カリオロジー|糖の種類と酸産生・プラークpH・糖アルコール
「うちは白砂糖を使わず、きび砂糖にしています」。栄養指導の場面で聞くことがあります。1967年、チューリッヒ大学の実験はプラークとエナメル質の境目に微小電極を差し込み、いろいろな糖を垂らしてpHの変化をその場で記録しました。結果、スクロース・グルコース・フルクトース・マルトースのあいだに酸の作られ方の大きな差はなく、いずれも数分後にpH約5へ。この研究で使われた未精製の砂糖と精製スクロースにも差はありませんでした(先行研究には異なる報告もあります)。一方ソルビトールとマンニトールからは、事実上ほとんど酸が作られませんでした。
①「白砂糖が悪い」と言われたら
「うちは白砂糖は使わず、きび砂糖にしています」。栄養指導の場面で、こう言われることがあります。あるいは「果物の糖は自然だから」「デンプンなら大丈夫」。
1967年、チューリッヒ大学の実験は、この問いにまっすぐな答えを出しました。プラークとエナメル質の境目に微小電極を差し込み、いろいろな糖を垂らしてpHの変化をその場で記録する——という方法です。
②今回の一手:プラークとエナメル質の「境目」で測る
- アンチモン微小電極(De Jager-Theron 1963の電極を改変)を用い、プラークとエナメル質の界面で測れるようにした
- 電極は接触点直下の隣接面に挿入。通常は左右対称の2か所で同時記録する
- 被験者は測定前24〜72時間、歯を磨いていない
- 試験液は10 µLを各測定部位に適用
- 片側にはスクロース溶液(0.025 M)を対照として適用し、反対側を試験側にする。左右差は、同一被験者の日による差や個人差より有意に小さいことを分散分析で確認したうえでの設計
この「同じ口の中に対照を置く」という工夫が効いています。プラークのpHは日によっても人によっても大きく動くので、外部の基準と比べても意味を持ちにくいからです。
③結果その1:主要な単糖・二糖のあいだでは、差が小さい
- スクロース・マルトース・フルクトース・グルコース:pH曲線の形はよく似ており、数分後にpH約5に到達
- 精製スクロースと、この研究で用いた未精製の砂糖(unrefined cane sugar)1種類に差なし。ただし原著は、未精製糖で酸が少なかったとする先行報告(Mörch 1961)も併記しています
- ラクトース:作られる酸はやや少ない
- ガラクトース・マンノース:酸の産生が遅れる。さらにマンノースは他の糖ほどpHが下がらない
- マンニトール・ソルビトール:事実上、酸はほとんど作られない
④結果その2:デンプンと、パンの話
デンプンについては、はっきりした差がありました。
- 生(未加熱)のデンプン:pHの低下は非常にゆっくりで、限定的
- 加熱したデンプンとマルトース:生デンプンより多くの酸が作られる。ただしスクロースほどpHは下がらない
そして食品での比較が興味深い。
- 精白度80%のライ麦粉で作った茶色いパンの抽出液:pHは5.4を下回らなかった(3系列の記録で5.9・5.7・5.4)
- 加糖した全粒粉パンの抽出液:pHは4.0〜4.3まで低下(このパンには7%のレーズンと少量のマルトースが加えられていました)
同じ「パン」でも、糖が加えられているかどうかで、届くpHがまるで違いました。ただし原著は「抽出液を用いたこの研究から、口腔内条件下での全粒粉パンそのものの影響を直接結論することはできない」と明確に断っています。あくまで抽出液での観察です。
⑤結果その3:濃度とフッ化物
- スクロースの濃度(0.09%・0.9%・10%)を変えても、酸が作られる「速さ」は変わりませんでした。pH曲線の傾きは同じです。ただし高濃度ではより低いpHに到達しました
- スクロース溶液にフッ化ナトリウムを加える(5〜320 ppmF)と、濃度が上がるほど酸産生が抑制されました。ただし320 ppmFでも完全な阻害には至っていません
濃度の話は、間食指導の力点をどこに置くかに関わります。「薄めれば酸を作る速さが落ちる」わけではない——落ちるのは到達するpHのほうです。
⑥明日の臨床へ
- 「砂糖の種類」より「糖かどうか」です。少なくともこの研究の範囲では、精製・未精製の区別に労力を割くより、糖アルコールへの置き換えや回数の話に時間を使うほうが実りがありそうです
- ソルビトール・マンニトールは明確に別枠。この研究の時点で、すでにその差ははっきり見えていました
- デンプンは、調理の状態で変わります。生デンプンは穏やかですが、加熱すれば酸は増えます
- 「パンだから安心」とは言い切れません。加糖された全粒粉パンの抽出液はpH 4.0〜4.3まで下げていました(ただし著者自身、抽出液の結果からパンそのものを評価することはできないと断っています)
⑦ここだけ、冷静に補助線
とはいえ、糖を変えながらプラークのpHを直接記録したこの研究は、いまも通じる骨格を与えてくれます。「砂糖の種類より、糖かどうか」「糖アルコールは別枠」という整理は、60年近くたっても患者説明の柱として使えます。
今日のひとこと
糖の「種類」より「糖かどうか」が効いていた。アンチモン微小電極を歯間部のプラーク・エナメル質界面に挿入し、10 µLの試験液を適用してpHを連続記録した。スクロース・マルトース・フルクトース・グルコースのpH曲線はよく似ており、数分後にpH約5へ到達。精製スクロースと、この研究で用いた未精製糖1種類に差はなし(原著は未精製糖で酸が少なかったとする先行報告Mörch 1961も併記)。ラクトースはやや酸が少なく、ガラクトースとマンノースは酸産生が遅れ、マンノースは他ほどpHが下がらない。そしてマンニトールとソルビトールからは事実上ほとんど酸が作られなかった。デンプンでは生デンプンのpH低下は非常に緩やかで限定的、加熱デンプンとマルトースはそれより多いがスクロースほどではない。食品では精白度80%のライ麦粉のパンの抽出液でpHは5.4を下回らず、7%のレーズンと少量のマルトースを加えた全粒粉パンの抽出液では4.0〜4.3まで低下した(ただし著者は、抽出液の結果からパンそのものを評価することはできないと明記している)。スクロース濃度(0.09%・0.9%・10%)を変えても酸産生の速さ(曲線の傾き)は変わらず、高濃度ではより低いpHに到達。フッ化ナトリウムの添加(5〜320 ppmF)では濃度依存的に酸産生が抑制された。ただし1967年のアンチモン電極による測定で、報告の多くはpH曲線の形の記述であり群ごとの統計的比較が体系的に示されているわけではない。24〜72時間清掃を中止したプラークに試験液を直接垂らすという曝露であり、測っているのはプラークpHであってう蝕ではない。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


