1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

「そっと触れただけで痛い」はなぜ起きる?——神経を切って3週後、触覚のAβ線維が痛みの中継所に入り込んでいた

1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

口腔顔面痛|ラットの坐骨神経を切って結紮し神経腫(ノイローマ)を作らせ、3週間後に脊髄スライスで後角の神経細胞の反応を記録した基礎研究(Kohama 2000・The Journal of Neuroscience・エール大学/退役軍人医療センター)

抜髄や抜歯のあと、原因の見あたらない痛みが続く患者さんがいます。唇が触れる、歯ブラシが当たる——本来なら痛みにならないはずの刺激で痛む(アロディニア)。末梢に原因がないなら、脊髄の側で何かが起きているのではないか。エール大学のグループは、ラットの坐骨神経を切って結紮し、3週間後の脊髄スライスで後角の神経細胞の反応を直接測りました。すると、痛みの中継所である第II層(膠様質)で、触覚域の弱い刺激に反応する細胞が18%から54%へ増えていました。新しく現れた低閾値の入力31本のうち13本は単シナプス性で、速さを正確に測れた3本はいずれもAβ線維の速さ(毎秒26メートル前後)でした。顕微鏡でも第II層まで伸びた側枝が17本見つかっています(対照では0本)。一方、もともとAβ線維を受ける第III層はほとんど変わりません。著者らは触覚の線維が痛みの中継所と機能的につながったと結論しています。ただしこれはラットの坐骨神経モデル・摘出脊髄スライスでの所見で、ヒトの歯や三叉神経で確かめたものではありません。

論文
Synaptic Reorganization in the Substantia Gelatinosa After Peripheral Nerve Neuroma Formation: Aberrant Innervation of Lamina II Neurons by Aβ Afferents
著者
Ikuhide Kohama, Kuniko Ishikawa, Jeffery D. Kocsis(エール大学医学部 神経内科/PVA・EPVA神経科学研究センター、ウエストヘイブン退役軍人医療センター リハビリテーション研究センター)
掲載
The Journal of Neuroscience 2000;20(4):1538-1549. doi:10.1523/JNEUROSCI.20-04-01538.2000
種類
動物(ラット)を用いた基礎研究(in vitro 電気生理+組織学)。雌のSprague Dawleyラット(120〜180 g・生後6〜8週)の坐骨神経を切断して結紮し、神経腫(ノイローマ)を形成させる。無処置の個体を対照とする。3週間後にL4・L5脊髄を摘出し、後根を付けたままの横断スライス(400〜600µm)を作製。後角(第I〜IV層)の場電位と、第II・III層の神経細胞からの細胞内記録を行い、後根を弱い刺激(20 V未満=Aβ線維が興奮する範囲)と強い刺激(40〜80 V=Aδ・C線維まで興奮する範囲)で刺激してEPSPの有無・潜時・振幅・立ち上がりを比較。あわせて後根切断端からHRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)を取り込ませ、共焦点顕微鏡で線維の終末部位を追跡。記録数は対照=18匹・25スライス・72細胞、神経切断側=20匹・31スライス・83細胞
PMID
10662843

①「そっと触れただけで痛い」は、どこで起きているのか

抜髄や抜歯のあと、原因の見あたらない痛みが続く患者さんがいます。X線でも視診でも異常がない。それなのに、唇が触れる・歯ブラシが当たる・風が当たるといった、本来なら痛みにならないはずの刺激で痛みが出る。アロディニア(異痛症)と呼ばれる現象です。

末梢に原因が見つからないなら、痛みの信号を受け取る脊髄の側で何かが起きているのではないか。1990年代から、神経を切ったあとに触覚を運ぶAβ線維が、痛みの中継所へ伸びていくという解剖学的な観察が相次いで報告されていました。ただしそれは「形として伸びている」という話であって、伸びた先で本当に機能するシナプスを作っているのかはわかっていませんでした。

結論を先に言います。エール大学のグループがラットの脊髄スライスで電気的に測ったところ、神経を切って3週後の第II層(膠様質)では、触覚域の弱い刺激で反応する細胞が18%から54%へ増えていました。新しく現れた低閾値の入力31本のうち13本は単シナプス性で、速さを正確に測れた3本はいずれもAβ線維の速さ(毎秒26メートル前後)。著者らは、触覚の線維が痛みの中継所と機能的につながったと考えています。

②そもそも、後角の「住み分け」はどうなっているか

脊髄後角は層(ラミナ)に分かれていて、どの線維がどの層に入るかが決まっています。

・第I〜II層(表層・膠様質):細いAδ線維とC線維=侵害受容(痛み)の入口
・第III〜V層(深層):太いAβ線維=低閾値機械受容(触覚)の入口
・この住み分けがあるから、「触られた」と「痛い」が別の信号として脳へ上がる

末梢神経を切って断端が再接続できないよう結紮すると、軸索は行き場を失って断端で神経腫(ノイローマ)を作ります。このとき、脊髄側の中枢端でも変化が起きる。先行研究(Woolf 1992、Shortland & Woolf 1993)は、Aβ線維の中枢終末が第I〜II層まで芽を出す(スプラウティング)ことを形態学的に示していました。もしそこで機能的なつながりができていれば、触覚の信号が痛みの回路に流れ込む——アロディニアの説明がつきます。この研究は、その「機能しているか」を直接測りにいきました。

③今回の一手:切った3週後の脊髄を取り出して、直接測る

・動物:雌のSprague Dawleyラット(120〜180 g・生後6〜8週)。坐骨神経を切って結紮し、ノイローマを作らせる。無処置の個体を対照とする
・3週間後にL4・L5の脊髄を摘出し、後根を付けたままの横断スライス(400〜600マイクロメートル)を作る
・後角(第I〜IV層)の場電位と、第II・III層の神経細胞からの細胞内記録を行う
・後根を電気刺激し、弱い刺激(20 Vより弱い=Aβ線維が興奮する範囲)と強い刺激(40〜80 V=Aδ・C線維まで興奮する範囲)でEPSP(興奮性シナプス後電位)が出るかを見る
・あわせて、後根の切断端からHRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)を取り込ませ、線維がどの層まで伸びているかを共焦点顕微鏡でたどる
・記録数:対照は18匹・25スライスから72細胞、神経切断側は20匹・31スライスから83細胞

ポイントは「弱い刺激か強い刺激か」で入力の正体を見分けているところです。Aβ線維は太くて閾値が低いので弱い刺激で興奮し、Aδ・C線維は細くて閾値が高いので強い刺激が要ります。本来なら強い刺激でしか反応しないはずの第II層の細胞が、弱い刺激で反応するようになったら、触覚線維からの入力が入ったということです。

なお、線維そのものの興奮しやすさは大きく変わっていませんでした。Aβ線維の刺激閾値は対照5.2±1.9 V、神経切断後6.1±2.0 Vで差なし。ただし伝導速度は毎秒25.9±3.4メートルから20.9±3.7メートルへ有意に低下していました(p<0.05)。

④結果①:第II層だけが、弱い刺激に反応するようになった

0 26.7% 53.3% 80% その刺激でEPSPが出た第II層の細胞の割合(%) 18% 73% 54% 37% 対照(正常なラット) 坐骨神経を切って3週後 弱い刺激(触覚域・Aβ線維)で反応 強い刺激(侵害域)で反応 原著Fig.6A・本文。脊髄後角 第II層(膠様質)の神経細胞。弱い刺激=20 Vより弱い刺激、強い刺激=40〜80 V。対照は40細胞中7細胞(18%)と29細胞(73%)、神経切断後は57細胞中31細胞(54%)と21細胞(37%)。ラットの脊髄スライスでの実験
脊髄後角 第II層の神経細胞が、どの強さの刺激でEPSPを出したか(原著Fig.6Aと本文)。弱い刺激=触覚域、強い刺激=侵害域。ラットの脊髄スライスでの実験

対照の第II層では、73%(40細胞中29細胞)が強い刺激(40〜80 V)で反応する高閾値のEPSPを示し、弱い刺激で反応したのは18%(7細胞)だけでした。教科書どおり、ここは侵害刺激の入口です。

ところが神経を切って3週後の第II層では、54%(57細胞中31細胞)が弱い刺激でEPSPを出すようになっていました。強い刺激で反応する高閾値の細胞は37%(21細胞)に減っています。入力の質そのものが入れ替わったということです。

一方、もともとAβ線維を受けている第III層はほとんど変わりませんでした(弱い刺激で反応した細胞は対照72%=32細胞中23細胞、神経切断後81%=26細胞中21細胞)。変化は表層にだけ起きています。

⑤結果②:信号の到着が早まり、速さはAβ線維のものだった

0 1.1 2.1 3.2 後角の場電位 N2 の潜時(ミリ秒) 2.7 2.1 1.7 1.7 第II層(膠様質) 第III層 対照(正常なラット) 坐骨神経を切って3週後 原著Table 2。平均±SD。第II層は対照2.7±0.4ミリ秒(スライス15枚)から2.1±0.4ミリ秒(12枚)へ短縮(p<0.01)。第III層は1.7±0.2→1.7±0.4で変わらない。潜時が短い=速く伝わる太い線維からの入力が増えたことを示す
後根を刺激したときに後角で記録される場電位のうち、シナプス活動を表すN2成分の潜時(原著Table 2)。第II層だけ短くなり、第III層は変わらない

場電位でも同じ方向の変化が出ました。第II層のN2成分の潜時は2.7±0.4ミリ秒から2.1±0.4ミリ秒へ短縮(p<0.01)。第III層は1.7±0.2から1.7±0.4で変わりません。第II層の値が、もともとAβ線維を受けている第III層の値に近づいたわけです。速く伝わる太い線維からの入力が増えたことを示しています。

決め手は伝導速度です。神経切断後の第II層で新しく現れた弱い刺激による単シナプス性EPSPのうち、後根の2点を刺激して速さを正確に計算できた3本は、いずれも毎秒26±4.4メートルでした。これはAβ線維の速度域です。対照の第II層に入力していた線維は毎秒3.6±1.9メートル(5細胞・Aδ域)でしたから、まったく別の線維が入ってきたことになります。

・新しく現れた低閾値のEPSP31本の内訳は単シナプス性13本・多シナプス性18本。単シナプス性のものは20 Hzの連続刺激でも潜時がぶれなかった(6細胞で確認)=間に細胞を挟まない
・振幅は15.5±4.0 mVで、対照の第II層の高閾値単シナプスEPSP(11.8±3.7 mV)より有意に大きい(p<0.01)
・立ち上がりの傾きも11.7±3.6と、対照の6.3±2.7より急(p<0.001)。これは対照の第III層の値(14.0±2.2)に近い
・細胞の静止膜電位や入力抵抗には差がなかった=細胞そのものが変わったのではなく、入ってくる配線が変わった

⑥結果③:顕微鏡でも、第II層へ伸びた枝が見えた

正常な脊髄後角 第I層 第II層(膠様質) =痛みの中継所 第III層 第IV層 後根 Aβ(触覚) Aδ・C(痛み) 触覚と痛みの入口が分かれている

坐骨神経を切って3週後 第I層 第II層(膠様質) Aβの入力が入り込む 第III層 第IV層 後根 Aβ(触覚) 高閾値の入力は減る 触覚の線維が痛みの中継所につながる

破線=新しく伸びた側枝。第II層で「弱い刺激(触覚域)に反応する細胞」が18%から54%へ増えた(原著Fig.6・Fig.7) ラットの坐骨神経モデルでの所見。ヒトの歯や三叉神経で確かめたものではない

正常な後角と、末梢神経を切って3週後の後角。電気生理と組織の所見をまとめた概念図(原著Fig.6・Fig.7をもとに作成)

HRPで染めた線維を共焦点顕微鏡で追うと、電気生理の結果を裏づける像が得られました。

・対照の8スライスで、毛包のAβ線維に特徴的な炎のような形の終末を5本たどれたが、第I〜II層に入り込んだものは1本もなかった
・神経切断後(9スライス)でも同じ形の終末を6本たどれた。個々の軸索終末の形そのものは3本で対照と似ていたが、終末が置かれる層は第II層まで広がっていた
・神経を切った3つの標本を合わせると、第II層へ伸びた側枝は17本。対照では0本(n=5)

「形として伸びている」ことと「そこで働くシナプスを作っている」ことが、ひとつの研究の中でそろったわけです。著者らはこれを膠様質のシナプス再編成と呼んでいます。

⑦明日の臨床へ——「原因が見えない痛み」の見方が変わる

これはラットの坐骨神経モデルの基礎研究です。ヒトの歯や三叉神経で確かめられたものではありません。それでも、日々の診療での見立ての向きを変える示唆があります。

・末梢に原因がなくても痛みは成立しうる。抜髄・根管治療・抜歯のあとに残る痛みを、いつまでも「見逃した根管」「残った病巣」だけで説明しようとしない
・軽く触れただけで痛む(アロディニア)という訴えは、気のせいでも誇張でもない。中枢側の配線の変化で起こりうる現象として聞く
・だからこそ、診断がつかないまま再治療・抜歯を重ねることには慎重でいたい。侵襲を足すたびに、神経損傷という引き金をもう一度引くことになる
・痛みの性質(触れると痛む・持続する・部位が曖昧)を問診で拾い、必要なら口腔顔面痛の専門医へつなぐという選択肢を持っておく

神経を切ってから3週間という時間で、これだけの配線の組み替えが起きています。時間が経てば落ち着くという前提も、いつも成り立つとは限らないことを覚えておきたいところです。

⑧ここだけ、冷静に補助線

これはラットの坐骨神経を切って結紮したモデルで、しかも摘出した脊髄スライスでの記録です。ヒトの臨床症状を直接測ったものではなく、三叉神経系でもありません。この結果をそのまま「患者さんの痛みの正体」と言い切ることはできません。
記録は神経切断から3週後の1時点だけで、その後どうなるか(元に戻るのか、さらに進むのか)は追っていません。また、動物が実際に痛がっていたか(行動学的な評価)は調べておらず、電気生理と組織の所見にとどまります。Aβ線維が本当に「伸びた」のか、もともと表層にあった細い側枝が見えるようになっただけなのかという議論も、その後の研究で続いています。
ここからは筆者の読みです。それでも、「触覚の線維が痛みの中継所と機能的につながる」という現象を、形の観察と電気の記録の両方で同じ研究の中に並べた意義は大きいと感じます。原因の見えない痛みを前にしたとき、「末梢だけを探し続けない」という視点を与えてくれる一本です。

今日のひとこと

末梢神経を切って3週後のラットの脊髄では、痛みの中継所である第II層(膠様質)で触覚域の弱い刺激に反応する細胞が18%から54%へ増え、その31本のうち13本は単シナプス性、速さを測れた3本はいずれもAβ線維の速さ(毎秒26メートル前後)でした。顕微鏡でも第II層へ伸びた側枝が17本見つかっています(対照では0本)。もともとAβ線維を受ける第III層は変わりません。著者らの結論は「触覚の線維が痛みの中継所と機能的につながった」——これが「そっと触れただけで痛い」の背景にある可能性があります。ラットの坐骨神経モデルの基礎研究ですが、原因の見えない痛みを前にしたとき、末梢だけを探し続けないという視点をくれる一本です。

Kohama I, Ishikawa K, Kocsis JD. Synaptic reorganization in the substantia gelatinosa after peripheral nerve neuroma formation: aberrant innervation of lamina II neurons by Aβ afferents. J Neurosci. 2000;20(4):1538-1549. doi:10.1523/JNEUROSCI.20-04-01538.2000. PMID: 10662843
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。