1問1答 論文 歯周病

糖尿病の患者さんに、再生療法をしてよいのか——小さく開けて3年追った国内の報告

歯周組織再生療法

2型糖尿病患者への低侵襲再生療法(3年・前向きコホート)

喫煙が再生療法の成績を落とすことは、繰り返し示されてきました。では糖尿病はどうか。2015年のワークショップの時点で、この問いに答えるヒトのデータはほとんどありませんでした。仮説はあっても、確かめられていない。2021年、日本のグループが3年間の追跡を報告しています。ただし読み方には注意が要ります。

論文
Periodontal regenerative therapy in patients with type 2 diabetes using minimally invasive surgical technique with enamel matrix derivative under 3-year observation: A prospective cohort study
著者
Mizutani K, Shioyama H, Matsuura T, Mikami R, Takeda K, Izumi Y, Aoki A, Iwata T
掲載
J Periodontol. 2021;92(9):1262-1273
種類
前向きコホート研究(2型糖尿病10部位10人/非糖尿病20部位18人・3年)
PMID
33301187

「この人に、再生療法をしていいのか」

深い骨縁下欠損がある。形態も悪くない。ただ、その患者さんは2型糖尿病で通院中——この場面で手が止まった経験は、多くの先生にあるはずです。

喫煙については答えが揃っています。GTRでは骨レベルの改善が小さく、膜も露出しやすい。では糖尿病はどうか。理屈の上では良くないはずですが、「では実際どうだったか」を示すヒトのデータが、長く不足していました。2015年のワークショップの時点でも、根拠は主に動物実験だったのです。

今回の一手:小さく開けて、3年追う

日本のグループが、この空白に前向きの追跡で答えました。対象は深い骨縁下欠損を持つ患者で、2型糖尿病あり10部位10人糖尿病なし20部位18人。平均年齢は67.5±7.6歳と63.1±9.7歳です。

術式の選択に注目してください。使ったのは低侵襲術式(MIST/M-MIST)とエムドゲインで、骨移植材は使っていません。弁を最小限に開け、血餅を動かさず、材料は生物学的なものだけ——治癒力に負荷をかけない設計を、あえて治癒力が心配な集団に当てています。

結果:群間に、差は出なかった

1年後のポケットは、糖尿病群で7.1±1.6mm → 2.2±0.9mm非糖尿病群で7.0±1.3mm → 2.3±1.1mm。どちらも大きく改善しています。

0 2.7mm 5.3mm 8mm プロービング深さ(mm) 7.1mm 2.2mm 7mm 2.3mm 2型糖尿病あり 糖尿病なし 低侵襲術式(MIST/M-MIST)+エムドゲイン、骨移植材なし。3年後のCAL獲得は3.8±1.1mm対4.1±1.1mm、骨欠損充填は58.3%対65.5%で、いずれも群間に有意差なし(Mizutani 2021)

3年後の数字はこうです。CAL獲得は3.8±1.1mm(糖尿病群)対 4.1±1.1mm(非糖尿病群)、エックス線上の骨欠損充填は58.3±10.4% 対 65.5±18.8%いずれも群間に有意差はありませんでした。

さらに多変量解析でも、交絡因子を調整したあと、CAL獲得と糖尿病の有意な関連は出ていません。年齢についても同様でした。著者らは「糖尿病患者における歯周組織再生の成功を記録した最初の研究」と述べています。

なぜ差が出なかったのか——術式の選択かもしれない

糖尿病が創傷治癒に不利であることは動かしがたい事実です。それでも差が出なかった。ここで効いている可能性があるのが、術式の選び方です。

大きく開ければ、血流を断つ範囲が広がり、閉じるときの張力も増えます。骨移植材を詰めれば異物量も増える。治癒に負荷をかける要素を減らせば、治癒力の差が結果に出にくくなる——そう読むこともできます。

もっとも、これはこの研究が検証した仮説ではありません。「低侵襲だから差が消えた」と示したわけではなく、「低侵襲でやったら差が出なかった」という観察です。ここは区別しておきたいところです。

明日の臨床へ

1)「糖尿病だから再生療法はしない」の根拠は、少なくとも弱まりました。ただし逆に「してよい」と一般化するには、この規模では足りません。

2)血糖コントロールの状態を確認する。この研究は10部位で、HbA1cの水準別に分けられるほどの数がありません。コントロール不良の人まで同じ結果になるとは言えない——ここが最大の未検証部分です。

3)術式で負荷を下げる、という考え方は持ち帰れます。患者側の条件を変えられないなら、術者側で変えられるもの(切開の大きさ、材料の量)を減らす。これは糖尿病に限らない発想です。

ここだけ補助線

この研究について、何が言えて何が言えないかこの研究が示したこと小さく開ける術式で3年追跡した付着も骨充填も群間差はなかった年齢とも有意な関連は出なかったこの研究が示していないこと十部位のパイロット試験である血糖の状態別に層別できていない無作為化された比較試験ではない言えるのは「条件次第で同等の結果が出た例がある」まで。「糖尿病でも大丈夫」と一般化するには早い

10部位10人のパイロット試験で、無作為化もされていません。群の割り付けは糖尿病の有無という患者背景によるもので、比較試験としての強さはありません。

そして繰り返しになりますが、血糖コントロールの状態で層別できるほどの数がない——これは著者らも認めている限界です。言えるのは「小さく開ける術式を選べば、条件次第で同等の結果が出た例がある」まで。「糖尿病でも大丈夫」と一般化するには早すぎます。

それでも、この報告の価値は動きません。動物実験と仮説しか無かった場所に、3年という長さのヒトのデータを最初に置いた——次の研究が立つ足場ができました。

今日のひとこと

低侵襲術式(MIST/M-MIST)とエムドゲインで、骨移植材を使わずに深い骨縁下欠損を治療。1年後のポケットは7.1→2.2mm(糖尿病群)と7.0→2.3mm(非糖尿病群)。3年後のCAL獲得は3.8対4.1mm、骨欠損充填は58.3対65.5%で、いずれも群間に有意差なし。ただし10部位のパイロット試験である。

出典(PubMed):Mizutani K, Shioyama H, Matsuura T, Mikami R, Takeda K, Izumi Y, Aoki A, Iwata T. Periodontal regenerative therapy in patients with type 2 diabetes using minimally invasive surgical technique with enamel matrix derivative under 3-year observation: A prospective cohort study. J Periodontol. 2021;92(9):1262-1273. PMID: 33301187
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。