保存修復|短繊維強化コンポジットレジン(everX Posterior)と臼歯用バルクフィル2製品の曲げ強さ・曲げ弾性率・表面粗さ・重合収縮・硬化深さを、試験片で比べた実験室研究(Jafarnia ほか 2021・Journal of Oral Science)
大きな臼歯窩洞を、ガラス繊維入りのCRで埋める。メーカーは「表層は通常のCRで覆う」よう勧めていますが、その理由や、ほかの物性がバルクフィルと比べてどうなのかを数字で見る機会は多くありません。長崎大学のグループは、短繊維強化CRのeverX Posteriorと、臼歯用のバルクフィル2製品(Filtek Bulk-fill・Beautifil-Bulk)を試験片で比べました。everX Posteriorは曲げ弾性率(15.4 GPa)と硬化深さ(4.24 mm)が3製品で最も高く、一方で曲げ強さ(145 MPa)はFiltek Bulk-fill(167.5 MPa)より有意に低く、#80の研磨紙で削った後の表面粗さは3製品で最も大きい値でした。
①繊維入りCR、どこまで任せる?
大きな臼歯窩洞を、ガラス繊維入りのCRで埋める。メーカー(GC)は表層を通常のCRで覆うよう勧めている、と論文は紹介していますが、「なぜ覆うのか」「そもそもバルクフィルより強いのか」を数字で確かめたことはあるでしょうか。
この論文は、短繊維強化CRのeverX Posteriorと、臼歯用バルクフィル2製品を試験片で並べました。結果は一方的な勝ちではありません。曲げ弾性率と硬化深さはeverX Posteriorが3製品で最も高い一方、曲げ強さは最高ではなく、粗い研磨紙で削った後の表面は最も粗かった。土台としての物性と、表層に向かない性質の両方が、同じ実験の中で見えています。
②なぜ比べる必要があったのか
臼歯部のCRには、機械的性質の不足と重合収縮という2つの課題があります。著者らは引用研究をもとに、機械的性質が足りないと咬合力で修復物の変形や破折につながり、収縮が大きいと辺縁の劣化から二次う蝕につながると整理しています。
その対策として登場したのが、4 mm程度まで一度に詰められるバルクフィルと、ガラス繊維を混ぜた短繊維強化CRです。臼歯用の選択肢が増えた分、どれを選ぶかで迷う。そこで、曲げ強さ・曲げ弾性率・表面粗さ・重合収縮・硬化深さを同じ条件で並べて比べよう、というのがこの研究の狙いです。
③今回の比較:3製品×5つの物性
・everX Posterior(GC):短繊維強化CR。レジンはBis-GMA・PMMA・TEGDMA、フィラーは短いEガラス繊維とバリウムホウケイ酸ガラス(74.2 wt%)
・Filtek Bulk-fill(3M ESPE):高粘度バルクフィル。レジンはAUDMA・UDMA・DDMA、フィラーはシリカ・ジルコニアなど(76.5 wt%)
・Beautifil-Bulk(松風):高粘度バルクフィル。レジンはBis-GMA・TEGDMA、フィラーはS-PRG(87.0 wt%)
測ったもの
・曲げ強さと曲げ弾性率:ISO 4049の3点曲げ(2×2×25 mmの棒、37℃水中に24時間置いてから)
・表面粗さ:直径8 mmの円板を、削らない/研磨紙#400で削る/#80で削るの3条件(各10本)
・体積収縮:ダイヤルゲージを使った自作装置で線収縮を測り、計算で換算(各15本)
・硬化深さ:ISO 4049法。直径4 mmの型に詰め、ガラス板越しに照射器を密着させて20秒照射し、硬化した長さの半分を値とする(各10本)
曲げ・収縮・硬化深さの試験片は1,200 mW/cm²のLED照射器で20秒(曲げ試験片は3か所に重ねて照射)。粗さ試験片の照射条件は記載なし。
④結果1:弾性率は最も高く、曲げ強さは最高ではない
曲げ強さは、Filtek Bulk-fillが167.5 MPaで最も高く、everX Posteriorは145 MPa、Beautifil-Bulkは114.4 MPaでした。3製品の間はすべて有意差ありです。つまりeverX PosteriorはFiltek Bulk-fillより有意に低く、Beautifil-Bulkより有意に高いという中間の位置でした。
一方、曲げ弾性率(たわみにくさ)は、everX Posteriorが15.4 GPaで最も高く、Filtek Bulk-fillが12.9 GPa、Beautifil-Bulkが10.9 GPaでした。こちらも3製品すべての組み合わせで有意差がありました。
なお、抄録ではeverX Posteriorの曲げ強さを他の2製品と「同程度(comparable)」と表現していますが、本文の統計ではどちらとも有意差が出ています。数字は本文と図2に従って読むのが安全です。
⑤結果2:硬化深さは最も深く、収縮は最小だが差は一部
硬化深さは、everX Posteriorが4.24 mmで、Beautifil-Bulk(3.66 mm)とFiltek Bulk-fill(3.59 mm)より有意に深い値でした。バルクフィル2製品の間には有意差がありませんでした。
・Beautifil-Bulk 3.09%/Filtek Bulk-fill 2.52%/everX Posterior 2.29%
・Beautifil-Bulkは他の2製品より有意に大きかった
・everX PosteriorとFiltek Bulk-fillの間は有意差なし。「最も小さい」は平均値の順位で、2製品の差は統計的には示されていません
⑥結果3:削った後の表面は、everX Posteriorが最も粗い
削る前の表面粗さは、Beautifil-Bulk 0.53、Filtek Bulk-fill 0.30、everX Posterior 0.47 μmで、表2の記号では3製品の間に有意差はありませんでした。#400で削ると、everX Posterior(1.01 μm)はBeautifil-Bulk(0.63 μm)より有意に粗くなり、Filtek Bulk-fill(0.81 μm)とは有意差がありませんでした。
#80で削った後は、everX Posteriorが3.06 μmで3製品のうち最も粗く、Filtek Bulk-fill 2.54 μm、Beautifil-Bulk 1.53 μmと、すべての組み合わせで有意差がありました。Beautifil-Bulkは、削る前と#400の間でも有意差がなく、粗さの増え方が最も小さい製品でした。
ひとつ注意があります。結果の本文は「削る前はBeautifil-Bulkが他より粗かった」と、有意差の有無には触れずに平均値の大小を述べています(表2の記号では3製品に有意差なし)。一方、考察には「削る前のeverX Posteriorは粗さが小さかった」とありますが、比べる相手が書かれておらず、表2ではFiltek Bulk-fill(0.30 μm)が最小で、3製品に有意差はありません。ここは表2に従って読んでいます。
⑦なぜこうなったのか(著者らの推察)
弾性率が高い理由:著者らは、Eガラス繊維がレジンから応力を受け取り、応力の壁のように働くことで弾性率が上がる、という引用研究の説明を挙げています。曲げ試験後の破断面をSEMで見ると、everX Posteriorでは向きのそろっていない繊維が引き抜かれた跡があり、バルクフィル2製品は比較的平らな破断面でした。
曲げ強さでFiltek Bulk-fillが上回った理由:著者らは、AUDMA・UDMAなどのレジン組成の違いによる可能性を挙げています。この研究で組成との因果を確かめたわけではありません。
削ると粗くなる理由:レジンとガラス繊維がいっしょに削られ、研磨しにくくなるためではないか、と著者らは述べています。そのうえで、表層を通常のCRで覆うというメーカー推奨を、この粗さの結果が支持すると結論しました。
硬化深さが深い理由:everX Posteriorは透光性が高いという既存研究と一致する、と著者らは述べています。この研究で透光性は測っていません。
⑧明日の臨床へ
補足(筆者の読み):
・「土台は繊維入り、表層は通常のCR」という使い分けに、実験室の数字の裏づけが1つ加わった、という読み方ができます。ただし、覆った場合と覆わない場合の修復物を比べた実験ではありません。
・曲げ強さはFiltek Bulk-fillより有意に低く、収縮もFiltek Bulk-fillとは有意差がありませんでした。「どの物性でも上」という材料ではないので、何を期待して選ぶのかを分けて考えるのがよさそうです。
・硬化深さ4.24 mmは、ガラス板越しに照射器を密着させた理想的な条件の値です。著者ら自身も、臼歯部では照射器を歯面に密着させにくいと書いています。この数字をそのまま1回に詰める厚みに置き換えないほうが安全です。
・粗さは研磨紙(#400・#80)で削った条件で、臨床の研磨システムで仕上げた面とは異なります。
⑨ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:この実験室研究の範囲では、短繊維強化CRのeverX Posteriorは、曲げ弾性率・重合収縮・硬化深さで改善を示し、大きな臼歯窩洞の土台(ベース)材料の有望な候補とされた。削った後の表面粗さが大きかったことは、表層を通常のCRで覆うというメーカー推奨を支持する、と著者らは述べている。ただし曲げ強さはFiltek Bulk-fillより有意に低く、収縮もFiltek Bulk-fillとは有意差がなかった。試験片の物性であり、実際の修復物の破折や長期の臨床成績は調べていない。


