1問1答 論文 虫歯

削らずに見守った10年、象牙質の内側まで進んだのは0〜1%だった——11歳から22歳の隣接面

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|隣接面う蝕・経過観察・修復の閾値・バイトウイング

隣接面のエナメルう蝕を見つけたとき、削るか、見守るか。「進行が遅いから待てる」とは言われますが、待った結果どうなるのかを長く追ったデータは多くありません。ストックホルム郊外の公立歯科診療所が、536名の子どもを11歳から22歳まで、毎年のバイトウイングで追いました(全員が毎年撮れたわけではなく、21歳時点で撮影できたのは300名)。修復の閾値は「象牙質の外側半分への明らかな進行(スコア4)」。12歳と21歳を比べると、エナメルう蝕は10%から29%へ、象牙質う蝕は1%から14%へ増えています。それでも、象牙質の内側半分(スコア5)まで進んだ病変は、どの年も全隣接面の0〜1%にとどまりました。

論文
Caries Development from 11 to 22 Years of Age: A Prospective Radiographic Study. Prevalence and Distribution
著者
I. Mejàre, C. Källestål, H. Stenlund, H. Johansson(ストックホルム イーストマン歯科研究所 小児歯科/ウメオ大学 疫学・公衆衛生学)
掲載
Caries Research 1998;32(1):10-16
種類
前向きコホート研究(536名を11〜22歳まで追跡。バイトウイングは1人平均8.7セット)
PMID
9438566

隣接面のエナメルう蝕、削りますか、見守りますか

バイトウイングに、エナメル質にとどまる透過像が写る。削るか、見守るか。「エナメル質内の進行は遅い」「修復物には寿命がある」——見守る理由はいくつも挙がります。1980年代以降、北欧では修復の閾値が明らかに後退しました。

ただ、そこには不安が残ります。見守った結果どうなるのかを、長く追ったデータが少ないからです。象牙質に入ったあとの挙動については、なおさら分かっていませんでした。

ストックホルム郊外の公立歯科診療所が、536名を11歳から22歳まで毎年のバイトウイングで追ったのがこの研究です。

先に結論: 12歳と21歳を比べると、う蝕のない隣接面は88%→52%、エナメルう蝕は10%→29%、象牙質う蝕は1%→14%に増えた。それでも象牙質の内側半分(スコア5)まで進んだ病変は、どの年も全隣接面の0〜1%だった。

「待つ」を、仕組みとして運用した診療所

この研究の値打ちは、単なる観察ではなく診療所ぐるみで方針を決めて運用したところにあります。

  • 対象:1972〜73年生まれで診療圏に住む全員。1985〜86年に11〜13歳。536名(男児270・女児266)。参加を断った家庭はゼロ
  • 方針:隣接面う蝕は象牙質での進行が明らかになるまで修復しない。一般的な閾値は象牙質の外側半分への明らかな進行=スコア4(明らかな窩洞があれば別)
  • 歯止め:個々の歯科医師が隣接面を修復する前に、院内の諮問委員会に諮り、削るかどうかの合意を得る。診断と治療判断のばらつきが大きいことが知られていたため
  • 予防:フッ化物濃度0.3ppmの地域。基本プログラムは年1回のデュラファート(フッ化物バニッシュ)を臼歯部隣接面と新生大臼歯咬合面へ。う蝕活動性が高い人には専門的清掃+反復塗布、食事指導、フロス指導を最大3か月ごとに
  • 記録:毎年誕生月にバイトウイング2枚×左右。1人平均8.7セット(SD 2.1)で、10セット以上撮れたのは198名、8セット以上が420名。エナメル象牙境を越えた病変は6か月ごとに確認

読影の一致率は、検者間κ=0.52、検者内κ=0.77と0.56。正直に受け止めるべき数字で、隣接面の読影が本質的に難しいことを示しています。なお「診断の後戻り」は認めない処理をしています——一度見えた透過像が次の写真で消えていても、その面は「健全」として通す。つまりう蝕を過大評価しない方向に寄せた集計です。

12歳から21歳で、何がどれだけ増えたか

0 33.3% 66.7% 100% 臼歯部隣接面に占める割合 (%) 88% 52% 10% 29% 1% 14% 1% 5% う蝕なし エナメルう蝕(スコア1+2) 象牙質う蝕(スコア3+4+5) 修復済み 濃い棒=12歳、淡い棒=21歳。21歳時点の象牙質う蝕14%の内訳は、スコア3が10%・スコア4が4%。スコア5(象牙質の内側半分)の病変は、どの年も全隣接面の0〜1%にとどまった
臼歯部隣接面の状態。12歳と21歳の比較

12歳と21歳を比べます。う蝕のない隣接面は88%から52%へ。エナメルう蝕(スコア1+2)は10%から29%へ。象牙質う蝕(スコア3+4+5)は1%から14%へ増えました。14%の内訳はスコア3が10%、スコア4が4%です。修復済みの面は1%から5%へ。

個人単位で見ると、DMFTは12歳の3.2から21歳の6.7へ、DMFSは3.6から9.7へ、そのうち隣接面のDMFSは0.6から4.5へ増えています。9年間で、着実に、しかしゆっくり増えたという絵です。

そして、この研究でいちばん大事な数字がここです。スコア5(象牙質の内側半分)まで進んだ病変は、どの年も全隣接面の0〜1%でした。エナメルう蝕29%・象牙質う蝕14%・修復済み5%と同じ分母(全隣接面)での有病率です。深い病変が積み上がることはなかった——著者らも「定期受診と診断の質が保たれるなら、この戦略が目立った数の深い病変をもたらすことはなかった」と結論しています。

ただし、明るい数字だけではありません。追跡期間中に11歯が抜髄され、別の11歯がう蝕で抜歯されています。著者らは「これらの歯について、根管治療や抜歯の理由を厳格な修復基準に直接結びつけることはできなかった」と付け加えていますが、比較群のない研究での著者自身の判断であることは押さえておく必要があります。

もうひとつ。エナメル象牙境(スコア3)に達した病変のうち、象牙質へ進行する前に修復されたものは4%だけでした。つまり閾値は建前ではなく、実際にかなり厳密に守られていたということです。

う蝕が「一部の人のもの」でなくなっていく

0 26.7% 53.3% 80% その年齢で「う蝕ゼロ」だった人の割合 (%) 71% 28% 12% 2% 隣接面のう蝕がゼロ(DMFS隣接面=0) 全部位のう蝕がゼロ(DMFS=0) 濃い棒=12〜13歳、淡い棒=20〜21歳。両年齢とも同じ388名で集計。12〜13歳と15〜16歳では偏った分布(一部の人に集中)だったが、20〜21歳ではほぼ一様な分布になった
同じ388名を12〜13歳と20〜21歳で比較。隣接面う蝕ゼロの人が大きく減る

隣接面のう蝕がゼロだった人は、12〜13歳の71%から20〜21歳の28%へ。全部位でゼロだった人は12%から2%へ減りました。

もっと重要なのは分布の形が変わったことです。12〜13歳と15〜16歳では、う蝕が一部の子どもに偏って集中する「歪んだ分布」でした。ところが20〜21歳ではほぼ一様な分布になっています。

ただし注意が要ります。ここで示されたのは集団としての分布の形であって、「12歳でローリスクだった個人が、20歳でどうなったか」を追った解析ではありません。分布が一様に近づいても、高リスクだった子が依然として高いままである可能性は排除されていない。それでも、10代前半でう蝕が無かった集団の多くが、20歳前後には隣接面に病変を持つようになるという事実は、一度決めたリスク評価をそのまま持ち続けないほうがよいことを示唆します。

主戦場が、咬合面から隣接面へ移る

0 33.3% 66.7% 100% 全DFSに占める咬合面の割合 (%) 83% 52% 12歳 21歳 12歳では咬合面が主戦場だが、21歳までに隣接面へ移っていく。21歳時点で最も修復されていた隣接面は第一大臼歯の近心面で、修復された隣接面全体の50%を占めた
う蝕・修復に占める咬合面の割合。12歳の83%から21歳の52%へ

全DFSに占める咬合面の割合は83%(12歳)から52%(21歳)へ下がりました。総数が減ったのではなく、隣接面が増えて相対的に咬合面の比重が下がったということです。

部位はかなり偏っています。21歳時点で最も修復されていた隣接面は第一大臼歯の近心面で、修復された隣接面全体の50%。第一大臼歯の咬合面・近心面・遠心面の3つで、修復された全部位の60%を占めました。

ただし「最も修復された面」は治療判断を含んだ指標です。疾患そのもので見ると、21歳時点で象牙質う蝕の有病率が最も高かったのは、下顎第一大臼歯の遠心面でした。削られた面と、病変が多い面は、必ずしも一致しません。

面白い所見もあります。上顎第二大臼歯の近心面は、隣り合う第一大臼歯の遠心面よりう蝕が少なく、下顎の対応する面よりも少なかった(統計学的に有意)。同じ「隣接面」でも一様ではありません。

明日の臨床へ

  • 「エナメル内なら経過観察」を支える一次データになる(著者ら自身は、この戦略の便益そのものについては判断を留保しています)。ただしこの結果は年1回のバイトウイング・年1回のフッ化物バニッシュ・活動性が高い人への個別対応・迷ったら委員会で合議という運用とセットです。観察だけを取り出して真似ると、支えている仕組みが抜けます。
  • 待つなら、写真の間隔を決めておく。この診療所は象牙質に入った病変を6か月ごとに確認しています。「様子を見ましょう」で次回が1年後なのか半年後なのかを、その場で決めておく。
  • 第一大臼歯の近心面を、特別扱いする。修復された隣接面の半分がここでした。萌出後の数年、この面を意識して見る価値があります。
  • 10代のリスク評価を固定しない。集団として見れば、12〜13歳で71%あった「隣接面う蝕ゼロ」が、20〜21歳では28%になります。この研究のスウェーデンでは0〜19歳まで公費で定期歯科医療が受けられましたが、日本では受診が途切れやすい年齢帯です。若年成人を、う蝕の「終わった人」として扱わない。
  • 読影のばらつきを前提に置く。この研究ですら検者間κは0.52でした。1枚の写真から即断せず、同一条件で撮った前回の写真と並べて比べる。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:これは単一の診療所の単一コホートで、比較群はありません。「削る方針だったらどうだったか」は分からない構造です。1980〜90年代のスウェーデンという、公費で全員が毎年受診し、フッ化物と予防プログラムが行き届いた環境の数字であることも重要で、そのまま日本に持ち込めません。追跡の脱落も大きく、11〜13歳の536名に対して21歳で撮影できたのは300名です(転出・私費診療への移行・兵役や留学など)。読影の一致率(検者間κ=0.52)は決して高くなく、著者ら自身が診断のばらつきに紙面を割いています。またこの論文は有病率と分布を扱ったもので、発生率と進行速度は別の姉妹論文にあります。「どのくらいの速さで進むのか」をこの論文だけから読み取ることはできません。それでも、閾値を後退させた運用を約10年続けて、スコア5の病変が全隣接面の0〜1%で済んだという記録は、経過観察という選択を支える数少ない実データです。ただし抜髄11歯・う蝕による抜歯11歯という数字も、同じ紙面に書かれています。

今日のひとこと

スウェーデン・ストックホルム県ヴェステルハニンゲの公立歯科診療所で、1972〜73年生まれの536名(男児270・女児266)を11〜13歳から21〜22歳まで、毎年のバイトウイング(1人平均8.7セット)で追跡した。この診療所は「隣接面う蝕は象牙質での進行が明らかになるまで修復しない」という方針で、修復に踏み切る前には院内の諮問委員会に諮り合意を得る運用にしていた。一般的な修復閾値は象牙質の外側半分への明らかな進行=スコア4。10年間で、う蝕のない隣接面は88%から52%へ減り、エナメルう蝕は10%から29%へ、象牙質う蝕(スコア3+4+5)は1%から14%へ(スコア3が10%・スコア4が4%)、修復済みは1%から5%へ増えた。それでもスコア5(象牙質の内側半分)まで進んだ病変は、どの年も全隣接面の0〜1%にとどまった。ただし追跡期間中に11歯が抜髄され、別の11歯がう蝕で抜歯されている(著者らは、これらを厳格な修復基準に直接結びつけることはできなかったと述べている)。またエナメル象牙境(スコア3)に達した病変のうち、象牙質へ進行する前に修復されたものは4%しかなく、閾値は実際にはかなり厳密に守られていた。隣接面う蝕がゼロの人は12〜13歳の71%から20〜21歳の28%へ減り、12〜13歳と15〜16歳で見られた「一部の人への集中」は20〜21歳ではほぼ一様な分布に変わった。全DFSに占める咬合面の割合は83%から52%へ下がり、う蝕の主戦場が咬合面から隣接面へ移る。21歳時点で最も修復されていたのは第一大臼歯の近心面で、修復された隣接面の50%を占めた。いっぽう疾患側で象牙質う蝕の有病率が最も高かったのは、下顎第一大臼歯の遠心面だった。

Mejàre I, Källestål C, Stenlund H, Johansson H. Caries development from 11 to 22 years of age: a prospective radiographic study. Prevalence and distribution. Caries Res. 1998;32(1):10-16. PMID: 9438566. DOI: 10.1159/000016424
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。