エンド|当時の標準材料だったアマルガムと、開発されたばかりのMTAを、「すぐ塞ぐ」と「唾液に6週間さらしてから塞ぐ」の2条件で直接比べた動物実験。ロンドンとロマリンダ、ダンクック大学の共同研究(Pitt Ford・Torabinejad・McKendry・Hong・Kariyawasam 1995・Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod)
穿孔は、歯内療法の失敗原因として無視できない大きさを占めます。Ingleの失敗の分析では、穿孔は失敗の原因の第2位で、うまくいかなかった症例全体の9.6%を占めました。とくに根分岐部の穿孔は予後が悪く、根尖側や根の中央の穿孔よりも、歯頸側や髄床底の穿孔のほうがはるかに厳しいというのが当時の一致した見方でした。修復にはCavit・酸化亜鉛ユージノール・水酸化カルシウム・アマルガム・ガッタパーチャ・リン酸三カルシウム・ハイドロキシアパタイトが試され、欠点はあるがアマルガムが標準という状態。しかし組織学的な研究では、治療部位で好ましくない反応が繰り返し観察されていました。そこへ、ロマリンダ大学で外科的歯内療法の逆根管充填材として開発された新材料MTAが登場します。本研究は、成犬ビーグル7頭の下顎小臼歯にISO 014(直径1.4 mm)のトレフィンバーで髄床底から根分岐部へ意図的に穿孔を作り、①止血後すぐにアマルガムまたはMTAで充填、②6週間唾液にさらして感染と炎症性病変を作り(X線で骨吸収を確認)、次亜塩素酸ナトリウムで十分に洗浄してから充填——の2条件を比べました。全例で髄室開拡部はMTAで封鎖し、4か月後に頬舌方向の連続切片で評価しています。結果は明快でした。即時充填のアマルガムは7本すべてに炎症(うち重度4本・中等度2本)。対して即時充填のMTAは6本中1本のみに炎症(中等度)で、炎症のなかった5本すべてで材料の上にセメント質が形成され、その外側には歯根膜に似た間隙と骨が見られました。遅延充填では、アマルガムは8本すべてに炎症(重度6本・中等度2本)、MTAは7本中4本が炎症で3本は炎症なし、2本にセメント質が見られました。著者らは、MTAは穿孔修復の材料としてアマルガムよりはるかに適しているように思われ、とくに穿孔直後に使った場合にそうであると述べています(原著の書き方は “it appears that” です)。ビーグル7頭・28本の動物実験で、観察は4か月の1時点のみ。臨床成績ではありません。なおMTAは著者らが所属するロマリンダ大学で開発された材料です。
①髄床底を抜いてしまった——すぐ塞ぐか、落ち着いてから塞ぐか
根管口を探していて、髄床底を抜いてしまう。誰にでも起こりうる事故です。Ingleの失敗の分析では、穿孔は歯内療法の失敗原因の第2位で、うまくいかなかった症例全体の9.6%を占めていました。しかも根尖側や根の中央の穿孔のほうが、歯頸側や髄床底の穿孔よりはるかに予後が良い——これが当時の研究者たちの一致した見方でした。
1995年のこの研究は、そこに2つの問いを立てました。何で塞ぐかと、いつ塞ぐかです。結論を先に言います。穿孔直後にMTAで塞いだ6本のうち5本は、4か月後に炎症がなく、材料の上にセメント質ができていました。同じ即時でも、当時の標準材料だったアマルガムは7本すべてに炎症が起きています。そして6週間唾液にさらしてから塞ぐと、MTAでも7本中4本が炎症を起こしました。
②「欠点はあるがアマルガム」という時代
根分岐部穿孔の修復には、Cavit・酸化亜鉛ユージノール・水酸化カルシウム・アマルガム・ガッタパーチャ・リン酸三カルシウム・ハイドロキシアパタイトが試されてきました。そのなかで欠点はあるものの、アマルガムが標準の材料という位置づけだった、と原著は書いています。
そこに登場したのがMTAです。ロマリンダ大学で、外科的歯内療法の逆根管充填材として開発された新材料で、抜去歯での封鎖性、イヌでの組織学的所見がすでに有望な結果を出していました。
③今回の一手:材料とタイミングを同時に振る
設計上の工夫が2つあります。ひとつは髄室開拡部を全例MTAで封鎖したこと。原著によれば、過去の実験の多くは髄室開拡部の修復物まわりからの細菌の漏洩を特に排除しようとしていませんでした。そのうえで著者らは、穿孔修復に封鎖性のない材料を使った結果として、組織の反応が悪かった可能性があると述べています。つまり著者らが名指ししているのは穿孔修復材そのものの封鎖性です。この研究がアクセス側をMTAで塞いだのは、そこを変数から外すためでした。
もうひとつは切片の向きです。穿孔部を通る頬舌方向の連続切片(8 µm)を作りました。従来の研究の多くは近遠心方向に切っていますが、著者らはサイナストラクトを見つけるために頬舌方向を選んでいます。評価は2名の観察者が独立に行い、不一致があれば合同で再検討しました。
④結果:即時のMTAだけが別格だった
即時充填のアマルガムは7本すべてに炎症。強さの内訳は重度4本・中等度2本・軽度1本で、決して軽くありません。対して即時充填のMTAで炎症があったのは6本中1本(中等度)だけ。表の実数から計算するとリスク比は0.17です。
そして、炎症がなかったことより重要な所見があります。
炎症のなかったMTAの5本すべてで、材料の上にセメント質が形成されていました。しかもそれは根面を覆うセメント質と連続した硬組織で、その外側には歯根膜に似た間隙があり、さらにその外に骨がありました。著者らは、この見え方がMTAで逆根管充填した根尖部で観察されたものと非常によく似ていると書いています。骨欠損へはみ出したMTAの周囲にまでセメント質が回り込んでいた例もありました。
著者ら自身が「驚きをもって(with some surprise)」と表現しているのは、それまでの根分岐部穿孔の実験が、例外なく期待外れの結果に終わっていたからです。過去の多数の研究のうち、修復材に接して新しいセメント質が形成されたと報告したのは1件だけ(水酸化カルシウムとヨードホルムの混合)でした。
遅延群はどうか。アマルガムは8本すべてに炎症(重度6本・中等度2本)で、広がりも大きく、2本では0.5 mmを超えていました。MTAは7本中4本が炎症、3本は炎症なしで、2本にセメント質が見られました。同じMTAでも、即時の5/6から遅延の2/7へ落ちています。遅延充填したMTAの標本の1つには、穿孔部から歯肉溝へ抜けるサイナストラクトと、穿孔部直下の膿瘍腔が記録されています(原著の図5)。切片を頬舌方向に切ったのは、まさにこれを見つけるためでした。
細菌と上皮についても記録があります。染色で細菌が検出できたのは、炎症のあった20本のうち3本だけ(いずれも遅延群のアマルガム)。ただし著者らは細菌染色は完全に信頼できるものではなく、とくにアマルガムに隣接した部位ではそうであると断り、さらに同じ実験室の方法を使った過去の根尖部の研究と比べても、今回は細菌を示す能力が低かったとも書いています。3本という数字を「細菌がいなかった」とは読めません。一方遅延群では、炎症のあった12本のうち5本で上皮の増殖が見られました。歯肉溝から上皮が伸びてくるもので、進行した病変では頬側と舌側の歯肉の上皮がほとんどつながりかけていたと記述されています。
⑤なぜMTAの上にセメント質ができるのか、なぜ6週間で変わるのか
著者らの説明は構造的です。水酸化カルシウムも高いpHを持ちますが、硬化しないため填塞が難しく、生活組織への初期の刺激作用も知られています。実際、水酸化カルシウムを調べた2つの研究では他材料より悪い結果が出ていました。MTAは4時間以内に硬く固まるので、組織がそれに向かって配列できる固い足場(solid barrier)になり、そのうえ水酸化カルシウムと同じく高いpHを持つ——この2つの組み合わせが違いだろう、というのが著者らの見立てです。
タイミングの差については、著者らは一貫して感染に原因を求めています。根分岐部穿孔の予後が悪いのは、疑いなく感染が決定的な役割を果たすからである。6週間唾液にさらせば細菌が定着し、骨吸収が起きる。そこを後から塞いでも、すでに変化した環境は元に戻りません。
ただし著者らは、遅延群で3本が良好だった理由も挙げています。次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄が効果的だったためだろう——過去にNichollsが「汚染された穿孔は次亜塩素酸か過酸化水素で洗い出すべき」と推奨していたのに、それに従った研究はほとんどなかった、とも書いています。後から塞ぐ場合でも、洗い方で結果が変わる余地があるという示唆です。
そして、著者らが後から気づいた設計の穴も正直に書かれています。後知恵になるが、遅延群では修復の前に歯肉溝をプロービングして、すでにポケットが形成されていないか確認すべきだった。もしできていたなら、保存的な治療ではどのみち不利になる。MTAでの封鎖に加えてポケットの外科的掻爬を組み合わせれば治せるのか、興味深い問いだと締めくくっています。
⑥明日の臨床へ:穿孔したその日が分かれ目
⑦ここだけ、冷静に補助線
ビーグル7頭・28本の動物実験で、観察は4か月の1時点のみです。各群6〜8本と小さく、統計解析は行われていません。100%対16.7%という差は目を引きますが、分母は7本と6本です。また硬組織の層は連続切片で見ると不完全な標本もあり、著者らは観察期間がもっと長ければ完全になっていた可能性があると述べるにとどめています。
動物モデルの読み方について、著者らは外挿を支持する向きの議論を置いています。イヌは解剖学的な関係から厳しい実験モデルであり、根分岐部の歯周線維の付着面積がごくわずかしかない。このモデルで成功するなら、根分岐部がより深く歯槽内にあるヒトでも成功するはずだ——という論旨です。妥当な議論ですが、ヒトの臨床成績が示されたわけではありません。
そして利益相反の観点。MTAは著者らが所属するロマリンダ大学で開発された材料で、著者のうち2名が同大学に所属しています。原著に資金源の記載は見当たりません。結果を否定する理由にはなりませんが、新材料を有利に評価しうる立場の研究者が、その材料の最初期の有効性を示した研究であることは、読むときに頭の片隅に置いておく価値があります。この1本だけで材料の位置づけが決まるわけではなく、独立した検証の積み重ねが要る——ごく普通の読み方をすべき論文です。
今日のひとこと
著者らの結論:MTAは根分岐部穿孔の即時修復材として有望で、とくに6本中5本で材料の上にセメント質による修復が見られた。数字で並べると差は大きい。即時充填で炎症があったのは、アマルガム7本中7本(100%)に対しMTAは6本中1本(16.7%・リスク比0.17)。しかも炎症のなかったMTAの5本すべてで、根面を覆うセメント質と連続した硬組織が材料の上に形成され、その外側には歯根膜に似た間隙と骨が見られました——骨欠損へはみ出したMTAの周囲にまでセメント質が回り込んでいた例もあります。一方遅延充填ではMTAでも7本中4本が炎症(アマルガムは8本中8本)。著者らはこの差を感染に帰し、遅延群で3本が良好だったのは次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄が効いたためだろうと述べています。筆者の読みでは、この論文の値打ちは材料の優劣そのものより「同じ材料でも、汚染される前か後かで結果が変わる」と同一実験の中で示した点にあります。ただしビーグル7頭・28本の動物実験で、観察は4か月の1時点のみ。統計解析はなく、MTAは著者らの所属機関で開発された材料である点も踏まえて読む必要があります。


