カリオロジー|予防処置のエビデンス・予防割合・GRADE
「この処置、どれくらい効きますか」と聞かれたとき、僕らは数字を答えます。でもその数字がどれくらい確かな根拠に支えられているかを、同じ口で答えているでしょうか。2015年、コペンハーゲン大学のTwetmanは39本のシステマティックレビューを横断的に読み、予防処置ごとに予防割合(何%う蝕が減ったか)と根拠の質(GRADE)を並べて表にしました。すると奇妙なねじれが見えてきます。キシリトールガムは対照と比べて59%減らすが、根拠の質は「低い」。一方、フッ化物歯磨剤にトリクロサンを足したときの上乗せはわずか5%だが、その5%は「高い」根拠を持つ。効果の大きさと根拠の確かさは、まったく別の軸だったのです。
①「それ、どれくらい効くんですか」
患者さんにも、スタッフにも、講演の質疑でも聞かれます。そして僕らは数字で答えます。「フッ素を塗れば◯%減ります」と。
ではもう一歩。その数字は、どれくらい確かなのでしょうか。
「効果の大きさ」と「根拠の確かさ」——普段はひとまとめに「エビデンス」と呼んでいますが、この二つは別物です。よく効くように見えるが、確かめ方が甘い処置もあれば、効果は小さいが、その分だけは確かに効くと繰り返し確かめられている処置もある。
②39本のシステマティックレビューを、横に並べた
著者のTwetmanは、2014年4月までのPubMedとCochrane Libraryから39本のシステマティックレビューを集めました。個々の臨床試験ではなく、レビューをさらに束ねて見取り図を描く手法で、著者自身は「システマティックレビューのマッピング」と呼んでいます(いわゆるアンブレラレビューにあたります)。
そして各処置について、二つの数字を並べました。
- 予防割合(PF)——対照群のう蝕増加量と試験群の増加量の差を、対照群の増加量で割ったもの。要するに「何%う蝕が減ったか」
- 根拠の質(GRADE)——高い(⊕⊕⊕⊕)/中等度(⊕⊕⊕○)/低い(⊕⊕○○)/非常に低い(⊕○○○)の4段階
なお対象は歯科医院で行う予防に限られており、水道水フロリデーション・フッ化物添加牛乳や食塩・学校単位のプログラムは含まれていません。
③フッ化物——数字が一番大きいのは、バーニッシュ
永久歯・プラセボまたは無処置との比較での予防割合は次のとおりでした。
- フッ化物バーニッシュ 43%(年2〜4回の専門的塗布)/根拠の質は中等度
- フッ化物洗口 29%/根拠の質は低い
- フッ化物歯磨剤 24%(毎日の使用)/根拠の質は高い——フッ化物のなかで唯一の最高格付け
- フッ化物錠剤・ドロップ・ロゼンジ・ガム 24%/根拠の質は非常に低い(バイアスリスクが中等度以下の臨床試験が不足しているため)
- フッ化物ゲル 21%/根拠の質は低い
面白いのは、予防割合が同じ24%でも、歯磨剤は「高い」、錠剤類は「非常に低い」と両極に分かれていることです。数字だけを並べれば同点ですが、一方は繰り返し確かめられ、一方はほとんど確かめられていません。
④非フッ化物——ここでねじれが最大になる
- シーラント 84〜65%(追跡2〜9年で低下)/根拠の質は中等度——ただし原著の但し書きは「ハイリスク児について中等度」で、う蝕の少ない集団での効果の大きさは情報が乏しいとされています。萌出直後の永久大臼歯の小窩裂溝う蝕に対して、非フッ化物では最も確かな手段。ただし著者は費用がかかり、高い予防割合を保つには定期的な点検と補修が要ると付け加えています
- フッ化ジアンミン銀(38%)70%/根拠の質は低い
- キシリトールガム 59%/根拠の質は低い。著者は1日に必要な摂取量・費用・続けられるかどうかを、広く使ううえでの明らかな障害として挙げています
- 歯間清掃(歯間ブラシ・フロス)24%/根拠の質は非常に低い
- クロルヘキシジンバーニッシュ 21%/根拠の質は非常に低い
比べる相手が違う、もう一つの数字——トリクロサンの「上乗せ5%」
(原著では非フッ化物の表に置かれていますが、中身はフッ化物歯磨剤への添加物の話です。)
ここで、表の中で一つだけ性質の違う数字に触れておきます。トリクロサン/コポリマー配合歯磨剤の 5% です。
これはプラセボと比べた数字ではありません。原著の記述はこうです——「標準的なフッ化物歯磨剤と比較して、トリクロサンとコポリマーが歯冠部う蝕の予防効果をわずかに高めうるという、質の高い根拠があった(予防割合 5%)」。つまりすでにフッ化物歯磨剤を使っている人に、さらに上乗せされる分が5%ということです(根面う蝕については、支持はより弱いとされています)。
またオゾン療法・口腔保健指導や動機づけ面接・食事指導・低年齢からの受診やリコール間隔の設定については、そもそも予防割合が算出できず(ND)、根拠の質はいずれも「非常に低い」と評価されました。日々当たり前に行っている営みほど、実は検証されていないのです。
⑤止める・戻す側はもっと薄い
ここまでは「作らせない」一次予防の話です。できかけた病変を止める・戻す二次予防になると、根拠はさらに薄くなります。
初期の非う窩性病変の再石灰化について、一貫した効果が確認できたのはフッ化物介入とフッ化ジアンミン銀だけで、いずれも根拠の質は「低い」。ただしフッ化ジアンミン銀についてはう蝕停止で予防割合56〜100%という高い数字が報告されており、著者は「質は低いが有望」と評しています。特に通常の治療に協力できない低年齢児や、特別な配慮を要する患者で価値がある、と。
酸蝕についてはフッ化物補助でエナメル質病変を防ぐ根拠が低い、象牙質知覚過敏に至っては専門的ケア・セルフケアともすべて「非常に低い」という結論でした。
⑥明日の臨床へ
- 土台はフッ化物歯磨剤である。予防割合24%は最大ではないが、この表で最高格付け「高い」を得た数少ない一つ。まずここを外さない
- 濃度を落とさない。500ppmと2,800ppmで15.9%対35.5%。乳歯では低濃度の有意差が確認できていない。ただし日本の薬用歯磨剤のフッ化物上限は1,500ppmで2,800ppmは国内では選べないため、実務上は「使える範囲の上限を選ぶ」と読み替える
- バーニッシュとシーラントは、数字も根拠も上位。ハイリスクに投じる専門的処置としては筋が通る
- キシリトール・クロルヘキシジン・オゾンは「補助」と言い切る。数字が大きくても、根拠がそれを支えていない
- トリクロサン配合歯磨剤に期待しすぎない。上乗せは5%。根拠は確かだが、幅は小さい
- 説明のしかたを変える。「◯%効きます」ではなく「◯%という報告があり、その確かさはこれくらいです」——手間はかかりますが、こちらのほうが後で崩れません
今日のひとこと
効果の大きさ(予防割合)と、根拠の確かさ(GRADE)は、まったく別の軸である。プラセボ/無処置と比べたフッ化物では、歯磨剤 24%・根拠の質は「高い」、バーニッシュ 43%・「中等度」、洗口 29%・「低い」、ゲル 21%・「低い」、錠剤やドロップ 24%・「非常に低い」(バイアスリスクが中等度以下の臨床試験が足りないため)。非フッ化物では、シーラント 84〜65%(2〜9年追跡)・「中等度」、フッ化ジアンミン銀 70%・「低い」、キシリトールガム 59%・「低い」、歯間清掃 24%・「非常に低い」、クロルヘキシジンバーニッシュ 21%・「非常に低い」。そしてもう一つ、比べる相手が違う数字があります。トリクロサン/コポリマーを標準的なフッ化物歯磨剤に加えると、歯冠部う蝕の予防効果が 5% 上乗せされる——この「上乗せ5%」の根拠の質が「高い」のです。歯磨剤の効果は用量依存で、500ppmFで15.9%、2,800ppmFで35.5%と開きます。乳歯では1,000ppm未満の低濃度製剤に統計的に有意な効果が確認できていません。「よく効く」と「確かに効くと分かっている」を混同しないこと——この表が突きつけているのは、そういう区別です。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


