炎症量の数値化 | J Clin Periodontol
「中等度」「重度」では見えない、炎症の"総面積"。CAL・退縮・BOPから出血ポケット上皮の面積をmm²で数値化するのがPISA。重度広汎性では約37cm²=手のひら大の炎症面が口の中にある。
「中等度」「重度」――その歯周炎、炎症は"どれくらいの広さ"?
カルテに書く「中等度歯周炎」「重度歯周炎」。重症度は伝わりますが、炎症が体にかけている"総量"は、この言葉からは見えません。歯周炎が全身疾患のリスクだと語るとき、本当に知りたいのは「どれだけの面積が炎症を起こしているか」ではないでしょうか。
2008年、Nesseたちはその"炎症の面積"を数値化する物差し――PISA(歯周炎症表面積)を作りました。
従来の悩み:分類は炎症の"量"を測らない
歯周炎は「軽度/中等度/重度」のカットオフで分類されます。連続量として平均PPDや平均CALを使う研究もありますが、いずれも「炎症を起こしている組織がどれだけあるか」を面積で測ってはいません。しかも全身疾患との関連研究では、早産・低体重児だけで13種類もの分類が乱立していました。物差しがバラバラでは、比較も結論もぶれます。
今回の一手:出血ポケットの上皮を"面積"で数える
PISAは、日常のCAL・歯肉退縮・BOPの3つから計算します。CALと退縮からポケット上皮の表面積(PESA)を求め、そのうちBOP陽性の割合をかけて"出血している上皮の面積(=炎症面)"をmm²で算出。無料のExcelに6点法の値を入れるだけで出ます。
では、健康な口と重度の口で、炎症面積はどれだけ違うのか――。
結果:健康は0.3cm²、重度広汎は37cm²=手のひら大
重度・限局
重度・広汎
健康な人のPISAはわずか28.6mm²(約0.3cm²)。ところが重度限局性で1,048.6mm²、重度広汎性では3,704.2mm²――約37cm²、まさに手のひら大の"出血する炎症面"が口の中にある計算です。「重度」の一語では伝わらないケタ違いの差が、面積にすると一目でわかります。
なぜ?──BOP陽性の上皮が"細菌の入り口"だから
BOP陽性のポケット上皮は、コラーゲンが減り、血管が増えて脆く、薄く途切れている。つまり細菌が全身の血流へ入り込む"入り口"です。その入り口の総面積が大きいほど、菌血症や全身の炎症反応が起きやすい。PISAは「炎症の入り口が何cm²あるか」を数えることで、全身への炎症負荷を近似しているわけです。
明日の臨床へ:患者説明と研究の共通ものさしに
PISAは既存のCAL・退縮・BOPから無料スプレッドシートで後からでも計算できます。使いどころは2つ。ひとつは患者説明――「お口の中に手のひら大の炎症面があります」と面積で見せれば、全身への影響が直感的に伝わり動機づけになる。もうひとつは研究の共通ものさし――バラバラだった分類を1つに揃え、歯周炎と全身疾患の関連を比較可能にします。
今日のひとこと
PISAはCAL・退縮・BOPから"出血ポケット上皮の面積"をmm²で数値化する指標。健康は約0.3cm²、重度広汎性歯周炎では約37cm²=手のひら大の炎症面。重症度の言葉では伝わらない炎症負荷を、面積という連続量で可視化できる。


