保存修復|CAD/CAMセラミック4種へのフッ酸エッチング。濃度(5%/緩衝9%)と時間(0〜60秒)を変え、セメント4種のせん断接着強さを比べた実験室研究(Straface ほか 2019・Head & Face Medicine)
CAD/CAMセラミックの内面処理、フッ酸は何%を何秒当てていますか。文献によってまちまちで、「濃いほうが短くて済む?」「長く当てすぎると悪い?」と迷う場面です。スイス・バーゼル大学のグループは、長石系・ハイブリッド・二ケイ酸リチウム・ジルコニア強化ケイ酸リチウムの4材料に、5%フッ酸と緩衝タイプの9%フッ酸を0〜60秒当て、セメント4種の接着強さを1440試料で比べました。結果は、フッ酸なしの群がどの材料でも低く、材料・セメントをまとめた全体では15・30・60秒が最も高い群に並びました。濃度で有意差が出たのは5秒と15秒だけで、表から計算した平均の差も1 MPaに届きませんでした。
①フッ酸、何%を何秒?
CAD/CAMで削り出したセラミックの内面に、フッ酸を塗って水洗、乾燥してシラン。手順は同じでも、手元のフッ酸は5%だったり9%だったり、時間も製品や材料で違います。「濃いほうなら短くていい?」「念のため長めに当てても大丈夫?」と迷う場面です。
結果を筆者なりに読むと、この研究の条件では、濃度より「短すぎない時間」のほうが効いていたとなります。4材料・セメント4種をまとめた全体では、15・30・60秒が最も高い群に並び、5%と緩衝9%に有意差が出たのは5秒と15秒だけでした。
②なぜ濃度と時間で迷うのか
ケイ酸系のセラミックにレジンセメントを接着するには、表面を粗くして機械的にかみ合わせる必要があります。フッ酸はガラス相を溶かして表面積を増やし、そのあとに塗るシランが化学的な結合を足します。
ところが著者らによれば、フッ酸の濃度は5〜10%、時間は15〜90秒と、研究によって大きな幅があります。さらに近年は、前処理を簡単にしたセルフアドヒーシブセメントも使われるようになり、材料・フッ酸・セメントの組み合わせごとの接着の振る舞いははっきりしていませんでした。
③今回の実験:材料4種×フッ酸2種×5つの時間×セメント4種
材料4種:Vitablocs Mark II(長石系)、Vita Enamic(レジンを浸み込ませたハイブリッドセラミック)、IPS e.max CAD(二ケイ酸リチウム)、Vita Suprinity(ジルコニア強化ケイ酸リチウム)。
フッ酸2種:5%(Vita Ceramics Etch)/緩衝タイプの9%(Ultradent Porcelain Etch)。
時間:0(フッ酸なし)・5・15・30・60秒。水洗20秒のあと、各セメント指定のプライマーを塗布。
セメント4種:接着性のパナビア V5、VITA アディーバ F-Cem/セルフアドヒーシブのリライエックス ユニセム2 オートミックス、VITA アディーバ S-Cem。
評価:37℃水中24時間後のせん断接着強さ(各群10試料・計1440試料)。破壊様式とエッチング面はSEMで観察。
④結果:フッ酸なしは低く、全体では15〜60秒が最も高い群に
フッ酸を当てない0秒は平均3.8 MPaで、材料ごとに平均しても4材料とも最も低い値でした。ただし組み合わせ単位では、長石系×パナビア V5のように、時間を変えても有意差が出なかったものもあります。アディーバ S-Cemとの組み合わせ(ジルコニア強化ケイ酸リチウムとは両濃度とも有意差なし)など、ほかにもあります。
全体の順位は「60秒=30秒=15秒≧5秒>0秒」。これは材料・濃度・セメントをまとめた順位です。全体の平均では60秒まで延ばしても下がりませんでしたが、組み合わせ単位では60秒で有意に下がったものもあります(長石系×5%×アディーバ F-Cemは30秒8.0→60秒6.0 MPa、ハイブリッド×5%×ユニセム2は15秒8.9→60秒7.7 MPa、長石系×9%×アディーバ S-Cemは30秒3.9→60秒2.9 MPa)。
・長石系(Vitablocs Mark II):6.5/6.8/6.9/6.4
・ハイブリッド(Vita Enamic):6.3/7.0/6.9/6.8
・二ケイ酸リチウム(IPS e.max CAD):6.4/6.8/7.0/7.6
・ジルコニア強化ケイ酸リチウム(Vita Suprinity):6.9/7.0/7.2/7.4
長石系とハイブリッドでは60秒で下がった組み合わせもあり、ケイ酸リチウム系2種は60秒まで伸びました。60秒では原著の統計でも材料差があります。
濃度については、5秒と15秒では5%のほうが有意に高く(5秒 p=0.005、15秒 p=0.003)、30秒と60秒では有意差なし(p=0.117、p=0.057)。ただし表から計算した平均の差は、5秒で6.8 vs 6.3 MPa、15秒で7.1 vs 6.7 MPaと、1 MPaに届かない幅です。SEM像では、5%と9%でエッチング面の見た目に違いは見られませんでした。
⑤セメントで伸び方が違った
図に載せていない5秒・30秒の値は、ユニセム2が8.1・7.8、パナビア V5が6.6・7.7、アディーバ F-Cemが7.0・8.2、アディーバ S-Cemが4.5・4.3 MPaでした(同じ計算)。
ユニセム2、パナビア V5、アディーバ F-Cemは、フッ酸を当てると大きく伸びました。一方、アディーバ S-Cemは処理しても平均では4 MPa台にとどまり(材料によっては時間を変えても有意差なし)、5〜60秒のどの時間でも最も低い群でした(0秒ではアディーバ F-Cemが最も低い)。ほかの3種の並びは時間によって入れ替わり、たとえば30秒では3種に有意差がありませんでした。
著者らは、アディーバ S-Cemの低さをセメント自体の強さで説明しています。別に測った直径方向の引張強さは17.6 MPaで、ほかの3種(41.9〜46.4 MPa)より有意に低く、破壊もセメントの中や界面で起きていました。
材料どうしの差は時間で入れ替わり、0秒では長石系とハイブリッドが高く、5秒ではジルコニア強化ケイ酸リチウム≧長石系=二ケイ酸リチウム=ハイブリッド(p=0.007)、15秒と30秒では4材料に有意差がなく、60秒では二ケイ酸リチウムとジルコニア強化ケイ酸リチウムが高い結果でした。
⑥なぜ時間が効くのか(SEM像と著者らの説明)
SEM像では、エッチングを60秒まで延ばすほど、表面の凹凸やアンダーカット、粒子の抜けが増えていました。とくにIPS e.max CADでは、5秒と15秒ではどちらの濃度でもガラス相が溶けきらず、30〜60秒とは違う模様でした。著者らは、材料をまとめた比較(15秒では材料差なし p=0.471)から接着強さへの影響はなかったとしています。ただし表2では、パナビア V5との組み合わせで15秒が30〜60秒より有意に低くなっていました(5%:15秒6.1→30秒8.1・60秒8.6 MPa、9%:15秒6.8→30秒9.5・60秒8.7 MPa)。著者らはSEM像の所見から、e.max CADについては実用上、15秒より長く60秒までのエッチングを勧め、メーカーの推奨も20秒だと述べています。
破壊の仕方も材料で違いました。アディーバ S-Cem以外のセメントでは、エッチングした長石系とハイブリッドは主に材料そのものの中で割れるか混合破壊、ケイ酸リチウム系2種(e.max CADとSuprinity)は主にセメントの中で割れるか混合破壊でした。著者らは、接着が材料やセメント自体の強さを上回っていたと読み、材料の曲げ強さの違い(文献値)で説明しています。
短時間で緩衝9%が低めだった理由について、著者らは「緩衝された組成のため反応に時間がかかるのかもしれない」と推測にとどめています。
⑦明日の臨床へ
補足(筆者の読み):
・「濃い製品だから時間を短くしてよい」とは、この結果からは言えません。5秒・15秒ではむしろ緩衝9%のほうが低めでした。
・時間はまず使っている材料・フッ酸のメーカー指示を基本にし、短く切り上げないことを意識する、という読み方が安全です。
・60秒を超える処理は調べておらず、組み合わせによっては60秒で下がったものもあるため、「長いほど良い」とも言えません。
・同じ前処理でも、セメントによって届く接着強さは違いました。
ただしこれは歯を使わない水中24時間後の実験室の結果で、長期の耐久性や臨床の予後は示されていません。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:この研究の範囲では、Vitablocs Mark II・Vita Enamic・IPS e.max CAD・Vita Suprinityの前処理として、5%または9%のフッ酸で15〜60秒のエッチングが勧められる。筆者の読みでは、この研究の条件では濃度の違いより短すぎない時間のほうが接着強さを左右していた。ただし歯を使わない水中24時間後の実験室の結果で、長期の耐久性や臨床の予後は調べていない。


