保存修復|高齢者の非う蝕性歯頸部病変(NCCL)を、レジン添加型と従来型のどちらのグラスアイオノマーで詰めるか。28本の論文をまとめた文献レビュー(Kampanas ほか 2018・Journal of Functional Biomaterials)
高齢の患者さんの歯頸部にできた、う蝕ではない欠損。歯肉縁下で湿りやすく、表面は硬化象牙質で接着しにくい。しかも口が乾いていたり、長く口を開けていられなかったり、通院そのものが難しかったりします。アテネ大学のグループは28本の論文をまとめ、グラスアイオノマーをどう使い分けるかを患者さんのタイプ別に整理しました。著者らの提案は、基本はレジン添加型、口腔乾燥やう蝕リスクが高い人には従来型、器具が使えない場ではART(従来型)。ただし高齢者の歯頸部病変だけを対象にした研究は見つからなかった、と著者ら自身が述べている、根拠の限られた提案です。
①高齢の患者さんの歯頸部欠損、何で詰めますか?
訪問先や外来で出会う、高齢の患者さんの歯頸部のくさび状の欠損。コンポジットレジンで詰めたいけれど、歯肉縁下で湿りやすく、防湿も難しい。口が乾いていて、う蝕リスクも高い。長く口を開けていられない方もいます。
この文献レビューは、そんな場面の材料選びを整理しています。著者らの提案は、基本はレジン添加型グラスアイオノマー、口腔乾燥やう蝕リスクが高い人には従来型、器具が使えない場ではART(従来型)。ただし、これは28本の論文から著者らが組み立てた提案で、高齢者の歯頸部病変だけを対象にした研究は見つからなかったと著者ら自身が書いています。
②高齢者の歯頸部は、なぜ詰めにくいのか
う蝕ではない歯頸部の欠損(非う蝕性歯頸部病変・NCCL)は、酸による侵蝕、歯ブラシなどによる摩耗、咬合の力によるアブフラクションが主な原因とされます。辺縁はエナメル質・セメント質・象牙質のいずれにもなりうるうえ、歯肉縁下の湿った環境にあることが多い部位です。
総説が引用した中国南部の調査では、高齢者393人の56.6%にNCCLがあり、49.0%は深さ1mmを超えて修復が必要な歯を少なくとも1本持っていました(無歯顎者を除くと86.1%と51.9%)。
さらに、欠損の床や天井の象牙質は硬化象牙質になっていることが多く、細管が閉じているため、エッチングや接着が効きにくい。総説はこれを、くさび状欠損のある前歯10本を調べた組織学的研究の結果として紹介しています。
患者さん側の事情もあります。総説によると、高齢者は通院のしやすさで3つに分けられます。自力で通院できる人が約70%、家族などの助けで通院する虚弱な人が約20%、65歳以上の約5%は在宅から出られず、さらに約5%は施設や病院にいる人です。入院中や在宅の人では、開口が難しい・処置時間を短くする必要がある、といった制約があります(口腔乾燥は高齢者全般の課題として別に挙げられている)。
③今回の論文:28本をまとめた文献レビュー
含めたもの:総説、実験室研究、臨床研究、症例シリーズ・症例報告のうち、NCCLのグラスアイオノマー修復か高齢者のニーズを扱い、英語で書かれたもの。
除いたもの:動物実験、学会抄録、英語以外の論文など。
最終的に28本をまとめ、保持率・フッ化物の放出・組織学的な注意点・高齢者の特徴から、材料の選び方を図にした。データを統合して効果の大きさを計算するメタ分析ではない。
④グラスアイオノマーの強み:保持とフッ化物(引用研究の数値)
総説がグラスアイオノマーを推す理由は、大きく2つです。ここに並ぶ数値は、この総説が新たに測ったものではなく、条件の違う別々の研究から引用された値です。
・レジン添加型のNCCL修復は、1〜13年の臨床研究で保持率85.7〜100%と紹介されています。
・2年の臨床試験では、レジン添加型100%、1ボトルのエッチ&リンス接着材+コンポジットレジン78.8%でした。
・英国の一般開業医によるV級修復の調査では、レジン添加型91.4%、コンポジットレジン85.3%で、早期の失敗がもっとも少なかったのはレジン添加型でした。
・従来型では、同様の修復で10年後の保持率83%という報告が紹介されています。
・根面のグラスアイオノマー修復は、80か月でおよそ77%が残っていたという報告もあります(並べた中でもっとも低い値)。
著者らは、歯質への化学的な接着、歯頸部にかかる応力を逃がしやすい弾性、歯質に近い熱膨張係数を理由に挙げています。
2. フッ化物を出す。フッ化物を放出する修復材料どうしで比べると、放出量がもっとも多いのは従来型グラスアイオノマーだ、と総説はまとめています。
この試験では、従来型の480 μg/cm²は、コンポマー(87)の5倍以上、フッ化物含有コンポジットレジン(22)の21倍以上でした(平均値どうしの比較)。一方、レジン添加型の放出は従来型より少ないとされ、別の文献の値として、最初の24時間で最大5〜35 μg/cm²、1日あたりの放出は初日の8〜15 ppmから7日目には1〜2 ppmに下がると紹介されています(期間も出典も違うので、上の480などとは直接比べられません)。グラスアイオノマーは、フッ化物配合の歯磨剤や洗口剤、フッ化物ゲルでフッ化物を再び取り込める点も強みとされています。
⑤選び方:患者さんのタイプで分ける(著者らの提案)
歯科医院に通える人では、機械的性質・硬化の速さ・審美性に優れるレジン添加型が、一般には第一選択とされます。
ただし口腔乾燥(放射線治療・薬剤・唾液腺の病気など)やう蝕リスクが高い人では、従来型が勧められています。著者らの理屈は、こうした口では二次う蝕を防ぐことが修復の目的になり、フッ化物を多く出す従来型のほうが有利、というものです。レジン添加型は摩耗や侵蝕に強いとされますが、乾燥した口ではその限りではない、とも述べています。
ここで一つ注意点があります。総説は、グラスアイオノマーは従来型もレジン添加型も表面のコーティング(バーニッシュや光重合型のボンド)が必要だとしつつ、口腔乾燥の人に従来型を使う場合は、初期のコーティングを避けるよう勧めています。コーティングでフッ化物の放出が最大で1.4〜4分の1に減る(原文 up to 1.4–4 fold)ためです。ただし酸性フッ素(APF)ゲルを使う人では、ゲルが修復物の表面を傷めるので表面を保護する。中性の2%フッ化ナトリウムゲルなら表面を傷めず、コーティングは要らない、としています。
入院中や通院が難しい人では、切削や光照射の器具を持ち込めるか、2回目の来院ができるか、が分かれ目になります。器具が使えれば基本はレジン添加型。口腔乾燥や歯肉縁下の湿った環境では従来型が第一選択ですが、仕上げ研磨のための2回目の来院ができない場合はレジン添加型。器具が使えない、あるいは口腔や精神の状態で使えない場合は、手用器具で行うART(非侵襲的修復治療)を行い、従来型で詰める、という流れです。
⑥明日の臨床へ
・レジン添加型を使うときは、硬化象牙質の表層を回転切削器具で軽く一層落とし、スメア層はポリアルケン酸のコンディショナーで除去する。象牙質は乾かしすぎない。レーザーによる表層除去は避ける(接着が浅くなるという、実験室での接着研究にもとづく)。
・レジン添加型は1回3mmを超えない厚さで積層し、歯頸部用のマトリックスを当ててから光照射する。
・従来型は、削れない場面では硬化象牙質にそのまま詰める選択肢とされ、最終研磨は24時間以上あけて別の来院で行う。
・充填前の窩洞の清掃には、パミス水ペーストか2%クロルヘキシジンが提案されている。
補足(筆者の読み):
・材料の性能表より先に、口の乾き・う蝕リスク・来院できる回数・持ち込める器具を確認する、という順番の整理として使いやすい図です。
・フッ化物ゲルを使っている患者さんでは、ゲルの種類(酸性か中性か)でコーティングの判断が変わる点は、訪問先で見落としやすいポイントかもしれません。
ただしいずれも、高齢者の歯頸部で材料や手順を比べた研究から導かれたものではありません。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:高齢者の非う蝕性歯頸部病変には、グラスアイオノマーが第一選択と考えられる。「典型的な高齢者」はいないので、患者さんの状態に合わせて選ぶ。一般にはレジン添加型が好まれるが、条件によっては機械的性質で劣っても従来型のほうが適する。ただしこの指針を支える根拠は限られており、さらなる研究が必要だ、と著者ら自身が述べている。


