1問1答 論文 保存修復

セラミックインレー5,791装置、寿命を縮めていた3つの条件

1問1答 論文 保存修復

10年の年間失敗率は1.6%。マージンの位置・裏層・接着システムが効いていた(Collares 2016・Dental Materials)

セラミックインレー/アンレーの成績は、臨床試験の枠の中では良好です。では167名の歯科医師が日常の診療室で装着した5,791装置ではどうか。20年分のデータから、失敗と結びついた条件を洗い出した研究があります。

論文
A practice-based research network on the survival of ceramic inlay/onlay restorations
著者
Collares K, Corrêa MB, Laske M, Kramer E, Reiss B, Moraes RR, Huysmans MCDNJM, Opdam NJM(ペロタス連邦大学・ブラジル/ラドバウド大学・オランダほか)
掲載
Dental Materials 2016;32(5):687–694
種類
前向きの実地診療ネットワーク研究(5,791装置・5,523人・167名の歯科医師・1994〜2014年)
PMID
26975695

「臨床試験の成績」と「うちの医院の成績」は違う

ランダム化比較試験(RCT)は最も信頼される研究デザインですが、修復物の評価には向かない面があります。選択基準による偏り、術者の腕の偏り、そして費用の制約で症例数が限られる——原著が挙げる問題点です。

そこで使われるのが実地診療ネットワーク研究(practice-based research network)です。日常の診療室で、通常どおりの患者に、通常どおりの術式で装着された修復物を、そのまま追う。ばらつきは大きくなりますが、「現場で何が効いているか」を見るにはこちらのほうが向いています。

この研究が使ったのはCeramic Success Analysis(CSA)という、術者がウェブ上に症例情報とリコール時の所見をアップロードしていく仕組みです。

167名が20年かけて登録した5,791装置

データ: 1994〜2014年に、167名の歯科医師が自身の診療室で装着した5,791装置のセラミックインレー/アンレー(患者5,523人)。術者の多くはドイツで診療している。観察期間は1日〜15年、平均3年・中央値1.8年。欠測のある192装置を解析から除外した。
内訳: 長石系ポーセレン77.3%/ロイサイト系ガラスセラミック18.6%/二ケイ酸リチウム系4.1%。モノリシック98.2%(築盛は1.8%)。大臼歯65.5%3面以上の窩洞73.0%(表1では3面39.0%+4面以上34.0%)。接着システムはボンディングレジンが独立した3ステップ総エッチまたは2ステップセルフエッチが81.4%簡略化した2ステップ総エッチまたは1ステップセルフエッチが14.6%。合着材は光重合型59.2%・デュアルキュア型40.8%。

解析は年間失敗率(AFR)と、共有フレイルティを組み込んだ多変量Cox回帰。フレイルティを入れているのは、失敗が特定の術者に偏る(クラスタリングする)ことを織り込むためです。実際、尤度比検定でフレイルティ効果は有意でした(P<.001)。

10年の年間失敗率は1.6%

0 0.7% 1.5% 2.2% 年間失敗率(%) 1.0% 1.1% 1.6% 3年 5年 10年 5,791装置(5,523人・167名の歯科医師・1994〜2014年)。観察期間の平均は3年(中央値1.8年・最長15年)。年間失敗率は1年あたり何%が失敗するかを表す指標で、10年で1.6%なら単純計算では10年後におよそ85%が残る計算になる(原著が示した値ではない)
年間失敗率(AFR)。3年で1.0%、10年でも1.6%にとどまった

まず全体の成績です。年間失敗率は3年で1.0%、5年で1.1%、10年で1.6%。日常の診療室で、167名という多数の術者が、複数のガラスセラミック材料で作った修復物としては良好な生存と評価できる数字です。

失敗の理由(全220件): 最も多かったのは修復物または歯の破折 44.5%、次いで歯内療法に関わる合併症 16.4%。失敗の相対的な件数は、経過年数とともに増えていた。

効いていたのは、材料ではなく術式だった

0 1 1.9 2.9 失敗のハザード比(調整後) 1.00 1.78 2.05 2.42 基準(それぞれの対照群) マージンが象牙質にある グラスアイオノマーの裏層あり 簡略化した接着システム 基準(1.00)は順に、マージンがエナメル質/裏層なし/ボンディングレジンが独立した接着システムで、3本それぞれ別の対照群である(棒の高さを互いに比べる図ではない)。95%CIは 1.31–2.42、1.13–3.70、1.49–3.91。ラバーダム非使用は粗解析では1.67(1.28–2.19)だったが、調整後は1.40(0.98–1.99・P=0.061)で有意ではなくなった
調整後のハザード比。基準(1.00)はそれぞれ、マージンがエナメル質/裏層なし/ボンディングレジンが独立した接着システム
失敗と有意に結びついた3条件(調整後のハザード比):マージンが象牙質にある1.78(95%CI 1.31–2.42)。10年の年間失敗率はエナメル質マージンの1.3%に対し、象牙質マージンで1.9%。②グラスアイオノマーの裏層/裏層材あり2.05(1.13–3.70)。③簡略化した接着システム(2ステップ総エッチ・1ステップセルフエッチ)=2.42(1.49–3.91)。表3のP値(順に<.001/.014/.002)は変数全体に対する値で、個々の水準に対するものではない。

ここで面白いのは、差が出なかったものです。

有意差が出なかった要因: 歯種(小臼歯 vs 大臼歯)、修復面数、セラミックの種類(ロイサイト0.66・二ケイ酸リチウム0.87。基準=長石系ポーセレン)、モノリシックか築盛か(2.15・95%CI 0.60–7.69)、マトリックスの使用、超音波での圧接、フロスの使用、酸素遮断剤、合着材の重合様式(デュアルキュア 0.95)。

そして粗解析では有意だったのに、調整後に有意でなくなった要因が2つあります。ラバーダム非使用は粗解析で1.67(1.28–2.19、P<.001)でしたが、調整後は1.40(0.98–1.99、P=.061)シラン処理なしも粗解析2.10(1.31–3.36、P=.002)から調整後1.53(0.82–2.85、P=.179)へ。失活歯であることも調整後1.54(0.97–2.45、P=.068)で、有意水準の手前にとどまりました。

なお合着材の種類(レジンセメントの銘柄)は、比例ハザード性の仮定を満たさなかったため最終モデルから除外されています。

なぜこの3つなのか

マージンが象牙質にある——これは接着の話です。エナメル質への接着は象牙質より安定しており、辺縁の封鎖が保たれやすい。深い窩洞ほど象牙質マージンになりやすく、しかも残存歯質も薄い。失敗の44.5%が修復物または歯の破折だったことを重ねると、この項目が効いている構図は理解しやすくなります。

グラスアイオノマーの裏層——裏層をしない場合を基準にしたハザード比が2.05。一方でコンポジットレジンによる裏層は0.64(0.39–1.05)と、むしろ有利な方向(有意ではない)です。原著はここで2つの読み方を並べています。ひとつは「機械的に弱いグラスアイオノマーの裏層が界面の劣化を助長し、破折を促す可能性がある——とくにセラミック修復物の弾性率が非常に高いことを考えると」。もうひとつは「そうした裏層を敷いたということは、その窩洞がより歯髄に近かったことを示しているのかもしれない。これはこの解析に記録も投入もされていない変数である」。そのうえで原著は「したがってこの所見の解釈は慎重に行うべきである」と釘を刺しています。裏層そのものが原因なのか、裏層が必要になるような深い窩洞だったのかは、このデータでは分けられません。

簡略化した接着システム——3つのなかで最もハザード比が大きい(2.42)項目です。ボンディングレジンを独立した工程として塗る接着システム(3ステップ総エッチ・2ステップセルフエッチ)のほうが、成績が良かった。工程を減らした接着材の弱点が、日常診療の5,791装置というスケールで見えた形です。

明日の臨床へ

第一に、マージンをエナメル質に置ける設計を優先する。歯頸側の窩縁が象牙質に落ちるかどうかは、形成の段階で判断できることがあります。この研究では、そこが10年の年間失敗率で1.3%対1.9%の差になりました。

第二に、グラスアイオノマーの裏層については、判断を保留する。ハザード比2.05という数字は出ましたが、原著自身が「窩洞の深さという記録されていない変数が背後にある可能性」を挙げ、解釈は慎重にと述べています。「裏層をやめれば成績が上がる」と読むには根拠が足りません。同じ表でコンポジットによる裏層が0.64(有意ではない)だったことを含め、材質の選択肢があることを意識しておく、という程度に留めるのが妥当だと思います。

第三に、接着システムは工程を減らさない。簡略化した接着システムのハザード比2.42は、この研究で最も大きい値です。時短の恩恵と、10年後の成績を天秤にかける材料になります。

第四に、材料の銘柄選びに悩みすぎない。長石系・ロイサイト・二ケイ酸リチウムのあいだに有意差は出ませんでした(ただし二ケイ酸リチウムは4.1%と少数で、検出力の問題は残ります)。この研究が示したのは「何を使うか」より「どう付けるか」です。

つまり: 実地診療での5,791装置で、年間失敗率は10年で1.6%。失敗と有意に結びついたのは象牙質マージン(1.78)・グラスアイオノマーの裏層(2.05)・簡略化した接着システム(2.42)の3つで、いずれも術式に関わる要因だった。セラミックの種類による差は出なかった。
ここだけ、冷静に補助線
このデザインの弱点を、原著が正面から書いています。修復物を評価したのは独立した評価者ではなく、装着した歯科医師自身です。しかも較正されていないため、失敗の判定基準は術者ごとに揺れます。実際の失敗数は、追跡データをアップロードしきれなかった分だけ少なく見え、あるいは術者が過大に失敗と判定した分だけ多く見えている可能性がある——原著の言葉どおりです。さらに観察期間の中央値は1.8年で、10年のAFRはごく一部の長期例から外挿された値だと理解しておく必要があります。参加した術者は主に卒後研修やトレーニングコースで勧誘されて登録した人たちで、原著自身「より意欲の高い歯科医師が選ばれた結果になっている可能性がある」と書いています。しかも95%超がドイツの術者で、原著は「結果を世界の状況へ外挿することは許されない」と明言しています。さらに患者側の変数(年齢・性別・う蝕リスク・ブラキシズム)はCSAの初期には記録されていないことが多く、解析に入っていません。なお術者ごとの失敗のクラスタリングは有意でしたが、原著はこれを共有フレイルティで調整したうえで「報告したリスク因子は術者の技量とは独立していると結論してよい」と述べています。合着材の種類は比例ハザード性を満たさず、そもそも解析から外れています。それでも、167名・5,791装置・20年という規模は、単一施設のRCTでは到達できない広さです。そして出てきた答えが「材料ではなく術式」だったこと自体が、示唆に富んでいると思います。

今日のひとこと

セラミックインレー/アンレーの成績は、日常の診療室でも良好だった(10年の年間失敗率1.6%)。ただし失敗と結びついたのは材料ではなく術式だった——マージンが象牙質にあること、グラスアイオノマーの裏層、そして簡略化した接着システム。セラミックの種類(長石系・ロイサイト・二ケイ酸リチウム)による差は出ていない。

Collares K, Corrêa MB, Laske M, Kramer E, Reiss B, Moraes RR, Huysmans MCDNJM, Opdam NJM. A practice-based research network on the survival of ceramic inlay/onlay restorations. Dent Mater. 2016;32(5):687–694. doi:10.1016/j.dental.2016.02.006 PMID: 26975695
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。