1問1答 論文 歯周病

炎症を治したあとなら、揺さぶっても再発しないのか——順番の正しさを、裏から確かめた実験

診断・予後評価

治癒後の歯周組織に咬合性外傷を加える(ビーグル犬)

「まず炎症を鎮める。咬合の話はそれからだ」——歯周治療の順序として、これは広く共有されています。では逆に問うと、炎症を鎮めたあとなら、揺さぶっても大丈夫なのでしょうか。骨が減って支えの少なくなった歯に、あらためて咬合性外傷を加えた実験があります。

論文
Lack of effect of trauma from occlusion on the recurrence of experimental periodontitis
著者
Ericsson I, Lindhe J
掲載
J Clin Periodontol. 1977;4(2):115-127
種類
動物実験(ビーグル犬15頭・450日・3段階で屠殺)
PMID
266504

治療が終わった、支えの少ない歯

SRPと外科を経て、ポケットは閉じた。出血も止まった。ただし骨は元に戻っていません。支えの少ない歯が、揺れながら並んでいます。

ここで不安になります。この状態で咬合の負担がかかったら、また崩れていくのではないか。——予防的に固定したほうがいいのではないか、と。

それまで:「まず炎症」は分かっていた。その先は

1974年のビーグル犬の実験で、咬合性外傷が付着を壊すのは炎症があるときだけだと示されていました。だから順序が決まる——まず炎症を鎮める。咬合の話はそれからだ。

ですが、この順序には裏側の問いが残ります。鎮めたあとは、本当に大丈夫なのか。とくに支持組織が減ってしまった歯では、同じ力でも歯根膜あたりの負担は大きくなるはずです。

今回の一手:壊して、治して、それから揺さぶる

450日を3段階に区切った設計Day 0〜210 壊すプラークが溜まる飼料で実験的な歯周破壊を進める。Day 210で5頭を屠殺し、この時点の像を記録Day 210 治す残る10頭で歯周ポケットを外科的に除去。歯根に骨頂の高さの刻みを入れ、後の組織計測の基準にするDay 210〜450 保つ1日2回のブラッシング。Day 270(治癒60日後)に5頭を屠殺し、治った状態を確認Day 270〜450 揺さぶる残る5頭にキャップスプリントとバーでジグリング型の咬合性外傷を加え、Day 450で屠殺ビーグル犬15頭。3段階で屠殺することで「壊れた状態」「治った状態」「治ったあと揺さぶった状態」を組織で比べられる(Ericsson & Lindhe 1977)

ビーグル犬15頭を450日追う、手間のかかる設計です。ポイントは3段階で屠殺していることで、これにより「壊れた状態」「治った状態」「治ったあと揺さぶった状態」を組織で比較できます。

細かいところに工夫があります。外科でポケットを除去する際、歯根に骨頂の高さで刻みを入れているのです。後から組織切片で計測するときの基準線になります。450日後に「どこから減ったのか」を測れるようにしておく——先を見た設計です。

結果:崩れなかった

この設計だから言えること支えは、著しく減っていたDay 210まで歯周破壊を進めた歯が対象。骨も付着も減った状態からの再出発であり、健康な歯での話ではないだが、炎症は無かった外科でポケットを除去し、その後は1日2回のブラッシング。プラーク性の炎症が抑えられた状態を作ってあるそこへ、揺さぶりを加えたキャップスプリントとバーによるジグリング。180日にわたって継続した進行性の破壊は、起こらなかった支持組織が著しく減っていても非炎症性であれば、咬合性外傷の力は進行性の歯周組織破壊を誘発できなかった決めていたのは支持組織の量ではなく、炎症の有無だった(Ericsson & Lindhe 1977)

著者らの結論はこうです。犬において、咬合性外傷によって生じる力は、支持組織が著しく減少しているが非炎症性である歯の領域では、歯周組織の進行性破壊の相を誘発することができなかった。

「著しく減少しているが、非炎症性」——この2つが並んでいるところが要点です。支えが少ないこと自体は、崩れる理由になりませんでした。決めていたのは、炎症があるかどうかでした。

3つの実験が、ひとつの順序を作る

ここまでの流れを並べると、筋が通ります。

① 炎症が無ければ、力だけでは付着は壊れない(1974年) → ② 炎症があるとき、力は破壊を速めうる(1974年・1982年) → ③ 炎症を鎮めたあとなら、力を加えても再発しない(この研究)

だから順序が決まる。「まず炎症を鎮める」は語呂の良い標語ではなく、実験で3方向から挟まれた結論です。そして鎮めたあとは、支えが少なくても持ちこたえる——ここが、この論文が足している部分になります。

明日の臨床へ:不安の置きどころを変える

① 「支えが少ないから、また崩れる」とは限らない。 崩れるかどうかを決めているのは炎症の再燃です。だからメインテナンスの中身は、咬合の監視より先に、プラークと出血の管理になります。
② 予防目的の固定には、この実験からの支持は無い。 固定を検討する理由は、患者さんが噛みにくい、外科の足場が要る、といった実際的なものに絞られます。
③ 逆に、炎症が残ったまま咬合だけ整えても足りない。 ①②③の順序は入れ替えられません。
ここだけ、冷静に補助線 ビーグル犬15頭の動物実験で、しかも最終段階を完走したのは5頭です(Day 210で5頭、Day 270で5頭を屠殺しているため)。犬の歯周組織はヒトより破壊が速く進むことが知られており、そのまま人へ持ち込めるものではありません。また「揺さぶった」のはキャップスプリントとバーという実験装置による力で、日常の咀嚼や早期接触とは強さも方向も違います。そして観察は180日で、人の10年20年の経過を語るものではありません。それでも「炎症さえ鎮まっていれば、支えが減った歯でも力に持ちこたえた」という結果は、治療の順序を裏側から支えてくれます。再発を防ぐために見るべきは、咬み合わせより先に、出血のほうです。

今日のひとこと

支えが著しく減っていても、炎症が無ければ、咬合性外傷の力は進行性の破壊を起こせなかった。決めているのは支持組織の量ではなく、炎症の有無だった。

Ericsson I, Lindhe J. Lack of effect of trauma from occlusion on the recurrence of experimental periodontitis. J Clin Periodontol. 1977;4(2):115-127. PMID: 266504
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。