重度の咬耗・酸蝕でVDOを失った患者に、二ケイ酸リチウムの咬合面オンレーで全顎修復を行い、最長11.6年追跡した前向き臨床研究(Edelhoff 2019・Dental Materials)
咬耗が進んで咬合高径が下がった口。かつては全部被覆冠で咬合を再構成するしかありませんでした。接着が変えたのは、健全な歯質を削らずに「載せる」という選択肢です。ミュンヘン大学のグループが、最低1mm厚の咬合面オンレー103個を最長11.6年追いかけました。生存率100%。ただし、この数字を読むには前提の確認が要ります。研究資金の出どころも含めて。
①咬耗で低くなった咬合を、削らずに戻せるか
酸蝕と咬耗が進み、咬合高径(VDO)が下がった口。知覚過敏があり、機能も審美も損なわれている。
かつての答えは全部被覆冠でした。すり減って短くなった歯を、さらに削って冠を被せる。すでに減っている歯質を、治療のためにもう一度削る——この矛盾に、私たちは長く付き合ってきました。
接着技術がその前提を変えました。削らずに「載せる」という選択肢です。咬合面オンレー(オクルーザルベニア)は、健全なエナメル質を保存したまま、失われた高さを補う。
ただし、問いが残ります。1mmほどのセラミックを、咬合を支える面に貼って、何年もつのか。ミュンヘン大学のグループが、103個のオンレーを最長11.6年追いかけました。
②7名・103個という規模
注目したいのは、本装着の前に3か月の機能評価期間を置いていることです。新しい咬合高径を、仮の状態で患者の顎に馴染ませてから本番に進む。この工程が結果にどれだけ効いているかは、この研究では分離できません。
③結果——生存率100%、その内訳
脱落者ゼロ、平均観察期間7.9年(68〜139か月=5.7〜11.6年)。Kaplan-Meier法による生存率は100%でした。作り直しが必要になった修復物(USPHSのCharlie判定)は、6項目すべてで1つもありません。
脱離・二次う蝕・チッピング・生物学的合併症は、いずれもゼロ。表面性状もAlphaが100%でした。歯周組織のパラメータ(プラーク指数・歯肉炎指数・プロービング深さ・BOP)も良好で、著者らはオンレーの形成辺縁が主に歯肉縁上にあることがこれに好影響したのではないかと推測しています。
ここまでが「100%」の中身です。ただし——Bravo(軽微な合併症・作り直しは不要)の判定は、けっして少なくありません。
Charlieに至らなかった合併症は2種類でした。辺縁着色が4個(3.9%)——1個が60か月、3個が108か月時点。うち3個は再研磨で対処でき、1個だけが修復物の下にわずかに入り込んでいて経過観察となりました。もう一つが120か月(10年)時点の辺縁のクラック1個(1%)で、これはUSPHSでは「修復物の破折」のBravoとして数えられています。
④著者らの説明と、そこから読み取れること
著者らが理由として挙げているのは、実は2つだけです。いずれも「〜かもしれない」という仮定形で書かれています。
①エナメル質に支えられていること。「低侵襲形成による咬合面オンレーのエナメル支持が、修復物の安定に好影響しているように見える」。削らない設計なので、接着相手も支える土台もエナメル質になります。
②患者の特性。「患者の特性が今回の結果に影響した可能性がある」。組み入れ条件(口腔清掃良好・歯周病なし)と、結果として全員が非喫煙者だったことを指しています。
⑤明日の臨床へ
①削らずに載せる、は現実的な選択肢になった。少なくとも「最低1mm・エナメル接着・咬合面オンレー」という組み合わせが、10年以上機能した実例がここにあります。すり減った歯をさらに削る前に、この選択肢を検討する価値はあります。
②厚さは「最低1mm」を割らないよう管理する。この研究では技工士がキャリパーで1mmを下回らないことを確認しています。形成もシリコンインデックスとプローブでガイドしている。ただし著者らは「各オンレーの実際の層厚は記録されておらず、本研究の限界である」とも書いています——1mmはあくまで下限であって、実測値ではありません。
③咬合高径を上げるなら、仮の期間を惜しまない。3か月の機能評価は手間ですが、本装着後に咬合を作り直す手間より安いはずです。
④夜間のスプリントを、装着後の約束事にする。この研究では全患者に保護スプリントが渡されています。合併症がすべて集中した1人は、その装着が続かなかった患者でした。因果は証明されていませんが、術者が管理できる数少ない変数の一つです。
⑤患者に「摩耗も辺縁の変化も起きる」と伝えておく。65%と36.9%という数字は、割れない・外れないことと、変わらないこととは別だと教えてくれます。10年後にも同じ形ではありません。
⑥エナメル質が残っているうちに手を打つ。この術式が成立するのは接着する相手がエナメル質だからです。咬耗が進んで象牙質が広く露出してからでは、同じ設計は使いにくくなります。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
重度の咬耗・酸蝕に対し、二ケイ酸リチウム(IPS e.max Press)の最低1mm厚のモノリシック咬合面オンレー103個で全顎修復した結果、平均7.9年(最長11.6年)で生存率100%——作り直し(USPHSのCharlie)を要した修復物はゼロだった。脱離・二次う蝕・チッピング・生物学的合併症もゼロ。ただしBravo(軽微・作り直し不要)の判定は少なくない。咬合面の摩耗65%、辺縁適合36.9%、辺縁着色3.9%、修復物の破折1%。そして起きた合併症5個はすべて、唯一11年に到達した1人の患者に集中していた——著者らは、その患者の夜間の保護スプリント装着のコンプライアンスが低下していたことを原因の候補に挙げている。患者はわずか7名で、本研究はIPS e.max Pressの製造元であるIvoclar Vivadentの資金提供を受けている。


