、嫌気培養で菌の残り方を比べた臨床研究(Sjögren ほか 1991・Int Endod J)
試験管の中では、根管によくいる細菌の多くが水酸化カルシウムに1〜6分触れるだけで死にます。では口の中でも、貼薬は短時間で済むのでしょうか。スウェーデン・ウメオ大学のSjögrenらは、根尖に骨の透過像がある単根の失活歯30本で、根管形成・0.5%次亜塩素酸ナトリウムでの洗浄・超音波ファイリングを済ませたあと、水酸化カルシウムのペーストを12本には10分だけ、18本には7日間置きました。器械的形成と洗浄を終えた時点で、菌はまだ30本中15本(両群とも半数)から検出されています。そこから先が分かれました。7日置いた18本は、貼薬を除去した直後も、その後1〜5週間あけて封鎖したままにした最終サンプルでも、1本も菌が出ませんでした。一方、10分だけの12本では、次回来院時に6本から菌が検出されました。残った14株のうち13株は嫌気性菌で、通性嫌気性菌はEnterococcus faecalisが1株でした。
①その水酸化カルシウム、何日置くつもりですか
感染根管の1回目。形成と洗浄を終え、水酸化カルシウムを入れて仮封する——ここまではほぼ全員が同じです。分かれるのは次の予約をいつにするか。1週間後か、2週間後か、あるいは「今日のうちに詰めてしまいたい」か。
結論を先に言うと、この1991年の研究では、7日間置いた18本は1本残らず培養陰性になりました。対して10分だけ置いた12本では、次回来院時に6本から菌が出ています。器械的形成と洗浄を終えた時点では、両群とも半数の根管にまだ菌がいました(ただし治療前の菌数は10分群のほうが低めで、どう振り分けたかの記載もありません。後述します)。
②なぜ「短時間でいけるのでは」と思われたのか
根尖性歯周炎の成り立ちに細菌が決定的な役割を果たすことは、1965年のKakehashiらの無菌ラットの実験以来、疑いようがなくなっていました。だから根管治療の大きな目標のひとつは、根管から細菌をなくすことです。
ところが著者らの研究グループ自身が、それまでの一連の研究で困った事実を突きつけていました。ていねいな器械的形成と抗菌性の洗浄液を使っても、1回の治療のあとでは、治療した根管の半数にまだ細菌が残っていたのです。器械的形成は菌数をおよそ1000分の1に減らすものの、ゼロにはならない。そこで貼薬の出番になります。
水酸化カルシウムの有効性を示した過去の研究は、いずれも1か月以上貼薬したものでした。一方、試験管の中では、根管によくいる細菌の多くが飽和水酸化カルシウム溶液に1〜6分触れるだけで死ぬことも分かっていました。では最短どれくらい置けば足りるのか——そこがはっきりしていなかった、というのがこの研究の出発点です。
③実験の組み立て
治療:ラバーダムと無菌的手技。細い根管はHファイルで#20が作業長に入るまで拡大してから超音波を約3分。太い根管は超音波を先に使い、根尖部は手用ファイルで形成。作業長で#40以上まで拡大し、洗浄は0.5%次亜塩素酸ナトリウム。
貼薬:乾燥後、水酸化カルシウムペーストをレンツロで填入しペーパーポイントの尻で圧接。12本は10分、18本は7日間。窩洞は4 mm以上の酸化亜鉛ユージノールで封鎖。
サンプリング:①治療前 ②器械的形成・洗浄の後(残った次亜塩素酸は5%チオ硫酸ナトリウムで失活させてから採取)③7日群は貼薬除去直後 ④根管を空のまま封鎖して1〜5週間おいた最終サンプル。
培養:嫌気ボックス内で血液寒天に播種。好気48時間と嫌気10日以上の両方で観察し、1週間ごとに2回植え継いで発育がないことを確かめてから陰性と判定。
最終サンプルまでに根管を空のまま置く期間を設けたのは、貼薬を生き延びてごく少数だけ残った菌がいれば、その間に増えて検出できるはずだという考えからです。
④結果:7日は全滅、10分は半分が残った
器械的形成・洗浄の後:10分群は12本中6本、7日群は18本中9本が陽性。ただし菌数はたいてい10²未満で、10³を超えたのは2検体だけでした。
7日群:貼薬を除去した直後も、その後1〜5週間あけた最終サンプルでも、18本すべてで菌は検出されず。
10分群:次回来院時に6本から菌が検出されました。
興味深いのは、10分群で菌が出た6本の内訳です。3本は器械的形成の後のサンプルでも菌が出ていた一方で、残り3本は形成後には陰性だった根管です。検出限界を下回っていた菌が、空の期間に増えて捕まったとみられます。逆に別の3本では、形成を生き延びた菌が10分の貼薬で消えていました。原著の結語は一貫して「10分の応用は無効だった」ですが、筆者の読みでは、まったく無力というよりあてにできない、というほうが実態に近いと思います。
なお、根管を空のまま置く期間の長短(1週間か、1週間超か)と菌が出るかどうかに関係はありませんでした。最終サンプルで陽性だった6本のうち4本は1週間、2本はそれ以上でした。
⑤残っていた菌の顔ぶれ
10分群で菌が残った6本から分離された14株のうち13株は嫌気性菌で、通性嫌気性菌はEnterococcus faecalisが1株だけでした。並ぶ顔ぶれはFusobacterium nucleatum、Bacteroides、Peptostreptococcus micros、Wolinella recta、Lactobacillus など。残った株は1例を除いてすべて治療前のサンプルにもいた株で、その例外が、まさにこのE. faecalis(症例EQ)でした(表1では治療前1.0×10²、器械的形成の後は10²未満、次回来院時に4.0×10²)。
一方、7日貼薬群では、治療前にE. faecalisが検出された3例のうち2例は器械的形成の段階で、残る1例は水酸化カルシウムの貼薬で消えました。著者らは、E. faecalisは水酸化カルシウムで急速には死なない菌として知られるものの、最初から少数であればこの治療手順で排除できており、失活歯の治療で残存が問題になったことは本研究を含むこれまでの一連の研究でない、と述べています。ただし上のEQの1例が示すとおり、10分では残ることがある——という読み方は必要です。
⑥なぜ10分では効かないのか
試験管で1〜6分で死ぬ菌が、根管の中では10分では確実に死なない。著者らはその理由を、薬が10分では目的の場所に届かないためではないかと推測しています(原著の表現も「may well be due to…」で、断定はしていません)。
根拠として引かれているのが、水酸化物イオンはハイドロキシアパタイトの緩衝能のせいで象牙質の中を容易には拡散しないという報告です。時間をかけて十分な量の水酸化物イオンが供給されれば、この緩衝能はいずれ乗り越えられます。1か月貼薬した歯では、根の中心のpHが周辺より高い拡散の勾配ができることも知られていました。菌は自分がいる象牙質の緩衝能に守られて、最初のうちは致死的な水酸化物イオンに曝されずに済んでいる可能性がある、というわけです。
そのほかに挙げられているのは、①水酸化カルシウムは溶けにくく、水酸化物イオンの放出には水が要るのに、形成後の根管では水分子が乏しくなりうること ②試験管の実験では広い表面積がイオンに曝されていたが、根管内ではそうならないこと ③細菌は小さなコロニーを作り、中心の菌は外側の菌に守られうること ④象牙細管の中の菌はまず入口でしかイオンに触れないこと ⑤側枝や歯髄組織の残り、スメア層の中にも菌が潜みうること、です。実際、試験管でE. faecalisを感染させた象牙質試料を24時間曝露すれば菌は排除できたが、それより短い曝露では生き残ったという実験(Safaviら1990)も引かれています。
⑦明日の臨床へ
補足(筆者の読み):
・この研究が示したのは「水酸化カルシウムが効くか」ではなく「効くには時間が要る」という一点です。薬を替える前に、置く時間を確保できているかを見直す価値があります。
・裏を返せば、器械的形成と洗浄だけでは半数の根管に菌が残っていたという数字のほうが、日常では重く響きます。「よく洗ったから大丈夫」は、この研究の中では成り立っていません。
・比べられたのは10分と7日の2点だけです。24時間や3日で足りるかは、この研究からは言えません。7日を下限の目安として扱うのが素直な読み方だと思います。
・対象は単根歯で、根管形成は#40以上まで、洗浄は0.5%次亜塩素酸ナトリウム。大臼歯や湾曲根管、現在の濃度・器具にそのまま置き換わる数字ではありません。
・アウトカムは細菌が培養されるかどうかであって、根尖病変が治ったかどうかではありません。培養陰性がそのまま治癒を意味するわけではない点は押さえておきたいところです。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:水酸化カルシウムの貼薬は、器械的形成を生き延びた細菌を効率よく排除し、7日間貼薬すれば信頼できる予測可能な結果が得られる。一方、10分の応用は、細菌を殺すには無効だった。筆者の読みでは、この研究の核心は「水酸化カルシウムが効くかどうか」ではなく、効くために時間が要る、という一点です。試験管で1〜6分で死ぬ菌が、根管の中では10分では確実に死なない。差を生んでいるのは薬ではなく、水酸化物イオンが菌のところまで届くまでの距離と時間だ、というのが著者らの説明です。


