1問1答 論文 歯周病

歯肉の縁に、触れないという選択——根尖側から入る再生療法

歯周外科

NIPSA(non-incised papillae surgical approach)とMISTの比較

乳頭を切らない術式が出てきても、歯肉溝の中には刃が入ります。辺縁の組織は動かされ、術後に少し下がる。——では、辺縁にまったく触れずに骨欠損へ届く道はないのか。骨頂の縁より根尖側の粘膜を一本だけ切る、という答えが出されました。

論文
Periodontal reconstructive surgery of deep intraosseous defects using an apical approach. Non-incised papillae surgical approach (NIPSA): A retrospective cohort study
著者
Moreno Rodríguez JA, Ortiz Ruiz AJ, Caffesse RG
掲載
J Periodontol. 2019;90(5):454-464
種類
後ろ向きコホート(NIPSA 15名 対 MIST 15名・1年・単一術者)
PMID
30421495

乳頭を切らなくても、歯肉溝には刃が入っている

乳頭に触れない術式が出てきても、歯肉溝の中には刃が入ります。辺縁の組織は剥がされ、動かされ、術後にわずかに下がる。前歯部では、その「わずか」が問題になります。

では、辺縁にまったく触れずに骨欠損へ届く道はないのか。

先に結論: ポケットの減少は両群同等だったが、付着の獲得はNIPSA群のほうが有意に大きかった(p<0.05)。乳頭先端の退縮はMISTの1.06mmに対しNIPSAではほぼ起きず(p<0.001)、1週後の完全閉鎖は73%対40%壊死と材料の露出はNIPSAでゼロ・MISTで33%だった。

入口を、骨欠損より根尖側へ下ろす

Moreno Rodríguezらの答えは単純でした。骨皮質の上の粘膜に、水平または斜めの切開を1本だけ置く。その位置は辺縁組織から離れ、欠損を画する骨頂の縁よりも根尖側です。切開する場所は骨をプロービングして骨の存在を確かめたうえで決めます

切開より歯冠側の組織を全層で挙上し、術前の辺縁組織と乳頭の構造をそのまま保ったまま、下から欠損へ入ります。

つまり: 歯肉溝内切開も、乳頭の切開も、置きません。刃は、歯肉縁から最も遠い場所にあります。
NIPSA(Moreno Rodríguez 2019)——根尖側から入る 前の術式との違い:歯肉溝内切開すら置かず、入口が根尖側の粘膜へ下りる 歯槽骨の頂 垂直性骨欠損 骨頂より根尖側の粘膜を、一本だけ切る 歯冠側を全層で挙上 歯肉縁にも乳頭にも触れない ━━ 根尖側の切開  ┈┈ 触れない乳頭 辺縁を一切さわらない——刃は歯肉縁から最も遠くへ 術前の乳頭の形が、そのまま術後に残る
〔図〕NIPSAの切開線。歯肉溝内切開も乳頭の切開も置かず、欠損を画する骨頂の縁より根尖側の粘膜を一本だけ切って歯冠側を挙上する(原著の記述にもとづく模式図)

肉芽組織はマイクロキュレットで骨壁から剥がし、歯間乳頭の基部からはマイクロブレードで外します。舌側に成分がある欠損も、頬側からの入口だけで器具を回します

縫合は二重の線で行います——粘膜切開の両縁の結合組織を寄せる内側水平マットレスと、その上に単純結節縫合乳頭には糸もかけません(比較対象のMIST群では、乳頭の基部に内側水平マットレス、乳頭の歯冠側に内側垂直マットレスをかけています)。

結果——付着はNIPSAが上回り、軟組織の差はさらに大きかった

深い骨縁下欠損をもつ30名(男性19・女性11、平均44.4±5.9歳、うち喫煙者14名)を後ろ向きに解析し、NIPSA 15名とMIST 15名を比べています。NIPSAの各症例に対し、骨欠損の形態がなるべく近いMIST症例を選んで対にしています術者は1名、計測は割り付けを知らない別の検者が行いました。適応基準も、EDTA・エナメルマトリックスデリバティブ・骨補填材という材料も両群で同一で、違うのは軟組織の扱いだけです。

1年後——

  • ポケットの減少:両群とも有意に改善し(p<0.001)、群間に有意差はありませんでした
  • 付着の獲得:両群とも有意に改善したうえで(p<0.001)、群間にも有意差があり、NIPSA群のほうが良好でした(p<0.05)
  • 1年時点で歯肉退縮・乳頭先端の位置・角化組織幅のいずれにも群間差がありました(それぞれ p=0.05/p<0.001/p<0.05)。プロービング時の出血は両群とも陰性です
0 0.4 0.9 1.3 1年後の軟組織の下がり (mm) 0.2 0.73 0 1.06 歯肉退縮の増加 乳頭先端の退縮 濃い棒=NIPSA/淡い棒=MIST。歯肉退縮の増加は0.2±0.41mm対0.73±0.88mm(p=0.05)。乳頭先端はNIPSAでは退縮が認められず、MISTでは1.06±0.96mm下がった(p<0.001)
1年後の軟組織の下がり。歯肉退縮の増加は0.2±0.41mm(NIPSA)対0.73±0.88mm(MIST)。乳頭先端はNIPSAでは退縮が認められず、MISTでは1.06±0.96mm下がった

著者らの説明はこうです。NIPSAでは切開が歯肉縁と乳頭の領域から離れ、これらの組織を切ることも剥がすこともしない。だからしっかりした軟組織の「屋根(dome)」が欠損の上に残り、乳頭の陥没と辺縁の退縮を防ぐのだ、と。

いちばん差が出たのは、術後1週の傷だった

0 33.3% 66.7% 100% 術後1週の創の状態(15例中の割合 %) 73% 40% 0% 33% 完全閉鎖(WC=2) 壊死と材料の露出(WC=0) 濃い棒=NIPSA/淡い棒=MIST。完全閉鎖は11/15対6/15(p<0.05)。壊死と材料の露出はNIPSAでゼロ、MISTでは5/15。喫煙は両群とも創の治りを悪化させた(p=0.008)
術後1週の創の状態。完全閉鎖はNIPSA 11/15(73%)対 MIST 6/15(40%)で有意差あり(p<0.05)。壊死と材料の露出はNIPSAではゼロ、MISTでは5/15(33%)

完全閉鎖(WC=2)はNIPSAで73%、MISTで40%(p<0.05)。そして歯間部の組織壊死と再生材料の露出(WC=0)は、NIPSAではゼロ、MISTでは33%でした。

ただし著者らは、ここで一歩引いています——早期の治癒の型は、1年後の臨床結果に有意な影響を与えていませんでした(p>0.05)。つまりこの研究の範囲では、「傷がきれいに閉じたかどうか」が「1年後の数字」を決めてはいなかった、ということです。

もう二つ。喫煙は両群とも創の治りを有意に悪化させました(p=0.008)。一方、喫煙者と非喫煙者のあいだでポケット減少と付着獲得には差がありませんでした。そして術後の鎮痛薬(イブプロフェン)の総量は、MIST 2360±2059mg 対 NIPSA 2323±2013mg で差がありません(p=0.96)——根尖側から入っても、患者さんの痛みが増えたわけではない、ということです。

明日の臨床へ

  • 触らなければ下がらない——乳頭先端が1mm下がるか、ほぼ動かないか。この差は、乳頭の高さが結果を左右する部位では大きな意味を持ちます
  • ただし、この研究の切開は「常に審美領域の外」に置かれています。前歯部の審美領域でそのまま同じことができる、とは原著は言っていません。ここは外さないでおきます
  • 根尖側から入るということは、視野が限られるということでもあります。欠損の形を術前に読み切れているか、器具が届くか——選ぶ前に確かめることが増えます
  • 喫煙者では、術式を変えても創の治りは悪くなります。術式選択の前に、そこを動かせるかどうかを考える
ここだけ、冷静に補助線後ろ向きのコホート研究で、無作為化されていません。NIPSA症例に対して「欠損の形が近いMIST症例」を後から選んで対にしているので、選択の偏りが入りうる設計です。各群15名と小規模で、しかも症例数(n=15)は事前ではなく事後(a posteriori)に算出されています——検出力の裏づけとしては弱い。術者はスペインの一施設の1名で、術式に習熟した術者の成績です。原著は「1年」の報告であり、それ以降は分かりません。著者らも、NIPSAについては「先行研究は予備的な報告が1本あるだけ」とし、この術式を「有望な乳頭保存の手法かもしれない」という慎重な言い方で結んでいます。「NIPSAのほうが優れている」と一般化するより、「辺縁に触れなければ辺縁は下がらない、という当たり前が、限られた条件下で数字になった」と読むのが正確です。

今日のひとこと

骨頂の縁より根尖側の粘膜を一本だけ切り、辺縁と乳頭には触れない。ポケット減少は両群同等だったが、付着獲得はNIPSA群のほうが有意に大きく(p<0.05)、乳頭先端の退縮はMISTの1.06±0.96mmに対しNIPSAではほぼ起きなかった(p<0.001)。1週後の完全閉鎖はNIPSA 73%対MIST 40%で、壊死と材料の露出はNIPSAではゼロ、MISTでは33%だった。

Moreno Rodríguez JA, Ortiz Ruiz AJ, Caffesse RG. Periodontal reconstructive surgery of deep intraosseous defects using an apical approach. Non-incised papillae surgical approach (NIPSA): A retrospective cohort study. J Periodontol. 2019;90(5):454-464. PMID: 30421495
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。