1問1答 論文 保存修復

インレーの仮着セメント、落とせば接着は戻る?——抜去歯の実験で見た窩底象牙質の接着強さ

1問1答 論文 保存修復

保存修復|接着インレーの装着・仮着セメント・エアポリッシング・IDS/レジンコーティング。抜去歯を使った実験室研究(Frankenberger ほか 2007・J Adhes Dent)

インレーの形成から装着までには仮封期間があります。「仮着セメントは装着前にしっかり落とせば大丈夫」——そう考えて、スケーラーやエアポリッシングで清掃しているかもしれません。エアランゲン大学のグループが、抜去した智歯のI級窩洞で、仮着セメント・除去方法・接着材・光照射の条件を変え、インレー直下の窩底象牙質の接着強さを比べました。結論を先に言うと、仮着セメントで汚染された群は接着強さが下がり、除去法ではプロフィパールの粉が最も低い値でした。仮封の前にフロアブルレジンを0.5mm重ねるレジンコーティング群が、3種の接着材すべてで最も高い値でした。

論文
Adhesive luting revisited: influence of adhesive, temporary cement, cavity cleaning, and curing mode on internal dentin bond strength
著者
Roland Frankenberger, Ulrich Lohbauer, Michael Taschner, Anselm Petschelt, Sergej A. Nikolaenko(エアランゲン=ニュルンベルク大学 保存修復・歯周病学講座/クラスノヤルスク国立医科アカデミー)
掲載
The Journal of Adhesive Dentistry 2007;9(Supplement 2):269-273(2006年ダブリンの接着材サテライトシンポジウムでの発表論文)
種類
実験室研究(in vitro)。抜去したヒト第三大臼歯96本、I級窩洞(4×4mm・深さ3mm)に直接法コンポジットレジンインレーを装着し、24時間水中保管後に微小引張接着強さ(μTBS)を測定。1群あたりスティック20本
PMID
18340985

仮着セメント、きれいに落とせば大丈夫?

接着インレーやアンレーは、形成から装着までに仮封期間をはさみます。仮封を仮着セメントで着けたなら、装着の日にはスケーラーで掻き取ったり、エアポリッシングで清掃したりしてから接着に入るはずです。

では、そうして「落とした」象牙質に、接着はきちんと効いているのか。インレーの辺縁は見えても、インレーの下、窩底の象牙質で何が起きているかは臨床では確かめようがありません。

この論文は抜去歯の実験で、そこを測りました。結論を先に言うと、仮着セメントで汚染された群は窩底象牙質の接着強さが下がり、除去法ではプロフィパールの粉が最も低い値でした。そして、仮封の前にフロアブルレジンを0.5mm重ねるレジンコーティング群が、3種の接着材すべてで最も高い値でした。

この研究がしたこと

著者らは、臨床研究でセラミックインレーの主な失敗は破折で、辺縁の質はしだいに劣化すると報告されていること、そしてエナメル質だけでなく象牙質にも全面で接着するなら、内部の象牙質接着も修復物の安定や術後の知覚過敏の軽減に関わる、という問題意識から出発しています。

研究の骨格:抜去したヒト第三大臼歯96本に、I級窩洞(4×4mm・深さ3mm)を形成。
仮封:仮封材(Fermit N)を、仮着セメントなし/Temp Bond/Temp Bond NE で着けて、37℃の水中に1週間。仮着セメントを使わず、仮封前に象牙質を覆う群も2つ作りました——接着材を1層塗るIDS(immediate dentin sealing)と、フロアブルレジンを0.5mm重ねるレジンコーティングです。
除去:セメントの残りを、スケーラー、またはエアポリッシング(プロフィパールの粉/クリンプロの粉、10秒)で除去。
装着:直接法でつくったコンポジットレジンインレー(Clearfil AP-X、厚み約3mm)を、3種の接着材(デュアルキュア型のXP BOND/SCA、光重合型のSyntac・OptiBond FL)とレジンセメントCalibraで装着。接着材は基本的にセメントと一緒に咬合面から照射し、一部の群だけ接着材を先に40秒照射しました。
評価:24時間水中に置いたあと、窩底象牙質の微小引張接着強さ(μTBS)を測定。1群あたりスティック20本で、全32群です。

結果1:セメント汚染で、接着強さは総じて下がった

0 20 40 60 窩底象牙質の μTBS (MPa) 39.6 13.7 19.2 21.9 9.7 10.4 10.0 5.9 6.5 34.5 12.1 18.2 セメントなし(対照) Temp Bondスケーラー Temp Bondプロフィパール Temp Bondクリンプロ XP BOND/SCA Syntac OptiBond FL 原著Table 2の平均値。XP BOND/SCAはデュアルキュア型、SyntacとOptiBond FLは光重合型。仮着セメントTempBondで1週間仮封→各方法で除去→装着。24時間後に測定(抜去歯の実験室研究)
仮着セメント Temp Bond で仮封したあと、除去法を変えて装着した窩底象牙質の接着強さ(原著Table 2)
0 20 40 60 窩底象牙質の μTBS (MPa) 39.6 13.7 19.2 27.3 7.1 8.3 11.0 4.1 8.2 36.3 12.0 22.1 セメントなし(対照) Temp Bond NEスケーラー Temp Bond NEプロフィパール Temp Bond NEクリンプロ XP BOND/SCA Syntac OptiBond FL 原著Table 2の平均値。XP BOND/SCAはデュアルキュア型、SyntacとOptiBond FLは光重合型。仮着セメントTemp BondNEで1週間仮封→各方法で除去→装着。24時間後に測定(抜去歯の実験室研究)
同じく Temp Bond NE で仮封した場合(原著Table 2)

著者らは、仮着セメントによる汚染で象牙質の接着強さが下がったと報告しています(p<0.05)。いちばん値が高かったデュアルキュア型のXP BOND/SCAで見ると、セメントなしの対照が39.6 MPaだったのに対し、Temp Bondをスケーラーで除去した群は21.9 MPaでした。

2種の仮着セメント(Temp Bond と Temp Bond NE)の値は、数字の上ではよく似た並びでした。論文は、この2つのセメントの違いそのものは論じていません。

結果2:落とし方で、下がり方がまるで違った

除去法の違いは大きく出ました。著者らは、プロフィパールの粉によるエアポリッシングで接着強さが有意に低下したと報告しています。実際、どの接着材・どちらのセメントでも、この除去法の群が最も低く、4.1〜11.0 MPaでした。

一方、クリンプロの粉で除去した群は、対照に近い値でした(XP BOND/SCAで34.5・36.3 MPa、Syntacで12.1・12.0 MPa、OptiBond FLで18.2・22.1 MPa)。つまり「セメントで汚染されたら必ず大きく落ちる」ではなく、汚染と、その除去法の組み合わせで結果が変わるという読み方になります。この組み合わせの差について、群ごとの検定結果は原著に細かく示されていません。

結果3:仮封前にフロアブルで覆ったレジンコーティング群が最も高かった

0 20 40 60 窩底象牙質の μTBS (MPa) 39.6 13.7 19.2 36.3 19.0 26.6 38.4 30.1 37.7 53.9 47.9 50.7 対照(セメントと同時硬化) 接着材だけ先に照射 IDS(仮封前に接着材1層) レジンコーティング(仮封前にフロアブル) XP BOND/SCA Syntac OptiBond FL 原著Table 2の平均値。XP BOND/SCAはデュアルキュア型、SyntacとOptiBond FLは光重合型。いずれも仮着セメントなし。Syntacのヘリオボンド省略群(22.5。原著はヘリオボンドを省いても低下しなかったと報告、p>0.05)とOptiBondFLのアドヒーシブ省略群(24.0)は図から省いた
仮着セメントを使わない群どうしで、接着材の照射法と仮封前の象牙質シーリングを比べた(原著Table 2)

著者らは、仮封の前に象牙質を覆っておくと、3種の接着材すべてで窩底の接着強さが上がったと報告しています(p<0.05)。値が最も高かったのはフロアブルを0.5mm重ねたレジンコーティングで、47.9〜53.9 MPaでした。

ただし数字を見ると、接着材1層のIDSで上がったのは光重合型の2種(Syntac 13.7→30.1、OptiBond FL 19.2→37.7 MPa)で、XP BOND/SCAではIDS群38.4 MPaと対照39.6 MPaはほぼ同じでした。XP BOND/SCAで上がったのはレジンコーティング群(53.9 MPa)です。

もう一つの比較が照射法です。デュアルキュア型のXP BOND/SCAは、対照群で光重合型の2種より有意に高い値でした(39.6 vs 13.7・19.2 MPa)。光重合型の接着材を、セメントより先に40秒照射しても、有意な上昇はありませんでした(Syntac 13.7→19.0、OptiBond FL 19.2→26.6 MPa)。

なぜこうなるのか——著者らの考察

光がインレーの下まで届きにくい:破断面の電子顕微鏡観察では、光重合型の接着材をセメントと一緒に硬化させた群で、界面の形成が不十分でした。著者らは、光重合だけに頼る接着材は、厚み3mmのインレー越しでは実験室の条件でも十分な光を受けられない、と考えています。辺縁には光が届いていても、奥の窩底で同じことが起きているとは限らない、というのが著者らの指摘です。

先に照射しても効かない理由:エアで薄く広げた接着材の層は酸素による重合阻害を強く受けるため、40秒照射してもほとんど硬化しないのだろう、と述べています。

仮封前シーリングが有利な理由:仮封の前に象牙質とレジンの界面をつくっておけば、仮着セメントによる汚染を避けられ、界面の重合も確保できる。だからIDSやレジンコーティングは、接着装着する象牙質の前処理として有力な方法になりうる、というのが著者らの結論です。エアポリッシングが接着に不利に働くことがある点は、同じグループの別の研究とも合う、としています。

明日の臨床へ

著者らの結論は4つです。
①仮着セメントによる象牙質の汚染は、接着の妨げになる。
②だから仮封前の象牙質シーリング(IDS・レジンコーティング)は有望。
③除去法のうち、プロフィパールの粉でのエアポリッシングは接着強さを大きく下げた。
④デュアルキュア型の接着材で、インレー下の接着強さが高かった。
補足(筆者の読み):形成当日に象牙質を封じておく手順は、ひと手間増えますが、装着日の「セメントを落とし切れたか」という不確かさを減らせる選択肢です。仮着セメントを使う場合は、清掃法によって接着が大きく変わりうることを頭に置いておきたいところです。なお、この研究で試した除去法はスケーラーと2種の粉だけで、ほかの清掃法やほかの粉については何も言えません。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、抜去歯を使った実験室研究で、測ったのは24時間後の接着強さだけです。熱サイクルなどの耐久試験はしておらず、修復物の予後や術後の知覚過敏は調べていません。第二に、インレーはセラミックではなく直接法のコンポジットレジンインレーで、著者らは象牙質とレジンの界面は同じだとしていますが、光の透過は材料で違いえます。第三に、標準偏差が平均と同じくらい大きい群が多く(例:39.6±26.6 MPa)、切り出しで壊れたスティックは0 MPaとして数えています。検定は2群ずつのノンパラメトリック検定で、どの比較が有意だったかは要約の文章でしか示されていません。第四に、1群のスティック20本が何本の歯から取られたかは書かれていません(歯96本・32群から計算すると1群あたり約3本の歯ですが、原著に明記はありません)。第五に、IDS・レジンコーティング群は仮着セメントを使わない条件で、封じた上にセメントを使った場合は試していません。また、デュアルキュア型の接着材は1製品のみで、硬化様式の違いと製品の違いは区別できません。資金提供や利益相反の記載も見当たりません。それでも、「インレーの下の象牙質は、辺縁からは見えない弱点になりうる」という見取り図は、IDSを取り入れるかどうかを考えるときの手がかりになります。仮封前に封じておくと汚染を避けられる、と著者らは考えています。

今日のひとこと

抜去歯の実験で、仮着セメント(Temp Bond/Temp Bond NE)で汚染された窩底象牙質は、インレー装着後の接着強さが下がった(著者らの報告、p<0.05)。下がり方は除去法で大きく違い、プロフィパールの粉によるエアポリッシングが最も低い値(4.1〜11.0 MPa)だった。一方、仮封の前に象牙質を接着材やフロアブルレジンで覆っておいた群は、とくにフロアブル0.5mmのレジンコーティングで3種の接着材すべて最も高い値(47.9〜53.9 MPa)だった。著者らは、仮着セメントの汚染は象牙質接着の妨げで、仮封前の象牙質シーリングは有望とまとめている。ただし24時間後だけを測った実験室研究で、臨床の予後は調べていない。

Frankenberger R, Lohbauer U, Taschner M, Petschelt A, Nikolaenko SA. Adhesive luting revisited: influence of adhesive, temporary cement, cavity cleaning, and curing mode on internal dentin bond strength. J Adhes Dent. 2007;9 Suppl 2:269-273. PMID: 18340985
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。