1問1答 論文 保存修復

擦り込みの差は、5万回の熱サイクルの先に現れた——置くだけで半減した製品も

1問1答 論文 保存修復

ユニバーサルアドヒーシブ3製品について、擦り込みの有無とエッチングモードが象牙質接着の耐久性に与える影響を調べたin vitro研究(Moritake 2019・Oper Dent)

擦り込む(アクティブアプリケーション)と接着が良くなる——そう言われても、日常で実感することはあまりありません。貼った直後の値が、擦り込んでも置いただけでもさほど変わらないからです。日本大学のグループは、時間の軸を5万回のサーモサイクルまで伸ばしました。差は、そこで現れます。

論文
Effect of Active Application on Bond Durability of Universal Adhesives
著者
Moritake N, Takamizawa T, Ishii R, Tsujimoto A, Barkmeier WW, Latta MA, Miyazaki M
掲載
Operative Dentistry 2019;44(2):188-199(doi:10.2341/17-384-L)
種類
in vitro 実験研究(ユニバーサルアドヒーシブ3製品・4手順×5保管条件・ウシ歯600本)
PMID
30106329

「擦り込む」か「置くだけ」か——差が出るのは、いつか

ボンディング材を塗るとき、マイクロブラシで擦り込んでいますか。それとも、置いて広げるだけでしょうか。

擦り込み(active application)が接着強さを高めることは、以前から報告されてきました。ただ、日常の診療でその差を実感することは、あまりない。貼った直後の接着強さは、擦り込んでも置いただけでも、そこまで変わらないからです。

では、いつ差が出るのか。日本大学のグループが、時間の軸を思い切り伸ばして確かめました。

ウシ歯600本を、5万回の熱サイクルにかける

研究の骨格: ユニバーサルアドヒーシブ3製品——オールボンド ユニバーサル(Bisco)/アドヒース ユニバーサル(Ivoclar Vivadent)/スコッチボンド ユニバーサル(3M ESPE)。象牙質を露出させたウシ歯600本を、接着材と手順の組み合わせで12群に分ける。手順は4通り——①リン酸エッチング併用+擦り込み②リン酸エッチング併用+置くだけ③セルフエッチ+擦り込み④セルフエッチ+置くだけ。37℃の蒸留水に24時間置いたあと、5℃と55℃の間で 5,000/10,000/30,000/50,000回のサーモサイクルをかけ(ベースラインの24時間群と合わせて5条件)、せん断接着強さ(SBS)を測定。あわせて脱灰・脱タンパク処理した樹脂/象牙質界面をSEMで観察した。

5万回のサーモサイクルという数字に注目してください。よく使われるのは5,000〜10,000回です。この研究は、そこからさらに5〜10倍まで引き延ばしています。

結果——短期では差が出ない。5万回で割れる。

まずベースライン(24時間)では、擦り込み群と置くだけ群の間に有意差はほとんどありませんでした(セルフエッチの1製品だけが例外。Table 4ではアドヒース ユニバーサルに有意差がついています)。数値としては擦り込み群のほうが高いものの、統計的には横並びです。

差が開いたのは、時間が経ってからでした。

0 18.3 36.7 55 象牙質せん断接着強さ (MPa) 36.2 32.1 29.3 15.3 33.5 34.6 オールボンドユニバーサル アドヒースユニバーサル スコッチボンドユニバーサル 24時間後(ベースライン) 5万回サーモサイクル後 リン酸エッチング併用モードで「擦り込まずに置いただけ」の群(Table 3)。濃い色=24時間後、淡い色=5万回サーモサイクル後。アドヒース ユニバーサルは29.3から15.3 MPaへ約半分に落ちた
リン酸エッチング併用モードで「置くだけ」だった群の、24時間後と5万回サーモサイクル後(Table 3より)

リン酸エッチング併用モードでは、置くだけの群は、サーモサイクルの回数が増えるにつれて、3製品とも接着強さが下がる傾向を示しました。そして5万回の時点で、擦り込み群との間に有意差がついた——エッチングモードを問わず、です。ただし著者らは「30,000回までは、エッチングモードにも塗布方法にもよらず、ベースラインからの有意な低下はなかった」とも書いています。落ちるのは、さらにその先でした。

とりわけ目を引くのがアドヒース ユニバーサルです。リン酸エッチング併用・置くだけで、29.3 MPa から 15.3 MPa へ。ほぼ半減しています。

0 18.3 36.7 55 象牙質せん断接着強さ (MPa) 41.5 39.8 32.7 40 35.2 43.8 オールボンドユニバーサル アドヒースユニバーサル スコッチボンドユニバーサル 24時間後(ベースライン) 5万回サーモサイクル後 同じリン酸エッチング併用モードで「擦り込んだ」群(Table 3)。濃い色=24時間後、淡い色=5万回サーモサイクル後。3製品ともベースラインからの有意な低下はなかった
同じリン酸エッチング併用モードで「擦り込んだ」群(Table 3より)

一方、擦り込み群では、3製品ともベースラインからの有意な低下がありませんでした。5万回のサーモサイクルを経ても、初日の強さを保っている。

そして、この研究でいちばん実務的に効く一文がこれです。

順位が入れ替わる: リン酸エッチングを併用しても「置くだけ」だった群の接着強さは、セルフエッチでも「擦り込んだ」群を下回った——接着材の種類にもサイクル数にも関係なく、一貫して。つまりエッチングモードを選ぶより、擦り込むかどうかのほうが、象牙質接着の耐久性を左右した

なぜ擦り込むと保つのか

著者らは、モードごとに別の機序を挙げています。

セルフエッチモードの場合。健全象牙質のスミヤー層にあるゲル状のコラーゲンが、レジンモノマーの浸透を邪魔します。SEM観察では、擦り込んだ接着材のほうがスミヤー層をある程度溶かせていました。著者らの推測は「未反応の水素イオンが機能性モノマーから供給され続け、脱灰が進む」というもの。

先行研究からの説明も3つ挙がっています。①撹拌によって溶媒の蒸発が促され、スミヤー層内へのレジンモノマーの取り込み率が上がる。②アパタイトと機能性モノマーが作るカルシウム塩のナノレイヤリングが、擦り込みで有意に多く形成される。③擦り込みが化学反応を促して酸性モノマーの量を減らし、それがアミン系の共開始剤に寄与して光重合を高める

リン酸エッチング併用モードの場合。こちらの説明は界面の構造にあります。SEMで見ると、擦り込み群では 50μm を超える密なレジンタグが形成されていた。しかも象牙細管の側枝にまで接着材が入り込んでいたのに対し、置くだけの群ではそれが見られませんでした。

ちなみにセルフエッチモードのレジンタグは、リン酸併用にくらべてまばらで細く、ずっと短い。そのセルフエッチの中でも、置くだけの群は擦り込み群よりさらに浸透が浅かった、と報告されています。

そして、なぜ「置くだけ」が長期に弱いのか。著者らはこう説明します。リン酸で前処理した象牙質では、ハイブリッド層の底に「レジンが浸み込んでいない脱灰象牙質」が残る懸念がある。この不安定な領域が、生物学的分解と力学的な影響を受けるリスクを高める。擦り込みが浸透を深めるなら、そのぶんこの弱点の層は薄くなるはず——著者らはそこまで明言していませんが、そう読みたくなる並びです。

明日の臨床へ

①擦り込みは、時間のかかる丁寧さではなく、耐久性への投資である。ここがこの研究の核心です。24時間後の値では、その投資は見えません。見えるのは5万回のサーモサイクルを経たあと——臨床でいえば数年後の話です。

②「リン酸を使ったから大丈夫」とはならない。リン酸エッチング+置くだけの群は、セルフエッチ+擦り込みの群を下回りました。象牙質が主体の窩洞では、手間を減らす場所を擦り込みに求めないほうがよさそうです。

③製品によって、置くだけの代償が違う。アドヒース ユニバーサルはリン酸併用・置くだけで半減した一方、スコッチボンド ユニバーサルは同じ条件で 33.5 → 34.6 MPa とほぼ保っていました。自分が使っている製品が、どちらの型かを知っておく意味はあります。

ただし、ひとつ重要な但し書きがあります。著者らは「擦り込みは、リン酸エッチングモードでは即時のエナメル質接着に負の影響を与えうる」と述べ、こう書き添えています——「削合面がエナメル質主体のときは、リン酸エッチングモードで、擦り込まずに使うべきである。一方、象牙質が大きな割合を占めるときは、どちらのモードでも擦り込むべきである」。擦り込みが常に得というわけではありません。被着面がエナメル質か象牙質かで判断が分かれます。

著者らの結びも、この線に沿っています。「ユニバーサルアドヒーシブを異なるエッチングモードで使うとき、術者は窩洞の大きさ・深さ・形態に応じて最適な接着手順を選ぶべきである」。そして論文冒頭の Clinical Relevance には、こう書かれています——「擦り込みは、エッチングモードによらず、ユニバーサルアドヒーシブの象牙質接着耐久性を高めるのに役立つかもしれない」。

ここだけ、冷静に補助線

ここだけ、冷静に補助線。 ウシ歯を使ったin vitro研究です。老化は5℃と55℃の間のサーモサイクル——温度変化の繰り返しであって、咬合力・細菌・pH変動・唾液の酵素は含まれません。5万回という数字も、臨床の何年に相当するかを直接示すものではありません(サーモサイクルの年数換算には定説がなく、この論文もそれを主張していません)。試験はせん断接着強さのみで、微小引張・辺縁封鎖・臨床成績は見ていません。接着材は3製品で、しかも製品差が大きいことがこの研究自体で示されている——アドヒース ユニバーサルの半減とスコッチボンド ユニバーサルの安定は、同じ「置くだけ」の結果です。ここに入っていない製品がどちらの型かは分かりません。レジンタグの役割についても、著者ら自身が「接着性能を高めるうえでのレジンタグの役割はいまだ議論がある」と書き添えています。それでも——短期の実験では見えない差が、時間軸を伸ばすと現れるという構図は、明日からの手技を変えるだけの説得力があります。「今日の患者さんには差が出ない一手」を、それでも続ける理由が1つ増えました。

今日のひとこと

擦り込みの差は、貼った直後には出ない。ベースライン(24時間)では擦り込み群と置くだけ群にほぼ有意差がなかったのに、5万回のサーモサイクル後には、エッチングモードを問わず有意差がついた。置くだけの群はサイクル数とともに下がり続け、アドヒース ユニバーサルはリン酸併用で29.3から15.3 MPaへほぼ半減。一方、擦り込み群は3製品ともベースラインからの有意な低下がなかった。そして最も実務的な一文——リン酸エッチングを使っても置くだけだった群は、セルフエッチで擦り込んだ群を下回った。擦り込みは丁寧さではなく、耐久性への投資である。

Moritake N, Takamizawa T, Ishii R, Tsujimoto A, Barkmeier WW, Latta MA, Miyazaki M. Effect of Active Application on Bond Durability of Universal Adhesives. Oper Dent. 2019;44(2):188-199. doi:10.2341/17-384-L PMID: 30106329
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。