カリオロジー|乳製品・プラークのカルシウムとリン・pH
「甘くないヨーグルトなら大丈夫ですよね」。患者さんからそう聞かれたら、どう答えているでしょうか。2012年のインドの研究は、チーズ・ミルク・ヨーグルト・パラフィン(対照)を摂ったあと10分のプラークを、カルシウム・リン・pHの3つで測っています。結果、チーズもヨーグルトもプラーク中のカルシウムを有意に増やしました。ところがpHはヨーグルトで7.00から5.63へ落ちていた——上げたのはチーズだけ(6.96→7.36)。そして興味深いことに、原著の結論は「無糖のチーズとヨーグルトはpHを上げるので推奨できる」と書いています。表の数字と、食い違っているのです。
①「甘くないヨーグルトなら大丈夫ですよね」
間食指導をしていると、必ず出てくる質問です。乳製品にはカルシウムとリンが豊富で、再石灰化を助ける。チーズにう蝕抑制効果があるという報告もある。だから無糖のヨーグルトなら——。
2012年のインドの研究は、この問いを3つの物差しで測りました。プラーク中のカルシウム・リン・pHです。
②今回の一手:48時間、歯を磨かずに集めたプラーク
- 17〜20歳の歯科大学生68名(う蝕のある者34名・ない者34名)
- 48時間すべての口腔清掃を中止し、採取当日は食事もとらずに来てもらう
- 各群をチーズ5g(n=8)・ミルク15mL(n=8)・ヨーグルト5g(n=8)・パラフィンワックス(対照・n=10)に無作為に割り付け
- 3分間噛んで含嗽し、そのあと水で口をゆすぐ(軟らかい食物残渣による汚染を減らすため)
- プラークは摂取前に第1・3象限から、10分後に第2・4象限から採取。下顎前歯部は唾液腺に近くカルシウム濃度が高いため除外
- カルシウムは電解質分析装置、無機リンはChen and Toribara法、pHはガラス電極のデジタルpHメーターで測定
設計として面白いのは、「う蝕のある人」と「ない人」を分けて見ているところです。同じものを食べても、プラークの反応は違うのか——それが分かります。
③結果その1:カルシウムは、確かに増えた
- チーズ:5.11 → 8.23 mmol/L(p<0.001)。う蝕のある群でも4.73 → 6.08(p=0.002)
- ヨーグルト:4.95 → 5.84(p<0.001)。う蝕のある群でも4.74 → 5.67(p<0.001)
- ミルク:5.30 → 5.67(p=0.017)。う蝕のある群では4.70 → 4.83で有意差なし(p=0.656)
- 対照(パラフィン):5.19 → 5.23(p=0.665)=変化なし
リンも同様の傾向で、原著はチーズ群で最も大きく上昇したとしています(う蝕のない群 4.62→6.51)。ヨーグルトも両群で上昇しました(う蝕のある群3.97→4.72・p=0.011、ない群4.12→5.42・p=0.001)。
群間で比べると、チーズとミルクでは、う蝕のない人のほうが上昇幅が大きく、その差は有意でした。一方ヨーグルトと対照では、う蝕のある人とない人で差がありませんでした。原著はここから「ヨーグルトによるカルシウム・リンの沈着には、その人のう蝕活動性は影響しない」と読んでいます。
ミルクの上昇が小さい理由について原著は、ミルクではリン酸カルシウムがミセルの内部に包まれ、カゼインがその内側の殻を作っているためだと説明しています。
④結果その2:pHは、まったく別の動きをした
- チーズ:6.96 → 7.36(う蝕のある群でも6.10 → 6.83)=上昇
- ミルク:7.04 → 6.75(う蝕のある群 6.14 → 5.94)=低下
- ヨーグルト:7.00 → 5.63(う蝕のある群 6.13 → 5.59)=大きく低下
- 対照:6.90 → 6.97(う蝕のある群 6.10 → 6.22)=ほぼ変化なし
エナメル質の臨界pHは約5.5とされます(一般的な目安であり、この論文が挙げている値ではありません)。ヨーグルト群は、う蝕のある人もない人も、そのすぐ手前まで落ちていました。
⑤カルシウムとpHの関係が、食品で逆転する
この研究のいちばん興味深いところは、pHとカルシウムの相関です。
- チーズ:う蝕のない群でr = 0.817(正の相関・有意)、う蝕のある群で r = 0.763。カルシウムが増えるほどpHも高い
- ヨーグルト:う蝕のない群でr = −0.594(負の相関・有意)、う蝕のある群で r = −0.643。カルシウムが増えるほどpHは低い
- ミルク:う蝕のない群で r = −0.586(負の相関・有意)、う蝕のある群では有意差なし
- 対照:いずれも有意でない
原著の説明はこうです。ヨーグルトはpHが低いため、カルシウムがイオン型で存在しやすい。発酵はミルクのミネラル総量を変えませんが、その存在の仕方を変える。つまりヨーグルトで測られたカルシウムの高さは、酸性であることの裏返しでもあるということになります。
チーズが優れている理由として原著が挙げるのは2つ。①カルシウムとリンを放出してプラーク中の濃度を高め、共通イオン効果で脱灰を抑え再石灰化に有利にする。②唾液の分泌を刺激してプラークを緩衝し、糖のクリアランスを促す。カゼインやホスホペプチドがコロイド状のリン酸カルシウムを安定化させ、プラークへの拡散を助けるという見方もあります。
⑥明日の臨床へ
ここで、原著自身の結論を先に置いておきます。原著はこう締めています——「無糖のチーズとヨーグルトは、プラークのカルシウム・リン・pHを上げるため、潜在的に非う蝕誘発性であり、ある程度は抗う蝕的である。無糖の乳製品は、とくに学童に対して食後のデザートとして推奨できる」。さらに「インドのような開発途上国の公衆衛生の観点からは、3つのうちヨーグルトが好ましい」とまで書いています(入手しやすく、カルシウムとリンの含有量が高く、ラクトフェリンやプロバイオティクスを含むため)。
そのうえで、この記事としての読み方を書きます。
- チーズは、この研究のデータで唯一「両方」を満たしました。カルシウムを増やし、pHも上げる。食後や間食の締めという選択肢を説明しやすい
- ヨーグルトは、ミネラルを補給する一方でプラークを酸性にしました。原著が推す理由(プロバイオティクスによる微生物叢の回復、ラクトフェリン)は魅力的ですが、この研究が測ったpHはそれを支持していません。原著の推奨をそのまま伝えるのは、少なくとも慎重であるべきだと考えます
- ミルクは「悪くはないが、期待するほどでもない」。う蝕のある人ではカルシウムの上昇に有意差がありませんでした
- う蝕のある人ではベースラインのプラークpHがもともと低い(6.10前後 対 6.90〜7.04)。同じものを食べても、落ちる先が違います
- ただし、これは10分間のプラークの変化を見た研究です。う蝕の発生を追った研究ではありません(⑦へ)
⑦ここだけ、冷静に補助線
とはいえ、「ミネラルが増える」と「酸性にならない」を別々に測って、食品によって両者が逆転することを見せた点は面白い一本です。乳製品をひとまとめに語らない——それだけでも臨床の言葉が一段細かくなります。
今日のひとこと
プラークのカルシウムが増えることと、pHが下がらないことは、別のできごとである。68名を各群8〜10名に割り付け、チーズ5g・ミルク15mL・ヨーグルト5g・パラフィンワックス(対照)を3分間噛ませて、摂取前と10分後のプラークを比べた。カルシウムはチーズで最も上がり(う蝕のない群で5.11→8.23 mmol/L・p<0.001)、ヨーグルトも有意に上昇(4.95→5.84・p<0.001)。ミルクは上昇が小さく(5.30→5.67・p=0.017、う蝕のある群では有意差なし)、対照は変化しなかった。ところがpHはまったく別の動きをした——チーズだけが上昇し(6.96→7.36)、ミルクは低下(7.04→6.75)、ヨーグルトは7.00から5.63へ大きく低下した。相関を見ると、チーズではpHとカルシウムが正に相関(r=0.817)する一方、ヨーグルトでは負の相関(r=−0.594)——カルシウムが増えるほどpHは下がるという逆向きの関係だった。原著は、ヨーグルトはpHが低いためカルシウムがイオン型で存在しやすいと説明している。ここで注意が要る。原著の結論は「無糖のチーズとヨーグルトはカルシウム・リン・pHを上げるので潜在的に非う蝕誘発性であり、食後のデザートとして推奨できる。3つのうちヨーグルトが好ましい」というものだが、同じ論文のTable 3ではヨーグルトのpHは下がっている。結論の一部が自らの表と整合していない。各群8〜10名の小規模研究で、追跡は10分間のみ。う蝕の発生を見た研究ではない。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


