2型糖尿病患者への低侵襲再生療法(3年・前向きコホート)
喫煙が再生療法の成績を落とすことは、繰り返し示されてきました。では糖尿病はどうか。2015年のワークショップの時点で、この問いに答えるヒトのデータはほとんどありませんでした。仮説はあっても、確かめられていない。2021年、日本のグループが3年間の追跡を報告しています。ただし読み方には注意が要ります。
①「この人に、再生療法をしていいのか」
深い骨縁下欠損がある。形態も悪くない。ただ、その患者さんは2型糖尿病で通院中——この場面で手が止まった経験は、多くの先生にあるはずです。
喫煙については答えが揃っています。GTRでは骨レベルの改善が小さく、膜も露出しやすい。では糖尿病はどうか。理屈の上では良くないはずですが、「では実際どうだったか」を示すヒトのデータが、長く不足していました。2015年のワークショップの時点でも、根拠は主に動物実験だったのです。
②今回の一手:小さく開けて、3年追う
日本のグループが、この空白に前向きの追跡で答えました。対象は深い骨縁下欠損を持つ患者で、2型糖尿病あり10部位10人、糖尿病なし20部位18人。平均年齢は67.5±7.6歳と63.1±9.7歳です。
術式の選択に注目してください。使ったのは低侵襲術式(MIST/M-MIST)とエムドゲインで、骨移植材は使っていません。弁を最小限に開け、血餅を動かさず、材料は生物学的なものだけ——治癒力に負荷をかけない設計を、あえて治癒力が心配な集団に当てています。
③結果:群間に、差は出なかった
1年後のポケットは、糖尿病群で7.1±1.6mm → 2.2±0.9mm、非糖尿病群で7.0±1.3mm → 2.3±1.1mm。どちらも大きく改善しています。
3年後の数字はこうです。CAL獲得は3.8±1.1mm(糖尿病群)対 4.1±1.1mm(非糖尿病群)、エックス線上の骨欠損充填は58.3±10.4% 対 65.5±18.8%。いずれも群間に有意差はありませんでした。
さらに多変量解析でも、交絡因子を調整したあと、CAL獲得と糖尿病の有意な関連は出ていません。年齢についても同様でした。著者らは「糖尿病患者における歯周組織再生の成功を記録した最初の研究」と述べています。
④なぜ差が出なかったのか——術式の選択かもしれない
糖尿病が創傷治癒に不利であることは動かしがたい事実です。それでも差が出なかった。ここで効いている可能性があるのが、術式の選び方です。
大きく開ければ、血流を断つ範囲が広がり、閉じるときの張力も増えます。骨移植材を詰めれば異物量も増える。治癒に負荷をかける要素を減らせば、治癒力の差が結果に出にくくなる——そう読むこともできます。
もっとも、これはこの研究が検証した仮説ではありません。「低侵襲だから差が消えた」と示したわけではなく、「低侵襲でやったら差が出なかった」という観察です。ここは区別しておきたいところです。
⑤明日の臨床へ
1)「糖尿病だから再生療法はしない」の根拠は、少なくとも弱まりました。ただし逆に「してよい」と一般化するには、この規模では足りません。
2)血糖コントロールの状態を確認する。この研究は10部位で、HbA1cの水準別に分けられるほどの数がありません。コントロール不良の人まで同じ結果になるとは言えない——ここが最大の未検証部分です。
3)術式で負荷を下げる、という考え方は持ち帰れます。患者側の条件を変えられないなら、術者側で変えられるもの(切開の大きさ、材料の量)を減らす。これは糖尿病に限らない発想です。
⑥ここだけ補助線
10部位10人のパイロット試験で、無作為化もされていません。群の割り付けは糖尿病の有無という患者背景によるもので、比較試験としての強さはありません。
そして繰り返しになりますが、血糖コントロールの状態で層別できるほどの数がない——これは著者らも認めている限界です。言えるのは「小さく開ける術式を選べば、条件次第で同等の結果が出た例がある」まで。「糖尿病でも大丈夫」と一般化するには早すぎます。
それでも、この報告の価値は動きません。動物実験と仮説しか無かった場所に、3年という長さのヒトのデータを最初に置いた——次の研究が立つ足場ができました。
今日のひとこと
低侵襲術式(MIST/M-MIST)とエムドゲインで、骨移植材を使わずに深い骨縁下欠損を治療。1年後のポケットは7.1→2.2mm(糖尿病群)と7.0→2.3mm(非糖尿病群)。3年後のCAL獲得は3.8対4.1mm、骨欠損充填は58.3対65.5%で、いずれも群間に有意差なし。ただし10部位のパイロット試験である。


