1問1答 論文 虫歯

ADAが残したフッ化物と、推奨から外したフッ化物

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|フッ化物バーニッシュ・APFジェル・臨床推奨

フッ化物は効く。ここに異論はありません。問題は「どれを、誰に、どれくらいの頻度で」です。以下はいずれもう蝕発症リスクが高い人に向けた推奨です。米国歯科医師会(ADA)が2013年に出した臨床推奨の改訂版は、この問いに正面から答えました。6歳未満は2.26%フッ化物バーニッシュのみ0.1%バーニッシュ・APFフォーム・フッ化物入り研磨ペーストは推奨しない。そしてAPFジェルの前の歯面清掃は、う蝕予防が目的なら必要ない。やることが決まると同時に、やらなくてよいことも決まった改訂です。

論文
Topical Fluoride for Caries Prevention: Executive Summary of the Updated Clinical Recommendations and Supporting Systematic Review
著者
Weyant RJ, Tracy SL, Anselmo TT, et al.(ADA Council on Scientific Affairs 専門家パネル)
掲載
Journal of the American Dental Association 2013;144(11):1279-1291
種類
系統的レビューに基づく臨床推奨(2006年版の改訂)。米国歯科医師会の専門家パネルによる
主題
歯科医院で塗布するフッ化物と、処方薬強度の家庭用フッ化物の、年齢別の推奨

「フッ素を塗っておきますね」の中身を決める

フッ化物塗布は日常業務です。だからこそ、製品も濃度も頻度も、医院ごとに何となく決まっている——そういうことが起こります。

ADAは5年ごとにエビデンスを見直す方針を持っていて、2006年版の推奨をこの2013年版で更新しました。今回は洗口液・バーニッシュ・ジェル・フォーム・研磨ペーストを対象にし、さらに処方薬強度の家庭用フッ化物も新たに検討に加えています。

先に結論: 推奨は年齢で切り分けられました。6歳未満は原則バーニッシュのみ(個別要因があれば他剤も検討しうる)。6〜18歳は院内2種+家庭用2種。18歳超と根面う蝕は同じ選択肢ですが、根拠は専門家の意見にとどまります。

まず、濃度の桁を揃えて見る

0 8000 16000 24000 フッ化物イオン濃度(ppm) 22600 12300 5000 900 2.26%バーニッシュ 1.23%APFジェル 0.5%ジェル(家庭用) 0.09%洗口液 原著は%(フッ化物イオン)表記。ppmに換算して並べた。濃いティール=院内で使うもの/グレー=処方して家庭で使うもの
推奨されたフッ化物のフッ化物イオン濃度(原著の%表記をppmに換算)

同じ「フッ化物」でも、桁が違います。2.26%バーニッシュ=22,600 ppm0.09%洗口液=900 ppmのあいだには、25倍の開きがある。

ここが設計思想の分かれ目です。院内で使うものは高濃度・低頻度(3〜6か月ごと)、家庭で使うものは低濃度・高頻度(週1回〜1日2回)。どちらが優れているという話ではなく、役割が違う。なお推奨表の「または」は院内の2種のあいだ、家庭用の2種のあいだに置かれており、院内と家庭は択一ではありません(6〜18歳では併記=併用が前提です)。

年齢で変わる、推奨の中身

推奨は「う蝕発症リスクが高い人」に向けたものです。原著の表を整理します。

  • 6歳未満:2.26%フッ化物バーニッシュを少なくとも3〜6か月ごと(賛成)——これのみ
  • 6〜18歳:2.26%バーニッシュ、または1.23%APFジェル4分間、いずれも少なくとも3〜6か月ごと(賛成)。家庭用は0.09%洗口液を週1回以上(賛成)、または0.5%ジェル/ペーストを1日2回(専門家の意見として賛成
  • 18歳超:同じ選択肢だが、いずれも専門家の意見として賛成(成人の冠部う蝕を見た試験が無く、6〜18歳のデータからの外挿)
  • 成人の根面う蝕:同じ選択肢。洗口液のみ毎日専門家の意見として賛成

6歳未満がバーニッシュ一択である理由に、注意が要ります。他のフッ化物に効果の根拠が無いからではありません。原著の論理はこうです——単回使用量のバーニッシュという製剤だけが、この年齢で有害事象のリスクが低い。逆に言えば、それ以外の製剤については、飲み込みにともなう有害事象(とくに悪心・嘔吐)のリスクが便益を上回る——これが原著の総括です。ただしTable 5の内訳を見ると、APFジェル・APFフォーム・0.5%家庭用ジェルは「害が便益を上回る」0.1%バーニッシュとフッ化物入り研磨ペーストは「便益そのものが無い」と、判定が分かれています。誤飲のリスクを踏まえた、安全側の判断です。

推奨から外れた3つ

更新の値打ちは、むしろこちらにあります。

  • 0.1%フッ化物バーニッシュ:パネルは小児で便益が無いという根拠を見出した。成人についても、6〜18歳のデータを外挿して同じ結論を出しています(根面う蝕については判断を保留)
  • 1.23%APFフォーム:全年齢で冠部う蝕の予防に推奨されない(6歳未満では便益は認めたうえで、飲み込みによる害が上回ると判断)
  • フッ化物入り研磨ペースト:同じく推奨されない
  • この3剤の格付けは「反対」または「専門家の意見として反対」で、根拠の量に差があります。また根面う蝕については、いずれも推奨を出していません(外挿を控えた)

そして、日常業務に直接効く一文が続きます——「APFジェルの塗布前の歯面清掃は、全年齢で、冠部う蝕の予防には必要ない」。他のフッ化物製剤については、塗布前清掃の要否についての推奨は出されていません。

実務への翻訳: 「PMTC → フッ化物塗布」という手順を、う蝕予防を目的として組んでいるなら、APFジェルに関してはその根拠がありません。歯周の観点や着色除去など別の目的があるなら、それはそれで正当です。目的を分けて考える、ということです。

明日の臨床へ

  • 6歳未満は原則2.26%バーニッシュ。ただし原著は、便益と害のバランスを変える個別の患者要因があれば他剤の検討を妨げないとも書き添えています
  • 少なくとも3〜6か月ごとという間隔を、リコール設計にそのまま組み込む
  • 低リスクの人に上乗せしない。原著は「市販のフッ化物入り歯磨剤と水道水以外は必要ないかもしれない」と明記しています
  • なお家庭用の2種(0.09%洗口液・0.5%ジェル/ペースト)は米国の処方薬強度の製剤で、日本でそのまま入手できるものではありません
  • 院内で使っている製品の濃度を、一度確認する。0.1%のバーニッシュを使っているなら、見直しの根拠がここにあります

推奨の強さが「賛成」から「専門家の意見として賛成」まで幅を持っていることも、そのまま受け取ってよいと思います。根拠の量が違うことを、隠さずに書いてある——それがこの推奨の信頼できるところです。

ここだけ、冷静に補助線パネル自身が外挿の限界を書いています。採用された臨床試験の一部1970年代以前のもので、当時は小児のう蝕がいまより多く、水道水フロリデーションもフッ化物入り歯磨剤の普及率も低かった。研究集団を現在のリスク区分に当てはめることができなかったため、今日の高リスク集団(乳幼児う蝕のハイリスク児など)へ外挿するときは注意が必要である、と。推奨は動く。5年後にまた変わる前提で読む——それがこの文書の作法だと思います。

今日のひとこと

ADAが残したのは4つ、外したのは3つである。残ったのは——2.26%フッ化物バーニッシュ(少なくとも3〜6か月ごと)1.23%APFジェル(4分間・少なくとも3〜6か月ごと)0.09%フッ化物洗口液(週1回以上)0.5%フッ化物ジェル/ペースト(1日2回)。外れたのは——0.1%フッ化物バーニッシュ(小児で効果が無いという根拠が示された)1.23%APFフォームフッ化物入り研磨ペースト。そして6歳未満に推奨されるのは2.26%バーニッシュただ1つ——他のフッ化物に効果の根拠が無いからではなく、単回使用量のバーニッシュという製剤だけがこの年齢で有害事象のリスクが低いからで、他の製剤は飲み込みによる害が便益を上回ると判断されたのです。さらに実務に効くのが、APFジェル塗布前の歯面清掃は冠部う蝕の予防には必要ないという一文。う蝕リスクの低い人には、市販のフッ化物入り歯磨剤と水道水以外の上乗せは要らないとも書かれています。

出典:Weyant RJ, Tracy SL, Anselmo TT, et al. Topical fluoride for caries prevention: executive summary of the updated clinical recommendations and supporting systematic review. J Am Dent Assoc 2013;144(11):1279-1291. PMID: 24177407
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。