1問1答 論文 外科

口腔内スキャナーTrios 5でインプラント4本の模型を全顎スキャンし、評価範囲を片側2本から両側4本に広げると、真度の誤差(平均)は約7.5 µmから約56〜59 µmに——IOS経験の有無で真度に有意差はなかった(石膏模型・術者は各1人)

1問1答 論文 外科

上顎の15・16・26・27にインプラントアナログがある石膏模型を、IOS経験5年以上の歯科医師と未経験の歯科医師がTrios 5で12回ずつスキャンし、片側2本と両側4本の範囲で真度・精度の誤差を比べた実験研究(Sezer & Bahadır Sezer 2024・NEU Dent J)

「口腔内スキャナーは慣れが要る」「全顎になると誤差が増える」——どちらもよく聞く話です。では最新の機種で、慣れていない人がインプラントの印象を採ると、どれくらい差が出るのか。範囲が広がると、誤差はどれくらい増えるのか。トルコのグループが模型で確かめました。

論文
Effects of Operator Experience and Scanning Distance on Intraoral Scanner Accuracy
著者
Taygun Sezer(トルコ エルジエス大学 補綴科), Aybüke Bahadır Sezer(ヌフ・ナジ・ヤズガン大学 小児歯科)
掲載
Necmettin Erbakan University Dental Journal(NEU Dent J)2024;6(Special Issue):36-44. doi:10.51122/neudentj.2024.113
種類
in vitro 実験研究(上顎15・16・26・27にStraumannのインプラントアナログ+CARES Monoスキャンボディを付けた部分欠損の石膏模型。基準データは精度0.4 µmの卓上スキャナー。IOS経験5年以上の専門医1人と、IOS未経験の専門医1人が、練習5回のあとTrios 5で各12回スキャン〔AIスキャン機能オン、左奥のスキャンボディから反対側まで一続き、スキャンの間に5分休止〕。ソフト上で、片側=26・27の2本両側=15・16・26・27の4本のスキャンボディを取り出し、best-fitで重ねてRMSを算出。真度=基準データとのずれ〔各群12回〕、精度=同じ群のスキャンどうしのずれ〔各群66組〕。t検定またはMann-WhitneyのU検定)
PMID
なし(PubMed未収載誌)

「慣れが要る」「全顎は誤差が増える」をどう考えるか

口腔内スキャナー(IOS)は、従来の印象より速く、患者の負担も少なく、技工所とのやりとりも楽になりました。一方で、精度はスキャンする範囲術者の経験に左右されうると言われています。

IOSは撮った画像を少しずつ重ねて3次元の像を作るので、範囲が広がるほどつなぎ目の誤差が積み重なる。欠損部には目印が少なく、形の似たスキャンボディが並ぶと、つなぎ合わせはさらに難しくなります。経験の影響については、経験者のほうが正確だったという報告と、差がなかったという報告の両方があります。

Sezerらは、新しい機種のTrios 5で、この2つを模型で確かめました。

インプラント4本の模型を、経験者と未経験者が12回ずつ

研究の骨格: 上顎の15・16・26・27にStraumannのインプラントアナログを埋め、CARES Monoスキャンボディを付けた部分欠損の石膏模型を使用。精度0.4 µmの卓上スキャナーで撮ったデータを基準にした。
術者は、IOS経験が5年以上の専門医1人と、IOSを使ったことのない専門医1人。練習を5回したあと、Trios 5(ver. 22.1.6)で各12回スキャンした。AIスキャン機能をオンにし、左奥のスキャンボディから反対側の端まで一続きにスキャン(歯の部分は咬合面→口蓋側→頬側、インプラント部はジグザグ)。スキャンの間は5分あけた。
データはソフト上でスキャンボディのライブラリと重ね、片側=26・27の2本両側=15・16・26・27の4本を取り出して、best-fitで重ね合わせた3次元のずれ(RMS)を計算。真度=基準データとのずれ(各群12回)、精度=同じ群のスキャンどうしのずれ(各群66組)。
統計は正規性に応じてt検定またはMann-WhitneyのU検定。

ここで大事なのは、「片側」と「両側」は、別々にスキャンしたのではなく、同じ全顎スキャンの中から評価する範囲を変えたものだという点です。原著の方法には、各術者のスキャンは12回で、どれも左奥のスキャンボディから反対側の端まで一続きに行い、そのデータから26・27と15・16・26・27の2区分を取り出した、とあります(原著はこれを「partial arch scans」と呼んでいます)。

結果その一——真度:両側4本の範囲で、誤差が大きく増えた

0 23.3 46.7 70 真度の誤差(µm・平均) 7.45 7.6 55.56 58.9 片側2本の範囲(26・27) 両側4本の範囲(15・16・26・27) IOS経験者 IOS未経験者 原著Table 1(各群12回、平均)。濃い棒=経験者、淡い棒=未経験者。標準偏差:片側 経験者0.60・未経験者1.36、両側 経験者16.56・未経験者18.51。片側と両側の差はいずれもp<0.001、経験の有無の差は片側p=0.737・両側p=0.646。片側の範囲は全顎スキャンの一部を取り出して評価したもの
片側2本と両側4本の範囲での真度の誤差(原著Table 1、各群12回の平均)

基準データとのずれ(真度の誤差)は、片側2本の範囲で経験者7.45 µm・未経験者7.60 µm両側4本の範囲で経験者55.56 µm・未経験者58.90 µmでした。どちらの術者でも、片側と両側の差は有意でした(p<0.001)。両側ではばらつきも大きく、標準偏差は16.56〜18.51 µmです。

一方、経験者と未経験者の差は、片側でも両側でも有意ではありませんでした(p=0.737、p=0.646)。

結果その二——精度:両側で大きく、最大は100 µm近くまで

0 16.7 33.3 50 精度の誤差(µm・中央値) 2.73 3.36 33.87 39.79 片側2本の範囲(26・27) 両側4本の範囲(15・16・26・27) IOS経験者 IOS未経験者 原著Table 2(各群66組、中央値)。濃い棒=経験者、淡い棒=未経験者。範囲(最小〜最大):片側 経験者0.99〜5.5・未経験者0.98〜5.87、両側 経験者10.25〜90.66・未経験者11.25〜99.68。片側と両側の差はいずれもp<0.001、経験の有無の差は片側p=0.044・両側p=0.563。本文には平均±SD(片側 経験者2.97±1.10・未経験者3.33±1.11、両側 経験者39.03±22.44・未経験者40.51±21.60)も記載
片側2本と両側4本の範囲での精度の誤差(原著Table 2、各群66組の中央値)

スキャンどうしのずれ(精度の誤差)の中央値は、片側で経験者2.73 µm・未経験者3.36 µm両側で経験者33.87 µm・未経験者39.79 µmで、ここでも片側と両側の差は有意でした(p<0.001)。両側の最大値は経験者90.66 µm、未経験者99.68 µmです。

経験の有無では、片側でだけ有意差(p=0.044)があり、両側では差がありませんでした(p=0.563)。著者らは片側の差が1 µm未満なので臨床的な意味はないとしています。

著者らは、両側の誤差は片側の約8〜13倍だったとまとめています(表の値から計算すると、真度の平均で約7.5〜7.8倍、精度の中央値で約12倍)。

「経験は関係ない」は、どこまで言えるか

著者らは、インプラント間の距離のずれとして臨床的に許容されるのは100 µmという報告を引き、両術者とも誤差はその範囲に収まっていたので、経験のない術者でも短い練習で正確なデジタル印象を採れると述べています。

ただ、読み方には注意が要ります。まず、経験者と未経験者はそれぞれ1人ずつで、「経験の差」は「その2人の差」でもあります。著者ら自身、未経験の術者は臨床経験の豊富な専門医で、学習曲線には個人差があると書いています。また、結論では「経験者と未経験者に有意差はなかった」とまとめていますが、結果では片側の精度に有意差(p=0.044)が出ています。そして、両側の精度の最大値は許容範囲の100 µmに近い値でした。なお100 µmは2本のインプラント間の距離のずれの目安で、この研究が測った表面のずれ(RMS)とは物差しが異なり、そのまま比べられるとは限りません。

「範囲が広がると誤差が増える」の読み方

著者らは考察で、左右の臼歯部をインプラントや天然歯支持の補綴で修復する場合、正中をまたがず左右を別々にスキャンし、別ファイルとして保存するほうが精度の高い補綴物につながるかもしれない、と提案しています。

しかし、この研究の「片側」は、左奥から始めた全顎スキャンの一部(始点側の26・27)を取り出して評価したものです。片側だけを短くスキャンした場合の精度は測っていません。また、2本だけで重ね合わせる評価と、左右に離れた4本で重ね合わせる評価では、計算の条件そのものが違います。「片側ずつスキャンすれば良くなる」は、今回の結果から導いた提案であって、検証されたものではありません

明日の臨床へ

①全顎のインプラントスキャンでは、範囲が広がるほど誤差が大きくなる前提で考える。この模型では、両側4本の範囲の真度の誤差は、片側2本の範囲の約7.5〜7.8倍だった。
②左右別々の補綴なら、片側ずつのスキャンという選択肢を著者らは提案している(ただし今回は試していない)。
③IOSの経験がなくても、臨床経験のある歯科医師が数回練習すれば、模型では真度に有意差が出なかった。ただし比較は1人対1人である。
④平均や中央値だけで安心しない。両側の精度の誤差は、最大で約90〜100 µmあった。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:
第一に、石膏模型でのin vitro研究で、唾液・患者の動き・口腔内の軟組織の影響はありません(著者らも主な限界として挙げています)。
第二に、術者は経験者・未経験者とも1人ずつで、原著によれば2人は著者自身(補綴科の講師と小児歯科の専門医)です。スキャナーは1機種、条件は1つの症例設定だけです。
第三に、片側の範囲は全顎スキャンの一部を取り出したもので、片側だけのスキャンではありません。
第四に、精度について、要旨と表は中央値、本文は平均±SDで書かれていて、要旨では中央値を「平均」と呼んでいます。要旨は「t検定で評価」とも書いていますが、精度の比較には実際にはMann-WhitneyのU検定が使われています。
第五に、原著の書誌の欄には別の論文名(シーラントのX線不透過性)が、著者の役割分担の欄には著者と一致しない略称が載っており、編集上の誤りとみられます。資金提供はなく、利益相反もないと記載されています。

それでも、最新の機種でも、評価する範囲が広がれば誤差は大きく増えることと、IOSに慣れていない臨床医でも模型では真度に有意差が出なかったことを数字で示した点は、全顎スキャンの手順や院内の教育を考える材料になります。

今日のひとこと

Trios 5で模型を全顎スキャンしたとき、両側4本の範囲の誤差は片側2本の範囲より大きかった。真度の誤差(平均)は経験者7.45→55.56 µm、未経験者7.60→58.90 µm、精度の誤差(中央値)は経験者2.73→33.87 µm、未経験者3.36→39.79 µm(いずれもp<0.001)。一方、IOS経験の有無で真度に有意差はなく、精度は片側でだけ有意差(p=0.044)があったが差は1 µm未満で、著者らは臨床的な意味はないとした。ただし「片側の範囲」は、同じ全顎スキャンから26・27のスキャンボディを取り出して評価したもので、片側だけを別にスキャンしたわけではない。術者は各1人、唾液も患者の動きもない石膏模型の結果である。

Sezer T, Bahadır Sezer A. Effects of Operator Experience and Scanning Distance on Intraoral Scanner Accuracy. NEU Dent J. 2024;6(Special Issue):36-44. doi:10.51122/neudentj.2024.113
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。