保存修復|二ケイ酸リチウム系ガラスセラミックスの結晶の大きさを熱処理で変え、咀嚼試験機での摩耗と機械的性質を比べた実験室研究(Zhang ほか 2018・Journal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials)
二ケイ酸リチウムの強さは、針のような結晶が絡み合うことで生まれる、と説明されてきました。では、その結晶を細かくしたら、強さやすり減りにくさはどう変わるのか。中国・第四軍医大学のグループは、IPS e.max Press の残りを溶かし直したガラスを4通りの温度で焼いて結晶の大きさを変え、市販材を通法どおりプレスした品などと比べました。研磨した板状試料での結果は、答えが2つに分かれました。すり減りでは、結晶を約1µm以下にした3群が、大きい結晶の群より摩耗量が有意に少なかった。一方、強さでは、最も細かい2群の曲げ強さが低かった。著者らは、長さ約0.9µmの中くらいの結晶の群(G3)を最良と結論しています。
①結晶は、細かいほど強い?
二ケイ酸リチウムは、強さと透明感を両立した材料として、単冠からインレーまで広く使われています。その強さの源は、ガラスの中で針のような結晶が絡み合っていること。では、その結晶を細かくしたら、もっと強く、すり減りにくくなるのでしょうか。
この論文の答えは、「すり減り」と「強さ」で分かれました。熱処理で結晶の大きさを変えたところ、すり減りでは、結晶を約1µm以下にした3群が、市販材を通法どおりプレスした群などの大きい結晶の群より、摩耗量が有意に少なかった。一方、強さでは、最も細かい2群の曲げ強さが低かった。つまり「細かいほど良い」とは言い切れず、統計でそう言えるのは曲げ強さについてです。著者らは、長さ約0.9µmの中くらいの結晶の群(G3)を最良と結論しています。ただしこれは研磨した板状の試料を使った実験室の結果です。
②なぜ「結晶の大きさ」なのか
セラミックはすり減ると表面が粗くなり、繰り返しの力に対する強さが落ちる、と著者らは序論で述べています。そのうえで、ジルコニアや金属焼付の臼歯ブリッジの破折が咬合面の摩耗面から始まっていた、という別の研究(Pang ほか 2015)を引用しています。
ジルコニアやアルミナは強い一方、透明感に劣り、微細構造を調整しにくい。これに対してガラスセラミックスは、熱処理でガラスの中に結晶を析出させる材料なので、焼き方しだいで結晶の大きさを変えられるのが特徴です。リューサイト系では、結晶を細かくすると曲げ強さが上がり、実験室での相手の歯のすり減りも減った、という先行研究がありました。
一方、二ケイ酸リチウム(結晶が約70%、曲げ強さ340〜400MPaと著者らは紹介)で結晶を細かくする効果を調べた研究は少なかった、と著者らは述べています。なお著者らの当初の仮説は「結晶を細かくしても、通法のプレス成形と性質は大きく変わらない」でした。
③今回の実験:同じガラスを4通りに焼いた
実験群 G1〜G4 の材料:IPS e.max Press(HT)のプレス後に残るボタンとスプルー部分を集め、1450℃で溶かし直してガラスのブロックにした。
G1〜G4 の熱処理:616℃で1時間のあと、2段階目を G1 765℃・4時間/G2 810℃・2時間/G3 855℃・1時間/G4 915℃・0.5時間 で焼き分けた。
対照群(どちらも市販のIPS e.max Press HT):GC-P=ワックスの代わりに樹脂の型を使い、製造元の指示どおり915℃でプレス成形/GC-O=インゴットを切り出して915℃・0.5時間で熱処理。
評価:結晶の大きさ(SEM)、3点曲げ強さ(棒状試料 各10本・GC-Oはインゴットの形の都合で実施せず)、ナノインデンテーションの硬さ・弾性率、破壊靭性。
摩耗:研磨した板状試料(各8枚)を人工唾液中で、直径10mmのステンレス球を相手に350Nで240万回。30万回ごとに摩耗量を3D形状計測。240万回は「10年分の臨床使用に相当」と、著者らは文献の換算に基づいて説明しています。
熱処理の温度が上がるほど、結晶は長くなりました。平均の長さはG1で0.61µm、G3で0.92µm、G4で2.75µm。プレス成形品とインゴット品は、G4と同程度の約3µmで幅はより太い、と著者らは記述しています(Fig.5の記号では、プレス成形品の長さはG4より有意に長い)。著者らはG1・G2=小さい結晶、G3=中くらい、G4・GC-P・GC-O=大きい結晶と位置づけています。ただしFig.5の有意差記号では、G1〜G3の結晶の長さに有意差はなく、はっきり長かったのはG4とプレス成形品・インゴット品でした。
④結果:約1µm以下の結晶の3群は、大きい結晶より摩耗量が少なかった
240万回後の摩耗量は、G3が0.37mm³で平均がいちばん少なく、次いでG1が0.56、G2が0.65。大きい結晶のG4は1.01、プレス成形品とインゴット品はともに1.67mm³で最も多くなりました。どの群も、はじめに急にすり減る時期(なじみ摩耗。G1などは30万回まで、G3は60万回ごろまで)のあと、ゆっくり進む2段階の経過をたどっています。プレス成形品とインゴット品は、最初の30万回の時点ですでに0.87と0.83mm³に達していました。
本文では「G3の摩耗量は6群で最も少なかった(P<0.05)」と書かれています。ただし表2の有意差の記号を見ると、240万回後のG3(0.37)とG1(0.56)は同じ記号で、有意差はありません。G3が有意に少なかったと言えるのは、G2・G4・プレス成形品・インゴット品に対してです。G1とG2も、G4・プレス成形品・インゴット品より有意に少なく、摩耗量ではっきり差がついたのは「約1µm以下の結晶の3群」と「大きい結晶の群」の間でした。なお30万回の時点では、G1〜G3の間に有意差はありません。
摩耗面の電子顕微鏡像では、G1とG2に微小な亀裂、G4に粗い剥がれ、プレス成形品とインゴット品にくぼみと亀裂が見られ、G3はなめらかで目立つ亀裂がなかったと報告されています。
⑤強さ・硬さ:G3は弾性率と破壊靭性で単独トップ
曲げ強さは、小さい結晶のG1・G2が低く、G3・G4・プレス成形品が高い値でした。平均の最高はG3の361.22MPaですが、G4・プレス成形品との間に有意差はありません。
硬さはG3とG1が高い側(両者に有意差なし)で、G2・G4・プレス成形品・インゴット品は低い側でした。弾性率と破壊靭性は、G3だけが単独で最も高い結果です。一方で、G4の弾性率と破壊靭性はG1と有意差がなく、小さい結晶のG2も弾性率・破壊靭性が低い側でした。著者らは結論で「大きい結晶は硬さ・弾性率・破壊靭性が低い」とまとめていますが、図の記号をたどると、小さい結晶のG2も低い側にいることは押さえておきたいところです。
理由について、著者らは先行研究を引いてこう推察しています。大きな結晶には「絡み合い効果」で亀裂の進行を止める働きがある一方、高温で焼くと結晶とガラスの熱膨張の差による残留応力も大きくなり、それが亀裂や剥がれを招く。小さい結晶は絡み合いが足りず、すり減る過程で脱落しやすい。中くらいのG3は両者の釣り合いがよかった、という説明です。これは著者らの解釈で、この研究で残留応力を直接測ったわけではありません。
⑥明日の臨床へ
補足(筆者の読み):
・同じ「二ケイ酸リチウム」でも、結晶の大きさや形で性質が変わる。材料名だけでなく微細構造で見る、という視点が得られます。
・G3は溶かし直したガラスに研究用の熱処理をかけたもので、市販品ではありません。市販材の焼成スケジュールを自分で変えればよい、という話ではありません(この研究は市販品の手順を変えた効果を調べていません)。
・市販材を通法どおりプレスした群の摩耗量が多かったのも、研磨した板をステンレス球でこすった条件での比較です。グレーズした冠の臨床成績を示すものではありません。
・摩耗量を測ったのはセラミック側だけで、対合歯がどれだけすり減るかは調べていません。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
すり減りと強さで、答えは分かれた。図表の有意差記号でたどると、結晶が約1µm以下の3群(G1〜G3)はどれも大きい結晶の群より摩耗量が少なく、最も細かいG1・G2は曲げ強さが低かった(G3とG1の摩耗量、G1〜G3の結晶の長さには有意差なし。硬さ・弾性率・破壊靭性では小さい結晶のG2も低い側で、G4の弾性率・破壊靭性はG1と有意差なし)。著者らは、長さ約0.92µmのG3で耐摩耗性と機械的性質が最もよかったと結論している。ただし実験群は溶かし直したガラスで、研磨した板状試料を金属球でこすった実験室の結果で、冠の形での検証と臨床応用はこれから、と著者ら自身が述べている。


