1問1答 論文 エンド

強い咬合力は根尖病変を大きくする——そう思っていたら、ラットでは逆に「遅らせた」

1問1答 論文 エンド

エンド|歯根膜・咬合性外傷・動物実験

根尖病変のある歯に早期接触がある。患者さんは「咬むと響く」と言う。咬合を落としたほうがいいのだろうか——答えを持たないまま手が止まる場面です。咬合性外傷と歯周組織の関係は古典的な知見が多い一方、著者らによれば「咬合性外傷と根尖病変を結びつけた報告は文献上見つけられなかった」。ラット80匹を4群に分けて正面から測った結果は、直感と逆でした。

論文
Effect of Traumatic Occlusion on Periapical Lesions in Rats
著者
Kumazawa M, Kohsaka T, Yamasaki M, Nakamura H, Kameyama Y
掲載
Journal of Endodontics 1995;21(7):372–375(愛知学院大学)
種類
動物実験(Wistar系雄ラット80匹・4群・1〜6週の組織学的および組織計測学的検討)
PMID
7499978

咬んで痛い歯——強い咬合力は、根尖病変を悪くしているのか

根尖病変のある歯に、明らかな早期接触がある。あるいは患者さんが「この歯で咬むと響く」と言う。咬合を落としたほうがいいのだろうか——エンドの現場で、答えを持たないまま手が止まる場面です。

咬合性外傷が歯周組織を傷めることは、プラークや歯石と並ぶ古典的な知見として多くの組織学的報告があります。ですが著者らはこう書きます。咬合性外傷と根尖病変を結びつけた報告は、文献上見つけられなかった。歯髄が生きている歯に強い力がかかったときの話は調べられていても、歯髄が露出して炎症が起きている歯に、さらに咬合性外傷が加わったらどうなるかは空白だったのです。

ラット80匹を、4通りに分けた

ラット80匹を4群に分けた(各20匹・1・2・4・6週で観察)

A群 無処置 B群 歯髄露出 C群 咬合性外傷 D群 露出+外傷

変化なし 歯根膜が炎症 歯根膜の圧迫と 圧迫と炎症が →4週で歯髄が全部壊死  骨吸収  B群より少ない  膿瘍・骨吸収 →6週で修復へ →4週でも膿瘍・  骨吸収は出ず

歯髄には変化なし

B群 と D群 の比較がこの研究の核心 根尖歯根膜は D群 が有意に小さい(垂直長1・2・4週/水平長4週/面積1・2・4週・p<0.01) 6週は有意差の記載なし(図9〜11にアスタリスクなし)。ただし組織像では6週も炎症は少ない

実験デザインと各群の組織学的所見。核心はB群とD群の比較にある

体重250gのWistar系雄ラット80匹を4群(各20匹)に均等に分けました。A群=無処置B群=左下顎第一大臼歯の歯髄を露出C群=対応する左上顎大臼歯の咬合面に、厚さ1.0mm・長さ6.5mm・幅2.0mmのレジン板をセメント合着して咬合性外傷を作る。D群=歯髄露出とレジン板の両方

1・2・4・6週で屠殺し、下顎を10%中性緩衝ホルマリンで固定・EDTA脱灰・パラフィン包埋のうえ、近遠心方向に6μmで連続切片を作製。H-E染色で光学顕微鏡観察し、根尖部歯根膜の領域を画像処理システムで組織計測しました。1個体あたり5枚の連続切片を測定し、Mann-WhitneyのU検定で解析しています。炎症・膿瘍・歯槽骨吸収の判定は病理学者が行いました。

結果:咬合性外傷を足したほうが、病変は小さかった

まずB群(歯髄露出のみ)の経過です。1週で根尖部歯根膜に炎症が起こり、2週で顕著になり、4週には歯髄組織が全て壊死し、根尖部に炎症・膿瘍・歯槽骨吸収が揃いました。6週では炎症と膿瘍はやや軽くなるものの、骨吸収は残っています。教科書どおりの進行です。

ところがD群(露出+咬合性外傷)は違いました。1週と2週の時点で、歯根膜の圧迫と炎症がB群より軽い。4週でも炎症はB群より少なく、膿瘍も歯槽骨吸収も認められませんでした。6週になってようやく膿瘍と骨吸収が現れます。

組織計測でも同じ向きでした。根尖部歯根膜の垂直方向の長さは1・2・4週、水平方向の長さは4週、面積は1・2・4週で、いずれもD群がB群より有意に小さい(p<0.01)。原著が有意差を挙げているのはここまでで、6週については有意差の記載がありません(図9〜11にもアスタリスクが付いていないので、6週は有意差なしと読めます——ただしこれは本文の明記ではなく、図からの読み取りです)。

ここで一つ、落としてはいけない記述があります。原著は「6週でも炎症はB群より少なかった(ただし膿瘍と歯槽骨吸収は認められた)」と明記しているのです。つまり6週で追いついたのは計測値のほうで、組織像ではなお差がありました。「6週で同じになった」と読むのは行き過ぎです。

つまり: 咬合性外傷は根尖病変を悪化させたのではなく、拡大を遅らせた。6週には計測値の有意差が見られなくなる——遅延であって、予防ではない。ただし組織像では6週でも炎症はD群のほうが少なかった。

咬合性外傷だけでは、歯髄炎は起きなかった

もう一つ重要なのがC群(咬合性外傷のみ)です。1・2・4週で歯根膜の圧迫と歯槽骨の吸収が見られ、6週には修復に向かっていました。しかし歯髄組織には組織学的な変化が起きていません。著者らは「短期の咬合性外傷が歯髄に歯髄炎を生じないことは、本研究から明らかである」と書いています。

著者らは、自分たちの結果を「Landayらとは一致するが、Cooperらとは異なる」と明言しています。Landayらは、咬合性外傷への反応は歯根膜に現れ(14・16・20日の標本で最も強い)、歯髄には見られなかったと報告しました。一方でCooperらは、中等度に強い咬合性外傷は7か月・10か月・1年という長い経過で歯髄の変化を起こすようだとしています。原著は両者を和解させておらず、Cooperとは食い違うと書いている——観察期間が6週と7か月〜1年で大きく違うことが背景にあるのだろう、というのはあくまで読み手の推測です。

なぜ遅れたのか——歯根膜の圧迫という仮説

著者らの説明はシンプルです。咬合性外傷によって根尖部の歯根膜が圧迫され、その圧迫が、歯髄を通って根尖部へ広がろうとする炎症の伝播を遅らせたのではないか。物理的に詰まった通路が、炎症の前線の進みを鈍らせたという見立てです。

ここは著者ら自身も「これらの事実は〜と関連しているのかもしれない(may be associated)」という慎重な書き方をしています。機序を証明した研究ではなく、現象を測って仮説を添えた研究だと受け取るのが正確です。

明日の臨床へ——「咬合を落とせば治りが早い」とは言えない

第一に、「強く当たっているから病変が大きいのだ」という因果を、反射的に置かない。少なくともラットでは向きが逆でした。咬合と根尖病変の関係は、直感ほど素直ではありません。

第二に、ラットでは、短期の咬合性外傷だけで歯髄炎は起きなかった。「咬合が原因で神経が痛んでいる」という説明を立てるときは、他の原因——う蝕・クラック・修復物の辺縁——を先に潰しておくべきだ、ということになります。

第三に、これはラットの実験であって、ヒトで咬合調整を控える根拠にはならない。本研究が言えるのは「拡大が遅れた」までで、痛みがどうなるか・最終的な治癒がどうなるかは測られていません。そして本研究は「咬合を落とせば治りが早くなる」という素朴な期待にも、同じだけ根拠を与えていません(咬合調整=外傷の除去は検定されていないからです)。第1巻で見てきた歯根膜の痛みの話に、もう一枚の補助線を引く一本です。

つまり: ①咬合性外傷=根尖病変の悪化、という因果を反射的に置かない ②短期の咬合性外傷だけでは歯髄炎は起きない ③ラットの6週の話で、ヒトの咬合調整の可否を決める研究ではない。
ここだけ、冷静に補助線
1995年・ラット80匹の動物実験です。80匹といっても4群に均等配分し、さらに1・2・4・6週の4時点に分けるため、1群1時点あたりは数匹規模(原著は各時点の匹数を明記していません)。観察は6週まで、アウトカムは組織像と歯根膜の計測値のみで、痛みも最終的な治癒も評価されていません。なお6週で有意差がないことは本文に明記がなく、図9〜11にアスタリスクが無いことからの読み取りです。レジン板による咬合挙上は、ヒトの咬合性外傷とは力のかかり方が違います。数値は本文中に表として示されず図(平均±標準誤差)のみで、有意差の記載はp<0.01の水準です。それでも「咬合性外傷は根尖病変を大きくするはずだ」という予想を、実験で正面から裏切ったところに価値があります。直感の向きを一度疑わせてくれる一本です。

今日のひとこと

歯髄を露出させたラットに咬合性外傷を加えると、根尖部歯根膜の病変は加えなかった群より有意に小さかった(垂直長は1・2・4週、水平長は4週、面積は1・2・4週でp<0.01)。原著が有意差を挙げるのはここまでで、6週については記載がない(図にアスタリスクが無いことからの読み取り)。ただし原著は「6週でも炎症はB群より少なかった(膿瘍と骨吸収は認められた)」とも明記しており、追いついたのは計測値のほう。悪化させたのではなく拡大を遅らせた、という位置づけになる。咬合性外傷のみの群では歯髄に組織学的な変化が起きなかった(著者らはこの点でLandayらとは一致するが、Cooperらとは異なると明言している)。著者らは、根尖部歯根膜の圧迫が炎症の波及を遅らせたのだろうと考えている。ラット・6週・組織計測のみの研究で、ヒトの咬合調整の可否を決めるものではない。

出典:Kumazawa M, Kohsaka T, Yamasaki M, Nakamura H, Kameyama Y. Effect of traumatic occlusion on periapical lesions in rats. J Endod. 1995;21(7):372–375. PMID: 7499978
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。