同じ患者の口の中で、ジルコニアコーピング+プレスオンポーセレンのクラウンを、グラスアイオノマーセメントと自己接着性レジンセメントで1本ずつ着け分け、4年間追いかけたスプリットマウス法の臨床試験(Torres 2021・Oper Dent)
オールセラミックだから、接着性のセメントで着けないと——そう考えて自己接着レジンを選ぶ場面は多いと思います。ではジルコニアのコーピングを使ったクラウンでも、グラスアイオノマーでは力不足なのでしょうか。ブラジルのグループが、同じ患者の口の中で1本ずつ着け分けて、4年間見比べました。
①「オールセラミックだから接着」で、いつも正しいのか
クラウンの合着材を選ぶとき、材料がオールセラミックだと分かった瞬間に、手が自己接着性レジンセメントへ伸びる——そんな流れが定着しています。
この習慣にはちゃんと来歴があります。長石系のフルセラミッククラウンは、接着させないとバルク破折を起こすと言われてきました。ところがジルコニア(Y-TZP)のような強い材料が出てきて、その前提が変わりつつある——教科書にはそう書かれるようになりました。
けれど「変わりつつある」だけでは、明日の一手は決まりません。ブラジルのグループが、同じ患者の口の中で1本ずつ着け分けて、4年間見比べました。
②同じ人の口で、GICと自己接着レジンを1本ずつ
スプリットマウス法の良さは、患者ごとの違い(咬合力・清掃状態・食習慣)が両群に等しくかかることです。合着材の差だけを見るには、ほぼ理想的な組み立てになっています。
③結果——4年後、両者は同じだった
生存率はどちらも 95.8%。ログランク検定で有意差なし(P=0.5619)でした。
脱離したのは60本中2本だけ。自己接着レジンの1本が1年時点、GICの1本が12〜24か月の間——つまりきれいに1本ずつです。著者らは、この3%という脱離率が、リン酸亜鉛と自己接着レジンを使った先行の実地研究で報告された7%より低いと述べています。
臨床評価の中身も見てみます。48か月の時点で、辺縁適合・表面粗さ・形態・二次う蝕・咬合接触は、いずれも100%が最良評価。そしてこの数字は、グラスアイオノマー群と自己接着レジン群でまったく同じでした。
4年かけて崩れたのは、主に2項目です。色調が95%(20本中1本が「許容範囲内の変化」)、辺縁の着色が85%(20本中3本が「表面の着色」)。そしてこれは両群で同じ数字でした。
ただし、48か月時点で唯一 両群の数字が違った項目があります——チッピングです。グラスアイオノマー群は20本中1本(5%)に陶材のチッピングが認められ、自己接着レジン群は20本すべてが最良評価でした。著者らも考察で1段落を割いてこれに触れ、「セメントの種類とクラウンのチッピングとの間に関連は見いだされなかった」と述べています。歯肉炎指数も48か月で両群とも2本(10%)が中等度の炎症となっており、24か月時点より悪化しています。
二次う蝕はどちらの群にも1本も出ていません。フッ化物を放出するグラスアイオノマーの利点が、ここで差になって現れる——という結果にはなりませんでした。ただし4年という期間で、しかも症例数がこの規模では、差が出るほうがむしろ珍しいとも言えます。
④なぜ差がつかなかったのか
この結果には、材料側の理屈がついています。
まずグラスアイオノマー。ポリアクリル酸が歯質のカルシウムとキレート結合をつくるため、リン酸亜鉛のような純粋な機械的嵌合とは違い、歯には化学的にくっつきます。ただしジルコニアのコーピングとは化学結合しません——だからクラウン側は、支台歯形態による機械的維持に頼ることになります。
一方自己接着性レジンセメント。今回使われたBifix SEはリン酸基・ホスホン酸基を含み、酸性のpHでエナメル質と象牙質を同時にエッチングして浸透するとともに、前処理なしでセラミックの酸化物表面とも反応しうるとされています。実際、自己接着レジンで着けて脱離した1本では、セメントの大部分がジルコニア側に残っていた——つまり離れたのは歯質側だったことが、写真1枚で示されています(グラスアイオノマー側の脱離1本の破断様式は報告されていません)。
ここが大事なところで、今回はどちらのクラウンも内面をサンドブラストして着けています。そして著者らは考察で、「支台歯形成によって与えられた機械的維持だけで十分だったのかもしれず、それが結果を説明しうる」「短い臨床歯冠や過度にテーパーのついた支台のような難しい状況では、接着の役割はおそらく大きくなるだろう」と述べています。あくまで著者らの仮説であって、この研究が検証したことではありません——そのうえで、4年間の結果と整合する読み方ではあります。
⑤明日の臨床へ
持ち帰れるのは、3つです。
①ジルコニアコーピングのクラウンなら、グラスアイオノマーは十分な選択肢になりうる。4年・60本の範囲では、自己接着レジンと差がありませんでした。著者らの「臨床的意義」も「GICと自己接着レジンのどちらを使っても、オールセラミッククラウンの維持と耐久性への影響は同じ」とはっきり書いています。
②ただし前提は「支台歯形態が維持を担っていること」。この研究の支台歯は、軸面1.5mm削除・収束角6〜15度と規定して形成された全部被覆冠の支台です。維持形態が乏しい支台や、短い臨床歯冠に同じことが言えるかは、この研究の外側です——著者ら自身、そうした状況では接着の役割が大きくなるだろうと述べています。
③どちらを選んでも、内面のサンドブラストは省かない。今回は全例で行われています。「GICだから前処理は要らない」という読み方はできません。
もうひとつ、数字として押さえておきたいのがリコールの人数です。ベースライン30名から、48か月には20名まで減っています。次の項で触れます。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
ジルコニアコーピングのクラウンは、グラスアイオノマーで着けても自己接着性レジンで着けても、4年後の姿は同じだった。生存率はどちらも 95.8%(ログランク検定 P=0.5619)。脱離したのは60本中2本だけで、レジン側が1年時点、GIC側が12〜24か月の間に1本ずつ——きれいに1本ずつである。48か月の時点で、辺縁適合・表面粗さ・形態・二次う蝕・咬合接触はすべて100%が最良評価で、両群に差はなかった。崩れたのは辺縁の着色(最良評価は85%)と色調(95%)で、これも両群まったく同じ数字だった。両群で数字が違った唯一の項目はチッピングで、グラスアイオノマー群のみ20本中1本(5%)に認められている(著者らはセメントの種類との関連は見いだせなかったと述べている)。ただし4年後のリコールに来たのは30名中20名——3分の1が抜けており、同等性試験として算出された必要数(1群26本)を割っている。この「差がない」を受け取るときに、一緒に持っておきたい前提である。


