乳頭保存術(papilla preservation technique)の原法
歯周外科でいちばん破れやすいのは、歯と歯のあいだです。切って、縫って、そこが開く。移植材を入れたのに露出する。——その一点を、器具でも材料でもなく「切開線をどこに置くか」で解こうとした報告があります。いま私たちが当たり前に使っている乳頭保存という考え方は、ここから始まりました。
①いちばん破れるのは、いつも歯と歯のあいだだった
歯周外科で骨移植をしたあと、何が起きるか。移植材が歯間から漏れる。縫った歯間が開く。露出して感染する。——器具や材料をどれだけ吟味しても、この一点でつまずくことがあります。
1985年、Takeiらはこの問題を切開線をどこに置くかだけで解こうとしました。
②従来の切開は、いちばん弱い場所を縫っていた
それまでの弁の設計では、歯間乳頭を頬側と舌側に切り分けて挙上していました。素直な方法です。しかし構造的な弱点がありました。
切り分けられた乳頭は薄い。そして縫合線は、ちょうど移植材を覆っていてほしい場所の真上に落ちます。覆いたい場所と、破れやすい場所が重なっていたのです。
③乳頭を切り分けず、一塊で持ち上げる
提案された設計は単純です。歯間乳頭を切り分けない。
頬側は、各歯の周囲に歯肉溝内切開を入れるだけ。歯間乳頭を貫く切開は入れません。舌側・口蓋側では、歯肉溝内切開に加えて各歯間乳頭を横切る半月状の切開を置きます。この切開は歯のライン角から根尖側へ下がり、乳頭の切開線が歯肉縁から少なくとも5mm離れる(かつ骨欠損の縁より最低3mm根尖側。歯間組織は最低2mmの厚みを残す)位置に来ます。
剥離した歯間組織は、鈍な器具で鼓形空隙を通して押し出します。骨欠損が口蓋側や舌側へ大きく広がっている場合は、半月状切開を頬側に置く変法が用意されています。
④何が変わったか
著者らの報告では、治癒は常に一次治癒で得られ、移植材が即座に脱落することはありませんでした。そして歯間部にクレーター状の陥凹が生じない——これは患者さんが清掃を保ちやすいことを意味します。
もうひとつ、この弁は移植材を使わない場合でも、術後の軟組織の形態を良くする目的で使えると述べられています。前歯部にも臼歯部にも適用できる設計でした。
⑤なぜ、この発想が効いたのか
原著が血流について述べているのは2点です——切開時にブレードの先端を根面に接触させ続け、乳頭への血流を損なわないこと、そして歯間組織の厚みを最低2mm残して血流を確保すること。ここから先は一般的な解剖からの解釈になりますが、歯肉への血液供給は頬側は頬側から、舌側は舌側から来ます。乳頭を切り分ければ、その細く薄い先端は両側から切り離された島になる。血の届きにくい組織を、最も張力のかかる場所で縫い合わせていたわけです。
一塊で扱えば、どちらか一方の血流が生きたまま残ります。そして縫合線は移植材の真上ではなく、その隣へ移る。覆うべき場所と、破れる場所を、切り離したのがこの設計でした。
⑥明日の臨床へ
この論文が置いた原則は、いまも動いていません。歯間の軟組織を、できるだけ切らず、動かさず、閉じ続ける。
1995年の改良型乳頭保存術(MPPT)は、この術式を「改良」したものです。以後の低侵襲術式——MIST、M-MIST、EPP——も、すべてこの上に乗っています。いま使っている術式が何を受け継いでいるのかを知ると、術式を選ぶときの物差しが変わります。
今日のひとこと
歯間乳頭を切り分けるのをやめ、舌側で半月状に切り離して頬側弁と一塊で持ち上げる。前歯部・臼歯部あわせて25例・術後6か月以上の報告では、いずれも一次治癒が得られ、歯間部にクレーター状の陥凹は生じなかった。


