1問1答 論文 保存修復

セルフエッチがエナメル質で対照に並んだ条件——「バーで削ってあるか」だけだった

1問1答 論文 保存修復

GPDM系と10-MDP系の2ステップセルフエッチを、削ったエナメル質と無傷のエナメル質で比較したin vitro研究(Hoshika 2018・J Adhes Dent)

セルフエッチはエナメル質に弱い——長くそう言われてきました。でも「セルフエッチ」で一括りにしていいのでしょうか。ルーヴェン大学・北海道大学・東京歯科大学らの共同研究が、GPDM系と10-MDP系を、削った面と削っていない面で並べました。1製品だけが、削った面でリン酸の対照に並びます。その理由は酸性度と、モノマーがカルシウムと作る塩の安定性にありました。

論文
GPDM- and 10-MDP-based Self-etch Adhesives Bonded to Bur-cut and Uncut Enamel – “Immediate” and “Aged” μTBS
著者
Hoshika S, Kameyama A, Suyama Y, De Munck J, Sano H, Van Meerbeek B
掲載
The Journal of Adhesive Dentistry 2018;20(2):113-120(doi:10.3290/j.jad.a40307)
種類
in vitro 実験研究(抜去ヒト歯30歯=6群×各5歯・接着材3種×被着面2条件・微小引張接着試験+TEM(別の4歯))
PMID
29675517

セルフエッチはエナメル質に弱い——本当に全部そうか

エナメル質への接着は、リン酸エッチングが作るピットにレジンが絡みつく機械的嵌合で成り立っています。これは動かない前提です。

だからセルフエッチング接着材(SEA)は、エナメル質では不利とされてきました。水洗の工程がなく、速くて術式感受性も低いのに、エナメル質接着はエッチ&リンス(E&RA)に劣る。臨床データもラボデータもそう言っています。

ただ、いくつかの研究は「同等に良好」とも報告してきました。そしてそれらは決まって、削ったエナメル質では有効だが、無傷(uncut)のエナメル質では有効でないと付け加えています。

ここで一つ、素朴な疑問が残ります。セルフエッチと一括りにしていいのか。機能性モノマーが違えば、エナメル質の溶かし方も、そこに残る力も違うのではないか。ルーヴェン大学(KU Leuven)・北海道大学・東京歯科大学らの共同研究が、そこを測りにいきました。

GPDMと10-MDP——同じ「セルフエッチ」でも中身が違う

研究の骨格: ヒト歯の頬側・舌側エナメル質を、15歯は平坦に削り(bur-cut)、別の15歯は予防的清掃だけ(uncut=無傷)にする(接着材3種に振り分けるので1群あたり5歯・全6群で30歯)。ここに3つの接着材でコンポジットレジンを接着する。①オプチボンド XTR(Kerr・GPDM系の2ステップセルフエッチ)②クリアフィル SEボンド(クラレノリタケ・10-MDP系の2ステップセルフエッチ)③オプチボンド FL(Kerr・3ステップのエッチ&リンス=ゴールドスタンダードの対照)。37℃で1週間水中保管したのち1mm²の棒状試片に切り出し、各歯から採れた試片の半数は2万回のサーモサイクルにかけてから微小引張接着試験(μTBS)。GPDM系の界面はTEMでも観察した。

この3つの選び方が周到です。オプチボンド FL と オプチボンド XTR は、どちらもGPDM系のプライマーを含む同じメーカーの製品で、後者は前者のセルフエッチ版——つまりほぼ同系統の製品どうしで、リン酸を使うかどうかが最大の違いになる比較です(3ステップと2ステップという工程の違いや組成の差は残ります)。そこにモノマーの違う10-MDP系(クリアフィル SEボンド)を並べる。「エッチングモードの違い」と「機能性モノマーの違い」を、同時に切り分けられる設計です。

結果——1つだけ、対照に並んだ

0 16.7 33.3 50 エナメル質 微小引張接着強さ μTBS (MPa) 32.7 18 29.5 32.4 16.7 18.1 オプチボンド XTR(GPDM系SE) オプチボンド FL(リン酸3ステップ) クリアフィル SEボンド(10-MDP系SE) バーで削ったエナメル質 削っていないエナメル質 1週間水中保管後の即時接着強さ(Fig.2)。オプチボンド XTRだけが「削ったかどうか」で大きく変わり、削った面では対照のオプチボンド FLと有意差がなかった
1週間水中保管後の即時接着強さ(Fig.2より)。系列の色分けは図中の凡例を参照

まずオプチボンド FL(リン酸)は、削った面でも削っていない面でも安定して高い(29.5 / 32.4 MPa)。リン酸は無傷のエナメル質でも仕事をする、ということです。

クリアフィル SEボンド(10-MDP系)は、削った面 16.7、削っていない面 18.1 MPa。削っても削らなくても変わらず、どちらも対照より有意に低い

そしてオプチボンド XTR(GPDM系)。削っていない面では 18.0 MPa と低いのに、削った面では 32.7 MPa まで跳ね上がりました。この値は対照のオプチボンド FL と有意差がありません(p > 0.05)。

つまり3製品のなかで、「削ったかどうか」で結果が変わったのはオプチボンド XTR だけでした。著者らの第一仮説(削った面のほうが接着が良い)が採択されたのも、この1製品についてだけです。

0 16.7 33.3 50 エナメル質 微小引張接着強さ μTBS (MPa) 32.6 17.7 23.9 29.5 16.5 19.1 オプチボンド XTR(GPDM系SE) オプチボンド FL(リン酸3ステップ) クリアフィル SEボンド(10-MDP系SE) バーで削ったエナメル質 削っていないエナメル質 2万回のサーモサイクル後(Fig.3)。3製品とも、削った面・削っていない面のどちらでも、老化による有意な低下は認められなかった
2万回のサーモサイクル後の接着強さ(Fig.3より)。系列の色分けは図中の凡例を参照

老化についても、はっきりした答えが出ています。2万回のサーモサイクルをかけても、3製品とも、どちらの被着面でも、有意な低下は認められませんでした。

これは小さくない結果です。文献上セルフエッチはサーモサイクル後にエナメル質接着強さが有意に低下することが比較的よく報告されており、エッチ&リンスではそれが少ないとされてきました。今回はどちらも落ちなかった——著者らの第二仮説(SEAのほうが耐久性で劣る)は2製品とも棄却されています。

数字を並べると、老化後は少し景色が変わります。対照のオプチボンド FL は削った面で 23.9 MPa まで下がり、オプチボンド XTR の削った面 32.6 MPa のほうが高い値になっています(統計上も両者は文字を共有しません)。それでも著者らが「最良はリン酸」と結ぶのは、削っていない面まで含めた総合で見ているからです。

なぜGPDMは削った面で強くなったのか

理由は2つあります。酸性度モノマーの性格です。

①酸性度。オプチボンド XTR は pH 1.6、クリアフィル SEボンドは pH 1.9。XTRのほうが強い酸です。

②モノマーの性格。ここが面白いところです。著者らは「接着-脱灰概念(adhesion-decalcification concept)」という枠組みで説明します。

接着-脱灰概念: どんな酸も、まずアパタイトのカルシウムに化学結合する(第1相)。このとき電気的中性を保つため、アパタイトからリン酸イオンと水酸化物イオンが放出される。問題は次だ。そのモノマー-Ca塩が安定なら、モノマーは結合したまま留まる(接着ルート)。不安定なら、大量の脱灰を伴って離れていく(脱灰ルート)。化学分析では、10-MDPは安定な10-MDP-Ca塩を作って接着ルートを進み、GPDM-Ca塩は不安定なので基本的に脱灰ルートを進むと示されている。

つまりGPDMは「くっつく力」より「溶かす力」が強いモノマーです。だから削って粗くなった面では、より多くのマイクロリテンションを作れて有利になる

TEM観察もこれを裏づけました。削った面では界面が不整で、浅いながらも数多いエッチングピットにマイクロレジンタグが入り込んでいた削っていない面では界面がまっすぐで、マイクロレジンタグはほとんど検出できなかった。どちらもアパタイト結晶の明らかな溶解は見られず、界面に空隙もない緊密な接触でした。

ただし著者らは正直に付け加えます。「オプチボンド XTR は削った面でも、リン酸エッチングによる機械的嵌合よりは劣っていた」。リン酸の界面では、ピットがより多く深く、エナメル小柱の芯にマイクロタグ、小柱の間にマクロタグが豊富に形成され、露出したアパタイト結晶は部分的に溶けて明らかに細くなっていた——量が違うのです。

無傷のエナメル質は、なぜ手強いのか

ここは日常の判断に直結します。

エナメル質のいちばん外側にある無小柱層(aprismatic enamel)は、過石灰化していて、削った面よりフッ素を多く含んでいます。唾液はリン酸カルシウムで飽和していて外層を過石灰化させ、フッ化物入り歯磨剤の毎日の使用がアパタイトにフッ素を取り込ませてフルオロアパタイトに変えていく。

この層が、セルフエッチングプライマーのエッチング能力を削ぐ。だから著者らはこう書きます。「SEAを使うなら、無小柱層を除くためにダイヤモンドバーでエナメル質を粗造化することが臨床上必須である」。そして「この手順はリン酸でエッチングするときにも推奨されている」とも。

ただし今回の実験では、リン酸エッチング(オプチボンド FL)は、無傷のエナメル質の低い接着受容性を乗り越えるのに十分だった。リン酸は無小柱層そのものを除去して、実質的な微小多孔性を作るからです。

明日の臨床へ

①エナメル質マージンが無傷のまま残る症例では、リン酸エッチングを選ぶ。シーラント、う蝕のない面に及ぶベニア、矯正のブラケット周囲、そして窩洞外に広がるエナメル質。削っていない面でも安定して高い値を出したのは、この研究ではリン酸だけでした。

②どうしてもセルフエッチで進めるなら、エナメル質を必ずバーで一皮削る。とくにGPDM系では、これが有るか無いかで18.0 → 32.7 MPaと別物になりました。「一手間」ではなく「必須の手順」です。

③「セルフエッチ」で一括りにしない。同じ2ステップのセルフエッチでも、GPDM系と10-MDP系では挙動がまったく違いました。削った面での差は32.7 対 16.7 MPa。製品名ではなく機能性モノマーで考える癖をつけたほうが、選択の精度が上がります。

そして最後に、著者らが慎重に添えた一文を忘れないでおきたい。「エッチング能力を高めてエナメル質接着を改善することは、象牙質への促進的/劣化的な影響と並行して考えるべきである。象牙質の接着受容性はエッチングより化学的相互作用から利益を得る、というのが現在の良好なコンセンサスなのだから」。

エナメル質で有利なものが、象牙質でも有利とは限らない。1つの窩洞には両方があります。この論文はエナメル質の話であり、それだけで製品を決めることはできない——著者ら自身がそう釘を刺しています。

ここだけ、冷静に補助線

ここだけ、冷静に補助線。 抜去ヒト歯を使ったin vitro研究で、削った面・削っていない面それぞれ15歯——接着材3種に分けると1群あたり5歯にすぎません。TEMは別の第三大臼歯4歯(各群2歯)で行われています。老化は2万回のサーモサイクルで、著者らは「界面をかなり厳しく試したはず」と書いていますが、これも臨床の咬合力・細菌・pH変動を再現するものではありません。比較したセルフエッチは2製品だけで、GPDM系=オプチボンド XTR、10-MDP系=クリアフィル SEボンドという代表1つずつです。同じモノマー系でも製品ごとに違う可能性は残ります。そしてこの研究はエナメル質だけを見ています——並行研究では、オプチボンド XTR は象牙質で1.5〜2μmの厚い、アパタイトの少ない、コラーゲンが露出したハイブリッド層を作ったと報告されており、10-MDP系が作るサブミクロンでアパタイトに富む層とは対照的です。エナメル質で有利な「よく溶かす力」が、象牙質でも有利とは限らない。著者らも「安定したイオン結合とエッチングを両立できる機能性モノマーがあるか、いま研究中である」と結んでいます。それでも——「セルフエッチだからエナメル質に弱い」ではなく「モノマーと被着面の組み合わせで決まる」という解像度は、明日から効きます。削るという一手の意味が、数字で見えるようになりました。

今日のひとこと

エナメル質接着の最良はいまもリン酸エッチングだが、GPDM系セルフエッチのオプチボンド XTRは、バーで削ったエナメル質に限って対照と同等の高さに並んだ(32.7 MPa 対 29.5 MPa、有意差なし)。同じ製品が削っていない面では18.0 MPaまで落ちる。10-MDP系のクリアフィル SEボンドは削っても削らなくても16.7/18.1 MPaで、どちらも対照より有意に低い。理由はpH 1.6という酸性度と、GPDM-Ca塩が不安定で「脱灰ルート」を進むこと。そして2万回のサーモサイクルでは、3製品ともどの条件でも低下しなかった。

Hoshika S, Kameyama A, Suyama Y, De Munck J, Sano H, Van Meerbeek B. GPDM- and 10-MDP-based Self-etch Adhesives Bonded to Bur-cut and Uncut Enamel – “Immediate” and “Aged” μTBS. J Adhes Dent. 2018;20(2):113-120. doi:10.3290/j.jad.a40307 PMID: 29675517
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。