1問1答 論文 エンド

患者さんの指す歯は、当たっているか——打診痛があれば9割、なければ3割

1問1答 論文 エンド

エンド|痛みの定位・打診・救急診査

「どの歯が痛みますか?」——救急対応の第一声です。患者さんは自信を持って1本を指す。その答えは、どこまで信用してよいのでしょうか。2010年、ミネソタ大学のMcCarthyらは、エンド救急に駆け込んだ患者75名で「指した歯」と「診査で確定した原因歯」を突き合わせました。分かれ目は、打診痛でした。

論文
Frequency of localization of the painful tooth by patients presenting for an endodontic emergency
著者
McCarthy PJ, McClanahan S, Hodges J, Bowles WR
掲載
Journal of Endodontics 2010;36(5):801–805(ミネソタ大学)
種類
臨床研究(エンド救急患者75名の前向き観察)
PMID
20416423

「この歯です」——その指は、どこまで正確か

痛みの主訴で来院した患者さんが指す歯に、迷わず手を付けてよいか。エンドの診査で最初に立ちはだかる問いです。歯髄の痛みは、そもそも定位の甘い設計とされています——歯髄からの信号は延髄で他の入力と合流(収束)し、脳が発信元を厳密に読み取りにくいことが、動物実験で示されてきました。

実際、健常者の歯に電気や冷刺激を与えた過去の実験では、刺激された歯を正しく言い当てられたのは37〜64%程度。しかしこれらは「痛みのない人への人工刺激」の話。本物の痛みで駆け込んできた患者さんでは、どうなのか。それを初めて、歯髄診断・根尖部診断と突き合わせて調べたのがこの研究です。

救急患者75名に、痛む歯を指してもらった

対象はミネソタ大学のエンド救急を受診した患者のうち、痛みの強さが10段階で3以上あった79名(解析は歯原性の75名)。見てすぐ分かる大きなう蝕や孤立歯は除外されています——つまり「指させるまでもない症例」を抜いた、診査が本当に必要な集団です。

患者さんに痛む歯を指してもらったあと、打診・触診・温度診・電気診・X線を含む標準的な診査で原因歯を確定し、両者を照合しました。75名の内訳は、打診痛のある患者55名、ない患者20名です。

分かれ目は、打診痛だった

0 33.3% 66.7% 100% 痛む歯を正しく指せた患者の割合(%) 73.3% 89.1% 30% 全体 打診痛あり 打診痛なし エンド救急患者75名(打診痛あり55名・なし20名)。全体55/75・打診痛あり49/55・なし6/20(p<0.0001)。炎症が歯根膜に及んでいるかどうかで、患者の定位の信頼度が大きく変わる
痛む歯を正しく指せた割合。打診痛の有無で、訴えの信頼度がまるで違う(p<0.0001)

全体では73.3%(55/75)の患者が正しい歯を指せました。しかし内訳を見ると景色が変わります。打診痛のある患者は89.1%(49/55)が言い当てたのに対し、打診痛のない患者はわずか30%(6/20)。7割が外していたのです。

さらに面白いのは、痛みが強いほど、指す歯が外れるという結果です。正しく指せなかった患者の痛みスコア(VAS)は平均75.3で、指せた患者の62.5より有意に高い。両因子を組み合わせたモデルでは——

0 33.3% 66.7% 100% 痛む歯を正しく指せた割合(%) 98.7% 7.8% 軽い痛み+打診痛あり 強い痛み+打診痛なし 打診痛の有無とVAS痛みレベル(軽度30-49/重度80-100)の組み合わせによるモデル推定値。「痛みが強いのに打診痛がない」訴えほど、指す歯は当てにならない
「強い痛みなのに打診痛がない」訴えほど、指す歯は当てにならない

一方で、左右はどの患者も100%正解。上下の顎も92.3%が当たり、正中を越える関連痛は1例もありませんでした。±1歯まで許容すれば90.7%が範囲内です。痛みの「おおまかな住所」は合っている——番地だけが怪しいのです。

仕組み——炎症が歯根膜に届くと、痛みに住所が書かれる

なぜ打診痛が分かれ目になるのか。歯髄は、位置を知らせる受容器に乏しいとされています。だから純粋な歯髄炎の痛みは「顔の奥のどこか」としか知覚されにくい。一方、歯根膜にはメカノレセプター(機械受容器)が豊富で、どの歯に力がかかったかを常時報告しています——だから私たちは薄い咬合紙1枚を噛み分けられるわけです。

つまり: 炎症が歯髄の中に留まっている間、痛みには住所がない。炎症が根尖から歯根膜に波及した瞬間、位置センサー付きの組織が痛み始め、痛みに住所が書き込まれる。打診痛は「炎症が歯根膜に届いた」サイン——だから打診痛と定位精度が連動するのです。

明日の臨床へ——訴えの「信頼度」を打診で見積もる

この研究の使い方はシンプルです。患者さんの訴えの信頼度を、打診痛の有無で見積もる。打診痛があれば、指す歯は9割方信じてよい。打診痛がないのに痛みが強い訴えは、要注意です——指している歯が原因である確率はむしろ低く、隣在歯・対顎、さらには非歯原性の可能性まで視野を広げて診査する場面です。

逆に信じてよい情報もあります。左右の訴えは、この研究では100%当たりました。正中を越える関連痛も起きていません。「右です」と言われたら、右の中から探せばよい。訴えを全部疑うのではなく、信じられる部分と怪しい部分を切り分ける——それがこのデータの価値です。

ここだけ、冷静に補助線単施設のエンド救急75名の観察研究で、打診痛なし群は20名と小さく、30%という数字の幅は広めに見る必要があります。見てすぐ分かる症例を除外しているため、実際の外来より「難しい症例」が濃い集団です。歯種別の差(前歯100%・小臼歯73.7%・大臼歯66.7%)は有意ではありません。それでも、実際の痛み患者で「打診痛と定位」の関係を直接調べた研究はこれが初めてで、診査の順序に根拠を与えてくれる一本です。

今日のひとこと

患者さんの指す歯は、打診痛があれば9割当たり、なければ3割しか当たらない。訴えを疑うのではなく、訴えの信頼度を打診で見積もる。「痛みが強いのに打診痛がない」ときこそ、指された歯から一歩引いて、診査の網を広げる。

出典:McCarthy PJ, McClanahan S, Hodges J, Bowles WR. Frequency of localization of the painful tooth by patients presenting for an endodontic emergency. J Endod. 2010;36(5):801–805. PMID: 20416423
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
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